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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第57話 逃走と闘争

「そんなもの!!」

 ティエナはアルセスを庇うように障壁を展開させた。
 連鎖的に起こる爆発が土砂を巻き上げ土煙を起こし衝撃と熱風が二人に襲い掛かるもその全てを不可視の壁は防ぎきる。

(さっき投げたのは手榴弾かよ! くそ、俺としたことが!)

 単発の手榴弾がこれほどの連続した爆発を生み出すはずが無い。爆炎にまぎれて続けざまに二度、三度と投げ込む事でこちらの動きを封じたのだとアルセスは歯噛みした。

(いや、違う。足止めにしかなってないのはティエナの障壁が強固だからだ。本来なら一度目の爆発の時点で大抵のやつなら距離を取る……ん?)

 思考を続けていたアルセスはここで違和感に気づく。
 追撃を繰り返すでもなくまるで自分達を包囲するように四方八方を爆破するのは攻撃としてはやや不十分。かといって車を狙って足を潰そうとしているわけでもないこの攻撃の意図は一体何処にある?
 その疑念はすぐに晴れる事になった。
 爆炎が止み、煙が風で散らされるとアルセス達の目の前にはフレリクただ一人がいるだけであった。
 それを見て二人は即座に相手の狙いを悟る。

「なるほど攻撃すると見せかけて片方を逃がす作戦でしたか」
「まあな。車に乗ってる間もそっちは妙な力を使ってたようだからな。動くよりも守りに入るだろうと思ったが、上手く乗ってくれて助かったぜ」
「敵の手の平の上で踊ったのを褒められても嬉しくないね」

 視界を塞がれていた事もあってフレリクの後ろに控えていた車がどちらに逃亡したかは予測が付かない。痕跡も残っていないし姿は無い。加えて間もなく日も落ちるとなっては今からでは追跡は絶望的だろう。
 そしてアルセスとティエナの都合上、二手に分かれるという手も使えない。
 アルセスが残りティエナが追跡したとしても一定の距離が離れてしまえば彼女はウェバルテインに引っ張られ、アルセスが運転したとしてもティエナが残り続けることは出来ない。
 逃げた、という事は重要な情報はスーツの男の方が持っている可能性が高いので二人で今から追跡する事も考えたが、油断なくこちらを窺うフレリクをかわして再び車に乗り込むことは出来なさそうだった。

「参ったな。車から降ろされた時点であっちの勝ちだったか」
「やっぱり問答無用で爆破するべきでしたね」

 実に不穏当な台詞であるがアルセスも本音で言うならば相手のペースに乗らずに問答無用で仕掛けるべきだったかもしれないと若干の後悔があった。情報収集が第一だったとはいえ相手にイニシアチブを取らせてしまったのは失策であると。
 目の前のフレリクは既に仕事は果たしたとばかりの顔で薄ら笑いを浮かべている。この状況で何故笑えるのかを考えれば理由は明らかだった。

「アンタ、自分が無事でいるつもりはなかったんだな」
「まあ、そういうこった。俺が請けた依頼はあのダンナの護衛だったんでな。んで、お前らも察してる通りたーだ逃げるだけじゃちょいと不都合だって言うんでこうして小細工を弄したってワケよ」
「捨て駒同然に使い捨てられただけじゃないですか? 物は言いようですね」

 実際にはフレリクが言い出したことでありティエナの指摘は的外れではあるのだが、状況だけを見ればそうとしか見えないだけにフレリクもその点を訂正する事はなかった。
 自身の仕事に対するプライドゆえに、などという青臭い主張を通すつもりも無かったしそれに対する理解も求めていない。彼はただ仕事を遂行するのみである。
 最高の結果が無理ならば最善を尽くす。
 そこに保身は含まない。自己犠牲を尊いと思う気持ちはフレリクには微塵もないが、仕事の達成を秤にかけたのならば、その手段として自分の身の安全は捨てる。それほどに彼はフリーの用心棒としてのスタンスに誇りを抱いている。
 不穏な仕事ばかり請けていても、仕事そのものをいい加減にはこなすつもりはない、と。

「ま、アンタらがどう受け取ろうとそっちの好きにすればいい。が、ちっとは遊びに付き合ってもらうぜ? すぐさま追いかけられてダンナに追いつかれたんじゃあ俺の立場が無いんでな」
「よく言うぜ。この状況でどっちに逃げたかも分からない車をどうやって追うんだよ」
「お前らワンダラーだろう? 普通だの常識だのって言葉が当てはまらないような相手にゃあいくら用心しても足りないってな。歩くびっくり箱みたいな連中相手に普通の戦術なんざ無意味だろ? 今だって手持ちの爆弾全部使ったってのに無傷じゃねえか」

 飄々としている割によく考えている。言動や表情から情報が読み取れないタイプか、とアルセスは警戒度を高めた。この手合いは騙し討ちも上手い。騙してやるくらいの意気込みで挑まなければ多少の有利など引っくり返してくるだろうと。

「ティエナ、目の前のオッサンはエモンドタイプだ。正攻法の裏に意外性を仕込んで人を騙して喜ぶ手合いだから、まともに相手をしないつもりで行くぞ」
「分かりました。最初から消し炭にするつもりで挑めばいいんですね」
「……まあ、うん、後で多少情報を抜けるくらいにはしといてくれ。その余裕が無ければいいけど」

 殺気全開のティエナは普段の高飛車な態度も何処へやら冷徹に相手を倒すことだけに専心している。

 相手が力を誇示するならばそれ以上の圧倒的力で潰し。
 つまらない策を弄するならばそれ以上の圧倒的力で潰し。
 恐れて背を見せ逃げるようならばそれ以上の圧倒的力で潰す。

 とにかく持てる限りの力で潰す、という単純にして一番厄介な精神状態になっている事に、アルセスは少なからず相手に同情した。この状態に入ったティエナは目的を達するか標的が視界からいなくなるまで元に戻らない。それだけ、アルセスに関することでティエナを怒らせるというのは鬼門なのだ。
 それこそ普段のエモンドへの対応などが可愛く見えるレベルである。あれで、ティエナも多少は仲間内に対しては手加減しているのである。それが必要ない敵が相手ならばどうなるかと言えば。

「アルセス、ちょっとだけ力をもらいますね」
「ああ、そっちは大丈夫だ――が」

 横目でティエナを見ながら返事をしたアルセスは映った少女の姿に思わず絶句した。
 ウェバルテインを抜こうと動かした手が思わず止まるほどに。

並行(パラレル)処理(プロセッシング)開始。多重(マルチプル)心機述構(グリモワルアート)展開。対象を指定……完了。範囲指定……完了」

 金の髪を持つ少女は全身より迸る黒いエネルギーを溢れさせていた。
 傍から見ればそれは心気が立ち上っているように見えるだろうが、アルセスは知っている。これはウェバルテインによって変換されて生じる、かの魔剣より生み出された上位のエネルギー。ティエナの動力源でありアートの原動力ともなるオーファクトに取り込まれた心気の形にして全くの別物。他のオーファクトとは明らかに違うエネルギーが彼女の中で高まり続け、納まりきらなくなった力が顕現してるのだ。
 この光景にさしものフレリクも言葉を失い表情を引き攣らせた。

「お、おいおい、タダモンじゃねえとは思ったが……お前さんら何者だ?」
「……こうして剣を交える立場になった以上――俺から言えることは何もない。強いて言うなら」

 アルセスは掛け値なしの本気でこう言った。

「運が無かったな、オッサン」

 そしていつものように力強く地を蹴ってフレリクへと肉薄するアルセス。
 右手と左手、両方を背中に回した上で敢えて左手でウェバルテインを抜いて迫ったというのにフレリクの持つ大型の拳銃はしっかりと切っ先を押さえていた。

「ま、銃闘術は使えるよな、当然。銃士なら珍しくもないしな」
「分かってて懐に飛び込むたぁいい度胸だ――な!」

 一際力を込めてウェバルテインごとアルセスを押し返し、そこから首をへし折らんとばかりの勢いで放たれた回し蹴りをアルセスはバックステップで回避する。
 アルセスが再び前進すると同時にフレリクは銃を構え直す――と同時に引鉄を引く。その動きを読んでいたアルセスは反射的に横っ飛びで回避し、素早くウェバルテインを左から右へと持ち変える――動きに紛れて投擲用のダガーを投げ放った。
 どちらも自身の得物を最大限に生かすための近接戦闘術を交互に繰り出す攻防。
 オーファクトの所持者であるアルセスがフレリクよりも優れた敏捷性で攻め立てるのに対し、フレリクは防戦一方のように見せかけつつ巧みな防御術と時折生み出される反撃のチャンスを逃さぬ動作で二人の戦闘は拮抗していた。

「中々騙されてくれねえなあ、小僧!」
「生憎と銃闘術ならアンタよりも怖い使い手が知り合いにいるんだよ!」

 心機述構(グリモワルアート)を使わせてくれず、純粋に武器の威力と武芸で勝負することになる状況に持ち込まれやすい銃士との戦闘において、二丁拳銃で攻防同時に繰り出してくるジーゼンの方がよっぽどやりにくい、とアルセスは感じていた。
 フレリクとて御するのが楽な相手という訳ではない。自分よりも長く生きているであろう生の長さで培った経験と磨かれた技量は明らかに自分よりも上。それがこちらの有利な点を潰しているという事実をアルセスは冷静に受け止めている。

 そもそもワンダラーの持つ身体能力強化は戦闘用オーファクトには基本的に備わっている場合が多い。闘術を修めた者が、基本として身体強化の技を教えられるのもそこが理由として大きい。
 身体能力の差だけが勝敗を決めるわけではないが、ワンダラーならば当たり前に持っている能力に人の力と技だけで対抗できるようにと考えれば、自然と心気で出来る事は全て出来るようにという結論になるのは当然だろう。
 確かにこの状況にあってもアルセスの方が敏捷性は高く、一撃の重さも彼の方が上。フレリクの攻撃はまともに受けるには怖い威力を確かに秘めているがアルセスにとっては回避だけではなく防御の選択も可能である、と判断できる程度の威力ではあった。
 故に両者の戦闘は拮抗する。大きな差を埋めているフレリクの技量は確かに口だけの男ではないとアルセスも認めるほどだったが、その心情の大半はやはり同情で埋め尽くされている。

「やっぱり、運が無いな、オッサン」
「――ああ、そうらしいな。ったく初手であの嬢ちゃんを狙ったってのにあんだけ早く動けるとは予想しなかったぜ」

 そう、アルセスが銃使い相手に一見無謀にも見える直進を行ったのもそれが原因だ。
 直感か、それとも別の何かか。フレリクが銃を構えるのと同時に狙っているのはティエナだと思考するよりも先に理解し、気づけば身体が動いていたのだ。
 あれだけ派手に心機述構(グリモワルアート)の発動準備を始めたのだから分かって当然とも思うかもしれないが、頭でわかってい手も即座に動ける者はそう多くはないだろう。
 そしてフレリクはアルセスの言葉にあっさりと抵抗の意思を捨てた。潔いとも諦めが早すぎるとも言えるほどのあっさりとしたものであるが、アルセスの背後――すなわち後ろに立つティエナを見てなお抵抗を考えられるのならば、それは身の程知らずかよっぽどのオーファクトを持つワンダラー以外にはいないだろう。

 ティエナの頭上に展開するは二十八の黒い槍。
 両サイドに漂うは自律するかのようにふよふよと浮いた黒い球が十三ほど。
 さらにティエナの足元からは黒い刃のようなものが七つ。
 そして極め付けが――ティエナの両手に宿る凄まじいまでの奔流を纏った黒い光である。

 展開するそれぞれの術の効果をフレリクは知る由もない。だが、彼はワンダラーというものの性質からティエナの周囲に浮かんでいる物を自動で動く銃火器に例える事で戦力差を即座に理解したのだ。
 自身の闘術による防御などあっさりと超えてきそうな威力を肌で感じ、なおかつそれが処理しきれぬ数で並ぶ。これでなおも抵抗の意思を持てるのは死ぬ事にも意義があると考える愚直な者だけだろうと。

「あー……一言だけいいか、小僧」
「もう手遅れだと思うが、一応聞こうか」
「役に立つかはどうか知らんが、守秘義務に引っかからない程度に渡せる情報ならあるぞ?」

 本当に何の保障にもならない宣言だ。しかし、こちらの目的を察しているフレリクならばこそ引き出せた台詞でもある。とはいえ、アルセスは諦めて首を横に振った。

「一応聞こえてはいるだろうから、後はそれで手心を加えてくれるかどうか祈るんだな」

 その一言を最後に蹂躪と呼ぶのも生温い心機述構(グリモワルアート)による一斉砲撃がフレリクを襲うのだった。
無慈悲な姫君。
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