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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第72話 精算は冷静に

 三階という高さなどどうという事はない。
 そう示すかのように華麗に着地を決めたアルセスとティエナは素早く物陰に身を躍らせる。
 入口の周辺には既に人影が見えていたからだ。夜の闇でも分かるほどの独特の空気を纏った集団。状況からそれがどの勢力に属するか即座に判断したからこその行動だった。

「爆発音が聞こえました! 煙も上がっています隊長!」
「これ以上様子見は不要か。全員突撃開始! 内部にいる者を制圧し武装していた場合は解除した後、拘束! 速やかにビルを掌握する!」
「逃亡及び抵抗した場合は?」
「薙ぎ払え。これは国家の威信にも関わる一戦である!」
「「「「イエッサー!!」」」」

 統率された一つの命令の元に集う屈強な兵。
 ゼルマの情報にあった王国軍の一部隊が治安維持の名目の元、ついに動き出したのだ。
 もともと断片的な情報からデクトマンド商会に目をつけていた軍部にとってこの騒動は渡りに船。武装集団であるという事も承知していたのだろう集まっている兵の錬度は非常に高く、気配を消して様子をうかがうアルセスも正面切ってはやり合いたくないと考えるほどの実力者たちであった。
 怒声を上げてビル正面から突入する部隊と、裏手と別口を封鎖すべく動く部隊に分かれ見る見る間にビルの周囲は騒がしくなる。同時に包囲網の完成も早かった。逃げ出すタイミングを誤ったのならば脱出は非常に困難であっただろうと、アルセスは息を殺す。

「……このまま静かに逃げるとするか」
「ええ、長居は無用です」

 一筋縄ではいかないであろうアルデステン王国の武力の一端を背に、アルセスとティエナはビルから遠く離れるまで集中を切らすことなく隠密行動のままその場を去った。
 やがてその喧噪も耳に届かぬほどに離れた静かな商業区の裏通り。

「よっ、お疲れ~」
「お疲れさん、ゼルマ。そっちも無事に逃げられたか」
「うん~ミーシャもロザリンドも予定の場所で待ってるって~」

 通信用の器材を背に背負い、相変わらずぶかぶかの服で袖を余らせながらも動きは俊敏というゼルマの後に続き、二人はそのまま裏通りを抜けて大通りに繋がる道路に停車してある小型のトラックへと辿り着く。
 どちらも仮のアジトへ案内するわけにはいかない事情があるので、密談にはこうした密閉できる積載用のコンテナが搭載できるトラックがよく使われるのだ。
 後部の扉を開くと、カンテラを天井から吊り下げただけの簡素なコンテナ内にミーシャとロザリンドは布の上に戦利品をずらりと広げて待っていた。
 灯りが少ないからこそわずかな光によって照らし出される宝石の数々は目を引き付ける魅力的な光を放っている。モースは商売の腕は二流だが目利きは確かであったという事だろう。
 アルセス達が入ってきた事に気づいたミーシャは慌てたように手招きし、

「ほら、早く早く! アンタ達のも合わせてさっさと鑑定しましょ!」
「落ち着けミーシャ。すまないな二人とも、久しぶりに手ごたえがあったものだからこの娘は少々興奮気味なんだ」

 ややくたびれた表情でロザリンドがそう付け足した。一歩間違えばデクトマンド商会の連中もろともお縄だった可能性すらあったのだ。疲れもするだろうとアルセスは同意するように頷いた。

「ゼルマ、見張りと警戒は任せたぞ」
「ほ~い分かった~。場合によっては車動かすけど大丈夫~?」
「構わん。だが、お前たちも尾行はされていないのだろう? であれば問題は起こるまいよ」
「了解~」

 大仕事を終えた後も普段と変わりないどこか気の抜けたような声を発しながらゼルマは運転席の方へと向かっていった。
 ガチャン、と音を立てて後部の扉を閉めて、アルセスとティエナも宝石を囲むようにして座った。

「俺達の三つを除くと、そっちは二十個近くか……本当にもうちょっとで全部回収できたんだな」
「程々でいいと言ったのに、ミーシャが張り切りすぎたおかげで敵を集めすぎてな。特に一人ワンダラーが混じっていたのが痛かった。倒せない相手ではないのだがミーシャを守りながらとなると難しくてな」
「ちょ、ちょっと加減を間違えただけじゃない! まさかあんなに簡単に釣れると思わなかったんだもの!」

 ミーシャが反論するがロザリンドとティエナの視線は冷たい。
 その無言の圧力に負けるようにミーシャはそれ以上反論はしなかったが。
 ただ、アルセスはロザリンドの一言が気になったようで心当たりを尋ねた。

「もしかして、そのワンダラーって片手斧を使う巨漢の男か?」
「ああ、その通りだが……その様子だと一度刃を交えたことが?」
「デクトマンド商会にちょっかいをかけている時に一度ね。確かにアイツが相手ならロザリンドでも簡単に倒せはしないか」
「能力的には単純だったのですぐにタネは割れたが、あの男を倒そうと集中するとミーシャへの援護が疎かになってな……」

 ロザリンドはどちらかと言えば手数で圧倒する剣術を得意とする。
 相手に反撃の隙を与えず連撃で押し切るスタイルに対し、徹底した防御術と鉄壁の障壁を展開できるオーファクトを使う相手は相性が悪いのは事実だ。
 どれ程の強者であろうとも無敵無双とはいかない。戦いの難しさをこの上なく物語るカードであったわけだ。

「結局のところ小娘は手柄と失態でイーブン、いつも通りのおっちょこちょいで台無しにしかけたってことで結論が出ましたね」
「ちょっとティエルライーナ! アタシが捕まったらアンタらだって一銭の得にもならないのに、何でそんな上から見下ろすような目で見てんのよ?」
「何を言いますか。わざわざ見下ろさなくてもこれがわたしのデフォルトの視線ですよ。あなた方人間とはそもそもわたしの立ち位置は違うのです」
「ムキャーッ! この唯我独尊女ー! 何様よ!?」
「アルセスの隣に立つことを許された唯一無二のオーファクトたる姫様ですが何か?」
「その前置き必要!?」

 全く関係のない話題からここまでヒートアップする二人にアルセスは頬を掻いてどうしたものかと思いあぐねる。
 とにかく相手と喧嘩しなければ気が済まないのか、本気で相性が悪すぎるのか、このまま二人で会話をさせるとさっぱり話が進まなさそうなのでアルセスは二人の間に割って入る。

「はいはい、そういういつも通りのじゃれ合いはいいから、とっとと精算を始めよう」
「「誰がこいつなんかと!!」」

 本当はこいつらふとした拍子に息が合うんじゃないの? と思わせるようなユニゾンだったが、それが気まずかったのかティエナとミーシャは揃ってお互いから目を逸らした。そのタイミングすら被っていたものだから、見ていたアルセスとロザリンドからは失笑が漏れたが。

「しかし精算とは言ってもすぐこの場で現金化、とはいかないんだろ?」
「ああ、この場では一先ず物が本物かどうか確かめたかっただけだ。売買についてはこちらに任せてもらえないか、その確認も含めてな」
「怪盗ご用達のバイヤーだろ? こっちの伝手には専門的な品の取引相手はあんまり顔が利かないから、任せることに不満はないさ」
「手間取らせることになって済まないが、出来るだけ高値で売るとなると安易なルートは使いたくなくてな……。普通こういう取引にするとまあ揉めに揉めるのが普通なんだが」
「その場限りの協力って訳でもないし知らない仲でもないからな」
「顔見知りだからと油断すると一杯食わされるかもしれないぞ?」

 挑戦的なロザリンドの笑みには含むものはない。遠回しな忠告の意味を込めた人生の先達としての意見であったのだろうが、アルセスは分かっているとばかりに微笑んで受け流す。

「これでミーシャが俺を騙すようなら俺の見る目もその程度ってことだろ」
「ああ……アルセスからの信頼がアタシの胸を焦がす……」

 ロザリンドに対する返答で何故かミーシャが自分の肩を抱くようにして身もだえていた。率直に言って可愛らしいを通り越して少々見苦しい。事実、身体をくねらせるミーシャを見て若干アルセスも引いていた。
 誰もが触れるのを避けそうな中、遠慮なく突っ込むのはやはりティエナであった。

「何勝手にキュンキュンときめいてやがりますか。単に貴女のしつこさが評価されているだけでしょうに。信頼とは別物ですよ、別物」
「うっさいわね! ちょっとは夢見せてくれてもいいじゃないのよ!」
「はいはい、そこ喧嘩しないようにー」

 迂闊に雑談する暇もくれないのか、とやや疲れながらもアルセスとロザリンドは話し合いを仕切りなおす。

「全部の清算が終わるまではおそらく三日くらいはかかるだろう。もしも急ぎというのであれば、金だけでも先に用意はするが?」
「いや、土壇場で何が起こるか分からない。きっちり金になってから改めて半額もらえれば構わないさ。こっちの方で手に入れた『証拠品』を使っての仕事はこっちで進めておくから、そっちは取引の方に集中してくれ。無論、ミスティタビィとの共同作戦であった事はきちんと報告しておく」
「こちらもお前たちがその辺を疎かにするとは思ってないさ。だが、いつ何処で味方が敵になるか分からん業界だ。最低限の用心だけは怠るんじゃないぞ」
「そいつはしっかり肝に銘じておく」

 自分は大丈夫だ、などとアルセスは根拠のない自信を抱くことも無駄に虚勢を張ったりもしない。
 どれだけ経験を積もうとも所詮この世界ではまだまだひよっこもいいところ。圧倒的に足りない経験を持つ先輩達からの意見に対して無駄に噛みつくようなみっともない真似はしない。
 子どもを脱したばかりの少年の精神とは思えぬ落ち着きは、常に強力なオーファクトの手に頼ってきたからという自己評価から育まれたものだ。
 己の功績は全てティエナと二人で積み重ねたもの。転じて、それは自分一人の物などでは断じてないという己に言い聞かせるための戒めとしても機能していた。
 アルセスとティエナがしっかりと見守る中、宝石一つ一つを傷つかないように丁寧に包んで箱へとしまい、専用の箱にしまい込むまでを見届けた。彼女が誤魔化したりすることは万が一にもないだろうが、お互いの信頼故にの行動であった。

「では確かに預かった。報酬の受け渡しはギルドを通して連絡をする」
「期待していますからね、ロザリンド。多少吹っ掛けてもいいですからがっぽり稼いできてくださいがっぽり」

 前のめりに迫るティエナの迫力に落ち着けと言わんばかりに制しながらもロザリンドは笑いながら答えた。彼女としてもミーシャに振り回され予定通りにいかない仕事の方が多いので、今回のように大成功と言える仕事は久しぶりであったので多少は気分が高揚しているのだろう。

「そう急くなティエルライーナ。こちらとしても苦労の末に手にした久々のお宝だ。妥協などせんから楽しみにしておけ」
「フフフ……その言葉が聞きたかったんですよ。何しろわたしにとってはこの後の報酬の内容を左右する重要な要素ですからね」
「あー……そういう事か」

 今回の仕事を手伝わせる建前としてティエナを釣った餌のことを思い出して、アルセスは苦笑いを浮かべた。報酬がどれだけ上下しようが最善を尽くすつもりであるというのに額によって要求する内容を調整するつもりであろうティエナをいじましいと思いながら。

「む、アタシのセンサーにピクっと来た! ティエルライーナ! アンタ何か不届きなことをを考えてるでしょう!」
「ふ、何を言うのやら。愛する人と過ごす一時を楽しむことの何が不届きだと言うのですか。相手のいない小娘はせいぜい報酬の紙幣と金貨でお風呂でも入ってればいいんですよ」
「相手がいないは余計だーーーーっ!!」
「あーもー、何で口を開くとお前らは衝突しかしないんだよ! ちょっとは大人しくしろ!」

 もう相談も終わったというのだから少しは堪えてくれ、という思いの篭ったアルセスの一言だった。
 口には出さないがロザリンドも全くの同意見。二人の立場を考えれば仕方のないことではあるのだが、それでも限度というものがあるだろうと。
 しかし、この二人だからこそアルセスの一言は効いたのだ。

「はい、ごめんなさいアルセス!」
「どうもすみませんでしたぁ!!」

 揃って頭を下げるティエナとミーシャに迷いはなかった。
 この二人、本当は恋敵なだけではなく本質的なものでは同族嫌悪なのではないだろうか、という疑念をロザリンドに抱かせる清々しいほどの謝罪だったのである。
 
世の中には一緒にしてはいけない相手というのが
往々にして存在するのである。

※ 次回の更新は12月21日です。
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