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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第48話 決行が近くなれば

 作戦決行日が近くなり、いよいよアジト内がにわかに騒がしくなる日が続いた。

「おい、そっちの傷薬やなんかはこっちの箱に詰めてくれ!」
「ちょっと! 倉庫からの持ち出しはリストに書くのが先でしょ! 後で管理が大変になるんだからね!」
「こら! 通信妨害用のオーファクトを持ってったのは誰だ! 個数は守れ!」
「狙撃用のライフルが足りないぞ! 誰だ数を狂わせてる奴は!」

 にわかになどというレベルでもないような気がするが、とにかく戦争のような忙しさであった。
 何しろ、今回大掛かりな仕事を請けたのはアルセス達だけではない。別に結成されたチームも大仕事にかかることになったため、物資の兼ね合いや補給の段取りなどで裏方担当はてんやわんやで中には殺気立っている者までいる始末である。
 ダンセイル一家は決して資源や資金が潤沢という訳ではない。装備や設備に関しても零細企業という程ではないが、湯水のように扱えるかと聞かれればありえないと断じられる。
 先程から叫ばれているように、倉庫からの物品の持ち出しの管理から作戦における使用限度まで厳しく徹底され上限を超えての使用が必要と判断されるには上司――すなわちルガーの決裁が必要。
 なので自分達だけが貧乏くじを引かされてはたまらないとばかりにお互いをしっかり監視する体制が出来上がっているので不正が起こりにくい体制が出来上がってはいるのだ。

「あっ、どさくさに紛れて酒を持ち出してる奴がいたぞ!」
「縛り首だ!」
「吊るせ!」
「しかも『店』に卸す用の高級ワインだ!」
「で、出来心だったんだぁ!」

 仮に起こってもこのように即座に見つかるくらいにはしっかり管理されている。
 なお、釈明をしながら連れて行かれた若い男性の団員はこの後、在庫管理から資金管理までを一手に担う財務担当の団員にこってり絞られることになる。罪には罰を。それがダンセイル一家の厳しい掟の一つなのだから。

「まあまあ、なんとも浅ましい事。しょーもない事で人間は簡単に罪を犯しますねー。学習という単語は頭にないのでしょうか」
「そんな奴らの為にあるような言葉だからな、出来心ってのは」
「ふーん、アルセスはそんな魔が差すようなことはないと?」
「そうだな、ティエナの寝顔を見たりすると魔が差すことはあるなー、色々と」
「い、色々となんですか!? そこで切るとすごい気になるじゃないですか!」

 バタバタと人が入れ替わり立ち代わりになる様を眺めながらアルセスとティエナはリビング代わりの広間のソファに腰掛けて談笑していた。ただの談笑と言い切るには内容が少々問題であるが。
 二人は実働部隊ということもあり、自分達の装備さえ整えて作戦の段取りを頭に入れれば十分なので後方支援担当の団員達よりも余裕がある。なので夕食までの間の午後の時間をのんびりと骨休めの時間に充てていたのだ。

「俺も健康な男だからな。そこは察してくれ」
「む、むぅ……そんな風に流されると深く切り込みづらいんですけど……」

 そもそも年中通して自らアルセスと密着したがるティエナが何を今更恥ずかしがるのか、と呆れる者もいるだろうが、本能と羞恥心は別らしい。ティエナにとってアルセスと触れ合うというのは本能レベルでの欲求であり、男女の関係などをすっ飛ばして行われる行為と位置づけられているのであった。
 どうせなら自分達の部屋でやれ、と言いたくなるような格好で寛ぐ二人に敢えて何かを言う団員はいない。肉体を得て三年、この光景は最早慣れっこなので今更であるしわざわざ突っつく気力もない、というのが本音なのであるが。

「帰ってきたと思ったら堂々と人前でイチャこくバカップルがいやがるじゃないのー! どういうことだティエルー!」
「ようやく帰ってきたと思ったら何でいきなり騒いでるんですかリーン。他の人たちに迷惑ですよ」
「え? アンタがそれ言うの?」

 何が悪いんですか、と言わんばかりにふんぞり返るティエナにリーンは文句を言う気も無くした様だった。よくよく見れば手には氷と炭酸飲料が入ったグラスを持っており、どうやら休憩に来たのはアルセス達と一緒のようだ。

「やー、久しぶりに動かしたけど疲れたー! んでも、やっぱ楽しいね! アレの操縦は!」
「今回の作戦の要だもんなリーンは。忙しいだろうけど平気か?」
「あー、大変じゃないとは言わないけど、前よりも設備が一通りバージョンアップしてたし大丈夫じゃない?」

 今回の作戦の決行に当たってのネックを解消する為にリーンは「本アジト」へ一度帰還していたのだが、必要な物を持って帰ってきたという訳だ。
 王都近隣はますますキナ臭い事件が増えており、ルガーとしても使える「足」の一つや二つを手元に置いて置きたいと考えて、本アジトから一部をゼルダンタまで輸送させたのである。無論、偽装に偽装を重ねた手続きに加え、ラークオウル所有の「施設」へ、だが。

「にしても皆お祭り騒ぎ状態だねえ。まあ事情は分かるけども」
「どっちも規模としてはでかいヤマだし気合が入るのも無理ないさ。俺だって多少は気持ちが浮ついてる感じはあるからな」

 戦いへの喜びとかそういう健全な興奮ではないが、それでも悪行の片棒を担いでいる相手から上前を根こそぎ奪い取る、というのには否定しきれない高揚感がどうしても生まれるのを自覚しているアルセスである。
 ともすれば自分達も逆の立場になるかもしれない、と理解してのことだ。
 奪っているのに奪われないという保証は無い。だから狩られる立場になればアルセスは全力で守るだろう。自分達が羊の立場になるわけが無い、などという驕りは一度だって抱いたことは無い。
 場合によっては自らが恨まれることすらあるだろうと。そこに弁明も謝罪もするつもりはない。ただ――真っ向から受け止め、真っ向から切り伏せる。それがアルセスが歩いて行くと決めた道だ。

 たった一人の少女の為に、たった一人の少女が少女でいられる場所の為に。

「ただ、アタシ達は気をつけたほうがいいかもねー。ちょーっと調べてたらさ、聞き逃せない情報が入ってきたんだよね」
「リーンのそういうのは当たるので聞きたくないですが、知らないと対策が立てられませんから聞くとしましょうか」
「毎度毎度ゴメンねー、ってアタシだって言いたくなんのよー。それがさ、例のターゲットのデクトマンド商会がさ、黒狼団を雇ったらしいんだよねー」
「げ……輸送する『商品』の本気さの保障になりそうだがあいつらかよ……」

 アルセスは露骨に顔を歪めた。
 冒険者とは別に、荒事を専門とするいわゆる傭兵と呼ばれる稼業もこの世界では稼げないことは無い。
 用心棒として金で雇われるのも冒険者と傭兵が半々くらいであり、事、血生臭い案件の場合はリスクとリターンを冷静に見積もる冒険者よりも、少々高い金額を要求されるが仕事は確かという傭兵を名乗る者に依頼されることも多い。
 黒狼団とはそんな傭兵達の集まりだ。集団であることを売りとし、個人ではなく団体や企業、果ては国にすら自らを売り込む事もある生粋の戦闘狂の集まりで、アルセスは幾つかの部隊とやりあった経験があった。
 戦闘狂とは言うが敗色濃厚になっても構わずに暴れまわるというタイプではなく、自分達の命と任務の遂行優先というややプロ意識の高い連中で、仮に負けそうになっても依頼者と団員達くらいは守る、という巧みな用兵を行う集団として知られていた。
 何より依頼を請ける際に必ず依頼料の半額を前金として要求する代わりに、最低限の仕事は達成する、という評判が知れ渡っていることもあって、安全策を求める顧客には人気の高い傭兵団なのであった。

 それだけに対峙するアルセス達としてはやりにくい。最悪の場合、損害だけを出してこちらは儲けが一切出ないという状況にすら追い込まれるかもしれないからだ。戦闘に勝っても得るものがないのではアルセス達の実質負けに等しい。せめて、上位クラスの傭兵が混じっている部隊がついてこないことを祈るばかりだとアルセスは頭を痛めた。

「リーンはどのくらいの規模が雇われているかまで掴んでないんですか?」
「うーん、はっきりとした人数は分かんないんだけどさー。でも確か標的のトラックって三台だったじゃない?」
「ああ、そう聞いてる。ターゲットの移動計画書の写しも確認したから間違いないとは思うが」
「その内の一台がまるまる傭兵団の移動用じゃないかって噂ー」
「……二十人規模ですか。実に嬉しくない情報ですね」
「こっちは戦闘部隊は十人いるかいないかだぞ。今から人数増やすか?」
「いえ、数だけ集めても分が悪いでしょう。そもそも、傭兵と真正面からやり合えるような人がどれだけいるんですか」

 ダンセイル一家の団員は皆が皆、それなりに腕利きではあるが戦場を渡り歩く傭兵が相手となると少々話が変わる。
 アルセス達と同行するメンバーの中でも腕利き揃いだが、このメンバー以外でさらに増員となるとアルセスも思いつく人選は見当たらなかった。

「親父の奴、ここまで見越してメンバーを選出してたのかな」
「可能性はありますね。デクトマンド商会はそれなりにお金もあるようですし、傭兵を雇うことは十分予測できたでしょうから」
「抜け目無いからねー、オヤジは。んでも、だとするとマジヤバじゃない? エモンドもジーゼンもいるけど、ちょーっち厳しい仕事になりそうな気がすんだけど」

 リーンの懸念は的外れとは言い難い。
 アルセス達にとっては積荷を奪うところまで行ってはじめて仕事が成功と言える。しかし、相手は引き際を弁え相手の勝ち筋を潰すことに長けた傭兵団。単純に戦闘で勝てても逃げられては意味が無い。

「……リーンの心配はもっともだ。ティエナ、俺達も少々出方を考えておいた方が良いだろうな」
「そうですねー。ただのガチンコので勝負なら、ジーゼンもいますし認めるのはシャクですがエモンドもいます。ただ、相手方の逃走を封じるとなると――わたしの出番ですよねー?」
「ああ、場合によっては心機述構(グリモワルアート)の大盤振る舞いになる。後の事を考えると、ティエナにはちょっと負担をかけちまうんだが……」
「はいはい、アルセスは本当にわたしに気を使うんですから。いいんですよー、わたしはご主人様(マスター)のオーファクトですから。あって当然、使われて当然、ですが持ち主がそれを当然と思うような方でしたら鼻で笑うところですけど、アルセスは心底わたしに惚れ込んでくれてますからねー。女としての頑張りどころでしょう、ここは」

 口では澄ましたことを言っているが、胸を張って言い切る姿は褒められて有頂天になっている少女そのものだ。身体を逸らしても崩れない見事な形の胸部を見てリーンがやさぐれたが、果たして胸への嫉妬か胸焼けがしそうな甘い空気になのかは定かではなかった。

「ですけど、アルセス? わたしもアルセスの指示には従いますがもしも貴方に危険が及ぶようならその限りではありませんからね? し、心配だから、という理由だけではなくてそんな野蛮な連中にわたしが持ちさられるかもしれないのが嫌、というのもあるんですけどね!」
「ああ、分かってるさ。死んだってお前を離したりするもんか。いや、死ぬつもりは無いけど」

 死んだって、の部分でティエナが涙目になりそうなのを見てアルセスは即座に発言を訂正した。

「……ほんとですよ? ウェバルテインの制御にも気をつけてくださいね。わたしの方でも見てますけど」
「分かってる、分かってるからちょっと力が強いぞ、ティエナ」
「ふんっ、だ。縁起でもないことを口にするからです。そのつもりがなくても言っちゃやです、って前にも言ったのに」
「それについては全面的に謝る。悪かったって」

 アルセスは己の迂闊さを呪いながら、首元に顔を埋めるように抱きつくティエナの頭を撫でながら、しばしご機嫌取りに終始した。拗ねてもすぐに機嫌を直すティエナだが、それも場合によるのだ。今回にいたってはアルセスがうっかり地雷を踏み抜いてしまったことが原因である為、アルセスはされるがままになりながら弁明を続けるしかなかったのだが。

「あーもー、だからそーいうのは部屋でやれって言うのにー!」

 しかし、今回一番の貧乏くじを引いたのはリーンであろう。
 情報を伝えるためとはいえ、アルセスとティエナの二人が揃っていると大体こうなるのは分かっていながら、避けられないのは悲しい定めなのであった。
  
モブA「近くなればどうなる?」
モブB「知らんのか? 砂糖が出来る」

※ 明日の更新は休みます。
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