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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第三章 完成していくパズル

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第63話 ダンセイル一家の本拠地

 雨の上がった爽やかな朝。夜が明けて間もなく発車した始発の電車に乗った二人は一路、王都ゼルダンタより東、荒野を突っ切る路線を走る列車で宿場街へと向かった。
 魔物避けの有刺鉄線とフェンスで囲まれた線路の旅は順調に終わり、昼を迎える前には二人は町へと到着した。その後、彼らは街を早々に出て荒野の外れの方へと歩いて行く。

「全く……『領空』という概念が生まれてからというもの、飛行艇の運用もデリケートになりましたよね」
「まあ、アルデステンはまだマシな方だろう。少なくとも人里から離れた場所を飛ぶ分には問題ないんだから」

 国によっては巡回用の軍用飛行艇を国内の領土全域をカバーできるように配備しており、国に未届けの飛行艇や不審な飛行艇など見かけようものなら即座に近づいてきてコンタクトを取る。下手な対応によってはそのまま空中戦にもなりかねないほどに過激な国もあり、人類が空に進出したばかりの頃と比べて不自由なイメージが先行するのは否めない。
 それでも人類が翼を得たことは大きく時代を動かしたともいえる。そうして手が伸ばせる範囲が広がった事で守ろうとする範囲がまた広がったというのは致し方ない側面とも言えるだろう。

 そんな事情からいかに飛行艇を所持しているとはいえ何の対策もなく大っぴらに使うのをダンセイル一家は避けていた。無駄な揉め事の火種は蒔かずに済むならそれに越したことはないという精神である。

「とはいえミーシャとかは高速艇とはいえおかまいなしにあちこち飛ばしてるらしいんだよな。一触即発の状況を進んで作りたがるのはどうかと思う。いくらアルデステンでも目をつけられると思うんだが」
「いいじゃないですか。あの目立ちたがりが国の目を引き付けてくれるなら問題ありません」
「無駄に国を刺激しないで欲しいって意味だったんだけどな。ただでさえ、今の王都には三組織の傘下の連中が入り乱れてるんだし。あんまり警戒度が上がると仕事がし辛くなるんだが」

 ラークオウルはその中でも穏健派な方だという自覚はあるアルセスだったが、だからといって国がそれを考慮するはずもない。国家に属さぬならず者、そのカテゴリーで一括りにされるだろうし、されて当然だとも。
 そんな事を語りながらアルセス達は目的の場所についた。
 比較的岩山が目立ちあまり人が通らないであろう荒野の外れ。一見何もないそこには――搭載された光学迷彩(ステルス)によって偽装されたダンセイル一家の小型艇が着陸していた。
 アルセスはティエナのアートによって小型艇がしっかりと見えているが、生半可な人間ではここに飛行艇が存在するなど見抜くことは出来ないだろう。彼らが近づくと船底側面からタラップが降り、二人は当たり前の様に中に乗り込んだ。

「よしよし、しっかり時間どおりだな」
「あれ、親父も一緒に行くのか?」

 船内に入ってすぐ、相変わらずの厳つい顔でルガーが二人を出迎えた。アルセスは普通に聞き返したが、ティエナは露骨に嫌な顔をした。正直すぎる娘である。

「アルデステンでの仕事は長引きそうだからな。アジトを空ける期間が長いと色々問題が起こるかもしれん。見に行ける時は見に行って近況を把握しておかんとな」
「何ですかそのトップっぽい発言は」
「自他共に認めるダンセイル一家のトップだよオレは!」

 そうでしたっけ? などと言いながらティエナはさらっとルガーの隣をすり抜ける。

「アルセスー、わたし疲れたのでいつもの客室にいますからー」
「ああ、俺も話が終わったらすぐ行くよ」
「あんまりわたしを待たせたらダメですからねー」

 などと言っているがティエナは例え焦れるほどに待たされても口では文句を言いつつもアルセスを責める様なことは一言だって言わないだろう。拗ねはするかもしれないが、アルセスからすればそんなものはティエナの可愛い一面に過ぎないと断言しているので何も問題はない。
 勝手気ままに去っていく彼女の背中を見ながらルガーはやれやれとため息を一つ吐いた。

「今更だがお前は本当にあれとよく付き合っていけるな……あんな面倒な天邪鬼と呼吸ピッタリに合わせられるのは世界の中でもお前くらいだろう」
「うーん、何だかんだで十年くらいの付き合いになるし……スキンシップが出来るようになってからも三年経ってるからな。ティエナがどんな娘なのかなんてのはわかりきってるし……全部とは言わないけどさ」

 女の子の全てを知り尽くすことは出来ない。お互いに分からない部分はある。だからこそ言葉と気持ちを交わすのだろう、とアルセスはこの歳でそこまで悟っている。だからこそ、ティエナのような少女と長く付き合えるのだろうし、付き合ってきたからこそ理解したとも言える。

「まあ、惚れた相手がどんな女だろうと合わせるようになるのは男のサガか」
「そういう事。惚れた方が負けるのは恋愛の常なんだろ、親父?」
「オレにそれを言うんじゃねーよ、ったく……」
「前から不思議なんだけど、義母さんは一体親父の何処に惚れたんだか。ウチの七不思議の一つとまで言われてるからいい加減知りたいんだけど」
「うっせー。少なくともオレの口からは絶対に言わん。フィオネから聞くんだな」
「聞いてもいいのか?」
「おお、聞いてみりゃあいい。アイツも絶対に言わないと思うが……忠告はしておく。本当に聞きたいのか? フィオネの口から、オレ達の馴れ初めを?」
「…………よく考えるとあまり聞かないほうがいいような気がしてきた」

 フィオネからすれば単なるノロケの一つに過ぎないかもしれないが、あれで義母は興が乗るとそれはもう凄まじい甘さを撒き散らすことがある事をアルセスは知っていた。ルガーも割と真面目に忠告しているのはその一点があるからだろう。
 だが、当のアルセスとて普段から団員が苦情を上げる程に甘い空気を醸しだしている事を当人は気づいていない。義理の両親を見て己の行為を振り返るべきであろうが、それを指摘することは誰もない。

 言っても無駄だと誰もが既に諦めてしまったからである。


 ★


 そしてひっそりと隠れたまま飛翔した小型艇はモードス大陸を離れて海上に出る。
 大きく南下し大陸が見えなくなるほどの洋上に出たあたりで徐々に高度を下げて行く。
 見渡す限りの海という海。計器類の発達により現在位置を見失うことは無いが、仮にもアジトに向かうというのに何故海へ向かうのか。
 その答えが間もなく現れる。
 一つの島が徐々に近づいてきたのだ。
 しかし、それは小型艇がそちらに向かっているからではない。いや正確にはそれだけではないという事だ。それは――向こうからも近づいているという事。
 客室で休んでいたのも束の間の事、到着が近いからとブリッジに呼ばれた二人は目の前の窓から見える光景にようやく着いたかと感動の薄い反応であった。

「しかしまー非常識なアジトだよな。ティエナのお陰ではあるんだけどさ」
「そうでしょうそうでしょう。元々はただの島だと思われていた――箱舟型オーファクトですからね、あれは」
「オレぁ別に動かす必要はなかったんだが、いざ海を自由に行けるとなると意外と便利なもんだって事に気づかされたからな……あんまりコストもかからんし」

 箱舟型オーファクト――名をミラージュアーク。

 大きさは本当に小さな無人島というサイズで、島の周囲を歩くだけでも小さな村か街ほどという海を飛んでいれば度々見かける島の外見でありながら――内部に崩壊期直前の技術が惜しみなく使われたオーファクトであったという事実が、アルセスを連れて帰還した事で発覚したダンセイル一家が所有する最大規格のオーファクトである。
 元々その事実をルガーが知っていたわけではない。
 小型艇を有していたダンセイル一家は他の国の領海から外れていたこの島にアジトを作り、自給自足の仕組みは当初から出来上がっていたのだ。足りないものは飛行艇で町まで飛んでいって仕入れればよいし、飛行艇の動力機関は当初からベルセルス式が導入されていたので周囲の海の魔物でも狩っていれば燃料にも困る事は無かった。
 しかし、ウェバルテインを持ち帰ったことでその事情は激変する。
 島の中心に位置する小さな洞窟――にカモフラージュされていたのはそこから地下に相当するオーファクトの管理室へと繋がる入り口で、当時まだウェバルテインより実体化は出来なかったティエナであったが彼女の導きに従ってルガーが制御装置を弄った結果、単なる無人島は移動型拠点へと変貌を遂げたのだ。

 小型艇に搭載されている光学迷彩(ステルス)はこの島に搭載されていた展開型の隠蔽結界の機能をコピーして移植したものである。
 蜃気楼(ミラージュ)の名が示すとおり、この移動型のオーファクトは現代の技術では発見が困難な結界を展開しながら、自走が可能という規格外の箱舟だった。
 海水から真水を作り出す装置によって浄水器が不要となり、地表の地質を操作することによって幅広い農作が可能になり、それによって餌をまかなう事が出来るようになったため牧畜まで行っているこの島はまさに天然の要塞だ。移動自体のコストさえもそれほど大きくなく、設置している海水からエネルギーを分解抽出するというローコストっぷりにまさしく人類を生かすための箱舟とはよく言ったものだとルガーは呆れるやら感心するやらであった。

「だけどまあ、それだけに扱いには慎重になって上にも注意されるハメになっちまったがな」
「その程度の事を気にする必要はないじゃないですか。あれ、防御と逃亡に特化してるから武装は一切ついてませんし」

 ティエナの言うように島へ上陸させないとする機能は充実しているのだが、一方で敵を撃退するような手段は一切搭載されていない。そもそも発見さえされないという状況になっているのが常なので必要ないと言えばそれまでだが、魔物は別だ。特に結界の内側の海に発生した魔物に関しては一切抵抗する手段がないので、このアジトの管理を担当している団員は全員何らかの戦闘技能を保有している。
 だからこそあまり危険視はされないので、個人が所有する事を認められているオーファクトでもあるのだ。場合によっては侵略兵器にもなり得たオーファクトだが、大量輸送が可能な大型戦艦などが建造されつつある昨今の事情で言うならば、この箱舟型オーファクトは隠密性以外はあまり見所はないと言えるだろう。

「それじゃそろそろ着陸するぞ。すぐに仕事を始めるからティエナは準備しておけよ」
「あーもー、面倒ですねー。マニュアルは渡してあるんですし、わたしが一々見に来る必要はないんじゃないですか?」
「仕事中ならそれもいいだろうが、今はヒマなんだから何かあったときの為に備える必要があるだろうが」
「顔に似合わず慎重なんですから、ルガーは」
「顔のことは余計だ!」

 操舵手や他の団員たちが笑いを噛み殺す中、小型艇はゆっくりと海上スレスレへと高度を落とし、やがて島の入り江となっている場所へと着水した。
 この箱舟型の島の形状はほぼ円に近い形であるが、入り江となっている部分が若干欠けているような形になる。海岸線などもまるで自然に形成されたような形になっており、かつてルガー達が最初に上陸した時も無人島だと信じて疑わない程に動植物なども育っている。
 荷物を持って島に降り立つと、爽やかな潮風が団員たちを出迎えた。海岸から奥の方へと進んで行くと、持ち込んだ建材で作った二階建てのシンプルな家屋が建っていた。海の近くであるからと潮風や湿気に強い建材で建てられたそれは大掛かりな改修などを行わなくともなお健在で団員たちを出迎えている。

「さーて、そいじゃさっさと仕事を済ませるか。ティエナ、行くぞ」
「わたしに偉そうに命令しないで下さいよ何様のつもりですかルガーは」
「一家の長だよ! 一番偉いんだよ!」
「うわー、こうして権力を振りかざすサイテー親父にはならないでくださいねアルセス」
「いや、俺はそんな事しなくてもティエナは何でも聞いてくれるし」
「な、なんでもは……そんな事はなくもないですけど、それはアルセスが節度と礼儀を弁えているからで……ゴニョゴニョ」

 言葉尻が沈むようにティエナはチラチラとアルセスを見ながら訴えたが、当のアルセスは無自覚のまま笑顔でこう言った。

「帰る前に少し島を散歩しようか。折角久しぶりに帰ってきたんだし、リフレッシュしてから帰ろうぜ」
「今のアルセスの一言でやる気が出ました! ルガー、こんなつまんない仕事さっさと終わらせますよ!」

 恋する乙女は今日も現金だった。

飛行戦艦と思わせて〇ょっこりひょ〇たん島だった件について。

※ 次回の更新は12月3日です。
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