挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

77/88

第76話 小さく、けれどもその先にある僅かな光

 しばしの沈黙であったがその空気を破ったのはリーンだった。

「でもさー、アルセス。ティエルの作られた時期を正しく知るのってなんか意味あんの? 今まで通り過去の記録を調べなきゃならないって事とは関係ない気がするんだけど」
「いや、あるぞ。少なくとも調べる時期の絞り込みが出来る。範囲が狭まるってことは、それだけより深く資料を調査する時間が取れるってことだ」
「同時に関係のない資料や情報を調べるロスも減りますね。少なくともわたしの作成時期が崩壊期の直前だとするなら、少なくとも黎明期の頃の開発記録や設計図なんかは参考になりませんし」
「あ、なるほどー」

 そして断言こそしなかったがアルセスは崩壊期のそれも意味ありげな資料ほどウェバルテインの真実に近づけるのではないかとすらまで当たりをつけていた。
 砂漠に落ちた一つの宝石を探すような当てのない調査であるが、その範囲が狭まった事、調べる対象が絞られたことはアルセスにとっては希望の光に等しい。

「一応ラークオウルからは関連性のありそうなオーファクトや当時の事件とかの資料の一部なんかも送られてきてる。そっちの方もおいおい調べていくつもりだ」
「はー……なんというか、随分と大盤振る舞いですね。そういうのって普通門外不出になったりしません?」

 ティエナもここまでラークオウルが丁寧に対応してくれるとは予想していなかったようだ。

「そこら辺は俺が今もウェバルテインの所持者だってことが大きいんだとさ。未だ謎だらけのウェバルテインを少しでも解明していくんならそれはギルドの益にもなるから」
「謎だらけっつーか不思議オーファクトに近いよね。何で短剣から女の子が出てきたんだか」
「リーン、人をびっくり箱か何かのように言うのはやめてください」

 実に心外です、と頬を膨らませて抗議するティエナをリーンはケタケタと笑いながら手を振って誤魔化す。
 アルセスもこれ以上は深刻な話をする雰囲気でもないと思ったのか、別の話題を振ってみた。

「そういえばティエナ。また近々時間を作ってほしいんだが構わないか?」
「ふふーん、デートですか? お仕事ですか? アルセスの頼みとあってはどんな願いでも聞いちゃうわたしですけど、そこはほらわたしのご機嫌が出るような頼み方をぜひぜひ~」
「ラークオウルから調査の提案が出された遺跡があるんだ。それもこの大陸の」

 アルセスは資料の一枚を広げてティエナに渡した。リーンも彼女の背後から覗き込むようにして見たその資料にはいくつかの検証と理由など根拠となる情報を連ねた上で、この場所の遺跡が怪しい、という旨が記された内容になっていた。

「ゼルダンタから随分北に行きますね……これは森の中ですか?」
「アルデステン王国管轄下にある遺跡で通称『王命の遺跡』だとさ」
「何その御大層な名前。ちょっともったいぶりすぎじゃないのーアルセスー」
「リーンも聞いたら驚くぞ? 何せ代々の王家が王位継承時の儀式を執り行う由緒正しき遺跡だとさ」

 その一言にリーンとティエナもしばし固まった。
 アルセスの言葉の意味するところを瞬時に理解したためだ。
 王家が代々儀式を執り行ういわば聖域と言っても過言ではない遺跡。そこの調査など簡単に許可など下りるはずもない。そもそも検討に値するかどうかすら怪しい。
 にも関わらずそのような場所を調査対象として勧めている。ならば方法は一つしかない。

「この間の遺跡の未調査地域に続いてまた不法侵入による調査ですか……ラークオウルって本当手段に頓着しませんよね……」

 さしものティエナもこの提案にはやや呆れていた。しかも前の鉱山とは違い厳重に管理されているであろう王国の重要施設である。万が一バレたら迷い込んだでは済まない。アルセスの身の事を考えると素直に行きましょうと頷けないティエナであった。
 そんなティエナの様子を見てアルセスは安心させるように微笑んだ。

「ま、ヤバい橋を渡るなんてのは今更だ。それに何もとりあえず無策で忍び込もうとも考えてない。遺跡の警備の度合い、中の情報、周辺の様子、その辺の調査も含めてから立ち回りを検討するつもりだからさ」
「いえ、どんな場所だろうと忍び込むのが前提で話されてもわたしとしては安心できないんですが」

 手に負えない程の場所であったら退くというくらいの安全な発言が欲しかったティエナとしては、及び腰どころか慎重とはいえやる気の溢れているアルセスがむしろ心配になったほどだ。

「資料によれば明らかに調べられなくて放置されている未調査と思しき空間が存在しているらしいんだ。アルデステン王家が何故その遺跡を神聖視しているのかも含めて何か手掛かりがありそうでワクワクするだろ?」
「う……た、確かに何もないとは思いませんけど、ですけど確証もないのにリスクが高すぎるというのはその……」

 言葉に詰まったティエナだったが、何もアルセスの勢いに気圧されての事ではない。
 目を輝かせて語るアルセスの眼差しに見惚れたからだ。ティエナの背後でリーンがあーあ、と言わんばかりに肩をすくませる。

「仮にどんな場所だろうと俺達二人なら切り抜けられるさ。だから僅かでも手掛かりがあるかもしれないって思ったら止まれないんだ。頼む、ティエナ。お前の力を俺に貸してくれ」
「……ふう、アルセスは本当にズルいんですから。そんなに真剣に頼まれたら断れないじゃないですか。仕方ないですねー、もう。本当はこんな危ない場所からは出来れば手を引いてほしいですけど、ご主人様(マスター)の願いを無下にするのも高貴なるオーファクトの守護者、ひいては姫としての名折れ」

 前置き長いなあ、とリーンがアルセスに目線で訴えたがアルセスは気づかないふりをした。
 ここでティエナのご機嫌を損ねては話が進まない。
 コホン、と小さな咳ばらいを一つすると、ティエナはまっすぐにアルセスを見上げてこう言った。

「貴方の望みのままに。わたしの願いはそれだけですから」
「なら、俺はそれに応えられるように頑張るよ。ウェバルテインに恥ずかしくないワンダラーであるためにな」

 結局のところ、この二人の前に進もうとする意志を止められるものはないのだ。
 それが例え国や世界であっても、彼らは最後まで前を向いて進むだろう。
 その険しい道の果てにしか、願ったものの答えはないと知っているのだから。

「……とはいえ、流石に今回の計画は無策で行くには無謀すぎます。まずはとにかく情報が欲しいですね。そもそもこの王命の遺跡、でしたっけ。何で王家はそんなにこの場所をそんな重要視してるのやら。ただ王位継承するなら別にあのご立派なお城のバルコニーとか謁見の間とかそれっぽい場所がいくらでもあるじゃないですか」

 すっぱり頭を切り替えたティエナは当然の疑問を口にした。
 アルセス達が遭遇したように遺跡とは宝と危険とが隣り合わせの場所である。しかも王都からは少々遠い。森の中という立地から小型の飛行艇であっても空から向かうのはほぼ不可能とあっては、陸路を使うしかないだろう。王家ともなればご用達の頑丈な送迎車に警護車もつくなど万全の護衛体制を敷くだろうが、それにしたって危険がゼロにはなりえない。
 アルセスは資料に目を通すがやんわりと首を振る。

「その辺の由来だとか理由とかまでは書いてないな。まあ、ラークオウルからすれば『どういう遺跡』であったかが重要であって、今その場がどう使われているかまでは問題じゃないんだろう」
「逆にわかってる範囲では危険はないってことじゃないの? なんかヤバげだったらこっそり干渉してたりするじゃん」

 リーンの発言をアルセスは頷いて肯定した。積極的に表には出ないが、放置しておくには危うい案件には陰ながら関わってきたのがラークオウルのスタンスだ。それを踏まえるのならば、現在判明している範囲には危険も重要なものもないのだと判断する材料にはなる。

「逆に言えば何らかの理由で未着手の場所は黒か白かは分からないって事だからな」
「調べてみたらって提案が来てるってことは政治的理由で放置してたわけではないんでしょうしね」

 ラークオウルが世の中に関せずのスタンスとはいえ後々にトラブルになりかねない提案を推奨したりはしない。
 アルセスとティエナに対して提案したという事はある意味でお墨付きだ。

 お前たちならば問題なく調べることが可能だ、という意味での。

「折よく情報が手に入ればギルドとしても有益だっていう理由もあるだろうから調べるのは確定だが、まずは何はともあれ遺跡そのものの情報だな……」
「とりあえず図書館に行ってみたら? 王族が儀式してるってくらいの遺跡だもん。当たり障りのない情報や由来とかくらいは分かるんじゃないの?」

 リーンの提案は理にかなっている。まっとうに調べられる範囲で分かる情報を集めることは可能だろう。何も王城に忍び込むなどといった危ない橋を渡る必要はないのだ。

「それで遺跡の種類が分かれば用意する道具の類も絞り込めますしね」
「本当に古いだけの場所かそれとも――前史の旧跡かどうかで対処も変わってくるしな」

 鉱山で見つかった訓練地跡のような遺跡が残っていた大陸なので、むしろそちらの方が可能性が高いとアルセスは見ている。調べられないのもその先に進む手段が見つからないうえに、物理的に破壊することも不可能な壁なり扉なりあるのだとしたら、ラークオウルが自分達にその未踏破の領域に踏み込めることを期待している節もあるのかもしれないと。

「……結構長丁場の仕事になるかもしれないな。親父には一応しばらく王都を離れる許可をもらっておくか」
「えー? 別にいいじゃないですか、面倒くさい。ちょっと遠出のデートみたいなものですよ」
「いやいや、ティエル。そんなキャッキャウフフな話じゃないでしょ。もしかしたら超難度級のトンデモ遺跡かもしれないじゃん」
「どんな難所であろうとわたしとアルセスなら踏破できますよ。デート気分で」
「間髪入れずに言い切った!? あ、でもちょっと照れてるー」
「照れてません」

 それだけ顔を赤くしてそれはねーよ、とリーンはティエナの頬を突っついてからかうがアルセスも同意見だった。そんな反応をするくらいなら控えめな発言にしておけばいいものをと思うのだが、きっと意識せずに言葉の方が先に出てしまったのだろう。

(まあ絶対の信頼を寄せられてるのは嬉しいけど)

 とはいえ組織の一員である以上、ルールはルール。
 ティエナの言う通り、遺跡の場所へはまず王都から一番近い町でも駅三つ分。加えてそこから道があるとはいえ、そこそこの距離を走ることになる。街で馬か車を調達するか、それとも歩いていくかの選択も踏まえると、少々どころではない間アジトを空けることになるのは間違いなかった。
 定時連絡が必要だったり、確認しておく手続きはいくつかある。プロとしてその辺のことをなおざりにするつもりはアルセスにはなかった。

「リーン、親父は今日は仕事で出てたよな?」
「うん、珍しく働きに出かけた。でも、明日には戻ってくるって言ってたよ」
「なら準備の方を先に進めておくか。反対はされないだろうが、別の仕事を持ってこられてたら出発する時期をずらさないといけないし」
「だからー、アルセスは真面目すぎですってばー。あのそろそろ生え際の怪しい中年オヤジの用事なんてほったらかして、わたし達の未来の為に邁進しましょうよー」
「ティエナ、一家の一員としてあまり我儘を通しすぎるのもダメだろう? 他のメンバーに示しがつかない」

 アルセスは至極真面目に答えたが、リーンもティエナも反応が冴えない。

「ウチのメンバーでそういうの気にする人いるかなあ? アルセスが気使いすぎなんじゃないの? アタシかお姉ちゃんに言づけて出かけても誰も文句言わないと思うよ。あー、あいつらね。またどっかでイチャイチャしながら何かするんだろって片づけると思う」
「ま、待ってください! 今回の件だって調査の一環ですよ!? どっかで人知れずサボってイチャついてるかのように言われるのは心外です! 名誉棄損ですよ!」
「それはもうウチの様式美みたいなもんだから諦めなってティエル。ダンセイル一家で今一番ホットなカップル! 三年連続バカップル部門一位! の二人だからしょーがないって」
「なんですかその悪意しかないランキングは!? 訂正! 訂正を求めます!」

 ソファの上で何故か取っ組み合いが始まったが、アルセスの目には姉妹がじゃれ合っているようにしか見えなかったので放置しておく。

(王命の遺跡、か。単に建国由来の地だとか、そういう歴史的な意味での重要な場所というのならば問題はないんだが……)

 やるしかない、とは言ったが、それでも国家機密に触れることになるかもしれないと思うと、僅かな手の震えは収まらないアルセス。
 それが恐怖からかそれとも未知の地への好奇心故か。
 今のアルセスにはどちらなのかの答えは見つからないのであった。
なお万年三位には団長夫婦が入る模様。
二位はモブカップルなので名前すらありません(酷

※ 次回の更新は12月29日です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ