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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第54話 追撃 ~おいつめまくって~


※ タイトルは某裁判シリーズに必ずある曲のタイトルとは関係ありません。
「エモンドさん、デクトマンド商会の件、取引場所と計画のウラ取れたっスよ」
「早ぇな、オイ。この間からまだ三日じゃねえか」

 アルセスとティエナが偵察に行った三日後の夜。
 ナンパに失敗したというのにその失敗談を肴にしながら就寝前の一杯を楽しんでいたエモンドと、悪びれもしないエモンドに付き合う形のアルセス達の下に斥候担当の団員があっさりと告げた。
 食堂とは別にバーのボックス席をイメージさせる家具の配置になっているリビング代わりの広場には他にも余暇を楽しむ団員の他に、アルセスに侍るように座るティエナとたまたま暇を持て余していたリーンも一緒にいたのだが、仕事に参加する主要メンバーの一部が揃っていたというのも報告に来た団員には都合がよかったのだろう。

「いやー、アルセスとティエルのテコ入れがヤバすぎたんすよ。例の支部長、日中は毎日ビビりまくってましたもん。監視してたオレらも気の毒になってきましたわ」
「そこまで酷いことはしてないはずなんだがなあ」
「そうですよ。むしろクズ人間にする仕打ちにしては精一杯の配慮はしたつもりですけど」

 しれっと言ってのける二人だったが、アルセスはともかくティエナの発言に対してはその場の全員が懐疑的だった。アルセスを頂点に、それ以外の人間の評価が恐ろしいほどに低いティエナである。彼女の配慮というのが一体どの程度の物か。

「精々、仕事中の電話にノイズを走らせてやったり、護衛もいる部屋の中に突然『お前の計画は全て手の内だ』とか書いたメモを目の前に出してみたり、一人きりの時に意味も無く物音を立てたりしただけですよ」
「十分すぎるほど怖ぇだろ」
「俺はまあ外出時に車に乗った時にちょっと後ろから衝撃与えたり、あいつの仕事部屋の鍵をピッキングした跡を残してやったり、割とあからさまにお前を調べてるぜアピールをしただけだけど」
「方法は穏便だがティエルの後じゃ追い討ちにしかなんねーだろ。しかもそれを昨日まで続けてたんじゃねーか」

 エモンドは二人の徹底振りにむしろ支部長のモースに同情した。この二人のことだから相手側に手がかりになるような情報は何一つ与えていまい。
 怪奇現象と取るにはやや現実的過ぎるが、それを別にしても自分達が掌握できない手段で様々な妨害を仕掛けられているという事は、モース達にとっては恐怖以外の何者でもあるまいと。

「アルセス達が取引について調べるって事を強調してたんで、モース達も暗殺の類だとは考えなかったみたいっスけどね。だけどまあ、その後の計画の練り直しで焦ってるのかまー、ボロが出るわ出るわ。こっちとしちゃ張り込む時間が短く済んで助かったっスけど、あそこまで追い込む必要あったんスか?」
「ああいう小物は徹底的に追い詰めないと本当に肝心なことを言わないから困るんですよ。中途半端が一番よくないんです」
「と、もっともらしいことを言ってるけど、途中から俺もティエナも加減を忘れただけなんだよ。ホント、モースがヤケにならなくて助かった」
「あっ、アルセスってば何故バラすんですか!」

 ティエナは心外そうにアルセスに詰め寄るが周囲の者達は皆一様に納得したという表情を浮かべていた。
 多少目的を忘れかかったが、情報が手に入ったので良しとしてエモンドは報告の先を促した。

「モースの奴は二転三転と場所と時間を変えていたみたいっスけどね。動かした人員、修正された計画の痕跡からの逆算や、部下への指示出しの時の失言や打ち合わせなんかからかき集めたところ、明後日の夜、王都を出て南西の街道沿いに広がってるルンテスタック荒野の廃村跡が取引場所だと思われるっス」
「荒野の廃村跡……真っ当じゃない取引場所としちゃ妥当だけど、ちょっと王都に近くないか?」

 アルセスはそれほど明るくないモードス大陸の地図をおぼろげに思い出しながら答えると、団員は理由にも察しが付いたのかすぐに補足する。

「奴らが一部の憲兵を金で抱きこんでいるのは知ってると思うっスけど、取引日時の時間的にそこより外れの方にするとどこの門も通れないんだと思いますよ。憲兵のシフトまで弄れるわけじゃないっスからねえ」
「取引を終えた後は速やかに帰還し次の商売に結び付けないと自分の首が危ねぇって寸法か。ハッ、雇われ支部長さんも辛ぇな」
「ちょっと調子に乗ったらあっさりビンタ食らわされてヤケ酒飲んでる種馬もどきよりはマシじゃないですか?」
「おいおいティエルちゃん! そこは傷心のオレ様の傷口に塩塗らんでくれって! これでもヘコんでんのよ? マジで」

 半目で睨むティエナにエモンドはおどけつつもショックを受けてるかのように語るがグラスを傾けて酒を呷るスピードは早い。まるで懲りているとも落ち込んでいるとも見えないのでその発言にはまるで信憑性は無かった。どうせ近い内にはそんな事は忘れ去って別の女性に声をかけるだろうと誰もが思うほどにその態度は気楽さで溢れている。

「んなこと言ってさ。どーせエモンドの事だから、また明日になったらどっかの女に声かけてるんじゃないのー?」
「リーン嬢ちゃん、オレはな狩人であると同時に一人寝が寂しいであろう女性を慰める愛の詩人でもあるんだぜ……?」
「あー、とりあえずアタシはエモンドみたいなのが近づいてきたら問答無用でグーパンかな。顔に。でも、加害者にはなりたくないからとりあえず向こうから手は出させるけど」
「リーン、その思考は悪くは無いですがこの手の男は頬ならまだいい方で即座に胸、尻、腰などのセクハラポイントをピンポイントで狙うケースもありますから、触れさせるまで待ってはダメですよ。何なら動いた時点でぶち飛ばしてしまえば良いと思います。女性が泣き叫びながら被害を訴えれば真っ当な地域の人間なら男の方を非難しますから」
「おっけ、覚えとく」
「……と、とりあえずこっちの件はおいておいて、だ。ほ、他に分かったことはねーのか?」

 エモンドはこれ以上この話題を続けるのは不毛だと判断したらしい。己の行為を省みる程度の自制心はあったようだ。いずれにせよ、彼が女絡みの信頼を回復することは恐らく無いだろうなとアルセスは諦めた。
 団員はエモンドに話を振られたので手元からさらにメモを取り出し内容を読み上げる。

「取引のブツについての詳細までは流石に口を滑らせてませんでしたけど……オーファクトなのは間違いないっすね。人数分がどうとか、射程と威力がどうとか……後は炎属性がとか言ってたかと」
「人数分に射程に威力、そして属性、ね。量産型のオーファクトだな。それも銃器タイプの」
「ですね。性能に言及すると言う事は量産型のオーファクトのコピー品を量産したものでしょうか? なんかややこしくなりましたけど」
「十中八九それじゃねえかな。数を揃えて金になるようなのは最近売れてきた銃型オーファクトだろうからな」

 アルセスやティエナの推論にエモンドも同意を返した。
 量産型のオーファクトの量産型、と評するとややこしく聞こえるが要は機構や技術的に現在の技術でも真似のしやすい簡易型オーファクトを現代の技術で再生したオーファクトのことである。
 ウェバルテインのようなオンリーワンの一品物に関しては未だ劣化コピー品すら作られていないが、オーファクトの歴史として簡易型の量産品に関しては崩壊期の直前まではかなりの数が出回っていたとされている。それゆえ出土する多くのオーファクトの中にもそうした量産型の品があるのは周知の事実だが、それを更にコピーした品も近年では出回っている。

 その内の一つが銃型オーファクトの一つのモデルである属性銃である。

 読んで字の如し、鉛の銃弾ではなく心気を加工して炎や氷など自然現象を意図的に引き起こした攻撃を行うための銃だ。
 心気を用いる戦士やワンダラーの中では珍しくもない攻撃方法だが、属性銃の場合は量産品という事もありワンダラー適性が低くとも扱える――むしろ使えない者の方が珍しい――という事から一部では軍の装備としても採用されている。
 特徴としては射程が長く着弾時に効果を発揮するという特性から遠距離武器に付き物の飛距離による威力の減衰が起こらないという点だ。当たりさえすれば百パーセントの性能を発揮する銃。それだけでも戦略的価値は高い。
 加えて属性銃である事は分かっても一度発射されるまではどの属性かを推測するのが難しく、対人間においては適切な防御手段がなければ非常に殺傷力が高いという点だ。人数を揃えて様々な属性銃を撃つだけで、歩兵戦においては絶大な効果を発揮するという点があげられる。
 昨今では対策が大分豊富になっているが、それはあくまで対人間に限られ魔物との大規模な戦闘においては半端な銃火器を並べるよりも安価で高い効果が上げられるという点も評価されているのだ。

「心気の扱いに長けた銃士を何十人も集めるのは中々簡単には行かないからな。誰でも簡単に扱える特殊銃……銃器メーカーも開発ラインナップに加えてる品だし売れ筋だろ」
「アルセス、それだけが理由じゃないぞ。心刻弾のコストに比べて遥かに安いっつーのもある。量産の目処がついたとはいえ、あの弾は生産に手間隙かかっからなあ……」
「ああそうか、属性銃は使用者の心気を弾丸にするもんな」

 発射時に心気を纏わせる、という概念は属性銃とほぼ似通った機構なのであるが所有者の意思一つで属性や効果を変化させられる弾丸。それが心刻弾だ。開発された当時は弾丸に特殊塗料によって弾丸の表面に特殊な紋様を書き込み、弾丸内部の専用の炸薬が反応すると使用者の意図した現象を引き起こす。
 だが、この製作過程を聞くだけでも普通の弾丸に比べて金がかかるのは当然だ。現在においても刻印を刻む過程は機械化が出来たものの、炸薬の素材に魔物の骨粉が含まれている分はどうしても値段が高めになる。

「ジーゼンの奴も常備してるが、前に使った時は弾代と報酬でトントンだったっつてた事もあるからな。どっちも一長一短な面があるからどっちが良いとは一概には言えねーが」
「その辺の経費の悩みに関してはほぼ無縁の俺としてはあまり実感無いけど、ジーゼンは本当大変だろうなやり繰り」

 アルセスとて飛び道具であるクロスボウのオーファクトであるバルンティアを扱うが、あれは心気でボルトを形成、かつ事実上撃ち放題というコスト管理とは無縁の品だ。
 手榴弾などの使い捨てのサブウェポンに関してはその限りではないが、ウェバルテインを始め経費の面での負担は極めて小さいのをアルセスは理解していた。

「えっへん、それもこれもわたしの綿密にして惜しみないサポートのお陰ですね、アルセス」
「そうだな。能力だけじゃなくて道具の面でも助けられてるよ」
「そうでしょうそうでしょうー。だからもっと褒めて褒めてー」

 何故か珍しく素直に欲求を吐きながらティエナはアルセスにべったりと抱きついてくる。しなだれかかってくる様は妙に色気があり照れによる可愛らしさよりも、行為による艶かしさの方が勝っている。
 不思議に思ってアルセスがティエナの顔を覗き込むと――一瞬で疑問が氷解した。

「……ティエナの奴、いつの間に酒なんか飲んだんだ」
「うっそ、ティエルってば飲んじゃったの?」

 アルセスを挟んで反対側に座っていたリーンにも見えなかったらしい。
 ただアルセスとティエナの使っていたグラスは全く同じデザインで位置も近い。中身が違うのに気づかずに間違えたティエナがアルセスの酒を飲んでしまった、というのをアルセスはすぐに予想できた。

「大方話に夢中でグラスを取り間違えたんだろ……やれやれ」
「アルセスー、アルセスぅ~。ね~えーお話しましょうよ~」
「はいはい、相手してやるから落ち着けって」

 これではもう作戦会議どころではない。しかしならば場所を変えようかとティエナを動かそうとすると、何故かティエナはいやいやと首を大袈裟に横に振ってアルセスから離れようとしない。

「飲むと甘え系になる絡み酒か? ってかオーファクトって酔うのかよ?」
「俺もあんまり飲ませたこと無かったからなあ……本人はうっかり毒物を取り込んでもすぐに分解できるとは豪語してたが」
「意識してないとダメなんかな? それともお酒は毒物として認識してない?」
「ふにゅああ……あーるーせーすーのー匂いー」

 ウエヘヘヘ、などと時折怪しい笑いが混じりながらも普段の二割増しくらいで甘えるティエナを見てアルセスは普段ですらもしかして多少は我慢してるのか? と思わざるを得なかった。

「……とりあえずこのドラ猫はこっちであやしておくから、エモンド達は作戦を詰めてくれ」
「おう、任せとけ」
なおこれで酔っ払いレベル1である。

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