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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第59話 反省会の光と影

「……確かにそう言ったのか?」
「ああ、間違いなく」

 連絡してから程無くして迎えに来た飛行艇に乗って秘密裏に王都へと戻った翌日。
 エモンド達から一日遅れてアルセスとティエナは自分達が遭遇した相手のことや状況などをルガーへと報告していた。まだ眠いのか、重要だとは判断していないのかアルセスの側に立っているティエナはあくびを噛み殺していたが。

「……アルセス達から汚染されたオーファクトの話を聞いたときからもしやとは思っていたが……連中、また活動を再開したのか。ったくマスターの予想は悪いときばっかり当たりやがる」

 ガシガシとぶっきらぼうに頭をかきながらぼやくルガーだったが、その表情は固い。
 スーツの男が残した言葉はラークオウルにとってはそれほど大きな意味だったのだろうか。アルセスは口を挟む事無くルガーの次の言葉を待つ。

「アルセス、十年前にお前を村で拾った時の事情は話したことがあったか?」
「……確か……ウェバルテインの流れを追ってる最中に壊蒐者(エグゼキューター)の動きを掴んだから……だったか?」
「覚えてたか。だがな、そもそもウェバルテインを追っていた事情までは話していたか?」
「いや、聞いてない。元々ラークオウルは『一品物』のオーファクトを重点的に回収あるいは破壊しているってのは最近の活動で分かってたからその内の一つだったんだと俺は思ってたけど」

 一品物、いわゆる同一のオーファクトが複数存在しないオーファクトがこの呼称に該当する。
 アルセスのウェバルテインに代表されるように「色々と」事情があって量産や複製はされず、あったとしても劣化した型落ち同然の物があったりするだけのオーファクトをラークオウルではこのカテゴリーに統一している。
 ウェバルテインの規格外っぷりを見れば理解できるだろうが、一品物は極めて高い独自性を有したオーファクトであることが多く、それ故に扱いが限られる。異常な事件の裏には大抵これらが絡んでいるケースもあり、ラークオウルの方針としては情報が掴め次第優先的に確保しなければならない物なのだ。

「当時、ラークオウルと表立って対立していた組織との戦いの最中、結構な数のオーファクトが流出した。ギルドが襲撃された件もあるが……明確な悪意と計算の元に流出させ混乱を拡大させるために暗躍していた組織があったんだ。壊蒐者(エグゼキューター)の連中ともまあ派手にやりあうくらいにな」
「それが……まさか?」
「そうだ、太陽に仇なす者は通り名。その組織の名の正確な名は『繰り返す夜想曲(リピートノクターン)』、オーファクトを使い世の混乱を楽しむ者達の集まりだ」
「方針からしてラークオウルとは真っ向からぶつかってるわけだ。そして性質上、再神教会とも険悪、と」
「単純な対立構造としてはそうなる。だが、あいつらの厄介なところはそれで抗争やら戦争やらが起きたとしてもそれを楽しんじまうような連中が多いって事でな……。それに自分達が巻き込まれてなお構わんという完全な享楽者達の集まりってところだ。再神教会とは別の意味で厄介なんだ」

 事実、壊蒐者(エグゼキューター)繰り返す夜想曲(リピートノクターン)の組織との間での戦いはどちらも周囲に配慮などというのは無縁のため、十年前はあちこちの国でかなりの被害を出していたとルガーは語った。
 その言葉にアルセスの脳裏に一瞬だけ過去の風景が蘇る。
 雨と黒煙が彩る灰色の故郷。全てが焼け落ち、今はもうかつてがどのような姿であったか思い出せぬ遠い日の風景を。

「お前を拾った時は正直オレは連中の残党でも来たのかと最初は疑った。まあ、すぐに壊蒐者(エグゼキューター)が暴れたんだと分かったがな。あまりにも無節操なやり方を見て」
「あれ半分はわたしがやったのもありますけどね……あの時はアルセスの命をギリギリまで使いかねない勢いでしたから。わたしも既に燃え落ちている村へ配慮をする余裕はなかったです」
「だけどまあ、ティエナのお陰で俺は助かったわけだしな」

 当時、自分の命を守ったのはウェバルテインとティエナであることをアルセスは知っている。
 当の本人は暴走させるままにウェバルテインを振るって壊蒐者(エグゼキューター)を撃退したのだと思っていたが、事実は違う。
 ティエナの綿密なコントロールによってアルセスはウェバルテインに己の力を吸い尽くされる前に敵を撃退しきったのだ。本来であれば子どもの命などあっという間に食らいつくしたであろう魔剣を使ってなお生き延びる事が出来たのは彼女の力があればこそであった。
 そんな過去の話を唐突に思い出したアルセスだったが、その余韻はすぐに疑問によってかき消されることになる。

「だけど親父。今、残党って言ったよな。俺の村に来た時点で例の組織は壊滅してた……というか壊滅したと思われてたって事なのか?」
「ああ、本当にあの日の数日前だよ。ギルドの総力を挙げての殲滅戦。再神教会と派手にやりあった一部の支部から結構な場所の支部の情報が割れてな。そこから本部まで探り当てるのは難しい話じゃなかった」
「なるほど、そんな危険思想の連中が再び世に舞い戻ったかもしれないと。ホント、そういう人間ってしぶといと言うか、放っておくとどこからか湧き出してくるというか。夏場の害虫ですかね、まったく」
「ティエナの気持ちは分かるけど、状況が状況だけに楽観視は出来ないぞ。それに、名前を騙っただけで本当かどうかはまだ分からない」

 それだけ派手にやりあっていたのならその存在を知る者は何も関係者だけに留まらないだろうとアルセスは推測した。
 しかし、ルガーはその意見にやや否定的なようで難しい顔をしたままこう言った。

「……いや、ここ最近の『汚染者』の数といい、押収したブツといい組織の復活まではまだ疑ってもいいが、残党か関係者が関わっているのは間違いない。量産型オーファクトの質の悪いのが放置して狂っちまうってのは今までもあったが――人為的に汚染させる記述の組み方を最初に開発したのは奴らだと聞いている」
「ちょっと待ってくれ、親父。意図的に汚染したオーファクトを作れるのって初耳なんだが? 無管理状態で放置されてたりすると記述がおかしくなって汚染されちまうって認識だったんだけど」
「そもそもオーファクトが人間の心気を用いる以上、何らかの形で人体に作用しているのは知っているだろう? オーファクトのマスターデータの記述の根幹にそういうのがある以上――そっち方面に特化した研究をしていた奴がいるのも事実だ」

 ルガーの言うように皮膚接触程度で人体に作用する機能がオーファクトに備わっているのは事実である。そしてその原理がオーファクトの動作や能力に関わるデータの記述部分にあるのは当然だ。突き詰めていけばそれは人間の身体そのものに干渉する原理に行き当たるのも理屈としては理解できる。
 アルセスは仕事柄、オーファクトのメンテを怠る事で起こる様々な不具合を見てきた。
 複雑な機構を有したオーファクトの場合は物理的な故障であることが大半だったが、中には文字の羅列である記述部分、データの内容がおかしくなっていることが原因であったオーファクトもあり見た目では分からぬその異常をティエナがあっさりと指摘し、そしてあっさりと修復していく事に目を見開いて驚いた事もある。
 それくらい門外漢にとっては記述というのは理解の及ばない領域だ。そこに意図的に手を加え、人を簡単に狂わせる道具を生み出すとはつくづくオーファクトは底が知れないとアルセスは認識を改めた。

「エモンド達が持ち帰った品の中に、いくつか汚染されたオーファクトが混じっていた。締め上げたら奴ら、何の前触れも無く現れたスーツの男に、こういう商売で稼ぐ気は無いかと持ちかけられたとな」
「汚染されたオーファクトをばら撒くのをか?」
「元々手広く商売をやっていたそうだからな。お上にバレない流通口もあったんだろうよ。売った金に加えて協力報酬まで貰えるんなら、事業の一つが大失敗して大赤字を出しかけていたデクトマンド商会としては飛びつかないわけにはいかなかったんだろうさ」
「或いはスーツの男がそこまで読んでいた可能性もあるか……」

 ルガーは無言のまま首を縦に振って肯定する。汚染されたオーファクトによる汚染者とは相手を選ばない。それこそオーファクトの適性が無くとも所持した瞬間にオーファクト側に徐々に取り込まれるという悪質極まりない性質があるのだ。
 これはどのようなオーファクトにも共通で、どのオーファクトにも存在する根幹の部分で人を取り込む何かがあるのではないかと推測されているが、表と裏、両方の組織による研究でも未だに答えが出ていない。そしてティエナですら汚染されたオーファクトは管轄外、との事で結局詳しい原因は判明していないのだ。
 だからこそ、汚染者による異常事件というのは何の前触れも無く唐突に発生するのである。対処の難しい難題として何処の国も頭を抱えている厄介事の一つなのであった。

「上にはこの事は重要な報告としてあげておく。お前らも何か掴めたら教えてくれ。どんな些細なことでも構わん。再神教会同様、連中も目的の為なら表沙汰になるのを構わんタチだからな」
「了解。俺達も気をつけるようにするよ」
「おう、そうしてくれ。んじゃ、次に今回の仕事の件だが……」

 残念だったなと言わんばかりのルガーの表情にアルセスもティエナも察した。

「やっぱり潰れた車代でパーか」
「分かっちゃいましたけど、せめてお小遣いくらいはくれないんですか、ルガー」

 ティエナがしかめっ面で訴えるがルガーも弱ったような顔で答えるだけだった。

「お前らの言いたいことは分かるし不可抗力なのも分かっちゃいるんだが……組織としてやってる以上は共用の車だったから補填しない訳にはいかんからな……」

 無論、一家として保有している車がアルセス達が潰されてしまった車一台だけというわけではないのだが、だからと言って補填しない訳にはいかない。だが、その金はどこから捻出するか? その問題にぶち当たった場合、真っ先に槍玉に挙げられるのはやはり関係者が妥当だ。
 今回の多くの押収品は一部のオーファクトを除いて殆どが真っ当に処分できる品であり、なおかつ悪質な品を除けば、武器、資材共にかなりの額で売り払えることが分かっており、ダンセイル一家の在庫に一部確保しても団員一人一人にかなりの報酬が行き渡るはずだったのだが、アルセスとティエナの分は車の補填代に充てるだけで吹っ飛んでしまったのだ。
 この事態は予想していただけにアルセスは異を唱えず、ご主人様が納得しているのだからとティエナも不満げながら頷いたのだが。

「それにレイリアが今度改造するベースにする車はグッサン社のがいいって言うからよ! ちょっと娘の為に奮発したかったからな! まあ、許せ! 家族のためだ!」

 というルガーの余計な一言で台無しになった。
 アルセスはああ、いつもの病気かと言わんばかりに手で顔を覆って諦めるだけだったがそれでティエナが納得するはずも無い。

「ちょっと待ってください! 百歩譲ってレイリアの要望を聞くのはいいとしてもその分にわたし達の取り分が全部飲まれてるってどういう事ですか!? 足りない分はルガーのポケットマネーで補うべきでしょう!?」

 詰め寄るようにルガーに食い下がるティエナ。

「えーい! うるせぇうるせぇ! 報酬がない分はティエナはアルセスにサービスしてもらえばいいだろうが!」
「そんなものいつもやってもらってるんで報酬になんかなりません! むしろわたしも倍返しするのでイーブンです! というよりもそんな形でアルセスが割りを食うのは許せません!」
「お前、自分の取り分がないって事で怒ってんじゃないのかよ!?」
「わたしの物はアルセスの物! アルセスの物は二人の物なんですから当然じゃないですか!」
「お前、いつもの高飛車捻くれ発言はどこ行った!?」

 怒りに火がつき普段のスタンスを忘れたティエナはルガーがたじろぐほどの勢いで詰め寄ったが、結局結果は覆る事無く、ふて腐れたティエナをアルセスは一晩かけて慰めることになった。
 こうして襲撃計画は一家的には成功という形で落ち着いたのだが、この話には後日ちょっとしたオチがつく。
 この騒動を耳にしたリーンがこっそりレイリアとフィオネに告げ口し、その直後にアジトのどこかから泣いて許しを請う中年親父の声が響いたとか響かなかったとか。
ティエナさん、今回は激おこばっかりでしたが、
何故か一緒に砂糖も撒く。何故だ。

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