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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第82話 失伝

 ゆっくりと下りた先は広い空間であった。
 壁面は全く傷んでおらず遺跡と呼ぶには時間を感じさせないのは他の遺跡と同様であったが、アルセスを驚かせたのはその他の状態だ。
 中央には舞台のような円形の台座があり、それらを囲むように配置されているのは巨大な箱のような機械。
 それらがいくつも並んで作り上げたそれは上から見たら機械と台座で構成された模様にも見えただろう。そのどれもが僅かな駆動音と共に未だに正常に稼働しているのである。
 加えて遺跡内も十分な光源があり明るく見通しがいい。天井を見上げればいくつもの灯りがあるのは分かるのだが完全に埋め込まれているであろう光の発生源はいかなる仕組みなのか。

「完全に動いてるな。ここまで状態のいい遺跡を見たのは初めてだよ」
「施設内に動力を生み出す機関が内蔵されているのでしょうね。崩壊期が近くなった頃には地中に含まれる微量のエネルギーを増幅し動力に充てる機関が開発されていましたから」
「持ち出せたらエネルギー事情が一気に改善しそうな機関だなあ」
「残念ですが持ち出せたとしても運用できるかどうかは怪しいですね。そのまま利用するならともかく」

 くすり、と小さく苦笑いを返したティエナはきょろきょろと周囲を見渡す。
 だがすぐに目当ての物を見つけたのか小走りに壁の方へと走っていく。
 アルセスから見たらただの鉄の塊にしか見えない機械を放って、まずはティエナの案内に従いアルセスは広間の入り口近くにある端末に近づいた。

「これが施設全体を操作するための端末ですね。調べてみましょうか」
「頼んだ。俺は一応周囲を警戒する」
「はい、ちゃーんと守ってくださいね?」
「不意打ち、奇襲の類ならティエナの方が絶対に先に感付くだろうによく言うよ」
「適切かどうかではなく、アルセスがわたしを守ることに意味があるんじゃないですかー」

 可愛らしく拗ねて見せるティエナだったがその表情は明るい。本気で文句を言っているつもりなど微塵もないのがよく分かる。

「頼まれなくたってティエナの事は全力で守るさ。安心して作業をすればいい」
「ふふん、了解しました。それではちゃちゃっと始めてしまいましょうか」

 椅子と机は無機質な作りで飾り気は一切ない事務的なものだ。対して入力用のキーボードと情報を表示する装置に至ってはそれほど深い知識を持たないアルセスにも分かるほどの高性能品であることが明らかだった。
 何しろ文字の羅列こそレイリアが扱うような映像装置の画面に似ていて見覚えがあるが、その色彩の鮮やかさときたら現代の技術ではとても作りえないものだったからだ。
 慣れた手つきでキーボードを叩くティエナによって遺跡に残された情報がどんどん表示されていく。ただ見守るだけというのは歯痒いものだが、アルセスはこの手の情報の処理に関しては門外漢だ。申し子とも言えるティエナが探すのが一番なので彼女の背後に立って黙って見守るのみであった。

「……うーん、これはまた何というか……ラークオウルは喜びそうですがわたし達には微妙ですねー」
「期待外れだったか?」
「まだ判断を下すのは早計ですが、まずはこの遺跡が作られた前提が微妙です」

 ティエナがカタカタと指を躍らせると一際大きい四角い表示が画面に映った。ティエナにこれで「(ウィンドウ)」と呼ぶのだと説明されてアルセスは納得した。分かりやすい表現だな、と。

「この周辺の環境の変化をコントロールするための施設だったようです。どうやら、アルデステン建国以前のこの大陸は相当環境が悪かったようですね。人が住むには困難な地域の方が多かったと記録には残っています」
「そういえば平原があったり森があったりと自然は割と豊富なのにところどころ虫食いみたいに荒野が広がっている地域があちこちにあったな」

 以前「繰り返す夜想曲(リピートノクターン)」との絡みで戦った地域も乾いた荒野と岩山の溢れる場所であった。元々自然環境の変化が激しい大陸なのだと思っていたアルセスだったが、それの大部分が人の手が入れられなかった地の名残とは想像だにしていなかった。
 ティエナは複数のウィンドウを開きつつ比較情報や遺跡の内容などを事細かに明らかにしていく。
 この作業、片手間で進めているかのような気軽さだが並の人間ではまず専門の言語の解読、必要な情報の格納場所と選別、暗号の解読と多数求められる専門的作業を感覚的にこなせる彼女がいてこその偉業である。
 どれくらい凄いのかと言えば、ティエナが最初に開いたウィンドウを現代の人間が読めるようにするだけで半日かかるくらいだと言えばその凄さが伝わるだろう。無論、スペシャリストを集めてなおこの時間だという補足もしておこう。

「砂漠化が進んでいたこの大陸の緑化を進め、適した動植物の配置による自然環境の形成……それらをこの遺跡はほぼ自動化(オート)で行っていました。綿密な計算による予測によって年単位で変化をコントロールし、不測の事態にも速やかに計画を修正できるほどの応用性を備えた――処理能力によって」
「……もう完全に『神様』の領域じゃないかよやってることが……」

 開墾や農地を作るなどとはわけが違う。この遺跡は人間ではおよそ不可能な自然環境への干渉を可能とする施設だったのだ。その規模は人間のやれる範囲で比べること自体が間違っている。あまりのスケールの大きさにアルセスは何とか言葉を発するのが精いっぱいだった。
 しかもこれですらまだここで得られる情報の入り口にしか過ぎない。
 王家が管理し、そして秘匿しなければならなかったその最大の理由は何だろうか。一つの謎が解ければそこからまた謎が生まれていく。その感覚をアルセスは嫌いではなかったが、今は高揚感よりもとんでもないものを掘り当ててしまったという驚きの方が大きい。

「現在は遺跡は大陸への干渉プログラムを休眠状態にしています。既に一つの大陸として安定期に入ったのもありますが――遺跡能力の維持に関する様々な条件のうち、一つが放棄されて久しいからだと履歴(ログ)には残っています。言わなくても分かりますよね?」
「例の王家の儀式が行われなくなった、いや違うか。行えなくなった、からだな?」
「はい、そうです。遺跡の設計者はどうやらこの遺跡の真の機能については秘匿しておきたかったようですが、大陸の環境変化を終えるまでは正しく施設に働いてもらう必要があったようです。何せ人間の寿命でどうにかなる程度の時間ではありませんからね」

 崩壊期の直後に建設されたのだとしても儀式が失われるまで二百年は過ぎている。
 この世界の平均寿命はおよそ60歳前後にまで延びているらしいことをアルセスは小耳に挟んでいたが、それでも昔よりは延びた、という評価であったので当時の人間の寿命で考えるならば自分が死んだ後のことを考えるのは当然だったと理解した。

「色々と難しい理由やこの施設建設の利権などに基づいてのゴタゴタについては省きますが、結局管理者として任命された人間の血族がこの施設の正常稼働を確認する、という形でトラブルはまとまったようです。巡り巡ってその血族が国を興し、一族だけで情報を占有し同時に国家としての権力を使ってこの遺跡を表向きには世界から隠してきた」
「だが、途中でその血族は国から断絶した」
「その結果、稼働チェックの項目である一定期間ごとに管理者の血族がこの施設でチェックを受けることで延長されていた大陸改変プログラムは期限切れにより休止、環境維持のための機能だけが今は動いているということです。もっともその管理者によるチェックの他にも、管理者の権限で環境の改変が必要かどうかを問う項目もありました。大陸全土を見て回って記述(プログラム)の進行状況を把握し、続行の必要性を確認するうえでも国、という枠組みは有用だったのでしょうね」

 大陸の自然環境が整い切れば確かに不要だろう。そしてそれらを隅々まで管理するうえでは王様という立場も含めて国というのは実に便利であったはずだ。
 そこまで理解してアルセスはこの大陸の現状に気づく。

「もしかして荒野とかが残ってるのは改変の工程がまだ途中だったのか?」
「可能性はありますね。問題なのは――なんでそんなものにわざわざこんな大層なセキュリティをつけたのか、その理由が出てこないんですよね。別に環境を変えるくらいなら放っておいても問題ないと思いません?」
「確かに……乾いた土地に草木が生えるし、実りが増えていくってなら別に止める理由はない……か?」

 本当にそうだろうか。ティエナの疑問にアルセスは思いついたままに答えたが、何故か自分で言葉にして言いようのない不安に駆られた。
 荒れた土地や大地に常に干渉し続ける環境改変プログラム。
 それだけならば聞こえはいいが、もう少し想像を広げてみるべきでは、とアルセスはもっと深く考えこむ。

「……荒れた土地……いや、自然環境のあるなしで考えるなら……」
「アルセス? どうかしましたか?」
「……いや、この施設。もしかして使いようによっては――どんな兵器よりも凶悪なものになるんじゃないか、と思ってな」
「へ?」

 ティエナは人造の存在でありその頭脳も情報処理能力も人間離れしたものであり、あらゆる計算から結論に至るまで無駄が無い。
 しかしわき道に逸れないという事は落とし穴にも気づきにくいという事である。アルセスはちょっとした言葉の取り方一つで変わるであろう状況と、この施設の判断基準の不明瞭さゆえにその想像に至った。

「もしも人類の勢力圏が広がり続けて――この施設が異常だと判断するくらい大陸から自然が失われたらこの施設の記述(プログラム)は何を始める?」
「……あっ……!」

 単純に目的から結果までを一直線に結論付けたからこそ及ばなかった結果に、ティエナは驚きの声を小さく洩らした。
 そう、その明確な基準はこの施設のプログラムの中である。今でこそまだモードス大陸は発展途上の最中であるが、いずれ街や村が増え、森を切り開き、山を掘り進み、そして街道が広がっていけばどうなるのか。

 人間の作りし物が大陸を覆いつくそうとした時、今もこの施設のプログラムが正常に動作していたのならば――どんな判断が下されるのだろうか。
 アルセスはその脅威に気が付いたのだ。人間と機械の判断基準は違う。幾度となく命令系統の狂った機械人形さえ相手にしてきたアルセスだからこそその危険性に想像が及んだと言ってもいい。

 アルデステン王国建国の最大の理由はこの施設の最適な稼働とその為の管理に必要な権力の両方を手にすることだったのだ。幸か不幸か、プログラムを生み出した管理者が理知的であったお陰でこの遺跡はまだ人類の脅威とはなりえていない。
 その事実を知ればラークオウルは進んで介入を始めるだろう。また一つ知られざる事実を管理下に置けることは確かに喜ばしい。そして将来への不安の芽の一つを潰せることはラークオウルの目的にも適う。
 それに繋がるだけの功績は決して小さくない事はアルセスにも利があった。けれども彼の表情はあまり冴えない。理由は明白だ。

「だけど肝心の俺達の目的に繋がりそうな情報は無しか」
「これはデータベースの類ではなかったですからね。ですけど、もしかしたらこのプログラムに関連する情報があるので、そこから何かヒントは……え――」
「どうしたティエナ? 何か珍しいものでも?」
「――アルセス、警戒を。今しがたログが更新されました――(ゲート)の開閉の記録で」

 どういう事だ、と疑問に思うより先にアルセスは素早くウェバルテインを抜きつつ、降りてきた坂から死角に当たる機械の影へと身を潜めた。その背中にはティエナも続きその位置は丁度操作用の端末を視界に収められる絶好の位置だ。
 コツコツとまるで警戒心の感じられない足音が徐々に近づいてくる。不揃いな足音は相手が複数であることを暗に示していたが、アルセスはなぜか安心したように息を吐いた。

「……相手は二人か。数の上では対等だが……」
「アルセス、集音のアートを展開しましたから会話を聞き取る事より相手の動きを注視していてくださいね」
「助かる」

 随分と距離を取ってしまったが静かな駆動音しか響かない広間ならギリギリ相手の声を拾えるかもしれないと考えていたアルセスにとって、目だけに意識を向ければいいのは朗報である。
 やがて足音の主はシルエットから灯りに照らし出されてその姿を顕わにした。

 だがその姿よりも耳に幼い少女の声で届いた言葉こそがアルセスを驚かせた。

「――ここが私の先祖が守り通そうとした地なの?」


イッタイナニモノナンダー(棒

※ 次回の更新は1月10日です。
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