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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第66話 広がって行く闇

『今回の事件を受けて王国軍は王都全域における警備の強化を発表し……』
『犯人は他国から来た冒険者でありギルドや王国の方でも入国を確認していた人物でしたが、反国家勢力との繋がりも視野に入れて引き続き聴取を行うと……』

 翌朝から不穏なニュースをどこもひっきりなしに流すラジオだったが、団員たちの朝はいつも通りだ。適度に騒ぎ適度に食事を済ませる。そこに変化は無い。
 だが誰もがこの状況を楽観視している訳ではない。朝になってより詳細に事件の内容を記した朝刊が配られたが、そのショッキングな内容は例えこの国に住まう人間ではなくても驚きを隠せまい。

 事件は夕方、まだ日が落ちきる前での出来事であった。

 王城の周辺、通いで城勤めを行う文官の一人が送迎の車に乗り込もうとした矢先、多くの憲兵たちや通行人もいる中、犯人はまるで定められていたかのように拳銃を抜き、何の躊躇いも無く引き金を引いたという。
 あまりに常軌を逸した行動だ。まるで自身が逃げることなど考えてもいない特攻のような凶行に憲兵たちも虚を突かれた。その犯人が極めて真っ当な冒険者の格好であり、また従来の拳銃の射程距離を考えるならば憲兵たちの警戒の外という位置にいたのも対応させなかった要因の一つとなるだろう。

 何しろ犯人は王城と街区を分ける大通りの道路を挟んだ反対側から撃ったのだ。
 距離にして数十メートルは余裕で離れている。拳銃で狙うにはあまりに遠すぎると断言できる距離であった。これで守るべき重職に就く人間を守れなかったと護衛の憲兵たちを攻めるのは酷であろう。
 距離があったにも関わらず腹部を撃たれた文官は今も意識不明の重態。さらに悪い事に犯人はそのまま暴れるでもなく、しかし決して手を止めずに周囲の人間を無差別に射撃するという事態を引き起こしたのだ。当然、人通りの多い王城周辺の街区は一時的にパニックに陥り騒然となった中の逮捕劇。

 冒険者が手にしていたのは量産型のオーファクトだという事までは発表された。元々汚染されたオーファクトによって心身に異常をきたした人間が様々な事件を起こしてしまうということは国民の間でも知られており、誰もがとうとうここまで来たか、という不安を増大させていた。
 軍は信用のおけない店で不用意な物を手に取らないようにと警戒を促すと共に当面は出入国に関しても厳戒態勢を敷くと発表したが、果たしてどこまで効果があるのかという疑念を誰もが抱かずにはいられなかった。どこの国であれ、人知れず入る事も出る事も手段はある。人々は例えようのない不安を少なからず抱きながらも普段通りの日常を続ける事になった。

 それが今の王都ゼルダンタの状況だった。まるで人々の不安を示すかのような曇り空はいつ誰かの嘆きの雨を流す雨雲に変わるのか。そんな先行きの見えない悪意が王都を包みつつあった。

 そんな中、アルセスを含んだ一部の団員達はルガーの執務室に集められていた。
 義憤に駆られてこの事件の調査を――

「このまま放置しといて締め付けが厳しくなると、次は王都に来て日の浅い連中にまで調査が及ぶかも知れん。面倒な事になる前に軍にある程度情報を渡せるように動くぞ」
「ボスの言うとおり、通行証持ってるだけだとちぃーっと出入りも面倒になりそうだな。かといって、コソコソ出入りしてるところをうっかり見つかっちまったら言い訳が通じそうな状況じゃなくなって来てますからねえ」

 行うわけではなかった。全ては自分達の都合である。
 それで彼らを責めるのは間違いであろう。ダンセイル一家は義賊では決して無いのだから。
 エモンドの言うとおり、このまま状況に改善が見られなければ日陰者の彼らはおちおち表を歩くのも難しくなるかもしれないのだ。ハイドアウトの経営もある中、あまり制限をかけられるのは好ましくない。事態の改善に動くのは必須なのである。

「わたしもうかうかデートも出来ないというのは困りますので少しは真面目にやりますか」
「そうじゃなくても真面目にやりやがれ。一応これは上からの命令(オーダー)だ」

 ティエナがやる気なさげに呟くとルガーは渋い顔でそう付け足した。

「何でわざわざギルドから通達が? もしかして量産型オーファクトの汚染以外になんかあんの?」
「独自のルートから軍の尋問記録をすっぱ抜いた。例の冒険者が手に入れたオーファクト、あれはデクトマンド商会から流れたモンだ。買った場所と日付、そっからオレ達がこの間調べた記録を辿ったら奴らが浮かび上がったから間違いない」

 アルセスは疑問に答えてくれたルガーの言葉で納得する。

繰り返す夜想曲(リピートノクターン)が絡んでるからか」
「そういうこった。この件も奴らが背後にいるのか……それとも奴らが関与したから起こっただけなのか。その繋がりを調べてこいとさ」
「今のところは単に運悪くあの汚染オーファクトを買っちゃった冒険者さんが事件を起こした相手と場所が悪かっただけ、という気がしますけどね。ま、どれくらいの値段だったか知りませんが、よりにもよってライセンスも持って無さそうな流れの露店でオーファクトなんて買っちゃう人が悪い気がしますけど」
「厳しい言い分だけど俺もティエナと同意見かなあ。量産型ならあちこちに流れてはいるけど、俺も露店みたいなライセンスも持ってなさそうな奴が開いている店で買う気はしない」

 そもそもアルセスはこれ以上オーファクトを増やす必要もない。
 加えてヤキモチ焼きのわがままお姫様が側にいるので、迂闊に装備の買い換えも出来ないのだ。あくまでこの意見は客観的事実に基づいての発言である。
 エモンドやジーゼンもこの点は同意見だったらしく、その辺はどうなのかとルガーに改めて尋ねた。

「当人は量産型のオーファクトだと分かった上で買ったようだな。少なくとも黙って売られたわけじゃないらしい。それに本人も元々さほど強力なモノではないがオーファクトを持っていたようだな。それで迷う事無く買ったそうだ」
「騙されたって言っておけばいいのに何で正直にゲロってるんでしょうね、その人」
「いや、嘘の供述をしてたら後でバレた後が怖いぞ。今回に限っては売人もすぐに足がつきそうなんだし」

 汚染されたオーファクトであった、という事実は既に軍も掴んでいるのだから誤魔化そうとするのは悪手だとアルセスはティエナに告げる。
 まだ法整備が追いついてない現状だが、汚染されたオーファクトが人間に与える悪影響に関しては既に幾つもの事例があり、心気にも長期的に異常な反応が残るため事件を起こした要因として認められる。
 普段から救いようの無い生活をしていた人間ならばその限りではないが、特に素行に問題の無かった者がこの手の事件を起こした場合、かなりの部分で配慮を得られるケースが多い。これはワンダラーのアートによって心神喪失、催眠状態といった「自身の意思があやふやな状態に」陥らされた者として罪状を判断されるケースに当てはめられるのだ。

「何にせよ、この状況が奴らが望んだものではあるだろうが、直接的に手を下しているのか、単にデクトマンド商会を介して『玩具』をばら撒いた結果起こっただけなのか、その事実関係が知りたいって事らしい。そういうわけで、お前らには調査を頼む。といっても深入りする必要は無いがな」
「んーつってもボス? 調べるったって何処を当たればいいんすか? まさか軍の詰め所に言って今まさに取り調べを受けてる様子を探ってこいなんて言わんでしょう? そんなのはアルセスとティエルにやらしてくださいよ」
「ちょっとエモンド。そんな不確かな情報を得るためだけにアルセスに危険な橋を渡らせようとか何様のつもりですか。まずは貴方が行ってくださいよ。捕まっても知らん振りしますけど」
「待て待て、お前らも頼もうともしてないことで喧嘩すんじゃねえ。オレ達が調べるのはこっちだ、こっち」

 そう言うとルガーは全員で囲むテーブルの上に地図を広げた。
 王都の地図だが、所々に丸で囲まれた場所が幾つか記された地図であった。これを見ただけで大半の者はまず何から手をつけるべきか理解したようである。

「とりあえず手分けしてデクトマンド商会の倉庫でも調べるって事か? 親父」
「ちょいと違うな。こいつはな『汚染されたオーファクト』が存在していると思しき場所だ。まあデクトマンド商会の連中のモノには違いないんだが」
「何でこんなに詳しくアタリをつけられてるんだ、ボス? 昨日だぞ事件が起こったのは」

 エモンドの質問にルガーは腕を組みなおして説明を続ける。

「元々流出した汚染オーファクトの追跡は仕事として依頼はきてたんだよ。今回の事件を受けて急遽オーファクトの回収だけじゃなくて事件全体の概要を掴んで来いって内容に変わっただけだ」
「ああ、そういう事っすか」
「……仕事としての内容は把握した。では各々がどこを担当するかだが……」

 地図と場所を見て、アルセス達は己の技術や得意分野を考慮して調査場所を選んで行く。
 必然、隠密スキルと特殊なアートを保有するアルセスとティエナには難易度の高そうな場所が割り振られていくのだが、これもまた適材適所であろう。

「わたし達は北区のスラム街に近いビルの調査ですか……ここの連中は本当に女性に対する扱いがなってませんね。わたしのような高貴な存在をあんな荒れ果てた場所に送り込むとか」
「並の連中じゃティエルに手を出そうとしたところで、触る前に瞬殺だろうが」
「ま、俺がやるか、ティエナがやるかの違いしかないかな」
「えー、わたしはアルセスが守ってくれるなら自分から動くなんてことはしませんよー? わたしは何せ守られるべき存在ですからね!」
「そうだな、俺も他の男がティエナに触れるのは許せん」
「……そ、そうでしょう、そうでしょう! うん、アルセス、今のはポイント高いですよ、わたし的に! お前の物感が強くてちょっとキュン来ました、キュン!」

 頬に手を当てて身をよじらせて喜ぶティエナに、アルセス以外の全員がそうかそうかと言わんばかりの表情で流した。いつものカップルの空気に突っ込むだけ無駄なのだ。悟りに悟りきったメンツが揃っていればこその反応である。

「オレは手堅く倉庫の方を調べてみるか……ジーゼン、オマエさんはどうする?」
「……自動車の販売を行っている会社の方を当たってみるつもりだ。部品や修理用工具に機械と、オーファクトを隠す環境になっているからな……どうも見る限り奴らが最近仕入れたモノはまだ市場には出回っていないようだ……商会の関連施設を押さえればいいだけならそちらの方が早い」
「どっちにしろ商会の連中とこれ以上繰り返す夜想曲(リピートノクターン)の連中が接触するとは思えん。情報を聞き出し、ブツさえ回収できりゃいいからあまり無茶はしねえようにな」
「了解っす、ボス」
「……了解」

 アルセスとティエナもまた作戦を考えている間に、他のメンバーの方針も決まったらしい。
 では動く算段をつけようかと解散しようとしたところで、ルガーが何かを思い出したらしくその背に待ったをかけた。

「この件に関しては複数の傘下のチームが動いてる。もしかしたらかち合うかもしれんが目的が目的だけに今回は競争は無しだとお達しが来てるんで注意してくれ」
「あー……ボス? 積極的に競い合ってんのはそこのティエル嬢ちゃんだけじゃないっすかねえ?」

 ニヤニヤと笑いながら言うエモンドだったが、事実他のチームとこれでもかと争いをしているケースはティエナとミーシャの二人であろう。
 そもそもギルドは積極的に争えとは言ってない。ただ、功績を争う側面はあるのであくまで平和的解決な方法として競争しあう場合のルールを設けているだけなのだ。協力して事が片付くならばその方が当然良いに決まっている。
 決まっているのだが。

「ハッ、エモンドってば何言ってるんです? あっちが頭を下げて協力を請うならわたしも譲歩してあげなくもないんですよ? そもそもあの小娘がわたしのアルセスにちょっかいを出すから毎度毎度争うハメになってるんじゃないですか。わたしのせいのように言われるのは心外です」
「……って自論を絶対に曲げないから、今回に関しては俺の方でどうにか帳尻を合わせるよ。ターゲットが被ってると言っても別に早い者勝ちってわけでもないからな」
「アルセス! わたし達にとってはギルドの評価は目的への近道なのに、あんな小娘に譲ってやることはないじゃないですか!」
「いやいや、争った挙句に依頼が失敗する方が怖いだろ?」

 それでもミーシャに一歩でも譲りたいくないと頑ななティエナのせいで協力関係は中々成立しない事の方が多いのだった。
 アルセスはこの難題、さてどう調整したものかと今から頭を悩ませるのであった。
色んなフラグがON。

※ 次回の更新は12月9日です。
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