挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

69/88

第68話 共同戦線

 ミーシャが指定したのはデクトマンド商会ゼルダンタ支部のビルであった。
 ビル街に建ち並ぶ五階建てのビル。アルセスとティエナが最近支部長を追い詰めるのに潜入していたのでよく知っている建物だった。
 潜入の段階で内部構造の内訳も把握していたアルセス達にとっては忍び込むこと自体は容易い。だが、ミーシャが狙うのは一体何なのか。

「あの支部長、アンタ達に散々絞られたのにまーだ必死に稼ごうと躍起になってるらしいのよねー」
「というよりはもう後が無いんじゃないのか? 俺達がちょっかいかける前に大失敗をやらかしてるらしいし、その穴埋めの為の仕事がパーになったからな」
「パーにしたのはわたし達ですけどね」

 何せ仕入れた商品の大半を根こそぎ奪い、金儲けにする予定だった量産型オーファクトは一つ残らず押収し、汚染された物以外は既にラークオウルのルートで換金済みだ。真っ当なルートで捌いてもかなりの額になったのだから、デクトマンド商会の流儀で売りさばけばその儲けは相当な金を生み出したであろう。
 それだけの商売を台無しにされ、取引相手であった繰り返す夜想曲(リピートノクターン)とは縁が切れている。何でまだ本部から粛清されてないんだろうかというのがアルセスの正直な感想だった。

「んでもって今回の事件、汚染されたオーファクトの出所がこの商会だってのを軍も掴んだみたいなのよね。近々強制捜査が行われるって噂よ」
「……意外に動きが早いな。成るほど、ギルドとしては手掛かりが一つでも欲しい状況だからここに関しては早く動けってせっつかれたのか?」
「それもあるの。ただ目的のブツを盗むだけなら簡単なんだけど……もったいないじゃない?」

 一体何をだ、とアルセスは思ったが即座にある一つの考えが彼の頭に浮かんだ。

「……もしかして支部長室とかアイツのプライベートな倉庫にあった金品か?」
「そう、それ! だって、あいつ自分の会社の赤字の補填に自分の私財は一切出してないのよ!? しかも調べたらそれも本部には誤魔化してるっぽいの。ここまで追い詰められても手放さないとか頭悪いと思わない?」
「気持ちは分かりますが、それって単に売りさばいても弁償にならないくらい赤字が大きいだけなんじゃないんですか?」
「甘いわよ、ティエルライーナ。下調べにちょろっと忍び込んだけど、アイツの宝石コレクションは並じゃないわ。表でも裏でも売りに出せば王都の一等地を買ってもお釣りが来るわよ。そこに屋敷を建ててもまだ余るわね」

 そこまでする余裕がありながらなぜ持ち出さなかったのか、とは二人は尋ねない。
 予告もしないで盗み出すのは怪盗のプライドがどうとか言い出すのを知っていたからだ。この業界、妙なこだわりを持った人間がいるのも特徴なのである。
 なので話は当然のように続けられる。しばし考えた後、アルセスが再び言葉を発する。

「……ミーシャの見立てが本当なら確かにそれで首が繋がりそうじゃないか。何でそうしないんだ、モースは?」
「この期に及んでまだ命よりも宝石の方が惜しいらしいわよ。本部からの最終通告までの期限にまだ余裕があるから、出来る限りの金策でこの窮地を乗り切りたいようね」
「という会話をしてたのを~盗聴で拾ったら~ミーシャが張り切ったの~」

 ふむ、とアルセスは動機や事情に関しては概ね理解できたとばかりに頷いた。
 そして確かにこれは人手がいる案件であろう事も。
 何しろ、アルセス達の事前調査ではあのビルには地下に相当する箇所もあった。そこが件の商品の一時的な倉庫であろうとも。何しろ違法改造のオーファクトなど、所在がばれれば問答無用で逮捕まで行き着く危険物だ。一般的な倉庫などには間違っても置くまい。自分達の目の届くところに隠すのが一番である。
 対して、支部長であるモースの私的な保管庫に関しては支部長室の隣であったはずだ、とアルセスは思い出した。
 地下と最上階。さしものミーシャでも相手の護衛を掻い潜りながら両方を盗むのは難しいだろう。
 何よりミスティタビィとしての活動を曲げないのであれば、ミーシャは堂々と名乗りを上げてから盗むに違いない。その上で両方のターゲットを盗み出すというのは少々難儀な仕事であろうとも。
 だが、どちらか一方であれば話は別だ。ミーシャのミスティタビィとしての矜持を考えるならば彼女たちが盗むのは支部長の私的コレクションだとしたら。

「ミーシャ達が大騒ぎしてモースのコレクションを盗みだす騒動の傍らで、俺達にはギルドからの依頼を達成して欲しい、って流れか」
「そういう事。そしてもちろんこの件はあくまで共同作業。ギルドへの報告も、盗んだコレクションの売り上げも全部山分けって寸法よ。誓約書を書いて嘘偽りない事を誓っても構わないわ」
「誓約書って言ったって、一体何に誓うんです?」
「もちろん、アタシのアルセスへの愛に誓うわ♪」
「ものすごくいらねぇですね、それ」

 まるで虫でも見下すかのような視線でティエナは吐き捨てたのでミーシャがまたしても憤怒の表情に変わりそうになったが、アルセスの手前何とか怒りを飲み込んだ。例え腹持ちならない相手であっても、今はビジネスを持ちかけるパートナーだ。交渉事は相手に飲まれた方が負けだという事を理解できる程度には冷静さが残っていたらしい。
 アルセスとしては不安要素こそ多々あるが、仕事そのものとしては悪くないと考えていた。
 金銭はいくらあっても困らない。特にウェバルテインのような特殊なオーファクトを所持している身としては、いつ希少な素材を要求されるか分かったものではない。物の流れを快適にする一番の手段は金だ。ラークオウルの情報網を使えば一般人でも手の届きにくい素材を手にする事が出来る。
 だが、その関門としては必ずと言っていいほど法外な額の金銭の要求が立ちはだかる。
 金はいくらあっても困らない。これは世の中の常識だ。

「正直内容には文句のつけようがない。ああ、別に愛はいらないが」
「さらっと当然の様にアタシの愛がスルーされてる!?」
「通算102回目のフラれ~~~」
「ゼルマもちゃんと数えてるんですね。いい娘ですね。そうやってそこの懲りない小娘にちゃんと現実を教えてあげてくださいね」
「ティエルライーナうっさいわよ! アタシの愛はもうこの程度じゃ消えないんだからね!」
「むしろどうやったら鎮火してくれるのか教えて欲しいんだが……」

 ともかくその点は無視するとして、とアルセスは強引に話の流れを戻した。若干疲れが顔に出てきつつある。この騒々しい中では無理もないが。

「この仕事、ミスティタビィとしては三人全員で挑むんだな?」
「そうねー。前はあのオーファクトの使い勝手を試す意味もあったけど、今回はガチでやるつもりよ。何だかんだであそこの護衛の連中は腕が立つし、まだ黒狼団の連中も残ってるみたいだから」
「……あいつら、まさか報酬がもらえないからって揉めてるのか?」
「あ、それは無いみたいよ。二度も失敗したとはいえ向こうは仕事はきちんとやろうとしてたわけだし、それを理由に報酬を踏み倒すなんてのは悪手だってことくらいはあの支部長も分かってたみたいだし」
「けど~減額交渉はしてた~」
「微妙にセコいな」

 アルセスの感想にコクコクと何故か強く頷くゼルマ。ミスティタビィで活動しているだけに、お金に関する評価はシビアなのかもしれない。
 そういう意味でも報酬の件をしっかり明言したミーシャの依頼は信頼に値すると言えた。問題はただ一つである。

「それで俺の相棒たるティエナの意見は? 俺としては組むのはやぶさかでもないんだが。これが初めてってワケでもないしな」
「そーですねー。競ったり協力したりと、この小娘との縁は何故か切れないのが困りモノなんですよねー。いい加減、そろそろブチっとぶった切りたい気分ではありますが……」

 ティエナの本音から言えばどれだけ旨みがあろうともミーシャとの仕事というだけで却下だ。
 生きていればどう足掻いても分かり合えない、ウマの合わない相手というのが一人や二人いて当たり前であり、ましてティエナにとってみればミーシャは愛しのアルセスに擦り寄ってくる害虫にも等しい。
 とはいえ世の中本音だけで渡っていけるものでもないというのをティエナも理解はしている。ここでただ我を通すだけではアルセスを困らせるだけだというのも既に分かっているのだ。彼女なりにアルセスにとっての「いい女」を目指している努力がかろうじて彼女の本能を理性で押し留めた。
 それがなければ今頃ミーシャと取っ組み合いの喧嘩まで興じていただろう。彼女とて出会った頃のままではないのである。

「アルセスの懐事情が厳しいのは承知してますしね。それに、わたしがいないと難しいでしょう? この仕事は」
「断言してもいい。俺単独でやるにはちょっとばかり厳しいな」
「うふふー、そうですよね、そうですよね! そうやって仕事の難度と自らの実力を省みる、そういう思慮深いアルセスはわたしは好きですよー」

 想い人に真正面から頼られる。このシチュエーションにティエナが隠しきれない幸福感を表情に出して行くのに比例して、ミーシャは口元を引くつかせ額には血管が浮かび上がりそうなほどになっていく。
 ちらり、とティエナがまるでミーシャの反応を盗み見るように視線を向けると彼女は更なる追い討ちに出た。ここまでの展開で溜まったストレスを一気に吐き出そうという魂胆だ。

「ですが、わたしとしても忌々しい小娘との共同作業とあってはちょっとだけハートブレイクです。ですので、アルセスなりにわたしのご機嫌を取っていただければ考えなくも――」

 ないですよ、というティエナの台詞は唐突にアルセスがティエナの手を両手で包み込むように握った事で遮られた。思わずアルセスを見つめるティエナに、ミーシャやゼルマも何事かと固唾を飲んで見守っている。

「俺にはお前が必要だ。だからここは我慢して力を貸してほしい」
「……はい、喜んで」

 アルセスに含むところは無い。彼はただ真剣に訴えるような瞳でティエナを見つめて正直に懇願したに過ぎない。
 しかし、その眼差しはティエナの思考回路をショートさせるには十分すぎたため、ティエナは呆けたように反射的な返答を返すしかなかった。まさに恋する乙女には猛毒にも等しい行為だったのである。
 交際に真摯であるアルセスであればこその行動だったのだが、あまりにストレートな言葉がその場にいる三人を硬直させた。ゼルマは単に見慣れないものだったので驚いただけのようだが。

「よし、ティエナの承諾も得たしミーシャ、この仕事は手伝わせてもらう……ってどうかしたか?」
「ああ、うん……いえ、別になんでもない」

 変化に気づかなかったアルセスはそんなミーシャの反応を怪訝そうに窺っていたが、隣に座っていたゼルマがちょいちょいと彼女の二の腕を突くと、

「ミーシャ~あたしから見ても~勝ち目ゼロ~っていうか~マイナス?」
「い、言わないでよ……! そんなことはね……そんなことはねぇ! 最初からとっくに分かってたのよ! けどよく言うでしょ? 諦めたらそこで可能性は本当にゼロになるのよ! 信じているうちは微かな可能性は生きてるのよ!」

 意気は買うが果たしてそこまで現実は優しいだろうかとアルセスは訝しむ。
 ぼーっとしているが思慮深いゼルマも同意見のようで、余った袖が目立つ腕を組んでうーん、と唸りながら首をかしげて一言。

「諦めなくても終わってる事ってあるよね。始まりもしない事」
「ゼールーマー!!」

 涙目になりながらミーシャはゼルマを引っつかんで激しく揺さぶるが、当の本人は、

「お~~~~~~~~」

 と楽しそうにされるがままであった。
 彼女もまた不思議な少女だよな、とアルセスは思ったが、直情径行のミーシャ、年長者のロザリンド、気分屋のゼルマ、そして彼女たちをトップに据えて縁の下の力持ちを担当する団員たち。
 ミスティタビィもまたダンセイル一家とはまた別の形で一つの組織を形作っている。そこに不快感が無いからこそ、アルセスはまたか、と呆れつつもミーシャとの付き合いを完全に切り離せないのかもしれないと思った。

「ま、ちょっと変り種の仕事だが稼ぎにはなりそうだ。親父に話していっちょ敗残兵をさらにどん底に突き落とす作戦に協力するとするか」
「そうですね、散々人の神経を逆撫でした小娘に反撃もしましたし、気分よくお手伝いが出来そうです」

 その一言をしっかり聞いていたミーシャはこの後滅茶苦茶激昂した。
死にかけの支部にさらに鞭打つ仕事は
果たしてどうなる。

※ 次回の更新は12月13日です。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ