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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第65話 とんぼ帰り

「……という感じでいい雰囲気だったのに、汚らしい声でそろそろ帰るぞーとか抜かしたルガーは最低最悪のオヤジだと思います。きっとリーンやレイリアも同意してくれるでしょうね」
「お前らの都合なんか知るか! ったく隙あらばイチャイチャイチャイチャ、団員からの苦情を受け取るオレの身にもなれ!」
「そんなことは知ったことじゃないですよ。独り身が寂しければ相手を見つければいいじゃないですか」

 ツーン、と不機嫌さを隠さないティエナはブリッジのオペレーター席の一つに座り作業をしながら船長席に座るルガーに文句を言い放つ。アルセスはその様子をいつもの風景だなと流しながら見守っていた。
 運行は順調。まだ日が沈むには早い時間だが、大陸に戻る頃には良い感じに夜になっているだろう。そうなれば行きの時とは違い王都近隣の人里離れた場所に現地の団員が運び込んでいるであろう車に乗り換えて王都に戻るだけで済む。日を跨がずして仮アジトに帰れるだろうとアルセスは計算していた。

「オレだってなあ! 娘と妻の顔が早く見たいんだよ! 仕事でなければこんな強行軍なスケジュール組んでねえよ!」
「何を報われない努力をしてるんですか。どうせ急いで帰ったって、リーンとレイリアはあれ? 帰ってたの? みたいな対応されるに決まってるじゃないですか。フィオネはきっとお篭もり中でしょうから出てこないでしょうし」
「やめろぉ! 父親の悲哀を抉るのはヤメロォ!!」

 そんな事はない、と断言できぬのがなんとも悲しい事か。
 一部の団員も涙を堪えるような表情で前を見つめている。アルセスもさりげに気の毒そうな沈痛な面持ちで額を押さえていたりする。
 フォローする言葉が見つからないので、アルセスは別方向からこの話題を終わらせる事にした。

「ティエナ、そういえば聞きそびれたたけどミラージュアークの方はどうだったんだ?」
「はい? ああ、問題という問題は全く無かったですよ。そもそもあの箱舟は長期的に陸地に戻れなくなるであろう人を保護するための目的で作られた物ですからね。数十年単位でほったらかしたくらいで何かが起こるような半端な記述の機構はしてないですよ。島を構成する土一つに至るまでノーメンテでも問題ないように自浄装置が組まれているくらいですから」
「作られた目的からすればまあそんなものか」
「ええ、そんじょそこらのオーファクトとは文字通り格が違うんですよ。だというのに、毎度毎度慎重にメンテを行えとかラークオウルはメンドウな事をさせますよね」
「一応上役にあたる組織に対する批判は控えような」

 誰も告げ口はしないだろうが一応窘めるアルセス。自由奔放すぎる相棒の為に気を使うのも彼の役目ななのだ。
 アルセスとの会話の方に集中することにしたティエナは鼻歌混じりに機器を操作しつつ話題を振る。

「アルセス、そういえば帰り際に積んでいたあの箱はなんです? 結構な大きさでしたけど」
「ああ、あれは島で獲れた野菜だよ。レストランや仮アジトの食材の足しにしろってさ」
「ふむ、いわゆる採れ立て新鮮野菜というやつですか。一定以上の技量の調理が出来る人間がいなければ素材がよかろうと料理の出来に大差ないでしょうが、幸いウチには腕利きが何人もいますからね」
「素人以上一般未満の腕前のクセによくもまあそこまで言い切れるなあ」
「れ、練習は重ねてますから! そ、そんな事言うと上手に出来ても食べさせてあげませんからね! アルセスの前で思いっきり美味しく食べて……食べて……うぅ……!」
「想像しただけで涙ぐむくらい辛いなら意地張らなくても良いだろうに……」

 本当に難儀な奴だ、と思いながらもアルセスはティエナの頭を撫でつつ慰める。
 その後も二人はとりとめのない会話をしながらいつしかのんびりと空の旅を楽しんでいた。飛行型の大型の魔物の姿なども見えず、やがて水平線の向こうから徐々に大陸が姿を現し始めている。ここまでの僅かな間にあっさりと機嫌を直す辺り、ティエナは単純なところもあるのだ。今更であるが。

「そろそろ光学迷彩(ステルス)を展開しろ。静音結界(サイレント)も同様にな」
「イエス、キャプテン」
「ティエナ、航行用エネルギーの割合を特殊システム用に割り振れ。それに合わせて速度も減速だ」
「はいはーい、了解でーす」

 この対応の差である。流石にティエナも意地を張って飛行艇に不調を出すのは本意ではないようだが、やはりアルセス以外の命令に対してはおざなりになってしまうのだ。
 扱いに差は生まれても至高なる存在と認めるのはアルセスだけであり、ルガーは例外の中でもややマシな方である。これでも。

「親父、前々から聞きたかったんだが」
「おう、何だ?」
「何で飛行艇の時は掛け声がキャプテンなんだ?」
「ああ? んなもん気分だよ気分! どうせならノリやすい方がいいってもんだろうが!」

 ガッハッハ、と高笑いをするルガーだったが団員たちの表情はやや冴えない。
 その顔は誰もが気にしたら負けだ、と言っているようにもアルセスには見えた。

「こういうところがアップダウン型の組織の悪い点だと思います。意味が無いなら意味が無いってはっきり言うべきではないかと」
「言うな言うな。別段何か特別な事をやっているわけじゃないんだから、親父の機嫌を損ねない方がずっといいのさ」

 あれでルガーも気分を害すると酒に逃げ、そして酔っては暴れ、最終的に沈めるのがフィオネやリーンたちに回ってくるという流れを考えると、団員達も誰に取っても得が無い意見など口にするはずもないのだ。
 例え裏稼業であっても組織というのは世知辛いしがらみが一つや二つはあるものだ。
 人間の社会の不合理さを知ったティエナはやはり人間って面倒ですね、と自分の事を棚に上げて結論付けるのであった。


 ★


 日がとっぷりと落ちた夜。
 夕食にはやや遅い時間になってようやくミラージュアーク出向組は仮アジトまで戻ってきた。
 店の裏手にある搬入口に荷物を運ぶ――ように見せかけアジトに荷物を降ろす際に使う収納量が大きめの鞄に箱を詰め込むと順番に梯子を降りて行く。この間も周囲の警戒は怠らず、目撃者が現れないように立ち回っている。荷物を運ぶ関係上、行きは列車を使ったが帰りは事前に用意させた車で王都まで戻ってきたのである。

「それじゃボス、俺達は車を例の場所に戻しときますんで」
「ああ、頼んだ。あそこから戻るにはちと遠いだろうが任せたぞ」
「いえいえ、駄賃で一杯引っ掛けてから戻りますんで」
「そうそう、偶には外で飲むのもいいもんっス」
「仕方のない奴らだな。程々にしとけよ? 明日からも仕事はあんだからな」

 ウイーッス、と分かったのかどうかよく分からない威勢だけはいい返事を残して二人の団員はそれぞれの車に乗り込むと通りに向かって走り去る。その間もアルセスとティエナは注意深く周囲を警戒していたが異常は無い。

「……問題なし。俺達も戻るか」
「ええ、そうしましょう。ほら、ルガーったらどいてください。わたしとアルセスが先に降りられないじゃないですか」
「お前は少しはボスを立てるってことを……するわきゃないわな」
「その通りです。ついでに言うなら殿を務めるのはボスの仕事じゃないのかという事です」
「ある意味正論だな、親父」
「へいへい、分かった分かった。押し問答してる時間が惜しいからとっとといけや」

 言われずとも、とティエナがささっと梯子を降り、アルセスもそれに続く。
 ルガーも最後まで気を抜かずに周囲をよく確認してから梯子に手をかけた。
 滑るように降りて軽やかに着地し仮アジトに戻った三人は広間に顔を出した。

「お帰りー」
「お疲れ様っすー」
「夕飯まだ余ってるけど食べる人ー」

 メンテナンスへの出向組を労う団員たちで賑わう広間を抜けて、アルセスとティエナはまず食事をもらうことにした。食堂に向かうと宣言通りまだ今日の夕食は数人分残っているようで、給仕をしている女性団員に声をかけて二人はそれぞれの取り分をトレイに分けてもらった。

「む、今日は白身魚のソテーにピラフですか。しかもこの刻んだハム……相当良い豚だと見ました」
「ああ、仕入れ先の肉屋がいいのが入ったって言うんで上の今日のメニューはそれを使ったサラダを出してたんだよ。端っこの肉と残ったのを使ったからちょいと形は悪いが味は絶品だよ?」
「そこを疑ったつもりはありません。さあさあ、アルセス、ささっと食事にしましょう」
「はいはい、分かったから落ち着けって」

 少々旅が長引いたので空腹なティエナはおいしそうな夕食にテンションが上がっているらしい。
 コンソメとタマネギのスープをマグカップにもらい、アルセスとティエナは食堂の隅の方のテーブルについてゆっくりと食事を始めた。

「うーん、バターとハムの絶妙なハーモニー……相変わらずここ料理担当の団員の腕前はレベルが高すぎます」
「前半の台詞はにこやかな笑顔、そこから一転後半の台詞は苦々しい顔でと忙しい奴だなあ、お前は」
「自分の気持ちに正直だと言ってください」

 素直に料理の感想を喜べばいいものを、自身の腕前との比較によって未熟さを実感させられたゆえの苦みである。
 とはいえ楽しそうに食事をするティエナも可愛い、と思っているアルセスはそこまできつく注意をすることは無い。だからティエナも改める事はないと悪循環なのだが誰もそれを責める者はいなかった。何度も言うが、言っても無駄だと悟っているからである。言っても無駄なことが多すぎる組織、ダンセイル一家。

「わたしも努力を積み重ねているはずなんですけどねー。何故かこう人間の営みに関しては軒並みなかなか身につかないというか……」
「人間と一緒で向き不向きってのがあるんだろう。ティエナが努力してるのは俺も知ってるし、急ぐ必要は無いさ」
「ぬう……本当はこうあんまり必死に努力をするという泥臭い姿はあざといので見せたくないんですけど」

 努力を認められているのは嬉しいが、中々上達しない自分の不甲斐なさを知られているのも不満なのか、ティエナは複雑な感情そのままの表情でスプーンを咥えている。
 アルセスも気持ちは分からなくも無かったが、重要なのはそれが自分のための努力という一点に尽きる。どれだけ不恰好であろうともそれを笑うことは決してない。

「気持ちは分かるが、変に隠そうとするよりいいだろう。そういうのって妙な方向に拗れたりする原因になるからな」
「そういえば前に住んでいた街でもいましたね、そんなカップルが」
「ああ、妙に自分に自身の無い男と、プライドが人一倍高い女のすれ違いな」
「女の方はこっそりプレゼントを仕上げたいだけだったのに、男が自分に原因があると思って妙に気を使いすぎちゃったんですよねえ」

 そして女性の方はそのせいでますます隠れて作業をする時間が減り、つい男を怒鳴りつけてしまったのだが、それが引き金となって男は行方をくらましてしまったのだ。
 その事情を偶々知る事となった二人はアートを駆使してまで男を追跡し、誤解を解くのに奔走したのだがティエナはその事件を経て、男女の関係というのは善意であっても時に破滅に繋がりかねない事件を導きかねないのだという事を学んだ。
 意思疎通は何より大事。理解のすれ違いは必ず不幸に繋がる、と。

「サプライズも良し悪しだとわたしはあれのお陰で知れました。まだまだその……わたしは人間の女の真似事をしているだけかもしれませんが、そこは高貴にして類稀な叡智をも持つわたしですので! 学習と実践の積み重ねでフォローします!」
「十分すぎるほど恋する女の子をやってると思うけどな、ティエナは」

 アルセスは微笑みながら言うが、その台詞はティエナに効いた。それも抜群に。
 ボン、という音がしそうなほどに一瞬で真っ赤になったティエナはあたふたとアルセスに返す言葉を探すが頭が回らなくて思いつかず、

「……アルセスのばか」

 拗ねてそっぽを向きながらそう一言言うのが精一杯だった。
 周囲の人間が料理の半分も食べ終わらないうちに満腹を訴えそうになるトークを意識せずにやる二人は実に罪深かったが、団員達は半ば諦めの境地である。
 そんな空気に触れずに済んだ一人の男性の団員が、そんな良い空気をぶち壊しにするかのようなタイミングで二人に声をかけた。中々の勇敢な男である。

「おう、アルセスにティエルちゃん。丁度良かったぜ、二人の耳にも入れておいたほうがいいかと思ってよ」
「この微妙な空気も怖れないとか……って何ですかそれ。新聞?」
「ああ、それもさっきばら撒かれた号外だぜ。これ見ろ」

 二人は広げられた新聞紙に大きく踊る文字を見て目を見開いた。
 そこにはこう書かれているのだ。

 王宮勤めの文官の一人が凶弾に倒れる、と。

むしろどうやったら砂糖を排除できるんだ。
戦闘方法すらイチャラブのこの二人から。

※ 次回の更新は12月7日です。
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