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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第79話 アレサニカ村

あけましておめでとうございます。
今年もどうぞよろしくお願いいたします。
 ジーゼンとエモンドが参戦してからは戦いは早期決着の展開を見せ始めた。
 面制圧力の高いショットガンによる攻撃はグランデンバードの陣形を大きく乱し、動きの止まったところからアルセスのクロスボウとティエナのアートが狙い撃つ。
 時には家畜すら浚う大型の魔鳥と言えども数の利を生かせず次々と翼をもがれては死を待つのみ。
 地に堕とされた翼は再び舞う事叶わず、エモンドの振るう片刃の剣がきっちりとその命を刈り取っていく。
 四人の連携はまさしく一方的な蹂躙だ。狩りと呼べるものですらない。
 それもその筈。このグランデンバード、魔物から生体素材として様々に活用されるこの時代にあっても利用する箇所が殆どないのだ。そのくせやたらと人類の生活圏に近いところに現れては頭を悩ませる悪さをする。魔物の中でも本当にメリットのない種族なのである。
 加えるなら命晶化しそこからベルセルスを抽出してもエネルギー源としては極僅かな物しか生成できないとつくづくお金にはならない要素が揃い踏みなのだ。
 腐肉すら漁ることもあるため肉は取り立てて食べられたものではなく、羽に至っても利用価値はなく、発達した爪は加工しようとすると脆くなるので使い道がない。

 ここまで本当にただ倒すだけ、という魔物も珍しい。特定の部位の破損などを気にせずともよい、だから彼らの戦いはここまでスムーズに行っている理由でもあるのだ。

「うっし、こいつでラストぉ!」

 エモンドの景気のいい声と同時に鋭い一閃がグランデンバードの首を落とした。
 その鋭さ、見切るのも困難であろう神速の剣の冴えは見事と言う他になく、軽い性格に反して剣技は実直というエモンドの意外性を示すものであった。
 しばらく周囲を警戒するも増援が無いと判断したところで、全員が各々の武器を下した。戦闘そのものにはさほど時間は経っていなかったが得るものが無いと分かっている上で戦わねばならないというのはティエナにとっては不満だったようで。

「お金にならない仕事とか本当面倒極まりないですねー。こいつら煮ても焼いても食べられないし、売り物になる部位は無いしで時間だけ浪費させられましたよ」
「巣でも見つかってりゃまた違ったんだがなぁ。遠征隊相手じゃしゃーねーだろティエルちゃんよ」

 エモンドの言うようにグランデンバード相手に唯一戦果を上げられるとしたらそれは彼らの巣を発見した場合だ。
 カラスなどの普通の鳥と似たような習性もあるのか、グランデンバードは自身の興味を惹いたものを巣に持ち帰る癖がある。集団で襲い掛かるためコミュニティを形成するグランデンバードであるが、各々は個別に巣を作る。岩山などに多数の巨大な鳥の巣でも見つかろうものなら、それはグランデンバードの縄張りだと思っていいとまで言われるほどに。
 冒険者にとってはグランデンバードの巣は当たり外れの大きい宝箱のようなものだ。中には質の良い宝石だのどこから盗んだのか分からないような宝飾品まで出てくることもあれば、折れた刀剣や布切れなどゴミ同然の物が大量に詰め込まれていたりもする。

 今回は出先で襲われたアルセス達にはそれら副産物には期待できず、さりとて近隣にあるかもしれない巣を探す余裕はなかった。面倒なだけの戦いに不満タラタラのティエナを宥めながらアルセスは油をまいて死骸に火を放った。
 魔物の死骸をきちんと葬るのも冒険者、ひいては魔物と戦った者が行わなければならない最低限の礼儀だ。環境に与える影響もあるが、遺体が腐敗するとそれはそれで別の魔物を呼び寄せる原因になりかねない。まして、ここは街道の近くだ。衛生の面においてもおざなりには出来ないという事情もある。

「火が消えるまで移動できない出来ないのも面倒ですよねー」
「ま、火葬用の油を使ったからそこまで時間はかからないさ」

 火力は強いが持続性のない炎を生み出す特殊な油なのでそう時間はかからない、とアルセスは火を眺めながら言うが予定を狂わされたことでティエナはまだ少々不機嫌のようだ。
 やがてアルセスの言うように炎が鎮まるころにはグランデンバードの骨だけが大量に残っているだけになった。その骨も随分と脆くなっておりほどなく風に吹かれて散っていくだろう。

「……これで問題はないな。それでは出発するとしよう」
「ちっと時間を使っちまったが、まあ村にはそこそこの時間に着くだろうよ」
「夕方になるかもしれないが、それはそれで構わないもんな」

 あくまでアレサニカ村は四人にとっては通過点だ。むしろ軍が滞在しているかもしれない状況でのんびりと宿を取るわけにもいかない。近隣の情報収集が目当てなのであり拠点としたいわけではないのだから。
 改めて車に乗り込むと、ティエナはアルセスに詰め寄るように接近すると見せかけてしなだれかかるように寄り添った。理由は察したが一応アルセスとしては聞かないわけにはいかなかった。エモンドのからかうような視線から逃れたかったというのもある。

「……どうしたんだティエナ」
「アルセスにはわたしのご主人様(マスター)としてわたしの気分をリフレッシュさせる義務があります。具体的に言うとアルセスなりに考えてわたしを癒してほしいという当然の要求です」
「当然なのか」
「そうです。なんせ無駄働きですから」

 まあ弾薬だの資材だの使った割に一文の得にもならなかったのだからティエナの言う無駄働きというのも理解できなくはないのだが。
 とはいえ狭い車内で出来ることは限られる。

(本当は膝枕を要求したかったが狭くて諦めたって感じだな)

 ティエナの姿勢や拗ねた顔からアルセスは彼女の本音を予測しつつも、そこには触れずに頭を撫でつつ髪を撫でるというソフトタッチに徹することにした。密着する分、アルセスとて自制を迫られるのだ。

「ふぅ~にゃぁぁぁ……」
「完全に猫みたいな奴だな……」

 よほど気持ちいのか蕩けた顔で浸るティエナの姿にアルセスは思わず呟いたが、

「今更何言ってんだアルセス。ティエル嬢ちゃんの性格なんざまるっきり猫だろ。気まぐれで気分屋で心を許した相手にしか甘えない癖に素直に寄ってこないところとかよ」
「いや、それについては俺も自覚してはいるんだけどさ。やっぱつい口には出ちゃうよ」

 何せこれほど幸せそうな顔をしてるからさ、と返すとエモンドはげんなりしたような表情で前を向きなおす。

 それから村に到着するまで、前に座る二人は一切アルセス達には触れなかったのだった。


 ★


 その後は大した妨害もなく車はスムーズに快走を続けジーゼンが予想したよりもやや早い時間にアルセス達はアレサニカ村の近くへとやってきていた。
 ジーゼンが村の入り口が見えた辺りで車のを速度を落とす。理由を尋ねようとしたアルセスだったが前方を見て納得した。

「軍の検問か?」
「……そのようだな、当然の対策ではあるが」

 噂になっていた事件は明らかに魔物の仕業とは思えない。軍が既に調査に乗り出しているのならばこの程度の警戒は予想済みであった。
 ゆっくりと車が入口に差し掛かるところでジーゼンは速度を落とした。素直に話を聞く、というスタンスを先に見せることで相手の警戒心を下げるつもりなのだろう。
 案の定、止まるように武装した兵に指示を出されたジーゼンは大人しく車を止めて窓を開けた。

「アルデステン王国軍だ。済まないが今はアレサニカ村は厳戒態勢にある。少し調査に協力してもらいたいのだが」
「……構わない」

 この手の調査に立ち会うのは初めてではないアルセス達にとっては不信感を煽らないように立ち回るなど慣れたものだ。
 村の北部の方に生息している魔物を狩りに来たこと。その為の装備でありパーティであること。きちんと王国の滞在証は持っているなど。当たり障りのない範囲での調査に引っかかるような怪しい要素は無かった四人の取り調べはスムーズに済んだ。

 相手のこの反応そのものが既に――ティエナの術中なのであったが。

「村に宿を求めるならば所在を明らかにしてもらう必要があるが」
「……いや、この村は通り抜けるつもりでいた。軍が既に調査に乗り出したという話も聞いている。よそ者が滞在していては要らぬ気を回させるだろう」
「……そうか、済まないな。北の方での狩りまでは止めはしないが、あまり不審な行動を取るようであれば兵が調査に来るかもしれん。なるべく目立つ行動は避けてもらいたい」
「……承知した」
「他には……街道から外れた先だが一部の地域は王国の管轄地だ。警備の兵もいるので心配はないと思うが面倒を避けたいのであれば近づかない事だ。例の事件で警備兵もピリピリしているのでな」

 それだけ話をすると兵は車の前の道を空けて通っていいと指示を出す。
 車が動き出し村に入り込んだところで、ティエナが一つ小さなため息を吐いた。

「念の為に意識誘導のアートを仕掛けておきましたが、この程度のアートが効く手合いでよかったです。あんまり強く精神に働きかけるアートではないですからねこれ」
「……相手の猜疑心を無力化し普通ならば怪しむ点を当然と思い込んでしまう、というアートだったな。何度かこの手の取り調べを誤魔化してもらったから覚えているぞ」
「オレらももうちょい交渉上手な奴をスカウトした方がいいのかねえ? どうもお役人とか相手にすると力業じゃねえか?」
「今更過ぎると思うんだけど、エモンド」

 どんなに厳重な警戒網が張られていたとしても警戒する側が怪しいと思わなければ作用しない。
 強引に洗脳するでもなく、ただ認識を誤魔化すだけ。相手の脳内から情報を盗み出すといったアートのようにティエナはこの手の精神操作系のアートにも明るい。ジーゼンが言うようにメンバーのサポートをした回数も決して少なくはないのでこの場にいる全員が慣れっこであった。

 こんな規格外の力を当然と思っているのまで慣れているのはどうなのかという正否についてはさておき。
 そんな話をしながらもジーゼンは村の中にゆっくりと車を入れたが、そこにはアルセスが予想していた光景とはやや異なった村の姿が現れた。
 街道を中心に宿屋や店などが並び、そこから道がいくつか枝分かれして村のあちこちの家を繋いでいる作り。村と呼ぶにはいささか規模が違う。かつての自分の住んでいた村と比べても家屋が多いなとアルセスは遠くを見渡すが、田畑を耕している家などは村の外周に沿うような形で並んでおり、中心部では少なくない来客を迎え、自分達の住居はそれを囲むようにと改めて一度村を作り直したような痕跡が見受けられた。
 あくまで街道の中心には店が並ぶのであってそこから抜けた先には牧歌的な風景が広がっているのどかな村なのだが、通り過ぎる際に一点だけ異様な光景が現れた。
 まだ焼き払われて新しいと思わしき痛々しい火事の跡。
 見るも無残に焼け落ちた木造の家。
 今はもう風化してしまっているが、それでもなお感じられる流された血の匂いを感じさせそうな惨劇の痕跡がそこにある。
 得るものもろくにないだろうが、事件の凄惨性から未だ調査をする兵の姿も見受けられたのでわざわざ近寄りはしなかったが、アルセスは背筋にうすら寒いものを感じた。

「この徹底したやり口……話に聞くのと目で見るのとじゃまるっきり違うな」
「……そうだな、ここまでの規模でこれだけの事件を起こしておきながら、村の誰も気づいていない、という不審さもさらに強まった。……見てみろアルセス、この村の住人の家屋同士は畑や牧場などもあって離れてはいるが、到底孤立と言うほど距離があるわけではない」

 ジーゼンに言われてアルセスは事件の現場となったであろう場所から周辺に目をやるが、確かに目で見える範囲に他の家々が存在する。少なくとも畑が焼けたのならば夜中とはいえ炎が見えてもおかしくない。
 だが、誰もが襲撃者の姿だけではなく事件そのものがいつ発生したのかを明確に知らない。
 まるで悪夢のようなものが通り過ぎたかのように、村の一家の一つを完膚なきまでに壊していったのだ。
 改めて徹底した惨劇の痕跡を見てアルセスは一つの悪寒を抱く。

「……壊蒐者(エグゼキューター)かな」
「……気持ちは理解するが思い込むな。奴らの手口は真似やすい――並ではない精神力があれば、の話ではあるがな……」

 しかし警戒していて損はないだろう。
 アルセスは表情を強張らせつつも、隣に座るティエナの手を軽く握った。
 それは自身の心を落ち着かせるためか、それとも無意識のうちに安心を求めたのか。
 ティエナは少しだけ驚いたようにアルセスを振り返ったが、何も言わずただ静かにその手を握り返す。

 誰もが何も言葉を発しないまま――車は村を抜けたのだった。
今年も今年でひっそりと陰ながら
活動していきますー。

※ 次回の更新は1月4日です。
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