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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第80話 王命の遺跡へ

 王命の遺跡。
 アレサニカ村よりも街道をさらに北上、辺鄙な場所とは裏腹に街道だけは綺麗に舗装されている道を行くと見えてくる――訳ではなかった。
 森の一部のみを切り開き街道を通してあるまでは良い。周辺の自然を徒に切り開かぬようにと景観を意識しているのも先祖伝来の地を守ろうとする王国の意図が見えるからだ。

 けれども――

「……何でこのタイミングで王国軍の小隊が遠征に来てるんですかね……」
「しかもストロガース少将が視察に来てるとかどんな偶然だ……エモンド達に控えててもらって助かったぜ……」

 唯一の入り口である森へと通じる道を塞ぐのは砦に匹敵する駐屯地。要所を強化建材で補強した鉄の砦は関所か国境警備の砦もかくやと言わんばかりの堅牢さであった。
 二人は近隣の岩山に身をひそめながら様子を伺っていたが、辺鄙な森のすぐ近くに小さな盗賊団なら裸足で逃げ出しそうな物騒な建物があるという事実にミスマッチを感じずにはいられなかった。
 もっともそれだけならばアルセス達も脅威には思わなかっただろうが、アルセス達ですら耳にする王国軍の有名な将軍が来ているとあっては二人の表情は冴えない。

「遺跡からはかなり離れた位置で待機してますけどね。一応お咎めを受けないギリギリの外側で魔物退治のキャンプを装ってもらいましたが大丈夫でしょうか」
「偽装工作は完璧だから見つかったとしても多少注意を受ける程度で済むだろう」

 それでも南方の外れに待機しているであろう二人の位置まではかなりの距離がある。
 仮に追撃部隊などが出撃した場合、単に逃げるだけではなく追跡を撒く必要があるだろう。だが、ここに来て王国軍の視察という状況がアルセスのミッションの難易度を更に跳ね上げていた。

「……猛将で知られるグウェイン・ストロガース少将、か。噂じゃ『最古』のカテゴリーに位置するオーファクトを持ってるって話だったが……」
「その噂は事実でしょうね。ここからでも強力なオーファクトの波動を感じます。砦の内部から一つだけですし、ゆっくりと移動しているという事は所持者が持ち歩いているという事。これだけの情報が揃えば確定でしょう」

 王国軍有数の武闘派にして最古のオーファクトの使い手たるワンダラー。
 重ねてきた経験も、身に着けている実力も何もかもが格上。唯一負けていないと言えるのはオーファクトの格だけとあって、アルセスはタイミングの悪さを天に恨みたくなる。

「……出張ってくることはないと思うが、万が一戦闘にでもなったら逃げの一手だな」
「ええ、脳筋相手に力勝負なんて無駄の極みです。何の得にもならない戦いなど百害しかありません。全力で逃走してしまうのがいいでしょう。特にわたしと同格のオーファクト持ちが相手となると楽な勝負など絶対できませんからね」

 アルセス至上主義を掲げているティエナであっても相手を見極める程度の理性は持ち合わせていたようだ。
 実際のところグウェインの実力がどの程度かを判断する材料を彼らは持ち合わせていない。それでも楽観的な意見が浮かばないのは、最古に位置するオーファクトの持つ能力がどれもこれも未知数だからに他ならない。

「ただ今となってはわたしは『最古』に位置するのかあやふやになりつつはありますけどね」
「ウェバルテインの制作時期に関する疑問点、か。今得られた情報から考えると、そこは不明瞭になりつつあるか」

 世界崩壊の直前に作られた最新鋭のオーファクトである可能性を示唆された今、ティエナが常々口にしてきた最古のオーファクトという保証は揺らいではいるのかもしれない。
 だが、それが何だというのか。アルセスにとってはウェバルテインはやはり常識外れの力を持ったオーファクトであり、ティエナの多彩なアートの数々は他のオーファクトに類を見ないものだと実感してきた。
 彼女の生まれがどうであれ、その性能についての是非については語るまでもない。アルセスは無言のままティエナの頭に軽く手をポンと置いて諭すように撫でる。

「性能ならウェバルテインとティエナが揃ってる俺達だって引けを取らないさ。問題は使い手の俺の実力が天と地ほどの差があるって事だからな」
「そ、そうですね、悲しいことに人間の実力とものは往々にして重ねた時間や努力の質でどうしても差が出来るものです。アルセスが恥じることなくその不足を認めているのは逆に誇らしいです。己の足元がきちんと見える人がご主人様(マスター)であることは、オーファクトにとってはありがたいことですからね。わたしの個人的な感情は関係なく……関係なく!」

 何故そこまで頑なに否定する理由はティエナ以外は知る由もない。
 いや、一人だけいたか。彼女の言葉の裏を感じ取ることに長けたアルセスという男が。

「……だけど、この砦、街道を大門で塞いでいる以外は開けっ広げ過ぎるように感じる……。うっそうと茂った森の上に外周は山で囲まれてるみたいだが、それでも森からは入り放題じゃないか」
「いえ、アルセス。一見そのように見えますがこの森、街道部分以外から強い力を感じます。それも木々の一本一本からですね」
「……それはこの森の木一つ一つに何かしらのオーファクトが仕掛けられているってことなのか?」
「いいえ、違います。この木そのものが――崩壊期以前の技術で生み出された特殊な植物だという事です。普通の植物と同等の生態サイクルを持ちながら独特の性質を兼ね備えたこの地を守るために植林された特殊な樹木。この森を形作るのはそんな過去の遺産です」

 いわばこの森自体が遺跡であり、今の人類史が始まってからもなお残る古代からの遺産の一つなのだとティエナは淡々と語った。アルセスの方は遺跡、というイメージからはかけ離れたこの光景にしばし目を見開いて驚いたが。
 今の科学分野では生命に関する研究は進んでいない。いや、医学という分野においては目覚ましい発達を遂げているが、元からわかっていなかった生物というものが学術的に理解を深めていっているだけでその先を見出そうという研究は行われていないのだ。少なくとも表向きは。
 命にかかわる技術すら身に着けていた。必要とあらば森一つさえ作り出せたという古代の技術に、アルセスは驚愕と脅威を同時に感じ入る。まだまだ人類は過去においついてなどいないのだという感想は、果たして安堵か落胆かは彼には判断がつかなかったが。

「それでこの森自体が持つ力ってのは?」
「人間や生物の感覚に訴える特殊な干渉波の発生ですね。アルセス、よく人が迷いやすい樹海などの話を聞いたことがありませんか? あれは土地自体に特殊な磁場が発生していてコンパスや人の感覚を狂わせているのが往々にして原因だとされていますが、あの手の類の強化版だと思っていただければ」
「つまり、ろくな対策が無ければ突破どころか……」
「迷うだけ迷って飢え死に、運よく出られたと思ったら王国軍の砦へようこそ、の二択でしょうね」

 そんな場所でさえ警備の兵を常においているというのだから、王国軍がこの地をどれ程に慎重に扱っているかが伺いしれようというものだった。アルセスは気合を新たに目の前の森を睨む。想像以上に困難なミッションだ。けれども、目指す目的の為に無謀ではあっても無理ではないというのならば退くという道は選べない。
 険しく困難な道のりであることは既に承知。最初から彼の覚悟は決まっている。

「ま、どんな場所であれそこに手掛かりがあるなら止まる理由はない。行こうか、ティエナ。道案内は頼んだぞ」
「お任せください。人間にとっては難攻不落の魔の樹海と言えども、優れたオーファクトの管理者にして姫たるわたしの力の前では手入れされた庭園も同然。日が暮れる前に遺跡へと案内して見せましょう」

 ふふん、と最早アルセスにとっては見慣れた彼女の笑みであるがこれでティエナは見栄を張ることはない。
 人工生命体ゆえなのか彼女は検証という分野においては非常に現実的な結論を即座にはじき出す。
 彼我の実力差の見極め、実況検分、人間によってはブレの大きくなるであろう分野においては、彼女はあまりにも正確すぎる演算力を発揮する。それはおよそ人間離れした精度と感情を排した客観的な結論を弾き出し、瞬時に可能不可能を見極める。

 そのティエナが言うのだから確実なのだ。アルセスは何一つ躊躇うことなく足を進める。
 二人は砦の監視から見えぬように立ち回り、誰も踏み入れぬであろう森の外れからあっさりとその中へと姿を消す。
 うっそうと生い茂る木々が日の光すら遮る暗い森。
 長らく人の侵入を退けてきた天然の要塞。魔物ですら住み着かぬという樹海は自ら進んでか、迷い込んでかの区別なく一切の侵入者を拒む。

「……これは何というか……耐え難いな」

 この周囲だけ空気が違うのではないかとすら錯覚する息苦しさ。奪われる平衡感覚に常に歪んで見える景色。そして数歩踏み込んだだけなのに奪われた方向感覚。
 話に聞くのと実際に体験するのとは大違いだ。アルセスの歩調が弱まったことに気づいたティエナは慌てて駆け寄ってくる。

「アルセス、こちらへ。気を飲まれてはいけませんから」

 さりげなくアルセスの手を取ってティエナは防護のアートを展開する。
 周囲の空気を正常化すると同時に、アルセスの生命力へと干渉し一時的な抵抗力を備えるのを同時に行ったのだ。
 途端にアルセスは呼吸が楽になったかのような開放感を得た。覚悟を決めて踏み込んだというのにこれでは突破もままなるまい。それどころか森を抜けられるかどうかも怪しい。

「王国軍が道だけをガッチリ固めてるわけだな。唯一遺跡にまで伸ばされた道だけがこの影響を免れるわけか」
「もっとも彼らにとっても牙を向ける森ですけどね。戦略的に利用するには一切の侵入者を阻む壁としてしか使いようがないでしょう」
「だがこれでますます遺跡の価値が分かるな。場合によっては要人警護の地になり得るわけだから」
「そうですね。その意味でもあの関所のような砦の戦力の充実はその辺りの用途も考慮してのものなのでしょう」

 意気揚々と砦を無視して森を突っ切ろうとしてたところで待つのは死。
 いずれ自分たちは影響を受けず、敵だけが惑わされる。そんな状況が作り出せればまた話は変わってくるのだろうが、王国にとって歴史と名誉を意味するこの地を戦場として利用するような研究が果たして認可されるかどうかは怪しい。
 あの砦の充実こそが王国の答えなのかもしれないとアルセスは歩きながら思った。
 ティエナと手を繋いだまま歩きに歩き、生物の気配を感じない奇妙な空気の森の中を進むこと数時間。

 森を強引に抜けた先は既に夜の支配下にあった。
 だが、外周の森よりはいくらか木々が少ないのか、隙間から差し込む月光が照らし出すその光景は非常に神秘的なものにアルセスには映って見えた。

 一言でいうならこうだろう。

「……森の中の神殿、か」
「相当古い建築様式ですね。ですけど……」

 円形の柱と小さな建物で構成されたそれはかつては厳かな建造物としてこの地に君臨していたのだろう。
 今は荒れてこそいないが建材は朽ち、折れた柱などもありかつては重厚な扉が取り付けられていたであろう入口は開け放たれたままだ。
 てっきり遺跡の近くにも警備の兵を放っているかと思っていたが、アルセスが感じる限り周囲に人気はない。滞在用の施設なども見受けられない事から、王国の警備はあくまで入り口である森の道を守る事のみに留められているようだった。

「……作りこそ神殿という印象を受けたけど、中身は別物か」

 柱で作られた円形の内陣こそあれど、祭るべき像があるわけでもなく祭壇があるわけでもない。
 ただ――地下へと続く巨大な階段があるのみだった。
 しかも階段の建材が途中から別の物に変わっているという奇妙なデザイン。意図的に作ったものではないとしたら、答えは一つだ。

「……この階段から上は後から付け足されたもの、と考えると……」
「そうですね。この下の方こそが恐らくは崩壊期より以前から残っているであろう遺跡でしょう。そもそも柱に使われている建材も分析したところせいぜい百五十年程度前のものです。本命はこの先ですよ、アルセス」
「そうだな。それじゃ見せてもらおうか。残されているかもしれない過去の断片を」

 そして二人は躊躇いなくその階段を下りていく。
 王国の聖地にすら踏み入るその行為が招くものは果たして希望かそれとも――

砂糖「しばらく出番はなさそうだな。あばよ!」

※ 次回の更新は1月6日です。
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