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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第69話 決行準備

 本来ならば直進できるような道を寄り道に逸れて逸れて遠回りを繰り返して目的地に辿り着いたかのような相談から戻ったアルセスは、早速決行の日に備えて準備を進めることにした。
 これだけ単純な話が着地点につくまでに随分と時間がかかったのは拗れまくっているミーシャとティエナの関係のせいであったが、これに関しては二人とも両成敗であるとアルセスは客観的に評価している。
 ミーシャの諦めの悪さも問題だが、ティエナももうちょっと大人な対応をすればいいのに、とは思う。その意地の張り合いも恋心ゆえ、と理解できてしまうので強くは言えないのだが。
 部屋の机に仕事道具を並べ、一つ一つ確認して手入れをして準備を進めて行く。その手際には淀みが無い。特にオーファクトの手入れに関してはこの上ない程に正確だ。

 どれもティエナの手が絡んでいるので手抜きをするとすぐバレる上に拗ねるからという切実な理由の為に磨かれた彼のメンテナンススキルは並の整備員の腕を凌駕するのである。

「……後はメンテナンスキットで確認して……よし、異常なし、だな」

 薄い青色の光を放つ小型の機械。
 手にすっぽりと収まるくらいの筒状のそれは光を通してオーファクトの外部から内部までを調査するティエナお手製の確認用のライトであり、何らかの整備不良がある箇所に当たると光が青から赤へと変わる検査用の道具だ。
 目視や使用感だけでは判断のつかない細かい異常を探るための機械であるが、筒である本体の方には電球を利用した表示板となっている窓があり、簡単に原因が表示されるという優れものである。

『わたしがいない時や別行動中に異常が発生した時に原因が分からないと困りますからね! それが遠因となってアルセスが怪我でもしたらわたしが困るから作りました! ええ、わたしが困るからです!』

 これを照れくさそうに渡した時のティエナの表情はまさしく素直ではない、という感想が真っ先に出るいじましいもので、アルセスは今でも思い出してくすりと小さな笑いを零すほどだ。
 バルンティアにセラキア、そしてウェバルテインと三つのオーファクトに異常が無い事を再確認すると、他に使っている道具の補充から状態の確認まで一つ一つ丁寧にこなす。

「アルセス~、仕事の申請と装備の補充は終わらせましたよー」
「おう、お帰り。悪いな、そっちを任せることになって」

 そこまで済んだところでティエナが扉を開けて部屋に入ってきた。
 ミスティタビィとの共同でこなす依頼の手続きの申請書や、爆弾などの消耗品の補充などといった雑務をティエナは一手に引き受けてアジト内で細かな作業をしていたのである。

「んもー、割と放任主義のくせにどうしてこう書面での手続きは重要視するんですかね、ウチはー」
「裏稼業の組織でそこまできっちり管理してるのはむしろ褒められるべきことだと思うんだけど」

 一定の秩序の無い組織というのは大抵が瓦解するものだ。ならず者だけが集まったような組織でさえ、恐怖、暴力、知謀、カリスマといった何かしらを備えた人間の下に集っている時は一定の結束力を誇る。
 少数であろうと多数であろうと、集団というのは何かしらの柱となるものが必要なのだ。組織によってそれが何であるかが千差万別であるだけで、ただ人が群がっているだけという集まりは集団としてはいずれ破綻するのが常。
 ラークオウルはそういう視点で見れば、組織としての運営体制はかなり整っているといえるだろう。マスター不在でさえ機能するほどの結束と揺るがぬ運営体制というのは一朝一夕で築き上げられるものではなく、たった一人の人間のカリスマだけで備えられるものでもない。

「後こっちは補充してもらった装備ですね。あんまりお金なかったですから最低限ですけど」
「そこは仕方ないさ。空気から爆弾は作れないからな」
「倉庫管理のベネットが事務用机の上に突っ伏してましたけどね。『終わらない……書類の処理が終わらない……』って空ろな目で泣きながら」
「……ああ、そういえば今みんな絶賛お仕事消化中だもんな。申請書類が山程、しかも毎日の様に来てるんだろうな」

 ダンセイル一家もまたきちんとした規律によって維持されている組織だ。それ故に苦労するものがいるのもまた事実。
 現在二十歳(彼氏と別れてから数年経過)で童顔である事務処理を含めた主に雑務担当の女性が恐らくは死にそうな顔をしているのだろう、とアルセスは一人心の中で同情した。
 最低限とティエナが言ったように倉庫から持ち出せたのは、手榴弾、閃光弾、音響弾がそれぞれ二つほどだ。少々大掛かりな仕事に挑むにあたっては心許ない数であるが、無いよりはマシとアルセスは前向きに考える。
 これで準備は終了だ。後は決行日を待つばかりとなったアルセスは、集中していて凝った肩をゴキゴキと鳴らした後、軽く伸びをした。思ったより身体が強張っていたようで、少しだけ身が軽くなったところで立ち上がると、ティエナの身体をひょい、と持ち上げた。
 膝裏に腕を回し軽やかに彼女の身体を持ち上げた姿は明らかに手馴れており、複数回繰り返したであろう熟練の技が見て取れた。

「あ、アルセス? きゅ、急にどうしたんでしょう? わたしはまだ何も言ってないんですが」
「今日のパターンだと、手の空いてない俺の代わりに雑用を済ませたんだから何か癒しが欲しい、と言い出す頃合いと思ったが……違ったか?」
「……いえ、合ってます。合ってますが不意打ち過ぎてちょっと驚いただけです」
「これくらい何度もやってるのになあ」

 本気でわかっていないのかアルセスは不思議そうに言うが、顔を赤くしながらティエナの内心は穏やかではなかった。

(何度やられても突然顔が近づいてきたり胸の鼓動を感じたりでドキドキはするんですよぅ!)

 勢いのままにこの言葉をかろうじて飲み込んだティエナは恥の上塗りをせずに済んだ、と思うと同時に照れが強すぎてアルセスの顔を見られなくなった。
 そのまま備え付けのソファにまで運ばれたが、ゆっくりと降ろされた後でティエナはもうちょっとだけ抱いてもらっててもよかった、と惜しむ。

「さて、ミーシャの作戦通りなら下手するとデクトマンド商会の支部が一つ潰れるだろうが……そう事がスムーズに運ぶかな?」
「わたしは一応複数のパターンを想定しています。その上で、わたし達も当日は臨機応変に動くべきでしょう。あくまで共同戦線という体ではありますが、ミーシャが失敗しても報酬が無いだけですがわたし達が失敗の場合はラークオウルからの依頼が達成出来ない事になります。これは避けるべき事態ですからね」
「そうだな、それは不都合が多過ぎる」

 金も必要だがギルドへの貢献も必要。
 だが優先度で言うならばギルドの方が上だ。金は別の方法で稼げばいいが、ギルドからの仕事というのは毎度都合よく舞い込んでくるものでもない。その重要性をしっかりと認識しろとティエナはアルセスに強く主張したのだ。

「ですので、万が一ミスティタビィがピンチでも見捨てましょう。そっちはそっちで何とかしてくれと。代わりにきっちりギルドの仕事の方は片付けますからイーブンで」
「……ティエナ、お前ミーシャを見捨てる理由が欲しいだけじゃないのかそれ」
「え~? そんなことはありませんよ~? わたしはアルセスさえ無事であればよく、アルセスの利益にならない事には積極的に力になれないという制約がありますので~」
「……ミーシャを助ければ報酬が増えそうだ、という状況なら俺の利益にはなるんじゃないの?」
「知りません」

 ティエナは真顔で言いきった。素晴らしいまでの独自ルールである。抜け穴だらけで果たしてルールと言えるのだろうかと誰もが疑問に思いそうなほどだ。
 そしてそれを清々しい笑顔で言い切るティエナにアルセスは相当上手く舵取りをしないと気苦労だけで終わるかもしれないと少々考えを改めた。場合によってはロザリンドにも手を借りる必要があるだろうとも。

「……ま、見捨ててもどうせ生き延びるだろうが後で文句を言われるのもあれだから、出来る限り助けられるなら助けてはおこう。状況が好転するならそれに越したことはない」
「むぅ~~~~~わたしとしてはそれでも不満ではあるんですが……アルセスが言うなら今はおとなしく頷きます。最大限に譲歩して『できれば助ける』とだけは言っておきましょう」
「今はそれでいいや」

 これ以上はきっとティエナは譲らないだろうとアルセスは判断し強くは言わなかった。
 代わりによく我慢した、という意味を込めて優しく頭を撫でてやる。アルセスはティエナとのスキンシップはボディタッチが多い。単に触れられるのをティエナが一番喜ぶからだが、この嗜好はオーファクトから派生したともいえるティエナの出自によるものか、本当に個人的な嗜好なのかは定かではない。
 アルセスが本人が喜ぶなら理由はどちらでもいいかと気にしていないからである。

「さて、これで王都の裏組織にトドメを刺して少しは平和になるんなら万々歳ではあるが……」
「この場合、本部がまた新たに人を送り込んでくる可能性の方が高いですからねえ」

 ティエナの言う通り、デクトマンド商会の規模はあれで世界規模である。
 本部は別の国にあり、商会のネットワークが築かれたのはそもそも今の長より前の代であるらしく、縮小傾向のある裏家業の組織の中では組織の規模そのものが小さくなりつつはあっても細々と各国を繋ぐパイプは生きている。だからこそ荒事よりも商売重視の方針に切り替えることで組織の存続を図ったという経緯をアルセスは最近知った。
 縮小といえど古株の組織であれば人材は豊富。
 まるきり足がかりが途絶えたと言ってもゼルダンタは広大。再起には時間がかかるだろうが、再び支部を立ち上げることは不可能ではないだろう。それだけの組織力が相手にはあるのだ。

「ここは一つ、根こそぎ奪い取って当面の間は大人しくなるように徹底的に叩きましょう。まだ東の方の抗争とやらで本部はあたふたしているようですから」
「裏社会の抗争もそれはそれで問題なんだが……俺たちも似たような状況だからな」

 再神教会に繰り返す夜想曲(リピートノクターン)と二つの裏の組織を相手取る三つ巴の戦いの真っ最中だ。利害が一致しなければ人は争うという答えしか出ないのか。表も裏も、そして世界全体で広がる騒乱の火種というのを感じて、アルセスは人の業とは深いものだなどと少し黄昏てみた。

「……ティエナ」
「はい、なんでしょ――んーーーーっ!?」

 だが、そんな後ろ向きな思考に浸るのもらしくないと、すぐに頭を切り替え隣に座るティエナの顎に軽く手を添えると断りもなくその唇を奪う。
 過去、幾度となく行われてきた不意打ちだがこの手の行為に対し、ティエナが明確に抵抗したことはただの一度もない。繰り返すが幾度なく行われてきてただの一度も例外はないのだ。回数で言えば三桁を余裕で超えるある種の狼藉。
 しばし、二人が互いの唇をむさぼりあうような激しいキスを交わし終わって離れると、そこまでやってようやくティエナが不満をこぼした。

「……アルセスは誘っても誘わなくても不意打ちなので卑怯だと思います。そうやってわたしの思考回路をショートさせて好き放題するんですから」
「ティエナは何かと理由を欲しがるから、そういうのがなくても俺は衝動的にティエナが欲しくなる、と伝えるには勢い任せの方がいいだろう?」
「……うう、色々とずるい」

 アルセスが悪びれるどころかむしろさわやかに笑いながら少々自分勝手な意見を主張するがティエナはそれを理不尽となじることさえしなかった。何故ならば。

(普段はどっちかっていうと虫も殺さないような大人しい顔なのに、こうやって時々獣みたいに迫ってくるから……。ああ……でもそれを悪いと言えないくらいドはまりしているわたしのバカ……! うーっ……そしてこうなったらもうわたしにはこれしかない!)

 こうやって自問自答し結局はアルセスの全てを受け入れた挙句、火をつけられた気持ちに流されるままにアルセスに「反撃」してしまうからなのだ。
 要するにその場で即座に気持ちを返しているからこそ、不満が溜まることがないのであった。

 なお、反撃の内容についてはなぜかソファからベッドへと移った彼らの状況から察せるだろう。
 こうして二人は作戦決行までの間に士気を高めるのであった。
ティエナばかりがイケイケなわけじゃない
このカップル。

※ 次回の更新は12月15日です。
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