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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

序章 旅路の宿場街にて

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第6話 そして少年達は


※ 同日連続更新中です。
 薄いカーテンを通した先から差し込む日差しが狭い室内を照らし出す。
 二つ並んだベッドの内、一つは空、もう一つの二人で眠るにはやや狭いシングルベッドには未だ夢の中であるアルセスと、その寝顔を穏やかに、同時に何かに満たされたかのような満足そうな笑みを浮かべて見下ろすティエナの姿があった。

(すっかり逞しくなったけど、寝顔は昔のあどけなさが残ってるんですよねえ)

 ティエナはウェバルテインの中、すなわち身体を得る前から短剣を通して周囲の情報を知る事が出来た。
 眠りについていた時間も長いが、持ち主に「使われている」間は嫌でも覚醒させられていたため、断片的ではあるが長い長い人類の歴史を直に見届けてきた稀有な存在でもある。
 その中には現代では失われた知識や事実なども蓄えられており、自身の特異性も理解してかティエナは非常にプライドは高い。少なくとも自身が認めた所持者でなければウェバルテインの力の制御、という己の存在意義を放棄するぐらいには。

 過去、数度ウェバルテインは幾人かの手に渡り、世に伝わるほどの逸話を残した。しかしその一方で歴代の所持者の中に、彼女が認めた者は一人とていない。この世でティエナがオーファクトに宿る擬似人格としての務めを果たし始めたのは、アルセスただ一人であり彼こそが本当の意味で最初のウェバルテインの所有者とも言える。
 彼女がウェバルテインそのものを使わせないように制限をかけていなかったのは、使えなければ死蔵されるし、己が持ち出されることもない。その停滞を怖れての事だ。どこかに閉じ込められる事だけは怖れながら、しかし、簡単には人間の存在を認めない我侭ゆえの事である。
 誰かが使えば流れに流れ、そして人間は愚かで弱いと断じていたから、例え死が待つとしても力を欲す者はウェバルテインを手にするだろうという打算もあった。
 こうして数百年の間、ウェバルテインは多くの人間の手に渡って世界を巡り、特殊な骨董品として最終的にはアルセスの村へと流れ着く。

 その出会いこそが――彼女の意識を変えた全てであったが。

(……今日なら行けますかね。うん、偶にはこういう時にくらいご褒美があってもいいですよね、うん)

 ただ――口では何のかんのと言いながらおはようのキスをするかしないかを悩むほどに乙女になるとは、当時のティエナも想像はしていなかっただろうが。
 既にそれ以上の事も何度も経験しながら、その心は常に恋に恋する乙女である。戦闘となれば怜悧冷徹な氷の魔女とも怖れられるほどの力を発揮するような異質な存在でありながら、こうした点も含めて愛嬌が見え隠れする事が、仲間達に受け入れられているというのを知らないのは本人ばかりというのがさらに残念な点である。
 多くの人間を卑小な存在と唾棄し、自身を高位なる存在として疑わぬほどの自尊心を持ち合わせながら――ただ一人認めたご主人様(マスター)への敬愛と情念は本物であった。とてつもなく分かりにくい関係ではあるが。
 そしてそれは――

「んうっ!?」

 一方通行的なものではなく、アルセスもまた同じである、という事だ。
 逡巡しながらベッドの上でもたついている間に、その動作だけでティエナの狙いを察知したアルセスが、彼女の口が触れるか触れないかの瞬間に一気に攻勢に出た結果だ。
 目覚めのキス、どころではない。舌と舌が絡み合う――というかアルセスが一方的に蹂躪するような濃厚なキスに目を丸くしたティエナは数秒の間されるがままであった。

「……っあ……と、おはようティエナ。やりたいことは分かったけど、もうちょっと穏便にやらないとすぐに分かるぞ? これでも一応寝込みを襲われないように警戒しながら寝る方法も学んだ身だし」

 流石に仕事も引き受けてない状態では誰かの動きを察知してすぐに飛び起きるほど警戒していたわけではないアルセスだったが、近くのベッドで誰かが動くような気配を感じれば目は覚める。
 そして気配だけでティエナの動作を察したアルセスは眼を閉じたまま待ち構えてカウンターを仕掛けたというわけだった。

「うーん、しかしいい朝だな。相棒に爽やかに起こされたお陰で寝覚めもいい。天気もいいし、王都まで行くには絶好の日和だな」

 呆然としたまま顔を真っ赤にしたティエナの横を通り過ぎ、カーテンを開け放ったアルセスは当たり前の様にそんな事を言う。まあ、男としてこの上ない起こし方であったのは確かではあろうが――

「あ、あああ、アルセスのばかぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 色々と複雑な感情がないまぜになり、ついに爆発したお姫様には関係なく振り返ったアルセスの顔面に柔らかい枕が直撃した。


 ★


「ティエナー、そろそろ機嫌直せよう」
「お断りします」

 不機嫌、というよりはつーん、という感じで拗ねているティエナはアルセスから見ればこれもこれで可愛いと断言できるほどだったのだが、そう言っても火に油、という感じで機嫌をさらに損ねてしまい彼女はすっかりご機嫌斜めであった。
 ホテルからチェックアウトを済ませ、駅近くのカフェで朝食を食べた後、午前一番で王都へと向かう列車の中、お姫さまは未だに朝の不意打ち失敗を引き摺っていた。
 気分屋のティエナにこの手の事が起こるのは日常茶飯事なのでアルセスは慣れっこなのだが、これから数時間と経たぬうちに仲間達と合流するというのに、このようなティエナと一緒に顔を合わせたのではまた痴話喧嘩かとからかい混じりの笑みの群れに迎えられることは必至だ。
 だからこそ、ティエナのご機嫌を取っておきたいアルセスだったが、コミュニケーションで誤魔化すには今日の車両には他にもちらほらと座席に客が目立つため過剰な手段が取れない。
 よって、少々搦め手で攻めてみることにする。

「そんな仏頂面で親父と会ったらまた夫婦喧嘩か仲良いな、からの一家総出でティエナを弄る会が即時結成されるぞ、きっと」
「……ぐぐ……特にリーン辺りは喜んでノってきそうですね……」
「今朝は俺の方が悪かったって。王都についたらこの埋め合わせはするから、そろそろ機嫌を直してくれないか?」
「むむぅ……」

 懇願するアルセスの姿を見て思うところがあったのか、何かを悩むような仕草を見せるティエナだったが、ふん、とそっぽを向きながらも、

「仕方ないですね。ええ、アルセスも男の子ですから朝からこーんな可愛い娘に近寄られてつい無粋な真似に走ってしまったというのは良くあることです。ええ、わたしは慈悲深いので許しましょう」

 などと素直じゃないながらも謝罪を受け入れた。高慢なところはあれど、結局の所冷静に状況を判断する事も出来るのだ。

(あー! 最近じゃすっかりレアだったアルセスの困り顔からの頼み事のコンボ! これだけでもちょっと拗ねてみた甲斐ありましたー! ああああああ、至福ーーーー!)

 いや、どうやら完全に私情によるものだったようだ。アルセスのほうからは彼女の緩みきった顔は正確には見えない角度だというのは彼女にとっては幸いだっただろう。
 一悶着はあったが、いつも通りの二人に戻ったところで王都入りまでの間に状況を整理する事にした二人。列車の走行時間は五時間と言ったところで、王都までの間に駅は二つほどあるが、どちらの街も列車での旅の場合は通過点に過ぎず、街道を利用した陸路を行く旅人でもなければ宿泊する事もないであろう小さな街が続くだけだ。

「お昼ご飯はルガーに奢らせましょう。寄り道もせずにまずはアジトに集合とか、女の子を舐めすぎだと思います」
「開口一番親父にたかる宣言すなよ……ちょっと遅めのランチになるだけだろう」
「その間にわたしの空腹感は大変なことになるんです」
「その気になればそういう感覚はカット出来るくせに」
「ふふん、人としての感覚は大事でしょう? アルセスと同じもの、同じ感情、同じ感覚を理解できなければ、わたしも一応、一応! アルセスの所有物(モノ)としての責務を果たせませんからね」
「微妙に人聞き悪いから言葉のチョイスは選ぼうな」

 幸い列車の走行音もあり、近場の座席に客が居ないので構わないが、他にもご主人様だのと少々聞こえの悪い単語が飛び出しかねない関係という事もあり、アルセスは若干人目を気にした。
 列車に乗る前に買った新聞を広げ記事を一通り確認するアルセス。新聞の名前は「アルデステン・タイムズ」という王都で一番のシェアを誇る新聞社の朝刊だった。

「ファクシミリの発達と印刷技術の発展はかなり早かったと思います」
「そうなのか? いや、まあこうして遠隔地にも簡単に文字情報を送れるようになったからこそ、地方への情報伝達は円滑になったらしいけど」
「これの開発期の作品にはオーファクトからの技術の模倣の跡が見られましたからね。遺跡の出土品の中から類似の機械を見つけ出したんじゃないかとわたしは睨んでます」

 新聞社は大抵そこそこ大きな街には支社を構えており、本社が刷った原盤を専用のファクシミリを通して支社に送り、支社はそれを元に少々印字部分や紙質などが劣化した新聞を地方でも売るわけだ。無論、値段はやや下げて。マスメディアの情報伝達速度の向上は、転じて政治の監視を強める側面も持ち、中央集権国家の運営を助けている一面もあった。
 地方の腐敗が伝わりやすく、また中央の政治意向が伝わりやすいというのは、政治の風通しが良いことを示している。それでも腐敗した執政者が生まれるのは、それもまた人の世の常でもあるが。

 しかし、アルデステンの世間を騒がせているのは行政に関わる事ではない。

「……連続殺人、希少な宝石ばかりを狙った泥棒、近隣での魔物の活性化、卑劣な盗賊集団の闊歩、うーん、見事なまでに事件に次ぐ事件のオンパレード。なんじゃこりゃって感じだな。これが世界三大国家に数えられ、二百年に渡って善政を敷き続けてきた大国の新聞かよって」
「歴史が続けば続くほど、国なんてそこかしこから腐っていくものですよ――と断じたいところですが、これはちょっと異常ですね――たかだか二年でここまで治安の悪化を辿るのは」

 そう、そもそも強国とまで呼ばれた国が大国同士での戦争などの歴史的な事変によって衰退するならともかく――何の前触れも無く国が荒れ始めた、という点が既に異常なのだ。
 当然、この違和感は何もアルセスたちだけではなく、多くの識者が首を傾げつつも自論を展開しそして最後には執政者への苦言で締められる、というのが今やアルデステンでの日常だった。ほんの二年前までは事件の方が珍しいというくらい安泰の国であっただけにこの情勢不安は何事かと国の内外を問わず様々な憶測を呼んでいる。

 そして勘のいい者は気づくだろう。この裏には何か――とてつもない力が関わっているのではと。

 アルデステンにも手つかずの遺跡はある。また、国土内に存在してもそれが明らかになっていない遺跡の多くの所有物は発見者に権利がある――というより、素直に国に譲渡するトレジャーハンターの方が珍しい。そこまでの法整備がまだ整っていないのが現状なのだ。
 何処の国も力は欲しい。しかし、それを探すのも見つけるのも労力と金がかかる。
 どんなトレジャーハンターや冒険者もお宝は欲しい。しかし、下手を踏んでお尋ね物になる事を許容できるほど強欲な者もそうはいない。
 だから、交渉で互いに落とし所を探す、というのがこの世界の通例だ。故にその基準を法で縛り、交渉に自ら制限をかけるようなマネを国の側としても中々踏み切れないという事情があるのだ。
 アルセスとて例外ではない。彼とて国に恩を売るつもりは無いが、日陰の身ゆえ係わり合いになるのをなるべく避けている。売却の手続きすら信用のある仲介人を通し、自身の功績は一切表に出さない。

 だからアルセスの信条は常に――総取り。
 ワンダラーとしての特権をフルに使い、己の欲しい物を全て頂いていく。
 多少の手段は選ぶが、手にすることに躊躇は無い。
 行く先が例え先の見えぬ闇であっても、その先にある光を信じて前へ進む。

 全ては一人の少女の為に。

「ま、行く先々が全て人知の及ばぬ魔境だろうが関係ないさ。俺の手には――最高の相棒がいる。必ず、全てを手に入れる。頼りにしてるぜ、ティエナ」
「はーいはい、これも他生の縁ですからね。結ばれた以上は、せいぜい力を貸してあげましょう。だから小さな人間なりに、必死にもがいてあがいて頑張ってくださいね、わたしのご主人様(マスター)? 言う程、貴方の目指す道は楽ではありませんよ?」
「茨の道でも一緒に歩く奴がいればそれだけで楽な道になるだろうさ」

 不敵に笑う少年と、苦笑交じりに頷く少女。

 彼らを乗せた列車は今――高く堅牢な城砦と重厚な扉で守られた都市へと入って行く。

 王都ゼルダンタ。
 そこで彼らを待つのは果たして――明るい未来への一歩か、破滅へ繋がる奈落への道か。
基本的にティエナの発言とその真意は
皆様で裏を読んでいただく形になります。

書いた自分が言うのも何だがほんと
このヒロインメンドくせぇな!w
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