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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第50話 machine of Duel ~強力の狼~

 先手必勝。
 残像を残すほどの速度でアルセスはデーゲンに詰め寄った。
 ウェバルテインを順手に構え刺突と斬撃を織り交ぜた密着戦を繰り広げ、リーチの似通っている手斧での攻撃を封じるように立ち回る。
 激しい足捌きとバリエーション豊かな乱撃はさながら舞踏のように激しい。奏でる音楽は武器と武器のぶつかり合う金属の音だけという殺伐としたものだが、守勢に回ってなおデーゲンはアルセスの苛烈な攻撃を全て防いでいた。鈍重そうな見た目の割には素早い斧捌きで、短剣という手数重視の武器に対して遅れる事無く的確な防御術を披露する。

(……こいつ、こんなナリで実は守勢の戦いの方が得意なのか?)

 フェイントに側面からの攻撃を組み合わせ、アルセスは自らの足を止めずにデーゲンの死角へ回るような移動攻撃を仕掛けていたのだが、対するデーゲンは不動。
 身体の向きを変える僅かな動き以外は無駄な動作は行わず、しかし斧の刃で正確に相手の攻撃をいなす防御術には一点の乱れも無く、アルセスはまるで彫像か石像にでも斬りかかっているかのような錯覚を覚えた。

 ワンダラーの戦いとは心機述構(グリモワルアート)の質の差に伴う人間離れした戦いと思われがちだが、実際には違う。
 かつてアルセスが刃を交えたリオネスのように自らの手で操作する人形のような相手をぶつけてくる相手とはおよそ今のような攻防は成り立たない。ティエナのように遠距離攻撃を主体とするオーファクトを持つワンダラー相手であれば銃撃戦のような遠距離戦にもなりうるかもしれない。
 だが、それはあくまで所有するオーファクトによって違うもの。大半のワンダラーが所有するオーファクトに合わせた技芸を身につけるのはむしろ必須事項と言えた。
 何故なら常に自身の得意とするフィールドでの戦闘とは限らない。

 剣のオーファクトであれば剣技を。
 銃のオーファクトであれば銃技を。

 武芸を生かせるオーファクトであれば最低限の技術を学んでおく事は決して無駄にはならない。武器としての性能が高い事が多い事もあるが、身一つでの対処を知らないと判明すれば数の暴力や搦め手で対処されるワンダラーは決して少なくないからである。
 故にアルセスとデーゲンの戦いはワンダラー同士の戦いとしては珍しい光景ではない。互いに手の内を探り合い、相手の手札を晒させるための前哨戦。その戦いで言うならばアルセスの分はやや悪い。速度でも手数でも揺るがぬ相手を短剣一つで追い詰めるにはデーゲンの防御力は高すぎた。加えて体躯の差は明白。いかに心気での強化があったとはいえそれは相手も同様。体術でデーゲンを崩すにはアルセスの力では不足していると断言するほどに差があった。

「アルセス!」

 そんな状況のアルセスの背に届くのは名を呼ぶティエナの声。
 何をするとも言わず、どうしろとも言わず。
 けれどもアルセスはそれだけでティエナの意図を察する。もっとも何をするかまでは予測できずともデーゲンにもそれは同様。ただ巨漢の斧使いは相手が何をしようともただ待ち受けるのみ。

「収束射法――乱射! いけぇ!」

 ティエナの基本的な攻撃はアルセスより受け取ったエネルギーを簡易攻撃術に転換し撃ち出すという遠距離攻撃だ。心気に反応する調合を行った火薬とそれに反応する弾丸を組み合わせることで、闘術を扱える銃士ならば似たような攻撃が可能だが、それをティエナは身一つで行えてしまう。
 その姿は黒いエネルギー状の何かを放つ事もあり、御伽噺の魔女か何かの様に見えてしまうのだが多くの者は変り種のワンダラーだと思うだけだろう。直接的な武器の姿をしていないオーファクトにはこの手の能力が付与されていることが多いからだ。

 ともあれ、既存の物理法則の類を無視するエネルギーによる攻撃は同じく既存の物理現象から離れた現象を引き起こす心気による闘術でなければ相殺も防御も不可能。
 直前までデーゲンの目からティエナを隠すように立ち回っていたアルセスが突如飛び退き、正面より高速で飛来する黒い槍に果たしてデーゲンはどのように対処するのか。

「……………ッ!」

 斧を盾にするように構え一瞬だけ気合を込めた呼気を吐くと、デーゲンはまるで踏みしめるように両足に力を込めた。その様、まるで自らを盾にするが如く。するとどうだろうか、ティエナが時折使うアートと同様に不可視の壁がデーゲンの前に突如として出現し、ティエナの放った槍のような弾丸を全て受け止めてしまった。その展開時間は決して長くはない。ものの数秒と経たずに障壁が消失したのをアルセスは見逃さなかった。

(展開時間が限られる代わりに強度の高いタイプか。瞬間バリアタイプのアートだからこそ磨かれた鉄壁の防御術。なるほど、見た目の印象とは違ってみえるはずだ)

 アートを見ても一歩も怯まぬ胆力。
 並の力では傷つけることすら叶わず、そもそも攻撃を届かせるまでが一苦労。
 加えてどれ程優勢に立とうとも迂闊に動かずに隙を見せぬ守りの姿勢。

 アルセスは確信する。デーゲンは突出した防御型のワンダラーだと。そしてその防御力によって相手の疲弊を誘い、最終的に打つ手の無くなった相手を仕留めるのは豪腕によって生み出される手斧の破壊力。 疲れきった相手の頭をかち割るには十分足りうる攻撃力も備えた厄介な相手であるとアルセスは認識した。
 一度状況を把握する為に相手の間合いの外に引いたアルセスだったが、なお動かぬデーゲンの慎重さが自身の推論をより確かなものへと変える。相手の手の内がはっきりするまでは決して攻め込まずに守りに入るタイプだと。
 後方では団員達と黒狼団の戦闘はまだ決着がつきそうにない。互いの陣営を預かる指揮官役の者達の怒号が飛び交っている中、銃撃や剣戟の音が止まない。
 ワンダラー一人に手こずっている時間は無いのだが、だからと言って大技の大盤振る舞いという考えはアルセスには無い。

虚栄の(ビジョン)幻影刃(ブレイド)はまずいよな」
「一度障壁に防がれた時点で二度目は通じなくなりますからねー。連続展開が出来ない心機述構(グリモワルアート)ですから相性が悪いです」

 同じ相手に正真正銘一度しか切れぬ切り札。
 その威力は折り紙つきの虚栄の(ビジョン)幻影刃(ブレイド)であるが、相手の防御術を破るなどと言った用途には相性が悪すぎて使い物にならない。
 一度だけ突破出来れば良い、という状況であれば別だがアルセスの通常の手段ではデーゲンの守りを崩せないとなると何度でも展開が可能な防御型のアートに対しては虚栄の(ビジョン)幻影刃(ブレイド)は使い道が無いと断言してもいいだろう。

「うーん、あれくらいならこの人だかりで使っても問題ないだろうと思ったんだがな」
「状況が許す限りはあまり派手な力の使用は避けたいですよね」

 場合によってはウェバルテインの存在を世に広めてしまい、余計なトラブルを招きかねないと考えているアルセスとティエナは強力であっても自身の力の使いどころの見極めは慎重だ。
 それは必要であれば躊躇無く振るう覚悟と同時に、必要なき時にはその刃を秘し余計な火種を巻かぬようにという強者の配慮でもある。
 その覚悟を貫いてきた二人はそれを自らへの枷とも制限とも感じたことは無い。一見、不利なこの状況であっても使える手で如何にして打倒するか。その手段を講じることを楽しんでいる節すらあった。
 ふと、デーゲンから視線を逸らすと大振りの攻撃をエモンドに誘われて迂闊に踏み込み、致命的な隙を晒した黒狼団の一人が軽い斬撃で腕を切り裂かれ怯んだところを組み伏せられて意識を奪われる、というシーンがアルセスの目に飛び込んできた。
 それを見てアルセスの脳裏に一つの手段が浮かび上がった。

「……ああ、そうか。危なく目的を勘違いするところだった。そもそもこいつら護衛には寝ててくれさえしてくれればいいんだから、何も正攻法で倒すことばっかり考えなくていいんだった」
「それはそうですけど、あのムサくるしい大男にどうやって寝てもらうんですか。あの人、わたしのアートの直撃を食らっても平然としてそうなんですけど。体表から溢れてる心気が半端じゃないですし」
「やっぱり闘術の方も達者か」
「ワンダラーだからと言って素人とは限りませんしねえ。エモンドみたいに武芸一筋で生きてた人が巡り合わせで得意武器のオーファクトに適性があるのが見つかった、とか言うケースはままありますし」
「天が二物も三物も与えるもんじゃないと思……いや、それは否定しておくか。俺はオーファクトと可愛い彼女と両方取りだった」
「――っ!? あ、アルセス、不意打ちで可愛いとか言うのは戦闘中はちょっと……その困ります!」

 ティエナが身をよじって照れるがアルセスもそんなティエナに微笑みつつ油断はしない。
 デーゲンはそんな緊張感の無い相手に対してもなお表情一つ変えずに彼らの動きを観察していた。その完璧さにアルセスは感心する。
 己の役割に忠実。全くブレぬその精神は姿勢になお表れて堅牢。
 足止めにしろ打倒するにしろ、なるほどワンダラーを相手にするのに必要な戦術をよく理解している。
 ならば必要なのは正面から打倒する方法――ではない、とアルセスは決断した。

「ティエナ、俺はこれからあいつに攻撃を()()()。それが作戦の合図だ」
「うーん、彼が動くのってどう考えてもわたし達を倒せる、と判断した時だけのような気がしますけど?」
「ああ、俺達に手の打ちようが無くなった、と思わせるなら今後も同じ攻撃を続ければ良いだけだろう。ティエナならその裏で罠の準備が出来るだろう?」
「はあ、と言っても動かない相手に対してどんな罠を――って、ああ、そういう事ですか」
「そう、俺達は何も直接的な攻撃を仕掛ける心機述構(グリモワルアート)ばかりってわけじゃないからな」

 保有する手札の数ならばティエナと二人がかりとはいえ多くのワンダラーより勝っている自負がアルセスにはある。
 使える手札が限られていようとその枚数が他の人間よりも多数あるというのならば――幾つかの組み合わせで何でも出来てしまうのが自分達の強みであると。

「演技をしつつ準備を進めてくれ。俺は奴が焦れるまで適当に攻め続ける。動き出すまで時間がかかるかもしれないがな」
「どうでしょう。案外決断は早いのかもしれませんよ。短気ではないでしょうが、ぼーっと突っ立ってるだけがお仕事の人にも見えませんし」
「そうだな、それじゃ頼んだぞ」
「はい!」

 そう言うとアルセスは再び姿勢を低くしたままデーゲンへと接近。お得意の身体を揺らしてのフェイントで相手の気を逸らしながら様々な方向から斬りつける乱舞を続ける。
 デーゲンの表情は相変わらず無表情。口元が伸ばし放題の髭で隠れている事もあり、アルセスにその表情は読みきれないが、心なしか落胆のため息をついたかのような気がした。

「――この!」

 万策尽きた。そう思わせるようにアルセスは毒づきつつ焦りの表情を浮かべながら先程よりもやや雑に連撃を組み合わせて行く。ティエナの方も後方で手を出しあぐねている――かのように偽装しながらこっそりとばれないようにアートを組み上げて行く。
 後はデーゲンがその動きを察するか否か。アルセスにとってはそこが勝負の分かれ目だった。
 この作戦が決まれば確実に「勝利」となる予感はあった。
 しかし、その為にはどうしてもデーゲンからの攻撃が必須だった。彼が展開したアート、その強固さを目の当たりにしたからこそ決定打を打ち込むにはそうしてもらう必要があったのだ。
 そうして無駄に見えるかのような攻撃をしては距離を取り、再び同じように攻める、という傍から見たら無駄な抵抗に見える行動を幾度繰り返したその時。

「……終わりだ」

 デーゲンのその呟きをこの騒々しい中でもアルセスの耳は聞き逃さなかった。
 同時に彼の心気が一気に膨れ上がり膨張する筋肉に連動するかのように高まって行く。
 相手を完全に封殺しその退路を断った上で完璧なる一撃を叩き込む。
 その状況が整ってはじめて攻勢に回るのがデーゲンの主義であった。
 デーゲンはアルセスの底を見切った――と勘違いしたのだ。その表情は相変わらずの鉄面皮。けれども周囲に衝撃を撒き散らす心気を纏うその姿はまるで小型の嵐のようだ。
 アルセスは怖れたような表情を浮かべて一歩下がり、

「……無駄だ」

 ドン、と背中に何かが当たる衝撃で足を止めた。
 それはデーゲンが展開していた防御用の障壁だ。心気の流れを追えるアルセスの目には一瞬だけであったが、僅かに見えた。
 まるでその形はアルセスを包み込むような形で展開していたのだ。ある程度ならば形状や大きさも変えられる障壁。なるほど、攻防の両方に使えるアートという訳だ。ティエナが時に敵の退路を断つのに障壁を利用する例を見ていたため、アルセスは素直に感嘆した。
 そして大きく振りかぶられる斧。
 この間合い、この速度、そして何より足を止められた獲物にはこの強力が振るう斧から逃れる術はないだろう。
 多くの者がこのワンダラーと相対してこうして頭をかち割られたのかもしれない。
 けれども――

第二階層(セカンダリ)情報領域(データベース)展開(オープン)戦闘述構(バトルデバイス)第三位(サード)――不傷の力場(デノクフォース)!!」

 今宵、その例えに当てはまらぬ埒外がここに誕生した。
知的マッチョって中ボス格としては
非常に厄介。

※ 明日の更新は休みます。
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