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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第77話 王立図書館にて

 アルデステン王国王立図書館。
 国内において発刊された大衆書物から貴重な文献に至るまであらゆる書物を集め蔵書を日々蓄えているアルデステン王国の知識の泉。
 王城のある中央区に程近いほぼ全ての街区からバスの通る地域に建てられた歴史ある趣の本館から見て西と東にはそれぞれ第一分館、第二分館と溢れた蔵書を用途と種類別に分けた分館が存在している。
 活版印刷が浸透し印刷機を始めとした製本技術の向上に伴い一般向けの書物から専門書に至るまで昔に比べると人が文字に触れる機会は飛躍的に増えているのはどこの国でも一緒だ。
 かつては治めるべき民に知恵を与えすぎるのは己の立場を危うくするとの見方から国民への教育を制限する国家もあったが、王権の強さが失われつつある昨今においては国民の学力向上そのものが国力の増強に繋がっているとの見解が支配的なこともあり、重要書物を除いた蔵書の閲覧には制限はかかっていない。

 ただ管理上の問題から貸し出しには特別な許可が必要だ。しかも王国民ではない者にはきちんと入国許可証を取った者であっても許可が下りることはないくらいに厳格だ。まあ、持ち逃げの危険性を考えれば極めて当たり前の制度である。

 受付で入館許可を得たアルセスとティエナは二人で連れ立って渡り廊下を通って第二分館へと向かう。一般で閲覧可能な歴史書などの類はこちらの方に収められていると案内されたからだ。
 ジャンルのみで当てになりそうな本まで尋ねなかったのは用心の為である。
 遺跡侵入の際に捕まることまでは考えていないが侵入そのものが問題となった場合、遺跡そのものを調べようとしていた人間がいた、という痕跡を残すのは発覚の恐れがあると考えたためだ。確実に事情聴取まではされるだろう。個人的な目的が大半を占めるミッションで一家やギルドに迷惑をかけるのはアルセスの本意ではなかった。
 歴史のある本館とは違い近代の建築様式で建てられた分館に収められた本棚と本棚の間に作られた道を歩き、二人は目的の本を探す。アルセスでも見上げねばならぬほど高い本棚ということもあってか、近くには移動用のキャスターのついた脚立も置いてある。

「うへえ……歴史書を探すだけなのに随分とまあ本がありますね」
「そりゃ単なる記録の類から、一つの事象を事細かに分析した本まで中身は様々だろうからな」

 王国に貢献した偉人の話などもこちらのジャンルに含まれているらしく、閲覧制限のない本だけを集めたということもあり、中には冗談のような切り口で書かれている面白本まで収められており本好きならずとも目を引くタイトルの物もいくつか見受けられた。
 時間があれば手に取ってみたい本もいくつか見つかったアルセスだったが今日は長居をするつもりはない。王家の歴史に関する本棚に絞って中身やタイトルを確認していくとさほど苦労せずとも目当ての本は見つかった。

「王家の変遷についての分析をまとめた本か……著者の個人的な意見も入ってるみたいだが概要を知る分には十分か?」
「アルセスは一先ずその本を読んでいてください。わたしは他にめぼしい本がないか探してきます」
「分かった。俺はあっちの閲覧コーナーにいるから」

 部屋の一角、本が傷まないように小さめの窓ではあるが比較的明るく本が読みやすいようにと設置された木製のテーブルと椅子が並べられている場所を指してアルセスはティエナと別行動をとる。
 広げた本のタイトルは何の変哲もない「王国の歴史」というタイトルだ。いくらなんでももうちょっと捻ればいいとアルセスは思うが、下手なタイトルをつけて検閲の目が厳しくなることを嫌ったのかもしれないと思いながら丁寧にページをめくってみる。
 内容は比較的王国の歴史を調べられる範囲でまとめた物らしく、あまり穿った見解や憶測交じりの推論の類を集めた本ではなかった。誰でも知っている歴史的事実を並べた上で王国の発展と変化を客観的に年表と共に記しており非常に分かりやすい。

(……あった。王家の儀式と遺跡について)

 そのお陰でアルセスも簡単に目的の情報を見つけることが出来た。一回で当たりが引けるとは運がいいとページをめくる手も早い。
 遺跡の位置からその由来についてまで結構詳しく書かれており、王家にとってその遺跡の重要性についても理由が述べられている。

(……建国王に当たる初代が発見した遺跡でなおかつ今は代々の王が埋葬されているカタコンベの性質も持っている、と。なるほど……どちらかというと歴史的観点からの扱いだったわけか)

 墓所であることは王国では周知の事実らしく、このご時世もあって不届きな墓荒らしやモラルのない冒険者達の侵入を防ぐ意味でも常に一定の兵力を警備として回してもいるようで歴代の王家もこの地を軽んじたことはないという形でまとめられていた。

(……単なる古い遺跡というだけならよかったんだが、未調査の領域があるということは前史絡みの遺跡でもあるんだろうが……流石に遺跡の詳細には触れてないか)

 ただ王の任命式には一部の賓客を招待するなど儀式場としての場所は入ってすぐの場所に整えられているからか、利用されている場所についての管理はきちんとされているらしい。カメラが浸透してからの歴史について触れる際には内部の写真がセピア色で掲載されているが、後から手を加えられた個所はともかく、壁の模様や一部のオブジェクトからアルセスは自身の推測が正しいことを確信した。

「アルセス、お待たせしました」

 そこへティエナが数冊の本を抱えて戻ってきた。丁度いいタイミングだとばかりにアルセスは振り返る。

「ある程度の事は大体俺達の予想通りだった。それでティエナはどんな本を見つけてきたんだ?」
「国内の遺跡について調べた考古学者の本などを。歴史についてはアルセスが持っていった本で十分そうでしたので」
「相変わらず察しがいいな。本当頼りになる相棒だよ」
「ふふん、そうでしょうとも。公私に渡ってアルセスを支えるいい女を目指してますから。今でも十分ですけど、上を目指すことは悪いことではありませんからね」

 素直に頼られて嬉しいのだろう。ティエナは毎度のことながら発言とは裏腹に表情に隠しきれない喜びを浮かべながらアルセスの隣に座った。

「俺はこっちの本で今度は遺跡の詳細について探ってみる。ただ……歴史的な意味で重要視しているようだから、一般開放している部分以上の情報は出てこないと思う。ティエナも別の本を調べてもらってもいいか?」
「ええ、もう答えは出てるっぽいですけど折角持ってきましたからね」

 そうして二人でしばし本を読んで多角的に情報をまとめた物の推論がほぼ間違っていないという以上の情報は得られなかった。
 けれども王国における遺跡の位置づけや用途が判明したことは大きい。
 二人はここで共通の認識を得た。

 この調査――穏便に進めない事には大問題になりかねないと。


 ★


「正直調べられそうなのがわたし達だけだからお鉢を回された感じがヒシヒシとしますよね。王国の管理下に置かれる前にどうにかできなかったんでしょうか」
「俺達が生まれる前からも極力表に出ないように立ち回ってきたらしいからなあ……ラークオウルも大変って事なんだろうさ」

 図書館からの帰り道、バスに乗って二番街ストリートまで戻ってくるとティエナはアルセスと腕を組みながらそのようなことをつぶやいた。普段よりもやや密着するように腕を組んでいるのは図書館では大人しくしていた反動だ。甘えたがりのくせに理由を探す悪癖のあるティエナにとって、むしろ我慢しなければならない状況にあった図書館というのは格好の口実なのである。

 そんなものが無くとも近づきたくなったら勝手に近づいているのだが。

「ですが、今回に関しては鉱山の時とは次元が違います。何せ迷っちゃいました、テヘ♪ な言い訳が一切通用しません。踏み込んだが最後、問答無用で不法侵入どころか下手すると国家に対する不敬罪が成立しかねない王国の管理地ですからね」
「まずは入口の見張りを掻い潜り、中の防衛設備の無力化、その上で王家がまだ把握してない領域への突入……普通ならそんなのまずお断り、という難度ではあるが……」

 崩壊期以前の技術に明るいティエナに、規格外のオーファクトであるウェバルテイン。
 ワンダラーの中でも飛び抜けた能力を持つアルセスなら不可能と断言するのは早計である。少なくとも挑むだけの能力はあるのだ。見返りがあるかどうかその一点が不明なのがもっとも怖いところであろう。

「これだけ苦労が予想される難所……もしも空振りで終わったらわたしはラークオウル本部に殴り込みをかけてしまいそうです」
「おい、ティエナ。何か黒いオーラ漏れてんぞ」
「その時はアルセスも一緒ですからね。死地に赴く時は二人一緒ですから」
「死地っていうくらい理不尽だと思ってるならやめような?」

 ティエナならば割と本気でやりかねない。今後の色々なためにもアルセスは引きつった笑いを浮かべながらも何とかティエナを宥めた。本当に喜怒哀楽の激しい相方である、とこんなやり取りさえ楽しみながら。
 時間が夕方に近いという事もあってか仕事を終えて食事を目当てにこの辺を歩いている者も多いようだった。今日はどの店で食事をとろうか、そんな期待を抱きながら歩く者もいる中に聞ける他愛もない雑談。
 だが、とある一言がアルセスの注意を引き付けた。

「北のアレサニカ村の方で事件があったらしいな」
「ああ、ウチも仕入れの業者さんから聞いたよ。一家揃って皆殺し、家から畑まで焼き払われてたって?」
「そうらしい。しかも村の人達が異常に気づくまでのほんの数十分の間の事だったらしいぞ」
「酷ぇ話だ。なんだぁ、賊の集団でも潜んでやがるのか?」
「さてな、軍もそれを懸念してか一小隊が動いてるらしいが最近は何かと物騒だからなあ……」

 男たちは足を止めたアルセスのことなど気にせずに話を続けながら去っていった。
 彼の顔がこわばった事さえ気づかずに。

「……アルセス? どうかしましたか?」
「今の話がちょっと気になってな」

 ティエナが不安げに自分を見上げていたので落ち着かせるように頭を撫でた。
 これで彼女は傍若無人に振るまいつつもアルセスの機嫌を損ねる事は非常に恐れる。急に自分が足を止めたので不安になったことを悟ったアルセスはティエナを落ち着かせるように微笑みつつも緊張に満ちた声で呟いた。

「例の王家の遺跡から一番近い村だ。さっきの話に出てきたアレサニカ村は」
「……関係、ありますか? 地理的にはそれなりに近いですけど遺跡とは何も関係ないんですよね」
「ああ、単に王国内にいくつかある農村の一つだ。別に寒村って程寂れているわけでもないし、今の人達の話題に上がるくらい王都との繋がりだってある」

 村の中心に街道が走っているので野菜などの仕入れに訪れる業者がいてもおかしくない立地であったはずだとアルセスは下調べをした時の情報を思い出す。農村としての規模はそこそこ大きく、当然人の出入りも交通の利便性もある。装甲バスを使えば半日ほどで到着できるくらいの絶妙な距離というのもあるだろう。
 だが、そんな牧歌的な村には相応しくない血生臭い事件。かつての自分に起こった境遇を思い出すからか、アルセスは嫌な予感を感じざるを得なかったのだ。

「……俺達だけで動くべきかと考えていたけど気が変わった。エモンドとジーゼンにバックアップを頼もう。どうも嫌な予感が拭えない」
「……ジーゼンはともかくあの種馬に借りは作りたくありませんが、アルセスの身の安全が第一です。ここはわたしも我慢するとしましょう」
「本当エモンドの事嫌いなのな……」

 困った娘だ、とアルセスは何とも言えない表情で笑ったがなぜかより強く腕に抱きつくティエナにどうかしたのだろうかと首をかしげると。

「だってアルセスを守るのも力になるのもわたしが一番でないと嫌ですもん。オーファクトとしての姫のプライドに関わります。なので、アルセス? 不安ならわたしをもっと頼っていいんですからね?」

 そんなアルセスの様子の変化を悟ったのだろう。やや強がったように言うティエナのこの発言も行動も、表情が曇った自分の為であったのだとアルセスは理解する。

「――いつだって頼りにしてるさ。最愛の彼女を頼らないはずがないだろう?」

 その気持ちに偽りはない。不安に曇りかけた心はそんな少女の笑顔があっという間に晴らしてくれた。

砂糖が品切れになることはない。

※ 次回の更新は12月31日です。
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