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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第71話 ミスティタビィのお約束

 あまり聞きたくはなかったが、尋ねないわけにもいくまいとアルセスは覚悟を決めてゼルマへの通信を繋いだ。念のためにミスティタビィのメンバーとの交信は行えるように送受信機はもらっていたのだ。

「あまり聞きたくはないが何があったんだ、ゼルマ」

 一瞬だけノイズが走ったがすぐにクリアな音声で返事があった。

『なんか~囮をやろうと派手に立ち回りすぎて~三階の廊下の真ん中で囲まれてるみたい~』
「調子に乗りすぎたな」
「調子に乗りすぎましたね」
『今日のあたしは絶好調~みたいな声が聞こえたからたぶんあってる~』

 役割を果たそうとしてくれたのはいいが、加減を考えろとアルセスは額に手を当ててうつむいた。もしかすると自分と一緒の作戦というのもミーシャがのぼせ上った原因の一つかもしれないと考えたアルセスのそれを自惚れだと言う者はいないだろう。

 純然たる事実だからだ。ティエナとは違い報われぬ恋に身を焦がすもう一人の少女はやっぱりアルセスとティエナの懸念通り、計画通りにはいかないであろう、という予測を見事に当ててしまったのである。

「わたしの本音としては目的は達したのでこのままとんずらと行きたいんですが」
「それだと報酬はゼロだぞ。これは金には一切ならない」
「尊い犠牲です。時には犠牲に目をつぶらなければいけないときもあるのですよ、アルセス」

 ティエナの場合割と冗談ではなく本気で言っているのが分かるだけに、アルセスはさてどう説得したものか、としばし思案する。
 アルセスの中には彼女らを見捨てる、という発想はなかった。報酬が惜しいというだけではなく、流石にここまで一緒に仕事を進めておいて見捨てるというのも寝覚めが悪い。彼女らの協力があればこそ、目的の一つが達せられたのであり、そこを無視するのはいささか不義理であろう、と。

『それに~まだ大騒ぎにはなってないけど~外からもわかるくらい不穏な空気が伝わってるから~張り込んでた憲兵が人を呼びに行ったっぽい~。上から見てるとそれっぽい人達がなんかチラチラ見えてるの~』
「やっぱり軍も張り込んでたか……」

 そうなると時間が経てば経つほど自分たちの身も危うくなる。それはティエナにとっては格好の理由になってしまうので説得の材料にはなるまい。金も諦める気満々とあってはこの手しかないか、とアルセスはティエナの肩を抱いてまっすぐに彼女を見つめた。

「な、なんですか、アルセス? ほらほら、軍も来そうですしとっとと逃げ――」
「ミーシャ達を助けてしっかり金を稼いでおこうぜ? 稼いだ金額次第じゃちょっと贅沢な夜のデートとかも出来そうだし」
「――るのは簡単ですが、この程度で尻尾をまいたと思われるのも心外ですからね! アルセスの評価が落ちるのはひいてはウェバルテインが軽く見られるのと同意! 管理者としてそれは見過ごせない事態ですからね!」

 アルセスの一言でティエナはものの数秒で手のひらを返した。この変わり身の早さをどうこう言うよりはこの状況でティエナを動かすにはどんな言葉が通じるかを的確に見抜いたアルセスを褒めるべきであろう。
 倉庫を飛び出した二人はゼルマに救援に向かうと告げる。既に地上への階段は目の前だ。

『あ、どうせなら~ミーシャ達がまだ調べてない二階だけ見てもらえる~? 宝石の反応が三つほど残ってるの~』
「盗んだ分だけお金になりますからね。そこは仕方ありません」
「それに、どうせミーシャ達にほとんどの連中が群がってるんだろ?」
『うん~今ロザリンドが押し返して二人とも三階の廊下で戦闘中~。強くはないけど数が多くて押し込まれてるみたい~』

 さしものロザリンドでも戦いなれた傭兵団相手には分が悪いらしい。アルセスが話に聞く限りでは個々の強さというよりも、倒しても倒しても即座に陣形を整えてくる陣容の厚さが問題なのだった。加えてミーシャの方は逃げるのは得意でも倒す戦闘はそこまで得意ではないため、どうしても突破力に欠ける。
 それが二人の苦戦の要因であった。悪い条件が重なりすぎているとも言えるだろう。ただのチンピラの集団ならばロザリンドとて物の数ではないが、格上相手、集団戦におけるコツの両方を備えた傭兵団が相手とあっては打開の為の手を打ちにくいというのもある。

「二人にはもうちょっと耐えるように伝えてくれ。回収が済み次第、そっちの援護に回ると」
『りょうか~い~。なるべく慎重に急いでね~』
「なかなかに難しい注文だなそれは!」

 一階のエントランスに戻り、アルセスはエレベーター横の階段へと駆け込んだ。この状況でエレベーターを使えるのは迎撃側だけだ。ご丁寧に逃げ場のない箱の中に飛び込む侵入者など間抜けもいいところである。
 オフィスビルと呼ばれる最近流行りの建築様式らしいが、建物の敷地面積がさほど広くないため廊下はやはり狭い。上から見ると四角の形を廊下が作っているような作りなのだろう。追い詰められない、という点では有利だが挟み撃ちの危険性は無くならないという作りでもある。移動するにしても中央のエレベーターと階段が基本らしく、後は外側に繋がっている非常階段くらいだろうがそこを押さえない馬鹿もおるまい、とアルセスは慎重に動くことを決めた。

「アルセス、二階には敵はいないようですよ。この辺には気配がありません」
「相当派手にやったのかな、ミーシャの奴」
「やったのは大半がロザリンドだと思いますけど」

 階段の上のほうからは微かに怒号や銃声がひっきりなしに聞こえてくる。戦いの音が聞こえている内は大丈夫だろう、という乱暴な判断をしつつもアルセス達はゼルマに指定されたポイントを素早く調べて宝石の回収を急ぐ。
 簡素な木箱には鍵すらついていなかった。量産を急いだせいだろう。複雑な鍵の一つでもついていれば中身が宝石ということもあり手荒に扱えないことから時間稼ぎにはなったかもしれないが、モースにはそこまで時間的な余裕がなかったことがうかがえた。

「念の為チェック頼む、ティエナ。これでミーシャの見立てが間違ってたらとかだったら笑えん」
「いいえ、むしろ怪盗が宝石とイミテーションを見間違えるとか恥ずかしくないんですか? って煽りに煽って笑えるじゃないですか」
「……いや、まあ、ティエナに聞いた俺が間違ってたか」

 そんな傷口にさらに塩を摺りこむような追い打ちをかける真似はアルセスには出来なかった。こうして協力体制を一時的に築いてなお、ティエナにとってミーシャとは相容れない仇敵であるらしかった。

「成分及び価値の問題も全てクリア。一級品なのは間違いないですね。チッ、つくづくこういう目利きだけはしっかりした小娘です」
「ティエナ、顔が邪悪だぞ」
「違います。これは敵に対して容赦しないというわたしの気持ちの表れです」

 結局残り二つの宝石も会議室らしき場所のロッカーの中や休憩室の戸棚の中といった、本当に脈絡のない場所から発見された。どちらも本物であることが確認され、戦闘時に破損してしまわないように証拠として回収したオーファクト同様に収納用の鞄型オーファクトにしまい込むと、二人は階段への道を取って返す。アルセスが急ぐのでティエナも歩調を合わせているが、そうでなければ決して動かないだろうという確信を抱かせるくらいティエナの顔にはやる気がなかったが。
 三階へと上がろうとする途中、アルセスは廊下に繋がっている扉の前に見張りがいるのを発見する。

「悪い、寝ててくれ」

 と、同時に即座にバルンティアの引き金を引き中型のマシンガンを構えていた団員二人を狙撃した。

「ぬがっ……」
「はぐっ……」

 強化された革鎧の隙間を縫うように放たれた細めのボルトはアンダースーツを貫いて体内に刺さり、わずかな出血と同時に相手の意識を奪った。壁によりかかるようにしながら倒れた団員から武器を奪い、アルセスは持っていた強化ロープで縛りあげる。その後は目の前の適当な部屋に放り込んで放置だ。念の為に敵を少しでも無力化しておこうという算段であった。

「うーん、結構残量の消費が激しいな。それに腕利きには効かないんだっけ? この麻酔」
「ええ、異常に気付いて即座に心気を用いて体内の活性化を行えば無力化できる程度ですから。即効性を高めてありますけど、それでも達人クラスの人間は時々考えられないような超反応をしますからね」

 バルンティアのグリップの上部に取り付けられた小瓶はティエナがバルンティア用に開発した追加パーツの一つだ。調薬した液体性薬物をボルトの生成時に取り込める機能であり、毒や麻酔といった特殊な薬剤を敵に直接投下することが可能なボルトを生み出す際に使用するパーツである。
 ただでさえ連射可能なクロスボウという点で他の武器よりも抜きん出ているのに、特殊な攻撃まで可能とするこのオーファクトは、生半可なオーファクトを凌駕する性能を秘めつつあった。レイリアの改造を常識外れの魔改造とティエナは時折感心と呆れの両方を込めて言うが、この少女の改造も大概だ。

「ゼルマ、要は逃げられればいいんだろう? これでターゲットは全部回収したんだし」
『うん、そう~。でも二人とも窓のありそうな部屋からは離れてるところで囲まれてるから~』
「なら、ちょっとその集団をかき回してやればいいか。ついでに発煙筒でも二、三個焚けば後は周りにいるだろう憲兵が乗り込んできて終わりだろ?」
『詰所のあちこちに連絡を飛ばしてて結構な人数が集まってきてるから~それやるなら急いで~』

 軍の動きが早いな、とアルセスは思った。
 やはり国の中枢に関わる人間への襲撃の関係があると知っては重い腰を上げざるを得なかったか。迅速なのはいいことだが、彼らとかち合うのは得策ではない。
 廊下の曲がり角に差し掛かったあたりで、アルセスもティエナも激しい戦闘音を耳にした。
 銃声や金属音に混じって、

「アンタらゾンビか何か!? いい加減倒れなさいっての!」

 演技でも何でもない素の声で怒鳴りつけるミーシャの声まで聞こえてきてアルセスは頭痛を感じるかのように何とも言えない表情をする。

「もともとミーシャは打撃力は無いからなあ。まともにやりあったら傭兵の相手はちょっとキツイだろうに」
「きっとロザリンドがあのバカ娘のフォローに終始しているせいで敵陣を突破できないんでしょう。自分のフィールドから降ろされると実に弱いですね、あの小娘は」

 果たしてその予想が正しいだろうかと角からそっと廊下の様子をうかがうと、中央辺りで大立ち回りを演じるロザリンドの見事な剣舞に守られるようにハンドガンを撃ってけん制するミーシャの姿があった。

「飛び道具は当たらんぞ! 近接武器を抜いて取り囲め!」
「女剣士は無理に相手をするな! 怪盗の方が弱いぞ!」
「アンだとこらぁ!?」

 どうやらミーシャの持つオーファクトの力で力場を展開し、銃弾のような飛び道具は彼女らに影響を及ぼさないようだったが、ミーシャの迎撃が今一つということもあって敵を押し返せない状況を生み出している。
 明らかに黒狼団の見立ては正しいのだが、一体どこにミーシャに反論する余地があるのだろうかと。

「オチをつけないといけない宿命でも持ってるんですかね、あの小娘」
「人間の中にはそれを素でやる奴もいるもんさ。ティエナ、後ろから援軍は?」
「いえ、こちら側からは接近する気配はないですね。てっきり回り込もうとするのもいるかと思って警戒してたんですが」
「確かに妙に人数が少ない気はするが……まあ考えていても仕方ない」

 アルセスは腰のサックから二つほど手榴弾を取り出した。

「ゼルマ、二人に連絡。今から手榴弾をそっちに投げ込むから、その隙にどっかの室内に逃げ込めって」
『おーけーい。そんで窓から逃亡でいいかな~?」
「ああ、俺たちも廊下に面している窓があるから、そこから脱出するよ。ついでに発煙筒も使っとく」
『おおう、ダメ押し~。こりゃ間違いなく憲兵さんが来るね~』
「それじゃカウントするぞ……5……4……3……2……」

 乱戦の最中にいたロザリンドとアルセスの目が合った。
 それは言葉なくとも戦闘中の戦士同士が交わす無言の合図。

 問題ない、やれ、と。

「1……ゼロ!」

 アルセスは距離、速度、それら全てを計算しつくした力加減で立て続けに二個の手榴弾を放った。
 この状況で突然の攻撃に反応を示せた者は誰もいなかった。事前に知らされていたミーシャとロザリンドの二人以外は。
 ドドン、と二つの爆発音が重なり合うように炸裂し廊下を衝撃で埋め尽くす。
 逃げ場のない狭い廊下での二重の衝撃と爆発が敵の群れを大混乱に陥れる。

「ぐああっ!?」
「なんだ、爆発だと!?」
「ゴホッ……! 一体、どこから……!」

 これで自分たちの仕事は終わった。
 そう言わんばかりにアルセス達は踵を返し、わざわざ廊下の窓を派手に割って夜の街へと飛び出す。
 傭兵たちが誰も立ち上がれない廊下には既にミーシャ達の姿はなかった。
クロスボウ型麻酔(検閲削除

※ 次回の更新は12月19日です。
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