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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第7話 親父

 王都ゼルダンタ。
 広大な森林と荒野と草原、多種多様な自然の残った地域をあちこちに色濃く残すモードス大陸の中央に位置するアルデステン王国の中心。
 その街並みは近年発達した建築技術によってビルディングが建ち並ぶ一角があったり、舗装された道路に華やかな街灯など、昼と夜で二つの顔を持つ、という表現が大袈裟ではない程に都会という単語が似合う作りである。
 王城を中央に備えたまま外壁の拡張と共に少しずつ版図を広げた大陸一の都市である。
 しかし、何よりも目立つのはこうして整った区画によって構成された街並みを囲む城壁の堅牢さだろう。
 分厚く、鉄製の扉を潜らずしては街に入るのも困難な警備態勢。対地、対空、それぞれに対応出来る砲門による武装。物理的にも火力的にも重厚な城砦はまさしく街の外と内を分割する強固な壁となって外の脅威から人々を守る盾であり鎧であった。
 ただ、城砦を厚く、武力による防衛力の強化という方針は何もアルデステンという国だけに限らない。世界各国の多くの都市の殆どが城塞都市と言っても過言ではない程に軍事力には力を注いでいるのだから。

 飛行船。
 双胴船を基準とし船底が平らという「船」と形容するにはあまりに様変わりした海ではなく空を行く人類の新たなる足。
 現在では小型化した少人数用の小型艇を搭載した大型艦をも建造できる領域に達しているが、この発明が及ぼした影響は計り知れない。
 その一つの内には防衛という概念が含まれる。
 地上の脅威たる魔物に対抗すべく強固な城砦も、悪意ある人を乗せた飛行船には無防備である。
 よって空へと手が届いたと同時に、各国の防衛という意味合いは大きく様変わりしたとさえ近代史には伝えられている。
 分かりやすい例として言うならば大半の国が空戦戦力を擁するようになり、自国の制空権を守るのに注力するようになった事だろう。

 もっとも、ここ数十年、小競り合いはあっても大戦と呼ぶほどの戦争に発展した事例は無いのだが。
 用意した空戦戦力も大型の飛行能力を有する魔物に対抗するために使われる事が大半というのが実態だ。
 その理由としては大半の国が自国の管理及び開発に手一杯の状況で、国内の資源状況を把握しきれていない現状で他国に攻め入る余裕がある国などないのだから、戦争自体が起こらないのは当然と言えた。
 一方で国内の有力者達による内ゲバとも呼ぶべき醜い争いに関して言えば何処の国でも少なからずある、というのが現状でもあった。

 そんな歴史的背景から厚く作られた城砦をくぐった列車より降りたアルセス達は、駅から出て、様々な人々でごった返すこのゼルダンタへと足を踏み入れた。アルデステンも安定した国家運営こそ行われているが問題がないとは言い難い。それはアルセス達が車内で読んだ新聞からも容易に推測できる事態である。
 王都の人間と、他所の人間。
 多くの人間で賑わう広く太いメインストリートは王城まで一直線に繋がっている。人波に流されぬように歩道を歩く二人の頭上を大きな影が横切った。
 輸送と人の運搬を目的とした旅客飛行船がここより離れた位置にある発着場へと向かったのだろう。その巨大な船が通り抜けたにも関わらず、周囲から聞こえるのは人々が作り出す街の営みの音だけだった。

「世代を経たとはいえ相変わらず人間の発想には感心しますね。風を操るオーファクトを参考にして騒音を遮る飛行船を建造するとか」

 一瞬だけ上を見上げたティエナが感心とも呆れとも取れるような顔でそんな事を呟いた。

「人を運ぶことを前提にするとどうしたって城砦の内側に発着場を建設することになるからな。街外れとかを選んで場所を配慮したとしても……人はともかく家畜の類が騒音をいつも我慢できるとは限らないし」

 無論、建設時に場所の考慮はしただろうがとくに音に敏感な家畜などにストレスを与えるような環境を作ってしまっては影響が大きい。
 よって生み出されたのが発生する騒音を空気の流れを操作することで直下には伝わりにくくする機器を飛行船に取り込むという技術だった。少なくとも営業を目的とした飛行船には導入が義務付けられており、国に所有の許可を求めるのであればクリアしなければならない項目の一つだ。
 逆を言えば、騒音を撒き散らして飛行するような飛行船は真っ当な国の許可を得ての所持ではないという明確な理由となり、場合によっては一部の都市上空に差し掛かっただけで戦闘飛行船に囲まれる事もありうるという事だ。
 よって、自然と飛行船をも所有できるような大規模な冒険者の集まりや、或いは盗賊団の類であっても防音には気を使うようになった、という背景が存在する。技術自体はあっさりと流出していて、素材、製作難度共にハードルは低く、むしろこの程度の対策もしないで空で無法を働こうものならあっという間に撃沈されてお縄というくらいには。
 どこの国も空という領域には敏感なのだ。

「それで? 今回はどこを『仮アジト』にするんでしたっけ?」
「えーっともらったメモには……ああ、そこだ。二番街ストリート」

 十字路を右手に折れると、レンガ造りの店や木造のシックなデザインのカフェ、果ては近年健在として実用化が進んでいるコンクリート作りの家々などが並ぶ市街に出た。
 歩行者用の歩道と自動車用の道路がしっかりと区分けされてはいるが、自動車の交通量はさほど多くは無い。歩行者が多い街並みということもあって運転手が意図的に避けているのだろう。ここを通らなくてもメインストリートには出られる作りである事も要員となっているに違いない。

「……珍しいですね。てっきりまた微妙に治安の悪い地域の店でも買い取るのかと思ってましたが」
「それだとあからさまに怪しいだろうから、今回は意図的に賑やかな場所を選んだんだってさ」
「んー、まあ、確かにそこそこお金を持ってそうな人の家やら店やらもありますし――お上が強引に出にくいっていう地域性もありますか。スラムまがいの場所ですと、周囲への影響なんか気にしないって傲慢な人も出てきますしねえ」

 まるで見てきたかのようにティエナが言い、アルセスは苦笑を返すしかなかった。
 とはいえ、彼女の見立ては決して的外れでもないだろうとアルセスは納得する。
 脛に傷のある身としては、国の威光を振りかざせる立場にある人間が強気に出にくい場所、というのは重要だ。この国ではないが、その手の人間に人権なし、とばかりに一方的な蹂躪に走る傾向もあるからだ。
 スラムのような場所が生まれたのはある意味では自分達の上司の舵取りに問題があってのことだろうによくもまあ、とアルセスは彼らの横暴に呆れた事もあるが、彼らに正論を言える立場でもない為内心で呟く程度に留めてはいるが。
 メモに記された場所はメインストリートか数分歩いた先にあった。隣接、というほどではないが近隣には雑貨などを取り扱う店や、家具などを並べている店が建ち並ぶ一角に――

「……ルガー……何でまた飲食店なんか選んだんでしょう」
「噂話を集めやすい、とでも思ったかそれとも……」
「団員の可愛い子に趣味の服を着せたい、とでもせがまれたんじゃないですか? フィオネに」
「奥さんには頭が上がらないからなあ……とりあえず裏に回るか」

 一応「アジト」であるため、堂々と表口から出入りするわけにも行かないアルセス達は、路地を抜けて裏口へと回る。
 通用口とでも言おうか、業者などが出入りできる程度に道はあるが狭くて視界も悪く目立たない。
 アジトとして出入りするならば理想的な立地である。毎度毎度、よくもまあ都合のいい場所を見つけてくるものだと、アルセスは口には出さずに感心した。
 しかし、彼らは業者でもない。素直に裏口を開ける事無く、さらに奥。角の近くにある壁を調べた。

「あったあった。毎度毎度よくもまあこんな隠し扉を作るわな」
「わたしが開閉時の認証を行うためのシステムの作り方を教えてしまいましたからね……外から開けられるのは身内だけ、なんて仕掛け、ルガーが喜びそうな玩具をなんで与えてしまったのだと後悔しています」
「ま、だからこそ緊急時の抜け道の逆利用だとか、アジトにこっそり潜入されるなんて事からはウチの一家は無縁なわけだけどな……」

 周囲に人影や監視されているような気配が無い事を再確認して、アルセスは壁に空いている隙間に薄いカードのようなものを差し込んだ。
 カチリ、と何かが嵌まる音の後に壁に僅かに隙間が出来る。スライドさせるようにして横に開くと、そこにはぽっかりと地下へと続く竪穴が空いていた。
 二人が素早く潜り込み、中のハシゴを掴むのと同時に壁は素早く閉じて中はあっという間に暗闇になった。普通ならば携帯用のライトでも点けるのが普通なのだが、

「アルセス、さっさと降りましょう」
「ああ、大した長さでもないからな」

 暗闇に慣れている二人にとってはただ梯子を降りるだけ、という作業など造作も無かった。
 高さにして少し深い地下室、程度の高さまで降りただろうか。降りた先には扉があり、まだ王都の地下下水道までは届かない深さだとアルセスは認識した。地下を勝手に間借りするにしてもその辺の施設にかち合うとあっという間に足が着くので慎重なのだ。
 扉を開けると、薄暗い地下――とは思えぬほどに明るい照明と必要最低限の家具や物が置かれた広間に出た。ソファにテーブル、そして奥には団員用の個室に繋がる廊下へといける扉もあるなど、おおよそ――普通の地下室には程遠い空間がそこにある。

「おう、アルセスにティエル、わざわざ遠回りしてもらって悪かったな」
「本当ですよ、全く。わたしをなんだと思ってるんですか」

 わざとらしく頬を膨らませて抗議するティエナに男は笑い飛ばして誤魔化す。
 豪腕に左目を眼帯で隠した隻眼。茶色のボサボサ頭に伸ばした髭に厳つい顔が相まって風貌は山男か山賊の頭目かと思わせるような強面の中年男性。
 しかし残った右目の眼光は鋭く、まただらしなくソファに寄りかかっていながら隙という物を感じさせぬ歴戦の古強者の威厳を兼ね備える男。

 十年前、アルセスとティエナを拾い一家に迎え入れた頭目。

 ルガー・ダンセイル。
 数十人規模のアウトロー集団を纏め上げる団長、その人だった。

「だけど、どうせお前らのことだ。ちょっとした休暇代わりにイチャコラできただろうから、それでチャラにしろや」
「なっ、まっ、はっ、わ、わたしがそんなあからさまな餌に釣られると思ってるんですか、ルガー! これでも仕事途中の移動ですよ? そんな私情に走るような真似をこの高貴なわたしが――」
「あー、親父。多少は遊んだけど、休暇って程でもないぜ?」
「あるせすぅぅぅぅ!?」

 裏切ったな!? みたいな顔でアルセスを涙目で睨むティエナだったが、アルセスは誤魔化しにもならない弁明を並べ立てて誤魔化そうとするよりもさっさと認めた方が話が早いと今までの経験で知っていたまでのことだった。
 そもそもあんな動揺しきりの弁明、他にも笑いを堪えている団員達の一体誰が信じるというのか、とアルセスは半ば諦めの境地にあった。もはや二人の関係でからかわれるのは慣れっこなのである。
 なので未だに抗議をしようとするティエナを片手で遮りながら、アルセスは本題に入った。ちゃっかり飲み物をもらってルガーの対面に座ってだが。

「それに割と真面目な土産もあるんだ。サンカーラの街でも『汚染者』にでくわした。雑魚だったけどな」
「チッ、本当か」
「本当ですよ。わたしが直に調べましたから。まあ汚物の上に技術も拙いと散々な代物だったので壊して捨て置きましたけど」

 ティエナも文句は後で言おうとしたのか、それとも切り替えが早いのかコップを持ってアルセスの隣に座った。心なしか彼に寄り添うような姿勢だったが誰一人突っ込まない。面倒だからだ。

「今回の仕事が一攫千金のチャンスでもあり、キナ臭い話でもあるってのは確定してもいいようだな……他の商売敵も王都入りしてやがるようだし」
「げ、あの女は来てないでしょうね、ルガー」
「オレぁ直接見たわけじゃねえが……偵察の連中がヤツらの偽装船じゃねえかって疑ってる船の出入りを見てる。アルセスが心配ならしっかり見張っとけ」
「ふん、わたしがあんなアバズレの小娘に負けると思ってるんですか」

 ルガーがからかい混じりに言うのでティエナはムキになって言い返したが、内心アルセスは面倒事が重なりそうだな、と今から頭が痛くなりそうであった。

「ま、そういう訳だ。しばらくオレ達ルガー一家は、この店を拠点にいっちょお宝漁りとしゃれ込むぞ? 事件の陰にオーファクトあり、オーファクトの影に儲け話あり、ってな」
「はぁ……もっともらしいことを言ってもやることは火事場泥棒だったり、ドサクサ紛れに金品強奪するだけじゃないですか」
「世の影に隠れて悪事を働く悪党の非道を世に知らしめる代わりに――ヤツらが私腹を肥やした中から勝手に賞金を頂くだけだ。なにも問題はねえ!」
「法と善悪に則れば間違いなく問題だらけですけどねー。ま、わたしは人間じゃないので人間が作ったルールなんて知りませんけどー」
「ティエルだって大概じゃねえか」
「あらあら? そういう小賢しさはぜーんぶルガーから学びましたよー、わたし? アルセスもまあ屁理屈は得意ですけどね」
「本当にお前さんはみ出し者向きの性格してるよな……」

 知りません、とすっとぼけるティエナにアルセスは苦笑いを返すしかなかった。
なお、ルガーの言う事は方便なので
実際には彼らの仕事がなんら
世の中に影響を及ぼさない事もままある。

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