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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第49話 夜に紛れ 夜を裂く

 王都ゼルダンタより半日ほど車を走らせた先、平原に大きくカーブを描いた街道から外れた位置に停車する三台の大型トラックの周辺で警戒するように銃器や武器を構えた男達がたむろする。
 曇り空のため星も月もない夜空であるが、風は冷たいという程ではなく小さな焚き火でも暖は取れるし見晴らしがいいため夜行性の魔物からも警戒のしやすい立地という事もあり、見張りに立っている者達の緊張の糸はさほど張り詰めてはいなかった。

「やれやれ、この強行軍もやっと明日で終わりか」
「最近は小さな街でも警備の目が厳しいとは言え、このご時勢に車使って野営たぁな。クライアントは随分と慎重なようで」
「ま、それも今晩で終わりってな」

 三台のトラックの荷台の内、二つは真っ当に荷が積まれているがもう一台は空だった。
 いや、正確には荷台を改装した輸送車である。ただし輸送するのは――人間と武器。戦闘用の武器や資材と一緒に間のスペースに人が乗り込み集団で移動するための車。
 かつては馬車などを使って行っていた事を、ここ数年では大量積載が可能な大型自動車を頑丈にしたてた車を使うのが一般的だ。そういう意味では少々厳つくは見えるが不審に思われるまではいかない。
 だが、印象が悪いからこそあらぬ疑いを持たれることを避けるため――デクトマンド商会は護衛を依頼した黒狼団には街を利用した宿泊は避けるようにと厳命した。無論、不便を強いるという事で報酬は上乗せした上で。
 携帯用の簡素なマグカップにあまり美味とは言えないインスタントコーヒーをすすりながら、雇われた傭兵達はこうして交代で夜を明かしている。警戒するのは魔物のみならず同業者の襲撃や憲兵などだ。
 長銃を肩に担いで周辺を警戒する者、腰から剣を下げている者、銃器の手入れをしている者など様々だが彼らに共通しているのは黒染めした毛皮のジャケットとブーツである。それ以外の防具は個人差があるが、黒狼団の名の由来でもあるこの二つの装備は彼らのシンボルマークとして機能しているのだ。
 総勢二十名。集団戦闘に長けた十人一組の小隊が二小隊派遣されたデクトマンド商会の商会員の護衛任務。その面倒で退屈な仕事も今晩で終わりだと思うと、彼らの気がやや緩んでいるのはプロとは言え致し方ないことであろう。

 そもそもこの仕事自体があくまでデクトマンドの商会長が慎重派な思考ゆえに発生した仕事だ。
 東の港町から始まったこの仕事も今日で三日目の晩。既に日は跨いだ四日目の今日で契約は終了する。その間、ただの一度も襲撃はおろか魔物との遭遇すら無かったのだ。戦い慣れた傭兵団にとっては子どものお使い以下のミッションとあっては、緊張を維持する事の方が難しかろう。

「しっかし、たったこれだけの仕事にあんだけの金を動かすって事は、やっぱ最近羽振りがいいって噂ーは本当なんですかねえ? ヤバいブツに手を出してるって話の」
「口を慎め。依頼人への邪推はご法度だ」
「す、すいません隊長」

 やや口が軽くなっていたらしい団員の一人は叱責を受けて素直に頭を下げた。
 パチパチと焚き火の爆ぜる音がする静かな夜に、一際強い風が吹いた。

「おっと、随分と風が荒れたな? こりゃ夜明け前に一雨来るか?」
「この辺りの魔物は雨が降ったら森に隠れますしねえ。その方がオレらの仕事も楽なんですけど」
「気を緩めるな。警戒を続け――」

 隊長格の男の声は続かなかった。何故なら――眼前の先にいつの間にか巨大な影が空を覆っていたからだ。
 いや、それは影などではない。鍛えられた夜目がその真の姿を捉えた時、隊長格の男の顔は驚愕に染まる。

「――小型飛行艇……だと……!? バカないつの間に!?」

 飛行艇は小型大型問わず、従来の船のような船底ではなく双胴船を参考にした陸地にも着陸が可能な平らなデザインを意識して作られている。
 その船底からのぞくのは――数々の機関砲。船底に取り付けるものは大半が斜め下へと向けられる対地武装。地より迎え撃つ兵士を迎撃するための銃が夜の闇を切り裂く火花と共に弾丸を撃ち出した。

「て、敵襲! 敵襲だーっ!」
「クライアントを守れ! 全員出ろ!」
「い、いつの間にあんな船が近づいてやがったんだよ!? 見張りは何してた!」
「全然音が聞こえない! 何なんだあれは!?」

 完全に予想の外だった黒狼団は、突如として間近に現れた小型飛行艇に完全に浮き足立っていた。
 無理もない。いくら月も星もない夜とはいえ飛行艇が飛べば風が吹き、近づけばエンジンの音がする。無音のまま、突如として姿を現す船の存在など想定しろという方が無理である。
 機関砲の銃撃はさながら弾薬のスコールだ。対空の、それも大型の魔物や飛行艇を想定したような重火器を用意していない黒狼団の面々には打つ手が無く、トラックを盾にしつつ緊急事態だと叫び眠っていた仲間達を起こす程度しか出来なかった。
 既に飛行艇は地表まで約数メートルという距離まで難なく近づいた。トラックがどちらに逃げようとも追える位置だ。そもそも空を押さえられては逃げるも何もあったものではないが。

「それじゃ、一番乗りで行くぜ!」
「ヒャッホウ!」

 そしてブリッジへと繋がる扉が開き、中から次々と武装したダンセイル一家の団員たちが飛び降りて行く。全員危なげなく着地するとすぐさま戦闘行動に入った。全員マフラーや被り物などで顔がバレにくいように隠しており、傍目から見たらどちらが悪人か分かったものではなかった。

「それじゃリーン、俺達も行く。終わるまでは降りてくるなよ?」
「はいはーい、ちゃんと『音』のステルスまで展開させて待機してるからヨッロシクー」

 アルセスとティエナは無難にフードのついたコートマントと口元を覆い隠すような服装で外に飛び出した。

 黒狼団が気づけなかった最大の理由。
 それはこの小型飛行艇が有する数々の機能であった。
 ダンセイル一家の所有する小型飛行艇にはティエナ監修による軍の最新装備すら上回る特殊兵装が惜しみなく搭載されているのである。
 昼夜問わず展開できる光学迷彩(ステルス)機能は当然として、航行時に発生する騒音を外部に伝えぬようにするサイレント機能。この二つを駆使されては視覚や聴覚に頼った警戒はなんら意味を成さない。
 熱量やエンジンの反応など、別視点による探知機能やレーダーでもなければ接近には気づけなかっただろう。唯一発生したのは高度を下げた際に発生した突風だが、それで小型飛行艇の存在を予測しろとは難しすぎる話だった。
 とはいえ美味しい話には裏があるもの。この特殊兵装展開時は大きくエネルギーを消費するため燃料の減りが早くなり航行可能時間が大きく減少するというデメリットもあるので、こうした強襲に使うのならばともかく敵地で発見されないように飛行するために使うには向かない。
 だが、それを差し引いてもまだ一般には実用化されていない特殊機能という点は強力な武器ではある。
 そんな特殊機能を思う存分使っての「祭り」にご機嫌のリーンに見送られ地上へと向かう二人。

「楽に片付けばいいんですけどねー。アルセス、それでは行きましょうか」
「ああ、丁度いい足場があるからな」

 アルセスとティエナも既に準備していたように完全武装状態で戦闘へと乱入する。トラックの荷台の上に着地し、そこからさらに飛び降りると同時に後方の扉から今まさに飛び出そうとしていた団員を上から急襲した。

「へべっ!?」
「悪いな、寝ててくれ」

 踏みつけつつ相手の意識を奪ったアルセスは荷台の中を確認し伏兵がいない事を確認してから敵味方入り乱れる乱戦の中へと飛び込んだ。
 倒すべき敵は全て外に出ている。逃走を懸念して全ての運転席を調べたが、どうやら雇った商会の運転手も腕に覚えがあるのか叩き起こされて戦闘に参加しているようだった。

(……飛行艇が見えたのに車を走らせて逃げる愚は犯さないか)

 雇った傭兵団を見捨てては彼らから白い目で見られるばかりか恨みを買う上に、殆ど護衛のいない状態で地上を走ったところで、飛行艇に空から近づかれては逃げようなど出来るはずもない。よって彼らに残された選択肢は戦って勝つこと以外には存在しない。

「チッ! 一端陣形を整えろ! バラバラに戦っていては銃が使えん!」
「ハッハァ! させると思うかぁ!?」

 乱された陣形を整えるように指示を飛ばす傭兵団の小隊長に割り込むように血気盛んな一家の団員が剣を片手に襲い掛かる。機先を制したダンセイル一家のペースで始まった戦闘は既に数の不利を埋めるかのような勢いで敵陣を飲み込んで行く。

 一方、ジーゼンを含めた銃士達はアルセスが飛び降りたトラックとは別のトラックの屋根に陣取っていた。乱戦になると予測していた彼らは中距離で銃弾をばら撒くような火器は持ち込んでいなかった。
 黒狼団とダンセイル一家の団員たちが乱雑に散らばる戦場。下手な銃撃は全てフレンドリーファイアの危険が付きまとう。その状況を脱するための黒狼団の小隊長の指示であったのだが、既に遅きに失した。

「……こちらは慌てて乱射する必要はない。狙いやすいやつだけ撃て」
「アイサー!」

 ジーゼンの指示で長距離用のライフルを構えた団員達は比較的孤立した相手のみを狙って無力化していく。この暗闇の中にあっても敵味方を見分けられる程に夜目が利き、なおかつ視覚強化の闘術を使える者が集まった狙撃部隊はさながら闇の中でさえ獲物を正確に狙うハンターだった。
 そもそもダンセイル一家は前衛で戦うメンバーを近接武器を主体とする者達だけでほぼ固めており、ジーゼンを含めた遠距離攻撃担当は狙撃しやすい上に陣取っているのである。無論、全員が闘術によって視力の強化と夜目が非常に利く者を揃えた精鋭揃い。暗い夜においても敵味方を把握できる者達が集っていた。
 この集団から外れようと動くものだけを狙い撃てば良い状況で味方を誤射するなどまずありえなかった。集団から外れた傭兵から順次撃たれて倒れていく。この暗闇の中で正確な狙撃を行える彼らもたいしたものだが、やはり一段上の技を披露しているのはジーゼンであろう。
 的確に手足を撃ち抜き、時には相手の武器を弾いて味方を援護。攻撃と援護を瞬時に切り替えて狙撃を続ける正確無比な射撃は隣に立つ団員たちですら震えるほどの腕前であった。
 加えて、

「銃持ちはオレに任せな。お前らはあわくって浮き足立ってる近接武装の奴らだけ狙ってくれ!」
「了解っス!」

 エモンドがその神速の剣を生かして敵陣の中から的確に銃を所持している傭兵達を優先的に切り伏せていた。
 敵と味方の合間を縫うように駆け抜ける様が残す軌跡は彼の髪色が生み出す赤い稲妻か。
 傭兵達からすれば敵の姿が見えた瞬間には既に武器と自分が斬られているという悪夢。夜の最中に走る剣閃は黒の狼達の牙を断ち心臓を貫く疾風か何かか。いずれにせよ黒狼団の者達から見れば本当に人間かと理不尽な叫びをせざるを得ない獅子奮迅の活躍であった。

「まーたエモンドは戦うときばかりは調子に乗ってますねー」
「いや、切り込み隊長の名は伊達じゃないからな――それにこの分だとあっちは任せて大丈夫そうだ」

 アルセスとティエナは乱戦を背に一人の男と対峙していた。
 両刃の片手斧。柄も長くなく戦斧のようにリーチを生かした使い方よりは力任せに振り回すほうが威力が乗るであろう手斧に近いサイズの斧を油断なく構える豪腕の男。
 揃いの装備をしていてもなお他の団員よりも存在感のある男はアルセスがトラックから飛び降りた際に、まさにその斧から何かしらの――力を放とうとしていたところだった。

「斧のオーファクトか。性質が性質だからオーファクトは武器型のが数が多いって聞くけど」
「まあ、そもそも初期作の大半が魔物に対抗するための武器としてでしたからね。多様化したのは情勢が安定してからですし」

 だからオーファクトの武器持ちのワンダラーは珍しくは無い。
 ましてこれだけ大きい傭兵団ならば一人や二人紛れ込んでいてもおかしくないだろうと踏んではいたが、それだけにこちらが一気に優勢に傾いているといえど暢気に構えてはいられなくなったな、とアルセスはウェバルテインをしっかりと構えなおす。

「デーゲン! そいつもワンダラーだ! お前が仕留めるんだ、いいな!?」

 その心気の僅かな変化を見抜いたか。それとも独特な意匠のウェバルテインを見たからか。優れた闘術の使い手にはワンダラーである事を伏せる事は難しい。
 アルセスを強敵と見抜いた小隊長は控えていたオーファクトの斧使いに改めて命令を飛ばした。

「……了……解……」

 寡黙にして山男のような印象だったデーゲンというワンダラーは焦りつつ叫ぶ小隊長の命令にゆっくりと答える。
 一つ一つの動作はあまり過敏ではない。見た目通りのパワータイプであれば、自分とは完全に真逆だなとアルセスは踏むがワンダラーに見た目や印象での分析はあまり当てにならない。心機述構(グリモワルアート)を始め、保有している能力次第でいくらでもひっくり返るからだ。
 体格差は歴然。特にティエナなどはあの太い腕で掴まれようものなら簡単にへし折られるのではないかとさえ思える。けれども二人は臆する事無く対峙する。
 ワンダラーの能力は見た目の印象は関係ない。この理屈は彼らにもまた当てはまる。

「長引かせるわけにはいかない。速攻で制圧するぞ、ティエナ」
「はい、ご主人様(マスター)。どうぞお望みのままに」

 人知れず月のない夜の平原で起こった小競り合い。
 黒の短剣を構えた少年と彼につき従う少女は、黒い狼の猛者に立ち向かう。
奇襲の時点で既に半壊以上させていて
戦力比を数秒で覆すこの連中(しろめ
+注意+
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