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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第56話 どんな時でも俺達は二人


※ 某荒野のRPGの二作目の主題歌と今回のタイトルは関係ありません。
 ガタガタと大きく揺れる車内では座っているのも一苦労だ。
 持ち前のバランス感覚でアルセスは何とか耐えているが、一般人ならとっくに具合を悪くしてもおかしくないくらいとにかく頭を揺さぶる震動である。

「ち、近づいてきたな!」
「ええ、そりゃもう! 計算に計算を合わせ、さらには周囲の地形を先読みと演算能力をフルに使ってますからね!」

 軽快にハンドルを回しアクセルは完全にベタ踏み。時には車よりも大きい岩山すらもある荒野をティエナは恐れもせずに最高速で走らせる。
 多少の強化と改造はしてあるといえども所詮は普通の車。この速度でぶつかれば車はおろかアルセス達にすら多少のダメージもあるというのにティエナは全く躊躇が無い。
 その思い切りの良さとあくまで周囲を気にしつつ運転する取引相手の車。
 性能差を埋める要因はそこにあった。いかに性能で勝っていてもそれを最大限に引き出せぬ環境であれば付け入る方法はある。
 その暴走とも言い難い荒々しい運転が取引相手たちを及び腰にさせたのもあるだろう。

「チッ、おいダンナ! あいつらまだしつこく追っかけてきやがるぞ!」
「あの旧型車でよくもまあ食らいつく……このまま逃げ続けても振り切れそうにありませんね。仕方ない、あまり直接手を出すのはやりたくはないのですが……」

 運転を担当している青年は言葉とは裏腹にさほど焦りを感じさせぬ落ち着きで運転を続けつつも隣の助手席に座る男に一言告げた。

「フレリク、少々場が悪いでしょうが――撃って構いません」
「やってやれん事は無いが止める保証は出来かねるぞ?」
「場合によっては直接の戦闘になるでしょうが……そもそも追跡者がいるという時点で私の計算は狂っているのでね。やれやれ、あの商会との取引情報をワザワザ流してやったというのにこちらに目を向ける連中がいたとは。ですので威嚇程度の意味でも出れば十分です。当たって止まるならそれはそれでよい。いずれにせよ」

 青年はそこで言葉を区切ると微かに笑みを浮かべた。

「日が落ちれば私のオーファクトが使えますので。振り切って逃げ切れるならよし。しつこくついてくるのならば――この荒れ果てた荒野が名も知らない追跡者の墓場になるだけですよ」
「あいよ、依頼主がそう言うなら俺も適当にやらせてもらおうか」

 髭を生やした壮年の男はそう言うと後部座席に積んでいたトランクから愛用の銃を取り出した。
 銃身全長467mmの回転式拳銃。自動化(オートマチック)が進んでいる拳銃の中でもレトロな分類を受ける回転式拳銃だが、大口径の拳銃のオートマチック化に関してはまだまだ進んでいない中、大口径の威力重視の拳銃を求めるならば回転式、すなわちリボルバーの拳銃の方が種類が豊富である。
 ただでさえ大型のフレームを採用しているフレリクの拳銃はそれに加えて銃身がやや長い。威力も飛距離も通常の拳銃の比ではないが、重量をはじめ扱いにくさはトップクラスであろう。
 それを軽く車体から身を乗り出しなおかつ走行中の車という不安定な場でありながら――片手で支えながら狙いをつける姿は遠めに見てもアルセスに怖気を感じさせるほどだった。
 しかし、それを感じたのはアルセスだけではない。

「アルセス、身を屈めていてください!」

 ティエナが大きく車を横に切らせるのと発砲音が聞こえたのはほぼ同時だった。
 バチン、という派手な音と共にフロントガラスを突き破らんと迫った弾丸はティエナが予め展開していた障壁が弾いたがそれでも肝が冷える一瞬であった。

「あの体勢でしかもこの揺れで撃ってきたのかよ……! しかも当ててるしどんな腕だって……ティエナ?」

 相手の銃士の技量に驚愕しているとアルセスは隣のティエナの様子がおかしいことに気が付いた。
 目は真っ直ぐ前を見据えているし運転もしっかりしている。だが――彼女の顔からは表情が消えているのだ。

「――許せません」

 ぽつりと呟いたその一言は滅多に聞かないほどにトーンが落ちている。
 アルセスは決して自分に向けられた事が無いその感情に気が付いた。

 それは、

「大きく車体を横にズラしたのになおわたしの方に弾丸が届いたと言う事は――最初からアルセスを狙っていましたね」

 怒り、である。
 それもティエナが長らく封印していた敵対者に向ける極寒の地にも等しいほどに凍てついた静かな怒り。
 自分の方に弾丸が飛んできたのはいい。万が一の為にアルセスに当たらないように車体をずらしたのだから。だが、その配慮が功を奏したと言う事実は一つの結論をティエナに導き出させた。

「車を止めるつもりがあるならまず狙うのはわたしでしょう。にも関わらずあの銃士はわざわざアルセスから狙いましたね」

 戦いの上での事だから、と言ってしまえばそれまでだ。真っ当な戦法ばかりではない。中には自身の享楽の為に闘いに身を置く者だっている。卑怯だなんだと喚くのが敗者の遠吠えだというのはアルセスとて理解している。
 理解しているが――ティエナにとってはそれに対して怒らないというのはありえない。
 彼女にとってはアルセスこそ至上の存在なのだから。それを奪おうというのは等しく敵だ。普段はそこまで強い怒りを表面に出していないだけなのだ。

「はじめてではありませんけどね、わたしをここまでコケにしたお馬鹿さんは……」
「いや、別にティエナに対して何かしたわけじゃないだろ?」

 アルセスは一応フォローに回るがそんなものはティエナの耳には届かない。
 恋に恋する乙女が意味も無く想い人を狙われたのだ。されてもしょうがない世界で生きているだとか、そんなまともな理由によって理不尽を許容するという考えは――彼女には無い。

「絶対に許しませんよ人間ども! ジワジワと……いえ、一思いに爆散させてやりますからね!」
「やっべぇ、ティエナの入っちゃいけないスイッチが入ったか……!」

 その瞬間、ティエナは走らせている自動車の各機関へ干渉。出力限界を突破して速度を生み出させ、なおかつその反動や負荷を別のアートで散らすことで耐久性を維持。強引に車体性能を引き上げた。
 唐突に速度を上げ、なおかつ相手に狙いを絞らせまいと蛇行運転どころではない不規則な動きで、しかしそれだけの余分な動きをしながらもなお相手の車に詰め寄るというとんでもない運転を始めた。
 この動きには男たちも驚きを隠せない。

「な、なんだぁ!? 突然スピードアップ……いや、それだけじゃねえ車のキレっつーか性能そのものが上がってないか!?」
「……これはまたとんでもない相手が出てきたものだ。まずいな……日没までかわすつもりだったが、そんな余裕をくれそうにない」

 青年は自身の計算が狂いっぱなしであるという事実に僅かに顔を歪めた。
 日が没するまでは彼の計算でまだ三十分はある。
 しかし、ティエナの運転する車がもう間もなく背後に迫ろうかというタイミングでは走りながら逃げ続けるのは得策ではない。
 隣で拳銃を通り越して小さな大砲かと聞き違えるかのような轟音と共にフレリクの拳銃が火を噴くが、距離が近くなってなお銃弾が車に当たる様子は無い。

(いや違う、当たってはいるが……弾かれている!? 相手も何か特殊なオーファクトでも使っているのか……! 見間違いでなければ今あの車を覆っていたのは……!)

 青年の推測は半分は当たっている。
 ティエナは実に車を守る障壁のアート、性能を引き上げるための干渉のアート、そして自身の演算速度を向上させる強化のアートと実に三つのアートを同時展開しているのだ。
 これをウェバルテインという規格外の特殊なオーファクトに宿る擬似人格の少女が行っている、という点については確かに特殊なオーファクトによるという分析はハズレとは言えまい。

「くっそ、ダメだダンナ! タイヤを狙っても弾かれる! ただの銃じゃ、ありゃあ止められねえぞ!」
「ええ、相手はどうやらワンダラーのようだ。誤算に誤算が重なりますね……他にも商談があるというのに……!」
「仕方ねえ、こっからなら……あそこだ。あの岩山がいくつか並んでいる方角! あっちに車を走らせろ!」
「フレリク?」

 一体何をするつもりだ、と問うより先に青年は車をそちらの方に向けて走らせる。

「こうなりゃしゃあないだろ。降りて相手をする振りをするから隙を突いてダンナは逃げな。その程度の足止めくらいはしてやるからよ」
「……相手は二人いましたよ。二対一で勝てるのですか」
「ワンダラー相手となると分が悪いが……これも仕事だ。ダンナは俺に護衛しろと言ったからな。なら、プロとしちゃあ何が何でも達成せにゃなるまい?」

 フレリクは後ろから追いつこうと迫るアルセス達の車への攻撃を諦め、代わりにトランクから持てる限りの自身の装備を取り出す。

「ダンナにゃあ十分な前金もらっとる。ここで相手の方が一歩上手だったから守れませんでした、じゃ今後の仕事に差し支えちまうからなあ」
「……笑いながら言う台詞ではありませんね」

 ここを乗り切らねば次の仕事も何もないだろう。直接の戦いとなれば生き残るかどうかも怪しい。明日の保証など無いというのに、フレリクはあくまで次の仕事の為の判断だと言い切った。
 だが青年はそういう実直さは嫌いではない。
 空を見るともう大分空は薄っすらと夜に変わりつつあるが、それでもまだ――日没には早い。
 押し問答をする時間も余裕もない中、青年は決断した。

「では申し訳ありませんが貴方の提案に乗らせていただきましょう。私は――この報告書を持ち帰らなければなりません――次の仕事の為に」
「ああ、そうしな。なーに、運がよければお互い生き延びられるだろうさ」

 あくまで依頼者と護衛の関係。それ故に感情を排した合理的な判断。
 時に冷酷とも取られるだろう判断の早さこそが青年をこの地位まで押し上げてきた武器だった。一時の感情で動くことでは最善の結果を得る事は無いという実体験に基づく迷いの無い計算。
 背後から迫る車との距離はもう間もなく縮まる。だが、この分では目的地に着くほうが先だろうと、青年は躊躇い無くアクセルを踏み込んだ。
 不規則に並んだ岩山の間を滑らせるように走らせ、開けた場所でブレーキを踏みながら車体を思いっきり横滑りさせて後ろから迫るアルセス達の車をやり過ごす。
 その動きにティエナは僅かに焦った。

「しまった、こちらを振り払う気ですか!?」
「いや、違う。男が飛び出してきてるぞ。戦うつもりか!?」
「この車ごとぶつかって――もあんまり意味無いですね」
「まあ闘術が使えるならいくら早いって言ってもただ直進してくる車なんて銃弾よりも怖くは無いだろうからな。仕方ない、こっちも降りて相手をするか」

 離される前にとUターンして戻ると、男たちはまるでアルセス達を待ち構えるように立っていた。
 スーツを着た青年の方は素手、少々歳を食っている――という印象をアルセス達が受けたフレリクの方はアルセス達の車を撃つのにも使っていた銃を右手に構えたままだった。

(銃士の護衛か? いやスーツの方が戦えないと決まったわけじゃない。変な思い込みはしないでおこう)

 対してアルセスは自分の手を晒さないようにと一先ずは無手のままで車を降りた。ティエナもそれに続くように降りてきたが、アルセスの側に控えつつも警戒心むき出しの表情で男たちを睨みつけている。

「ヒュウ、どんな奴が降りてくるかと思ったらガキに女かよ。しかもあのドライビングテクは女の方だってか? ハハッ、嬢ちゃん中々いい腕してるじゃねえか」
「はあ、言う事も態度もすっとぼけた親父の褒め言葉なんて聞くに堪えませんね。最初に銃を撃った時点で気づいていたでしょうに何を今気づいたかのような事を。これだから歳取ってベテランぶった中途半端な親父の相手は嫌なんですよ。分かってないような振りをして相手を出し抜く事しか考えてない小汚い中年という生き物は」
「……おいおい、初対面の相手に随分な言い草じゃねえか」
「そう思うなら――話しかける振りをして注意を逸らそうとする行動をやめたらどうです? わたしもアルセスもとっくに気づいてますよ」

 そう、アルセスもティエナもフレリクの意図が何処にあるのかは読めていた。
 戦う気が無いかのように銃口を下げつつも、身体のあちこちから心気が立ち上り闘術を扱う準備を整えている。達人はそれらの予備動作すら感じさせないとは言うが、フレリクは果たしてわざとなのか、それとも中途半端な腕なのか。
 いずれにせよ何かしら仕掛けるつもりであろう相手を前に暢気に会話などするはずが無い。アルセスとティエナは揃って戦闘の準備を済ませた。

「……チッ、最近のガキは本当かわいげのねえ。ちったぁロートルにも楽させろ――っての!」

 どの口が言うのか。そう反論しようとするより先にフレリクの手より黒い何かがアルセス達の目の前に放り投げられた。

※ 今回のティエナの台詞の一部は某野菜の戦士の物語の冷蔵庫の台詞とは関係ありません。
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