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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第67話 猫との会談

 悲しい事に嫌な予感ほどよく当たる、というのは人間誰しも経験があるのではないだろうか。
 ある一説によれば嫌な予感だと思うからこそ自らそうなるように行動してしまう一種の誘導なのではないだろうか、などという話もあるがそれはさておき。
 スラム街に建つデクトマンド商会の『裏』倉庫代わりのビルの襲撃が首尾よく終了した帰りの事であった。
 目当てのオーファクトと、一部の収穫物を鞄に収めてホクホク顔であったティエナの表情が夕闇の中でも分かる程に歪んだ事にアルセスは思わず彼女の視線を追ってしまった。

「ハァーイ、アルセス、ごきげんよう。お仕事は順調だったみたいね」
「あ、ああ、よく分かったな……ってあの情報は組織で共用してたものな。俺達がどんな仕事をしてきたかは把握済みって事か」

 スラム街を抜けたばかりのビル街、その路面上で随分にこやかに声をかけてきたのはミーシャであった。
 アルセス達が戻ってきた方向から彼らがギルドの依頼で請けた仕事の後だというのを彼女は見抜いたのである。
 上機嫌で擦り寄ってくるミーシャだったが、そんな彼女に立ちはだかるようにティエナがアルセスの前に割り込んだ。こちらはミーシャが近寄れば近寄るほど不機嫌になっている。まさに天秤のような関係だ。

「何か御用ですか小娘。アルセスは仕事を終えたばかりですので手短にお願いします。具体的に言えば40秒くらいで」
「短っ! アンタねえ、仕事がらみじゃない時くらいもうちょっと配慮ってもんをしてくれてもいいじゃないの!」
「何を寝ぼけた事を。アルセスに近寄ろうとする毒婦に何を譲ってやる必要があるんです? いいからとっとと要件を伝えて消えてください。シッシッ」
「ムキャーッ! 相変わらずの性格最低女ァ!!」

 ああ、やはりこうなったかとアルセスは額に手を当てて何とも言えない表情で俯いた。
 元々ティエナの人当たりの悪さは周知の事実であるが、何度断れてもアルセスへのアプローチを諦めないミーシャに対しては最悪だと言っていい。エモンドへの対応すら上回る辛辣さは、それこそ毒しか吐かないのではと思わんばかりに言葉のチョイスも態度も酷い。
 ティエナの気持ちも分からないでもないが、彼女たちに任せていては話が一向に進まず夜故に人通りもないが、少し戻ればスラム街だ。ガラの悪い連中が出てきてさらに事態は泥沼に……という事も考えられるため、アルセスは率先して動くことを決めた。

「あー、ミーシャ。とりあえずまともな話なら日を改めて聞くから今は用件だけ伝えてくれないか?」
「ああ、アルセスってば紳士の鑑……本当、何でこんなド腐れ最低女と組んでるの? ミスティタビィはいつでも貴方をウェルカムよ?」
「アルセスが譲歩したと思ったらそこから間髪いれずにセールストーク……! 死にたいんですね? ええ、死にたいのならお望みどおりに――」
「……頼むからミーシャ、話を進めさせてくれ。これじゃキリがない」

 アルセスはティエナを後ろから抱きかかえるように――もとい、暴れだそうとする彼女を押さえつけるように抱きすくめた。アルセスの意図は分かっていたのだが、思わぬ接触にティエナは嬉しそうに大人しくなり、目の前で恋敵と懸想する相手がイチャイチャする(本人にその意識は無いが)という光景を見せ付けられてダメージを食らったミーシャもまた大人しくなった。

「そ、そうね、とは言ってもちょっと簡単な話じゃないのよね。明日は時間あるかしら?」
「仕事は入ってない。昼からなら時間を作れると思うが」
「なら……この店に来てもらえるかしら。アタシ達が贔屓にしている店なの。融通が利いて『商談』もしやすいから都合がいいのよ」

 それでも気を取り直してさらりと用件を伝えられという中々のタフさを見せるミーシャ。
 もっともそれくらい図太くなければ百回を超えてなお同じ相手に告白するなどという珍事は為せないのだろうが。
 メモを受け取るとアルセスは了解した、と頷いた。

「ありがと! それじゃ明日待ってるから、絶対に来てね?」

 わざわざしなを作ってウィンクをしたがアルセスには全く響かず、ティエナの表情が怒りに染まっただけだった。

「わたしが大人しくしている間にとっとと消えた方がいいですよ? 今日は月も出てないですしね」
「きゃー、こわーい、ン百年生きてるババアが若いアタシに嫉妬してるわー。それじゃね、アルセスー! いつでもピチピチのアタシは出迎える準備は出来てるからねー」
「だ、誰がババアですかこんの小娘ぇーーーー!!」

 唐突過ぎる侮辱にさしものティエナもアルセスを振りほどいて後を追いかけようとしたが、そこは猫を名乗る怪盗。ビルの壁に足をかけたかと思ったら、あっという間に他のビルに飛び移り姿が見えなくなる。
 最後の最後まで騒々しいのも気分屋の猫らしい、と思わせる突然のコンタクトであったが果たして何が目的だったのやら、とアルセスは渡されたメモに目をやった。

「この住所は……二番街だな。しかもハイドアウトからそんなに歩かないぞ。メインストリートとの合流する道路の近くだ」
「……あの小娘。さてはアルセスの動向をチェックするのにも都合がいいからと……」
「いやいや、そんな監視をされてた覚えはないし、仮にされてたらティエナが気づかないはずが無いだろ?」
「むぅ……それはそうですが。けどあの小娘の事です。この辺に入り浸っていれば偶然アルセスに会えるかもしれないくらいの下心が無いとは思えません」

 それくらいは可能性があるだろうな、とは正直アルセスも同意している。
 かなりの回数の告白をかなり手ひどく振ったはずなのに、今もなお自分へのアプローチに余念が無いミーシャに、一体何が彼女をそこまでかきたてるのだろうかとアルセスは悩む。

「仕事仲間としての内ならいいが、男としては正直早く別の男を追いかけろと思うんだがな」
「わたしも是非ともそうして欲しいですね。それはそうと、アルセス。ちょっとこっちに来て下さい」
「ん?」

 抱きかかえたままの姿勢だったアルセスはティエナに手を引かれて前に出た。そしてティエナは定位置、アルセスの腕を自らの体に抱え込むような形でくっついた。

「折角の仕事の終わりにあんな小娘の相手をしたことでわたしの不機嫌度はマックスです。アルセスには密接にわたしに近づいてわたしを癒す使命があります」
「……そうか、使命じゃ仕方ないな」
「そうです、仕方ないんです」

 アルセスからは見えないティエナの表情は、「どこが仕方ないって顔なんだ」と誰もが言いたくなるような満面の笑顔であった。

「それと今日は一緒にお風呂ですからね。お風呂。ちゃんと優しく丁寧に髪も洗ってもらう日ですからね」
「はいはい忘れてませんよって」

 そんな台詞をすれ違い様に聞かされた、二十八年彼女なしの王立大学院にて精力的に働くエリート研究生の男は、家へ帰る道を急いでいたのだが急遽予定を変更してバーへ駆け込んで馴染みのママさんとホステスに泣きついたという。

 アルセス達が知る由もない街のどこかで生まれた悲劇の話であった。


 ★


 翌日。
 アジトを出る直前まで外出を渋るティエナを何とか説き伏せて、アルセスはメモに記された住所の場所へと向かった。
 二番街は元々本格的とまでは言わないが品の良い店が並ぶショッピングストリートで、ハイドアウトもその顔ぶれに認められつつあった。そんな中、赤レンガで統一された少し時代がかった建物が見えてきた。

「ここですか?」
「ああ、間違いない。店名も合ってる。……ギャザーか。集会ってところかな?」
「猫が集会に使う店とかニャーニャー五月蝿そうですね。空き地にでも集まってろって言いたくなります」

 カラン、とカウベルの小気味良い音と共に店内に入ると、カウンターに数席ある他、奥の方は薄いカーテンで入り口が仕切られた個室風味になっているようだ。
 大きめの窓によって店内は明るく、しかしボックスごとに仕切られた店内は確かにちょっとした集会をやるのには向いた作りだ。そういうコンセプトの店なのだろうとアルセスは判断する。

「いらっしゃいませー」

 声をかけてきた女性の店員の制服にも奇抜な面は見当たらない。エプロンに普通の衣服と至って普通。話し合うための場所と飲み物を提供するのがこの店の売りなのだろう。

「すみません、先に連れが来ている筈なんですが。自分はアルセスといいます」
「ああ、アルセスさんですね。ミーシャさんが奥のテーブルでお待ちです。ご案内いたしますねー。飲み物のご注文は先に窺ってもよろしいでしょうか?」
「あ、俺はアイスコーヒーで」
「わたしはオレンジジュースを」
「かしこまりましたー」

 明るい声の女性店員に案内されてカーテンをくぐった先のテーブルにはミーシャともう一人。

「お~、ほんとにアルセスとティエルライーナが来てる~。よかったねミーシャ、スルーされなくて」
「あ、アルセスは約束を破ったりしないって言ったじゃない、ゼルマ」

 眠たそうな半目にふわふわな髪質なのに手入れをあまりしてないせいで爆発しているかのようなボリュームのある明るい茶色の髪。そんな見た目に反して袖口や首元にフリルをあしらった少女趣味のワンピースはミーシャがチョイスした外出着。何より同じような背丈ながら、明らかにミーシャを上回るとされる胸元を押し上げる膨らみが目立つ少女。

 名をゼルマ。ミスティタビィの一角を担う少女であった。

「よっ、ゼルマ。いつの間にゼルダンタ入りしてたんだ?」
「ん~~~~とー……一週間前くらい? ようやく飛行艇の整備が終わったから飛んできたー」
「ゼルマは仕事熱心ですねえ。どこぞのヒマを持て余してる猫小娘にも見習えと言いたいですよ。見習えよ」
「しっかり言ってるじゃないのよ!」
「ミーシャ~ミーシャ~まだスイッチ入れてないからどなっちゃだーめー」
「おっとと、そうね、毎度毎度ティエルライーナの挑発に乗ってちゃダメよね」
「ゼルマは大きく育ったのに小娘は貧相な身体つきのままですねえ」
「表出ろや、ババア!!」
「もうスイッチオンにしておくね~」

 わざわざ胸を張ってミーシャのコンプレックスを的確に突くティエナに、あっさりと前言撤回で怒り心頭のミーシャ、そしてマイペースのゼルマという迷走しかしないような組み合わせの茶会。
 アルセスは始まる前から頭が痛くなってきた。決してゼルマの作った周囲への音の漏れを抑える機械のせいではない。

「……ゼルマ、ロザリンドはどうした」
「ロザ姉は~今日は冒険者の助っ人で狩りに行ってる~。新しい剣の切れ味を試したいとかでー」
「……そうか、それで微妙に交渉には不安な二人で来てるんだな」

 つまりこの三人の会話をまとめつつ話を進行させるのは自分の手で行うしかないのだとアルセスは痛感した。ミーシャの提案次第だろうが、しっかりまとまるだろうか。今から不安でならないアルセスであった。

「お待たせしましたー。アイスコーヒーとオレンジジュースになりますー」

 女性店員が手早く飲み物を置いてくれたお陰で一端空気がリセットされたような感じがあった。
 アルセスはそのままブラックでアイスコーヒーを一口飲み、キツめの苦味で頭を無理矢理覚醒させた。現実逃避をしている場合ではない、と。

「それじゃミーシャ。早速で悪いが話を聞かせてくれ」
「そうね、単刀直入に言うわ。アタシ達の仕事を手伝わない?」
「却……もごもご?」

 即答で却下と言いかけたティエナの口をアルセスは素早く手で塞いだ。気持ちは分からなくも無いが、ミーシャの言葉一つ一つに過剰に反応されては話が終わらない。今のアルセスは心を鬼にしてティエナに接する司会進行役に徹していた。

「それはミスティタビィのターゲットを手にいれる手伝いをしろ、って話か?」
「ううん、違う違う。そうじゃなくて、アタシ達が仕事をしている裏でアルセス達に一仕事頼みたいって話なのよ。アタシ達が目を着けた場所っていうのがちょーっと特殊な場所でねー。いい具合にデカイ獲物もありそうなんだけど……きちんと仕事が終わった後に山分けしようって話になったらある程度顔馴染みじゃないと持ちかけられないじゃない?」
「そういう理由か……事情は分かったが、まだ返事は出来ないな。一体何処なんだ?」
「それはね……」

 徐にポケットから切り取った地図を出すミーシャ。
 彼女が指差した場所を見て、アルセスは思わず呟いた。

「なるほどな……そりゃ確かに手伝いがいるか」

さらっと少女趣味ののんびり系メカニックロリ巨乳の
新キャラが出たが、ぶっちゃけティエナとミーシャを
同時に出すと全部こいつらが持って行ってしまうという。

※ 次回の更新は12月11日です。
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