挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

79/87

第78話 北へ

 準備と手続きを済ませアルセス達は日が昇りきらない早朝に、一路王都を出発しアルデステン王国北方の村アレサニカへと向かう。
 図書館から戻った折に事情と推測を聞いたルガーは急ぎの仕事もないからと主戦力級の二人を連れていくことを快く承諾した。

『活動自体が半信半疑だった組織の連中がどこもあちこちで動いてるのが判明したからな。警戒するに越したことはない。情報も大事だが自分達の命を最優先に動けよ? どうにもきな臭さが増してきてやがる』

 と、ルガーも何かを感じているかのようだった事はアルセスの不安は更に高まった。
 何事もなければいいがそもそも向かう村で既に一つの事件が起こっている。単なる散発的なものならば軍も動いているとのことなので心配ないのだが、そうでないとしたら自分達も無関係ではいられまい。
 しかし、考えすぎて動きが鈍くなるのも困り者だ、とアルセスは思考を切り替える。
 何より自動車は軽快に街道を突っ切っているが到着までは半日かかる。運悪く魔物にでも遭遇すればさらに時間がかかる。街道周辺にまで現れるような魔物の種は限られているが、時間をかけないに越したことはない。足の鈍い魔物であれば速度を出すだけでも撒けるし、早期発見こそが時間を無駄にしないだろうと見える範囲での警戒を怠らないように後部座席に座っていた。

「いやー、しかしグッサン社の軍用車両の型落ち品の流用とはな。団長も一世代前の車とはいえ随分張ったねえ」
「そのお陰でこの間のわたし達の報酬は取り上げられましたけどね」
「ま、仕事とはいえ出した損害は埋めるのがオレらのルールだからしゃーねーだろーよ」

 右側の助手席に座るエモンドがケラケラと笑いながら言ったがティエナは大いに不満そうであった。
 運転を担当するジーゼンは無言を貫く。余裕がないわけではなく何事も集中して行う彼の真面目な性格ゆえだ。
 悪路走破能力に優れるという点から軍用車両はグッサン社が頭一つ抜けているとされているが、比較的きちんと整った街道とはいえ揺れの少なさは乗っている者達にとっては快適だ。
 振動そのものを上手く吸収して流す設計のサスペンションとフレームによって保障される快適性と砂漠から積雪、果ては浅瀬まで走行可能なタイヤを備え、元軍用車両ということで並の一般車両を上回る馬力、そして重厚かつ頑丈なフレームが時には魔物の攻撃すら受け止める盾となる。

 型落ち品の流用とはいえ安全とは言い難い街の外の世界で走らせるためには安全性を犠牲にするわけにはいかないというのが自動車メーカーの共通理念であるが、その中でも軍用車に限ればシェア一位のグッサン社の技術はやはり他社より優れていると断言できるだろう。

「しっかし、例の村の事件だったか? 一応軍が動いてるのは事実らしいがあんまり分かった事は少なそうだな」
「昨日の今日でもう調べたのかエモンド」
「おう、晩に飲みに行ったときに馴染みの情報屋がいたんでな。一杯奢らされたが話は聞けたんだ」

 だが、まだ事件が新しいという事もあって大した話は聞けなかった、とエモンドは語る。

「分かってんのは被害がその一家に関わるもの『のみ』って点だな。家から畑までまあきっちり焼け野原にしてんのに、周辺の他の家には一切被害が無い。あまりにも綺麗すぎて作為的なものは感じたな」
「それはわたしも思いましたね。事件のあった場所は他にも畑を持っている家があったそうですが、他には一切被害が無かったとか。その家だけを狙い澄ましたようなのには何か理由があったとしか思えませんが」
「たーだなあ……そんだけ派手にやらかしてんのに目撃情報どころか――騒ぎすら聞きつけてないらしいんだ村の連中が。ちょっと離れてるとはいえ隣近所の家ですら、だぜ? 夜中の犯行だったのは間違いないらしいがこれはちっと不自然だろ?」

 エモンドの疑念はもっともだ。家を壊せば音が鳴る。人を襲えば悲鳴の一つも上がる。いくら深夜とはいえ数人の家族で構成された一家全員を複数が襲撃したのならば騒ぎが起こっても不思議ではない。
 それが無いという事はそれだけ隠密活動に徹底していたのかそれとも他の理由か。
 オーファクトという常識の外にある道具が存在する世界においては当たり前の推測と、当たり前ではない推測、二つの視点から物事を分析する必要があるが両方を知る人間にとってはこれが悩ましい。
 考えすぎても思考の落とし穴に陥るかもしれないからだ。
 オーファクトによる仕業だと断定することも、単に巧みな技巧で為したともどちらもあり得るだけに思い込みが活動の範囲を狭めてしまう恐れは大いにあるのである。

「それで軍は小隊クラスを動かしたわけですか」
「……話だけ聞けば腕の立つ夜盗の集団という可能性も無くはない。頭数で劣るような愚は冒したくないという事だろう」

 仮に予想より上回る規模であっても人の数がいれば増援を呼びつつも村を防衛するなど対策の幅が広がる。詳細が未だ判明しないからこそ軍上層部は迅速な決断を下したという事だ。

「というか、そんな時期に村に入り込んで大丈夫かねぇ? オレらが疑われたりしねぇかな?」
「心配せずとも村はあくまで通過点、という体で通しますよ。近隣の情報だけもらったらすぐに出発して遺跡近くに陣取るつもりでしたから。だから野営用の道具も積み込んだんじゃないですか」
「最初から村を拠点にするつもりはなかったよ。エモンド達には周辺の魔物を狩っている……振りをしながら俺達が逃げるための足の確保を頼みたかったんだ」

 軍が駐留しているであろう村にわざわざ二人を待機させる意味などない。下手をすれば監視さえされる可能性もある。場合によっては二人の手を借りる事もあるだろうが、アルセスは最初からあくまでエモンド達には緊急時におけるバックアップを求めたのだ。

「……偽装用の道具も逃走用の装備も用意してある。アルセス、ティエル、深入りはするなよ。危ないと思ったのならば……素直に手を引いておくことだ」
「場所が場所だからな。俺も無茶はしないさ」
「何があってもアルセスとわたしの身は守りますので心配はいりませんよ、ジーゼン」

 さらっと言ったつもりのティエナだったが、その言葉を聞いてアルセスが彼女の手にそっと触れるとあっという間に顔が紅潮した。つくづく不意打ちに弱い娘である。
 その変化をルームミラー越しに素早く察知したエモンドだったが、何かを口にする前にアルセスの雰囲気が変化したことに気づいて言葉を飲み込んだ。

「……ジーゼン。鳥型の魔物らしき影がなんかずっと付いて来てる」
「……エモンド、すまんが確認を頼む」
「おうよ、任せな」

 ハンドルを回して窓を開けて身を乗り出すとエモンドは箱乗りのような姿勢になって外を見上げた。
 つかず離れずの距離を保ちつつこちらの進行方向と同じ方角に向かって飛翔する影が晴れた空をバックに飛んでいる。
 ただの自然界に存在するような野鳥であれば問題はなかったが、猛禽類が持つ鋭い嘴と発達しすぎた足についている鋭い爪のシルエットをエモンドは見逃さなかった。するりと身を車に隠すと、少々顔をしかめてこう言った。

「チッ、ありゃあ多分グランデンバードだ。ハゲタカみてーなアイツらの斥候に見つかるたぁ、オレらも運がねえ。気づかないで街にでも入ったらあっという間に囲まれちまうぞ」
「特殊な鳴き声で仲間を呼ぶんだっけ」

 アルセスがおぼろげな知識から尋ねるとエモンドは肯定した。

「ああ、放っておくとあっという間にかなりの数が集まってくる。幸い早めに気づけたお陰で戦う場所には困らん。あいつ等が隠れる場所もねえしこの平原辺りで仕留めておきたいところだな。にしてもアルセス、よく気が付いたな?」

 走行中の車の後方からついてくる鳥の姿などそうそう気づけるものではない。実際話に夢中だったエモンドや運転中のジーゼンも接近には気づけなかった。というか気づける方がおかしいのだ。

「ウェバルテインを使ってると感覚が鋭敏になるのか視線を感じると何か違和感みたいなのが背中を走ることが多くてね。それで空の方にも注意がいっただけさ」
「ほーん、そんなもんかねえ」
「……後はまあ、ミーシャに付きまとわれてた頃に培った勘、かな」

 日替わり単位で挨拶をされていた頃にはウンザリして彼女の視線には敏感になっていた。何しろ下手に相手をすると隣のお姫様の機嫌が悪くなるので猶更だ。それを聞いてエモンドはさもありなんとばかりに納得した。

「……ちょうど周辺に人影もない。この辺で車を止めて迎え撃つか」
「そうだな。仲間を呼ばれてもどこから来るか丸わかりだし」

 アルセスが身構えティエナも仕方ないとばかりに意識を切り替えた。
 ジーゼンがゆっくりブレーキを踏んで車を止めると同時に全員が素早く飛びだす。
 まず先制攻撃は一番身軽だったアルセスだ。目標を捉えていたこともあり左手のクロスボウ――バルンティアで空を飛翔する魔鳥目掛けてクロスボウにあるまじきボルトの連射をお見舞いする。
 ありえない発射音と共に撃ち出され続けるボルト。回避されることを前提とした魔鳥の動きを封じ込めるように散発させた射撃だったのだが、その弾幕のわずかな隙を縫うようにグランデンバードは身を翻す。
 大きく広げた翼にも関わらず小回りの利いた回避運動だ。こうして人間などに地上から狙われるのも初めてではないことを思わせる俊敏性。積極的に人間を襲う魔鳥だけありその動きには慣れを感じさせた。

「逃がしませんよ!」

 さらに追い打ちをかけるようにティエナが小型の黒い槍状のエネルギーを飛ばす。その様はまるで黒い投げ槍が撃ち出されたかのようだったが、それすらも魔鳥は掻い潜る。まるでこの手の攻撃に慣れているかのような洗練された回避運動だった。 

「反応が早い……!」
「伊達に人間からかって遊んでないという事ですか! その翼叩き折りますよ!」

 意気込んでティエナが次弾を用意し始めたその時だ。
 どこからか耳障りな鳴き声が聞こえてきたかと空を見上げると、既に周囲のあちこちからグランデンバードが集まりだしているではないか。

「いつの間に増援を呼ばれた……?」

 アルセスは驚いたように空を見渡した。自分達の真上を巡回するように飛び回るグランデンバードの数は既に二十を超えている。まだこの程度の数ならば別段脅威とは思えないが、仲間を呼ぶ予備動作を一切感じなかったことをアルセスは怪訝に思う。その疑問に答えたのは飛び出してきたジーゼンだった。

「……グランデンバードの仲間を呼ぶ音は人間の耳じゃ聞き取りづらい。車が止まった時点でこちらの動きを察していたのかもしれんな」

 ジーゼンがそう言いつつ取り出したのは長銃身の散弾銃。
 リーテントL380モデル。
 ポンプアクション式の散弾銃でピストルグリップによる扱いやすさと各種パーツのカスタムが容易というのが特徴。
 使用者の好みに合わせて改造の幅が広い事で有名な銃器メーカーであるリーテント社の代表的モデルのショットガンである。
 鳥類のような素早い魔物を狙う際に命中範囲の広い散弾銃は効果的だ。だが、一方で距離による弾薬のばらけ度合いによって威力の減衰が激しく、散弾一発当たりの威力が低い銃では当てても高い効果は望めない。

 しかし、それを補うのが銃士である。
 優れた達人が扱えば木剣はおろか刃こぼれした古い剣ですら優れた得物となるように。
 銃の長所を伸ばし、短所を心気で補うのが優れた銃士の実力である。

「……この位置だ」

 心気を纏わせ光弾の散弾と化した一撃は――ただの一発の散弾ですらライフルの弾丸に匹敵する威力となる。
 尾を引いて散らばった散弾はまるで閃光の如く魔鳥へと向かっていった。

「キュオオオ!?」
「クエエエエエ!?」
「キュアアアア!!」

 破砕音のような銃声と共に放たれた光を纏った散弾はただの一発でグランデンバードの身体をやすやすと貫き、さらにはその体の一部すら破砕した。悲鳴を上げて四羽の魔鳥が地上へ向けて急降下していく。
 鳥類にとってはバランスとは何より大事。ただの負傷であってもそれは翼から力を奪い、力を奪われた鳥は大地を引く力に抗えず堕とされるが定め。

「そうら、よっと!」

 そして地を蹴り再び空へと舞うのは許されない。
 待ち構えていたエモンドが抜き放った刃は人間の子供以上にすら大きい猛禽の魔鳥から翼を奪い、足を奪い、そして命すらも同時に刈り取っていく。
 グランデンバードは最初から間違えていたのだ。彼らは狩られる者ではない。狩る者だ。

「……アルセス、ティエル。堕とすのは俺がやろう。お前たちはエモンドと同じようにトドメを頼む」
「任せた。飛ぶ鳥を落とすなんて慣れない事、いきなりやるもんじゃないな」
「……動いている的を狙うのと空を飛ぶ相手を狙うのはまた感覚が違うからな。こればかりは繰り返しで要領を掴む他はない。精進するのだな」

 そして再びジーゼンは空に向けてショットガンの引き金を引く。
 今度落ちたのは五羽ほどだった。その腕前にアルセスは今更ながらに感嘆するほかはなかったのである。
ベテランの強さはやはり渋みがないといかんですな。

これで今年最後の更新になります。
皆さま良いお年を。

※ 次回の更新は1月2日になります。

+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ