挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

しおりの位置情報を変更しました
エラーが発生しました

ブックマークしました。

設定

更新通知 0/400

設定を保存しました
エラーが発生しました

カテゴリ

ブックマークへ

以下のブックマークを解除します。
よろしければ[解除]を押してください。

ブックマークを解除しました。

52/88

第51話 君と俺は

 如何なる鉄壁の防御も山の如き不動の精神も一切合財を無視し相手を吹き飛ばす心機述構(グリモワルアート)
 直接的な攻撃力の無いアートはワンダラーの間でも軽視されがち――などと言う事は無い。優れた戦士であるならば搦め手の有用性は理解される。圧倒的な力の差さえも時に覆す謀略。それを実行する際において相手の意表を突けるような攻撃技というのはいつの時代も重宝されるものだ。
 だからこそ――相手の攻撃を受け止める、という事が主軸であるデーゲンにこそ有効な手となって生きる。それが不傷の力場(デノクフォース)をアルセスが選択した理由だ。
 衝撃を与える、その力自体は障壁で軽減されるものだ。防御に特化したこの障壁越しではいかにウェバルテインの心機述構(グリモワルアート)と言えど大きく効果を減衰されるのは間違いない。
 だからこそアルセスは相手の攻撃を誘った。そして用途からデーゲンのオーファクトの防壁の使い方すらも推測して見せたのだ。攻撃に転じるための使い方を考えれば、自分の行動を封じるためにも展開するだろうと。

 そこで相手の手札を引き出せたのならば攻撃すべきではないか?

 そう考える者もいるだろう。けれどもアルセスの大技、それもデーゲンのようなタフな相手を一撃で昏倒、或いは仕留める領域まで届く技を放つとなれば準備の時間がかかる。瞬間的に威力を発揮できる技を持たないアルセスにとってウェバルテイン単独で致命傷を与えるのが難しい相手というのは倒す手段が制限されてしまうのだ。
 だからティエナの力を借りるのがアルセスのやり方。足りない点は彼女が補う、そうしてアルセスは数々の窮地を切り抜けてきた。
 そして今もまた――その手順に狂いは無い。
 相手の防御を無視しアルセスは自分の狙い通りにデーゲンを大きく後方へと吹き飛ばす。
 身体を押し出すような衝撃、しかし打撃を食らったような痛みは感じず困惑しながらもデーゲンはその力に抗うことは出来ず吹き飛ばされた。

「………!?」

 距離にして数十メートル。間合いを詰めるのにさしたる時間も必要とない程度の間隔。この程度で何が出来るものかとデーゲンは着地と同時に駆け出そうとして――

「残念でした――そこは悪夢への入り口ですよ?」

 背後から聞こえた少女の声にデーゲンは振り向こうとして――出来なかった。
 眼前の景色は黒く塗り潰され次第に周囲の音も声も遠くなり、いつしかデーゲンは自分の立っている場所さえあやふやとなっていくのを感じた。
 とてつもなく重い自身の身体。
 自分の姿勢すら分からなくなる中、デーゲンは一つの答えにたどり着く。

(……眠り……か……)

 強制的に沈められていく自身の意識。
 抗う術も無く思考が閉ざされて行く感覚をデーゲンはよく知っている。
 どんなに無口無表情と言えど人間。時に抗いがたい睡魔に襲われる経験くらい一度はあるだろう。
 それに酷似した感覚と共にデーゲンの意識は抗う事無く闇に溶けた。

 彼は知らない。アルセスのアートによって吹き飛ばされた先、その地点が既に罠であったことを。
 彼は知らない。早々に暗黒に閉ざされた視界で見えなかったのは、その地より伸びた無数の闇が彼を包んだからだという事を。
 彼は知らない。そのアートに対抗する手段はあった。アートの発動よりも先に心気による身体の活性化。それを行えればまだ彼を蝕む効果に抗う術はあったのだと。

 けれどもこのアートの恐ろしさは抵抗の手段を思いつかせない事。
 人間誰しも、空腹が極まっていたり、疲労困憊であったり、病気によって意識が朦朧としていたりと正常では無い状態では最適な判断を下せぬことがあろう。
 このアートはまずそうした状態に人間の心理を陥らせる。意識を奪う、という単純な効果でありながらまず対象者の思考を「寝てはならない」という睡魔への抵抗へこそ誘導する。
 抵抗を考えること、それ自体が罠の入り口という悪辣なアート。戦場という場で、身体へ異常を及ぼすことがどれだけ危険かを理解している戦士だからこそ、初手を誤らせるという意識誘導すら含んだ心機述構(グリモワルアート)

 その名を誤ちを誘う悪夢(ミスリードナイトメア)

 設置型と呼ばれるタイプの心機述構(グリモワルアート)の一つで、アートを仕掛けた場所へ対象を誘導する必要があるが、その分、直接的に相手へとぶつけねばならぬアートよりも特化した効果を持つのが特徴である。
 デーゲンの行動さえ封じればいいのだから倒せなければ眠らせれば良い。
 まして相手が自身の戦闘法に自信を持っていそうだからこそ成功させることの出来た作戦だと言えるだろう。アルセスの演技を含めて一見無駄に見える攻撃も、ティエナがそのアートを完成させ仕込みを終えるまでの時間稼ぎでしかなかったという事だ。

「アルセス、念の為この人は障壁で囲っておきますよ?」
「しばらくは起きないだろうがその方が良いだろうな」

 突然復活されても困ると判断したアルセスはティエナの提案に従った。
 梱包とまでは行かないが、透明の障壁で囲まれた中でデーゲンは大の字になったまま静かに眠っていた。悪夢、とは言うが寝た後の事までには干渉出来ないアートなのでデーゲンがどのような夢を見ているかは彼次第だ。或いは夢すら見ずに深い眠りについているかもしれないが。

「さて、後は残党を残らず畳むだけだな。行くぞ、ティエナ!」
「はーい、ま、そんなにお仕事は残ってなさそうですけどね」

 既に銃声もまばらで戦闘音が落ち着きつつある戦場を見ながらティエナはそんな独り言を言った。
 それから一家と傭兵団の戦闘が終了するまでは三分とかからなかった。特にデーゲンが倒された事で完全に目論みの狂った傭兵団は混乱の極みにあり、アルセス、エモンド、ジーゼンと実力者達の波状攻撃に耐えることは出来なかったのである。


 ★


「うっしゃ! 全員黙らせたな!?」
「商会の連中も含めて全員縛り上げました!」
「よし、なら目利きの利く奴はすぐにターゲットを調べろ! やべえ品は全部燃やしちまうぞ!」
「イエッサー!」

 禁制品や影響の大きい品を世に流してまで資金を稼ぐことをよしとしないダンセイル一家にとって、違法品や麻薬などの類に手を出すことは無い。
 その代わり見て見ぬフリもしなかった。精々燃やしてしまうくらいで根本的な解決には何もならないが、自己満足を満たすくらいは構わないだろう、というのが団員に共通するスタンスだ。

「何か真っ当な品物で色々と怪しげなブツが隠されているようっすよ」
「二重底になってる箱ん中に入ってるの……金塊っすね。関税払うの惜しくて隠してたんじゃないっスか?」
「そういういくらでも売りさばけそうなモンはどんどんもらっちまえ! 二人も本命の方の捜索を頼むわ」

 アルセスとティエナはエモンドに促されて団員たちがまだ手をつけていないもう一つのトラックの荷台からまずは調査を始めた。一台はやはり黒狼団を輸送するためだけだったらしく、彼らの武器や弾薬などが詰まれているだけで目ぼしいものは見つかっていない。

「運転席にはそれらしい資料もブツもなかったからな」
「うーん、でもさっきからオーファクトの反応を探ってるんですけど反応が無いんですよね。今回はハズレでしょうか?」

 今回の輸送はオーファクトの移送ではなかったかもしれない。そういう可能性も出てきたが、アルセスはティエナのアートによる調査だけではなく自分の目でも積荷を確かめて行く。完全に壊れてオーファクトとしての反応を微塵も残していない場合、ティエナの探査にも引っかからないことはあるからだ。

「この辺は……銃器か」
「刻印が消されてますね。何処の国の横流し品でしょう……って考えるまでもないですね」
「ああ、この型のマシンガンとライフルには覚えがある。名前は忘れたけどレッセルダムに本社を構えている銃器メーカーの主力製品だったはずだ」

 軍事国家であるレッセルダム帝国。その背景に押されるようにかの国で商売をしている武器製造会社の製品の品質は他国よりも頭一つ抜けている。
 当然値も張るのだが中にはこうした裏道を使って高性能の品を流す者もいるということだ。
 帝国は厳格な国家体制を築いているがこうした不届き者はどうやっても現れるのだろう。
 他にもアルセスは木箱を開けて一つ一つ中身を精査していったが、資金になりそうな物はともかく肝心のオーファクトに関しては見当たらなかった。

「これだけ探しても見つからないとなると後は……」
「待ってください、アルセス。妙な反応があると思ったらこの箱の二重底だけアートで固められてますね」
心機述構(グリモワルアート)で固める?」

 馴染みの無いオーファクトの使い方だったのでアルセスは首をかしげた。
 そんな彼の様子をみてティエナはやれやれ、と言いつつもどこか嬉しそうにアルセスに説明を始めた。

「防犯用のオーファクトの中にはこうした鍵とかがつけられないようなものを『固定』するアートが使える物があったんですよ。解除用のオーファクトがないと解除できないアートなんですよね」
「察するにあからさまに鍵やら何やらで他の人間に開けられないようにする細工がしにくい、或いは重要な物であると匂わせたくない品を守るためのもの、か?」
「ええ、オーファクト版の鍵と錠前のようなものだと思っていただければ。とはいえ、こんなのはわたしにとっては小細工の類です。ええ、アートのほうも古い記述のようですし、わたしにかかればこんなのは簡単に壊せますねー」

 そこまで聞いてアルセスはティエナが何故に嬉しげなのかを理解した。
 そして理解したからこそ次に彼女が望むであろう言葉を瞬時に理解する。これこそまさに以心伝心の仲の証明と言えるだろう。
 だからこそそれを言葉にするより先に行動で示した。

「んーーーーっ!?」

 不意打ち気味にティエナに近寄ると強引にその唇を奪う。
 荒々しく、しかし丁寧さと優しさも忘れぬ詩的に言うなら情熱的とでも言うようなキスだ。
 しばし目を回していたティエナだったが、されるがままになりつつも本来の目的である生命力の吸収、すなわちエネルギーの補給は忘れなかった。
 事が終わった後、何故かティエナは不満げにアルセスを見つめた。

「うぅー……」
「何故睨む」
「ふ、不満だったわけじゃないですけど色々と段階をすっ飛ばされた事に文句を言おうか、でも嬉しい、悔しい! みたいな複雑な感情がわたしの中でうねりをあげてですね!」
「言いたいことを察したのに怒られるとは」
「察しがよすぎるのも問題ですっ!」

 とはいえそれも照れ隠しの側面が大きいのだろう。ティエナはぶつぶつと言いつつもアルセスの行動を否とは言わなかった。少々ムードが欲しいとか細かな不満があったのは事実だが、

(言わなくてもキスしてくれるくらい積極的なのは、うん、まあわたし愛されてる? 気分なのでいいんですけど。されるばっかりだと不公平じゃないですか。うー、わたしから行かなきゃ行けないようなタイミングになったらどうしよ……)

 というどこか律儀な考えが生まれたことによる動揺でもあった。
 そんな悩みを抱えつつも仕事はきっちりこなそうと、ティエナは早速施されているアートの記述に介入し、強引に解除を試みる。
 手順を踏まなければ爆発を起こすトラップが仕掛けられていたが、それも理解していなければのこと。
 どんなに巧妙に隠した記述であろうが、まずその全貌を明らかに出来るティエナの前では意味が無い。こんがらがった縄を解くようにティエナは少しずつアートを解体していき、そして一分と経たぬ内に無力化した。

「異常なし、と。アルセス、これでこの二重底の蓋が取れますよー」
「相変わらず早いな。本当頼りになるよ」
「ふっふーん、そうでしょう? 今日も全力で頑張りましたからねー」
「ああ、ありがとうなティエナ」

 褒めてー、もっと褒めてー、と全身で表現するティエナの頭を軽く撫でると、アルセスは慎重に蓋を取った。

「こいつは……?」

 そこに隠されていたものは――
二人で一つのワンダラー(しろめ
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ