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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第52話 一夜明けて

 デクトマンド商会の輸送車襲撃計画より明けて翌日。
 明けてとは言うが、彼らがアジトに戻った時点で既に日は変わっていたのだがそれはさておき。
 外は既に日が高くなった昼も昼過ぎにアルセスとティエナはようやく目を覚ました。

 いつものようにおはようのキスを交わし。
 いつものように二人でシャワーを浴びて目を覚まし。
 いつものように手早く身支度を整えて遅い昼食をもらいに彼らは食堂へと向かった。

「はよーっす」
「おはようございま……うわ、何ですかこの混み具合。皆して起きるの遅すぎじゃないですか?」
「ティエナ、その発言は俺らに返って来るからやめとけ」

 アルセスは薄々自分達が一番遅いであろうことは時刻を確認した際には自覚していた。これでも少々睡眠時間を短くしての起床だったが意外なほど昨日一緒に参加していたメンバーが席についている事には驚いたが。

「おはよう、アルセス君、ティエルちゃん」
「おはよう義姉さん。って言っても絶賛昼だけどな」
「しかもランチも終わるくらいの、ですけどね。おはようございます、レイリア」

 食堂は料理の心得のある団員がそれぞれ持ち回りで回しているのだが、今日の当番はレイリアと他数名であったようだ。昨日の作戦の内容を把握していたからか、昼食にしてはやや軽めのメニューが仕上げられている。
 よく焼いたパンにホワイトソースとチーズで彩ったグラタン、後はサラダにコンソメスープと胃に入れやすいメニューがチョイスされている。それでいて少し焦げ目のついたチーズの匂いと焼きたてのパンの匂いが絶妙に食欲をそそる。食事が不要であるティエナでさえ少し機嫌が良くなるほどだ。
 席に着くと他の女性団員が一通り揃ったトレイを持ってきて二人の前に並べてくれたので、二人はまずは腹ごしらえとばかりに料理に手を伸ばした。

「しかし、昨日の仕事は色々と収獲がありましたねえ、アルセス」
「ああ、とりあえず真っ当な品は全部捌けばかなりの額になるだろ。当面の活動資金が潤うな」

 トラックの荷台の積荷の内、六割を越える品が全て真っ当な商品であった事に一同は驚いたがそもそもデクトマンド商会は評判こそ悪いが表の商売は基本的にまともにこなしている。
 ご禁制の品や違法品ばかり仕入れていたのでは決して成り立たない商売である為、普通に横流しが出来るまともな商品ばかりでもおかしくはないのだ。
 それらは基本的に根こそぎ飛行艇に積み込まれ、今頃は足のつかないギルド独自の流通網に乗せられることであろう。少なくともデクトマンド商会が流れを追えるようなルートではない。金にさえなればいいので、ダンセイル一家としてはわざわざ検閲の厳しい王都に持ち込む必要はないのだ。
 とりあえずただ働きは避けられたことで昨夜の団員達のテンションは仕事明けという事もあって高かった。流石に一戦やりあった疲れもあったので酒を飲んだり騒いだりするような者はいなかったが、その分今夜は酷いことになるだろうとアルセスは予想しているが、果たしてどうなるかは数時間後に答えが出るだろう。

「だけど、もっとでかいのはやっぱ俺達が見つけたアレだろうな」
「そうですね、そうですよね。わたしが穏便にかつ完璧な手段で手に入れたあれですよねー」

 今回もティエナの力によって入手できた大きな手掛かりという事もあって、ティエナはアルセスに褒めてアピールをここぞとばかりにする。

「昨夜ベッドの中であれだけ褒めたのにまだ足りないのか」
「よ、夜の事は別なんですっ」

 普通に足りないと言えばいいものを何故か口ごもるティエナ。だが、アルセスもお手柄である事は否定しない。
 アートの力を使ってまで封をされていた二重底の中身。
 それはデクトマンド商会の裏取引の為の詳しい計画書――と思わしき書類だった。
 大掛かりな荷物の中の隠し箱に仕込む事で、敵対者の手に渡る事を防ごうとした策。さらにはアートの力を持ち出してまでの厳重な警戒に、少なくとも誤情報をばら撒くためではないだろうという結論には即座に達した。
 しかし、それでもなお敵の手に渡ったのならばどうするか? その仕込みの多さにアルセス達は呆れるやら驚くやらであったのだ。

「暗号文で内容を書いた上に割符のようにしてあるとはな。随分と手の込んだ事で」
「明らかに暗号文だというのは分かっても歯抜けの文章では解きようがないですからね。仮に揃えられても今度は暗号を解読しなければならないですし、誰かの手に渡ったと分かれば場所を変えればいいだけの話ですから」

 もしくは意味不明の文章の書かれた書類という事で重要視されないように欺く目的もあったかもしれない。いずれにしろ、デクトマンド商会の疑惑に踏み込むためには重要な手掛かりとなるのは間違いなかった。
 だが、それも相手が警戒しなければの話である。
 ただでさえ黒狼団の護衛を蹴散らし、商品を根こそぎ奪った相手である。これで予定通りに何かの計画を実行するようであればただの間抜けであるので御しやすいが、内部の調査には至ってないアルセス達はデクトマンド商会の首領がどう動くかイマイチ読めない。

 そこでアルセスは一計を案じた。敢えて重要な書類には手をつけず、情報だけを戴いて様子を見る事にしたのだ。書類の入っていた二重底の仕掛けは元に戻し、書類そのものには手をつけずにティエナの力で即座にコピー。いかにも箱の中身には気がついたが底の方には手を出せませんでした、という状態を作り出した上で、商会員達を放置したのだ。
 黒狼団も含め、荷の荒らされようなどに驚いたものの、報告のため王都に彼らが遅れて到着した事は既に他の諜報員が掴んでいた。案の定、彼らは憲兵には詳しい事情は話していないようである。

「そしてもう一つの割符は――昨日俺達とは別の輸送車を襲撃していたメンバーが入手済み、と来た」
「え、そうなんですか?」
「ああ、ティエナが着替えてる間に少し他のメンバーと話をしててさ。情報交換してたらそういう結果だったらしい。あっちもあっちで結構金になりそうなものは見つかったそうだが、肝心のオーファクトは無かったらしくてな」

 猫舌のティエナが必死にグラタンを冷ましながら口に運ぶのを微笑ましく見守りながら、アルセスは先程手に入れた新しい情報について話し出す。

「ただあっちのメンバーは力ずくで箱を壊して手に入れたみたいだから、それで相手がどう動くかだなあ。まあ普通に考えたらそうするのが普通なんだけど」
「まー、アートの力で封がされてたのならそれもやむなし、ですよね。何かあるのが分かっててスルー出来るような人はウチにはいませんものねえ」

 ティエナはやや苦笑混じりに言ったが、アルセスもその点は否定しない。
 宝箱に鍵がかかってるなら箱をぶっ壊してでも手に入れろ。
 そんな主張をするような連中が多いのだ。強引に開けてみたら重要文書でした、やっべぇどうしよう? となっても無理はない、と半ば諦め気味である。

「ともかく襲撃した事であっちの警戒度が上がるのは間違いないからな。だが、割符がかたっぽだけじゃ意味がないのは向こうもそう思うだろうし……何かするにしても近日中に絶対に動きがあるのは間違いない」
「どっちが相手を出し抜けるか、の勝負になるわけですねー。やれやれ面倒な」

 資金は潤沢に稼げたものの、肝心の「オーファクトの流出」に関する疑惑に関してはまだ証拠が挙がっていない。
 真っ当な流通で流してよいものならばともかく、危険性の高いオーファクトを意図的にばら撒くような行為に手を染めているのならば梟の目(ラークオウル)としては見逃すわけには行かない。
 面倒事を増やすな、という意味で。

「それで、諜報担当の連中がこぞって動きを探ってるって事で昨日の仕事は片付いたかな」
「ふむふむ、それでは今すぐどうこうということはなさそうですね」
「ああ、黒狼団の方はまだ雇われてるらしいがな」

 恐らくは一仕事につきいくら、という契約ではなく期間単位での契約なのだろうとアルセスは当たりをつけた。
 この場合、必要経費を含めて契約満了時に報酬を支払う形になるため報酬が契約締結の段階では読みにくいのだが、代わりに金さえ用意すれば期間中ならばいくらでも仕事を依頼できる計算になる。
 護衛の仕事を頼むたびに契約を交わすわずらわしさからは無縁となるわけだ。その分、彼らが動けば動いた分だけ支払う報酬は増えて行くわけだが、そこを惜しむような首領ではなかったのだろう。

「にしてもデーゲンだったか。あの大男滅茶苦茶硬かったな……」
「あの斧型のオーファクトはどちらかというと古い形式のオーファクトですね。用途が狭い代わりに強力なアートを使える、というコンセプトが主流だった頃のものです」
「確かにな。ウェバルテインでも傷一つつけられない障壁とは驚きだった」
「流石に『鞘』に納めたままでは破れる強度ではなかったでしたね。加えて本人も身体強化術をさらにオーファクト自身の力で強化していたので文字通り鉄壁の守りだったでしょう。わたしの援護射撃にも動じてませんでしたし」

 自身の防御力に絶対の自信があったからこそ防御が不要と判断した攻撃は身体で受け止め、あくまでアルセスのウェバルテインによる攻撃のみ防いだのはそういう事だろう。
 刃物には毒を塗ったものもある。傷一つつけられないとしても、体表に触れただけで効果を発揮するような毒であることを警戒すれば、相手の攻撃まで迂闊に受け止めるのは無謀だと判断するだけの判断力も備えていたらしい。
 商会を相手にする限り再び戦場で出会う確率は高いだろう。何らかの対抗策は必要だな、とアルセスは昨夜の戦いを振り返る。

「……あの強固な障壁のアートは欲しいよな」
「そうですねー。わたしは自前の結界術を持ってますが、ウェバルテイン本体に搭載してあるアートの中にはああいう防御向きのは少ないですからね。アルセスが緊急時に使える盾のような能力としては模倣(コピー)しておきたいところですが……あのムッサい大男から奪わないといけないんですよねー」
「こんな事ならダウンさせた時にオーファクトだけでも奪っとけば良かったな。仕事が優先だから仕方ないけど」

 個人的な獲物を優先するよりも団員としては依頼を受けた仕事を完遂してから、というのがアルセスのプロとしての拘りだ。荷台をあらかた調べ終わると同時に黒狼団の団員たちが目を覚ましそうだったので、ダンセイル一家は慌てて撤退したわけだが、後もう少し早ければ、という思いはアルセスの中にはあった。

「ま、俺の足りないところはティエナが補ってくれるしな。それについてはまたの機会があればって事で」
「もう、そうやって後回し後回しにしてて肝心なときが来たらどうするんですかっ」
「そうなる前にティエナが助けてくれるだろう?」

 信頼に満ちた眼差しでアルセスが微笑むと、その視線に真っ直ぐに射抜かれたティエナはいつものように顔を真っ赤にして狼狽しつつも、

「ふ、ふん! 真に勝手な意見ですがちょっとだけ、本当にちょっとだけ抜けたところもあるご主人様(マスター)のフォローも、使われる身であるオーファクトの仕事ですからね!」
「ああ、ありがとな」
「も、もう! だから仕事であって深い意味は……ないこともないんですけど、お礼を言われるようなことではないんですっ!」

 それからも必死に言い訳を重ねるティエナを見て微笑みながら食事を進めて行くアルセスはとっくに昨日の疲れはなくなっていた。

「……レイリアちゃーん。あの二人、徹夜明けにちけぇのに何であんなにいつもどおりなんだよ……」
「うーん、あれであの二人、別に意識してやってるわけじゃないのが困った子たちなのよねえ」
「ちっとも困ってるようにはみえねーけど」
「だって慣れてるもの。特にティエルちゃんは見てて可愛いから」

 レイリアのそれは偽りない本心だった。もう一人の妹と言っても過言ではないティエナの言動も行動も彼女にとっては好ましいものばかりである。
 団員達もそれ以上は愚痴ったところでどうにもならないと悟ったか、大人しく食事を進めてここから去るべきだと頭を切り替えた。

「レイリアちゃん、コーヒーお代わりー」
「あ、私にももらえるかしら」
「はーい、お砂糖は?」
「いらねーわ」
「私も」

 レイリアに声をかけた団員達とは別に食堂で遅めのランチを堪能していた団員達は、アルセスとティエナの会話を嫌でも耳にして何故かどっと疲れが増しているという悪循環に陥っているのだった。
供給できる時は砂糖出さなきゃ……(使命感
+注意+
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