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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第55話 再挑戦

 この世界において人類が掌握している生存圏というのは全体の5割に届かないとされている。
 航空技術の発達、通信技術の発達、地学の向上、様々な要因から既に万国共通の世界地図が作られるほどに精密に世界の全体は把握されているが、その詳細を密接に把握している国は現在においてゼロだ。何処の国も未開地や未調査の地域を抱えており、国土に対して統括しきれている範囲は大きくはない。
 魔物の存在は言うまでもない事だが、どちらかと言えば未調査の遺跡や崩壊期の傷跡など無造作に手をつけられる地が多くないのも理由の一つとして挙げられるだろう。まだまだ冒険者たちの旅は終わらないという事だ。

 そんな未開地の一つであるルンテスタック荒野。

 街道が側に走っているなど王都を拠点とする分にはアクセスのしやすい未開地であり、出没する魔物も癖の強いものはおらず、きちんと対策さえ用意すれば日銭を稼げる素材になりやすい魔物なども生息しており比較的探索の容易な未開地として王国では認識されている。
 荒野と言えども気温の変化が大きいわけではなく、乾燥地帯ゆえに独特の生態系を形成した植物など資源としてみるべきところは多いのだが、アルデステン王国は比較的平原地帯が多く開拓が容易な地が豊富で、新たに村や街を作るにしても厳しい環境には変わりない荒野を開拓しなければならないほど逼迫した事情がないため現状は放置されているというのが実態であった。

 それ故に崩壊期以降の人類が一時的に作ったであろう避難地として点在する小さな村落の跡地などは盗賊や悪事の温床となっており王国の上層部は頭を悩ませてもいるという。この場合、街道から近いというのも仇となっている。通りがかった旅人や輸送車を襲い、自分達は慣れた荒野の地形を利用して素早く身を隠す。水さえ確保できれば食料となる魔物や植物なども多いためほとぼりが冷めるまで身を隠すことも可能だ。捜索には大規模な軍を編成する必要がある事も放置されがちな理由の一つだろう。
 国とはいえ無尽蔵に金を使えるわけではない。被害が出ているのならまだしも、周辺に人里が無く街道を行き交う人々の安全が常態的に脅かされているわけではないとなれば優先順位が後回しにされるのもやむなしと言ったところだ。
 今回の取引現場はまさしくそうした現状が生み出した格好の場という訳でもあった。
 廃墟跡とはいえ身を隠すための場所は十分。壊れかけの建物があちこちに存在し吹きさらしの風の音がいい塩梅に気配を散らすこの場所は表立った事をしない場としては都合が良い。

 デクトマンド商会にとっても、ダンセイル一家にとっても、そして――商会の取引相手にとっても、だ。
 いち早く現れたデクトマンド商会の護送用トラックには支部長のモースに加え護衛の黒狼団が乗り込んでいた。今回の取引の規模そのものは大きくはないのか、荷台には黒狼団しか乗っていなかったようで、モースは前方の車両部分の方から降りてきた。運転は当然部下に任せてきたようだが。
 周囲は丁度夕暮れになろうかという時間。
 夜や深夜ではないのは前回の襲撃が夜にも関わらず行われた事を省みての事だった。
 闇に紛れても行動が把握されていたのならば、むしろ視界が確保できない事が不利にしかならないと判断しての決断だったようだ。支部長は周囲への警戒は怠っていない――というよりはあまりにもオドオドとしていて挙動不審という印象を与えるレベルである。

「……あれ見るとやりすぎたかなー、とは思っちゃうよな」
「元々小心者なんでしょう。慎重すぎるのも大胆に出られないというより根が臆病なんですよ、きっと」

 アルセスはそんな支部長の姿を見て若干同情気味だったがティエナの方は相変わらずの辛辣な評価であった。二人は取引場所である小さな小屋を見下ろせる廃屋の二階に陣取っていた。他の団員も皆一様に取引場所を包囲できるように隠れており、今のところ黒狼団を含めて彼らに気づいている者はいなかった。
 今回は小型飛行艇を隠して待機、という作戦は二度目という事もあり警戒されるだろうと判断しリーンは廃村から離れた位置へ小型飛行艇を移動させそこで待機している。後詰は万全という状況で全員が固唾を飲んで見守る。

「……始まりました。会話を拾いますね」
「頼んだ」

 ティエナが仕掛けておいた集音のアートによって本来であれば聞き取る事も不可能な相手方の会話をアルセスにも聞こえるようにティエナは力を解放した。
 さて、何が得られるか。僅かな緊張と共に相手の言葉に集中するアルセス。

『……した? 随分と落ち着きがないようだが』
『いや、少々立て込んでいてな。どうもこちらを嗅ぎまわっているネズミが多いようで』

 最初に聞こえた聞きなれない男の声の方が取引相手だとアルセスは判断した。
 一言一句聞き逃すまいと意識を男の言葉に向けていく。

『焦って派手に動いたからだろう。コレとてわざわざ陸路を使う事もないだろうに』
『空路ではもう検閲を通せんのだ。疑惑の目で見られているからな……おまけにただでさえ事件が起きて王都での警戒は厳しい。そっちも事情は知っているだろう?』
『自分達でそう仕向けておいて何を言う。我らとしては願ったり叶ったりの状況だが、こんな短期間でとは言わなかったと思うが?』

 男はどこか嘲笑するかのような口調で言うと、モースは事実故に反論が出来ないのか息を飲んで黙り込む雰囲気がアルセス達にも伝わってきた。
 しかし即座にモースはやや語調を強めて言葉を返した。

『あ、あそこまで反応が早いとは思わなかったのだ! そ、それに丁度資金繰りに困っていたところであったし、仕事は簡単だったゆえに……』
『フ、それで更に足元が危うくなっては世話が無いがな。まあこちらとしては不満は無い。順調に効果の検証が進められているのだからな。そら、約束の品だ。依頼の物は――いつものように検品して確かめてくれ』

 世間話程度の内容で知れるのはこの程度か。アルセスはそろそろ両方を捕らえて尋問すべく動くべきかどうかと取引場所の様子を窺おうと物陰から少しだけ顔を出してそちらに視線を向けたが、

『――もっとも、お前たちが無事でいられたらの話だがな』

 その言葉にアルセスは咄嗟に目を閉じ耳を覆った。
 直後、激しい閃光と轟音が取引場所より発生し周囲は騒然となる。

「くっ、閃光と音響弾か……! 合わせ技とはやってくれる……!」

 自分も似たような事はやるからこそアルセスは場の空気の変化に咄嗟に気づけた。無論ティエナとてしっかり防御をしており被害は無かった。しかし激しい煙までもが取引場所から上がっており遠目からではまるで周囲の状況は分からない。動くにしても情報の入手と打ち合わせは不可欠な状況。
 アルセスは小型無線機のスイッチを入れ、即座にエモンドに連絡を取る。

「エモンド、状況は!?」
『商会の連中はジーゼン達が抑えてる! とはいえ奴らと黒狼団も半数以上がダウンしてる状態だ! こっちは気にせずにお前たち二人は予定通り――取引相手の方を追え! 観測班から取引場所から少し離れた廃屋に走っていく男二人を見たと行ってる!』
「了解! そっちは任せた!」

 煙幕弾によって恐らくは気づいていたであろうこちらの視界を遮り逃亡するつもりであったのだろうが、そうはさせじとアルセスとティエナは階下に走る。
 そこには一台の自動車があった。二人乗りで少々レトロな型でフロントガラス以外にはガラス窓もついてない車だが、オフロードでの走行に耐えられるようにタイヤはそれ専用に外装も装甲版で強化したダンセイル一家の作戦用の自動車だ。小型飛行艇に搭載して持ち込んだものである。

「ティエナ、奴らの反応は追えるか!?」
「問題ありません! あいつらの車らしき自動車のベルセルス反応をキャッチしています。このまま追いますよ!」

 エンジンをかけると同時に素早くアクセルを踏み、軽快にハンドルを回すティエナ。アルセスはバルンティアを取り出して右の助手席に乗り込んだ。
 砂埃を立ててガタゴトと揺れる悪路をティエナは強引に走らせる。それでも比較的障害物の少ない場所を選んで走れるのは彼女の感知能力の高さゆえかそもそも運転能力が高いのか。

「アルセス前方左! 取引相手の車が見えてきましたよ!」
「よし、どうせこっちに気づいてるんだろうから遠慮なく全速力で近づけろ!」

 アクセルを全開にし目一杯エンジンを吹かせると僅かずつではあるが距離が縮まり始めた。そこでアルセスは相手の車を注意深く観察する。
 相手の車は簡素な折りたたみ式の幌による屋根とフロントガラスだけがついたオープンボディの車のようだ。しかし外見の特徴からアルセスはある事実に気づき驚きに目を見張った。

「軍用の四輪駆動小型車だと!? まだ一部の軍にしか採用されてない最新型の軍用車両じゃないか!」
「しかもベルセルス式ということは……横流し品ですか?」

 ベルセルス式に切り替わった車両はまだまだ僅かだ。そんな最新式の自動車を手に入れられるルートは限られる。二人の知るある事実がそれを裏付けていた。

「世間的にはまだ軍用車両を正式にベルセルス式に切り替えた、という発表をした国は無い。いや、そもそも自身の国の軍事力の一部をご丁寧に発表する国なんてそうは無いんだが」
「メーカーからすればこの上ない宣伝になりますからね。スペックは伏せておいても納入した事実くらいはオープンにするでしょうから……」

 仮に横流し品だとすれば正式採用の直前の品が搬入前に流出したという事になる。
 無論、見た目や性能だけで判断するのは早計だが、仮に軍用品だとするとそのような物が手に入る組織だという事実は決して軽くは無い。

「そんなもん乗り回してたら逆に目をつけられそうなもんだが荒野を走行するにはこの上ない車か……スペック差の所為で差が縮まらないものな」
「レイリアの魔改造済みの車ですけどあれと比べたら二世代くらい前の車ですしねえ」

 こうなると強引にでも足を止めねばならないのだが、向こうは悪路だろうが多少の岩だろうがものともせずに突き進むのに対し、ティエナはある程度良好な場を探して右に左にと蛇行を強いられている。
 一度は視界に捉える距離だったが、今では随分と小さくなっていた。相手が逃げに撤したことで性能差が浮き彫りになり、徐々に距離を離されてしまっているからだ。

「この距離だとわたしの単発射撃アートじゃちょっと止められそうにないですね……!」
「運転しながらだしなあ。だけどまあ、いずれどっかで止まるだろ。引き離すにはちょっと速度が足りないからな」

 自分達に後をつけられたまま拠点に帰るような愚は犯さないだろう。とすれば当然どこかで反撃に出るはずだとアルセスは踏んでいる。時間稼ぎに荒野を走り回ったりするようであれば、こっちは小型飛行艇で控えているであろうリーンに応援を頼むまで。ベルセルス式とガソリン車では燃費的にも不利ではあるが、そうなる前に次の行動を選択するための状況の変化が訪れるであろうとも。

 相手が援軍待ちの時間稼ぎだというのなら、即座に撤退するまでだとアルセスは考えている。
 商会を利用して何らかの計画を画策している者、それも組織だって動いている者がいることは判明しているのだ。深入りをしなければならない理由は無い。今追っているのも現状はまだこちらから仕掛けても十分対処が出来ると判断しての事に他ならない。

「とりあえず追跡続行だ。このまま美味しいところだけ持ち逃げなんてさせるかよ!」
「はい、ご主人様(マスター)! それじゃ、ちょーっと無茶しますので舌噛まないようにしててくださいね!」

 ティエナが言うと同時にアルセス達の車の揺れが途端に激しくなる。
 速度とパワーに物を言わせて悪路の回避を避けて最短距離を走って強引に距離を縮めようというティエナの運転は凄まじく荒い。
 幸いアルセスは乗り物の揺れには強い方だが、これだけ不安定だと仮に射程距離に入ったとしてもバルンティアでの狙撃は難しいのではという気がしてきた。

「……とりあえず後ろか横か、どっちかにつけないと話にならない、か」

 かくして夕陽をバックに荒野でのカーチェイスが幕を開けた。
1900年代の車をイメージしています。昨今の
普通自動車のようなフレームよりはジープ系寄りですね。

ハ○レンでもそうでしたが、あの頃の独特な
フレームの自動車ってすげぇファンタジーに似合うと
個人的に思います。
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