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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第47話 入念なる準備

 デクトマンド商会輸送車襲撃計画。

 捻りも何もないストレートな作戦名であるが、計画自体は久しぶりに規模の大きい仕事という事でメンバーに選出された団員達は気合を入れて早速準備を始める為にあちこちに奔走していた。
 アルセスとティエナも例外ではなく、手始めに情報収集から行っていた。

「現在自動車販売シェアランキング二位にして()()車に限ればロード社を押さえて一位のグッサン社製の最新型の大型トラックですか。随分と羽振りがいいみたいですね、デクトマンド商会は」

 二人はグッサン社の展示場兼販売所であるアルデステン支店を訪れて、襲撃対象であるトラックのスペックの調査に訪れていたのだった。新車ということもありグッサン社も大々的にサンプル用の車を展示してあるため、実際に見たほうが外観や特徴も合わせて対策を練りやすいだろうと判断しての事だった。

「表向きはな。ちょっと調べると結構グレーな案件がいくつか浮かび上がってきててお国からは睨まれてるみたいだけど」
「証拠不十分で検挙まではいかないという奴ですか」
「それもあるが色々な意味で商売上手なんだろう」

 そうでなければ桁が一つ違う最新の輸送用トラックを数台も用意するような資金は出ないだろう。
 アルセスは紹介用のスペックシートが立ててある台を見て値段にまず驚いたがその性能にも目を見張った。

 ベイガンサー220三型。

 現在多くの会社が輸送用に使っているトラックであるベイガンサーの最新式。
 ベイガンサーの特徴は何と言ってもその頑丈さだ。近年、陸路に限らないが魔物が闊歩するであろう街の外を走る乗り物は高い安全性が求められる。
 郊外を走るバスはその車体の頑丈さもさることながら用心棒として数人の腕利きを雇うなど乗客の安全に気を配るが、このトラックに関してはその質の高さが尋常ではない。
 まず輸送部である後部は完全に鉄の箱――長方形のコンテナとして機能し、場合によっては後部の扉だけではなく側面も開く。頑丈なだけで輸送や荷の運び入れには不便、などという感想とは無縁の機能性を備えている。
 車体自体も対防弾、対衝撃、対熱と殆どの魔物の襲撃に耐えられる防御性能を兼ね備え最終的に下された評価が「動く要塞」とまで言われたほどの耐久性も持つ。タイヤを覆うカバーは側面も正面も半分以上タイヤを覆うため、銃撃や斬撃によるタイヤの破損を狙うのも一苦労。
 当然運転席の周辺も防弾ガラスは当たり前、コンテナ程ではないが並の魔物程度ではびくともしない防御力は備えている。その耐久性に任せて強引に走り去れば危険から脱する事も可能だと豪語するのは伊達ではない性能で仕上げたグッサン社の主力製品である。
 ロード社もこうした運搬用トラックは手掛けているが、燃費などを含めたコスト面ではやや勝っているものの、総積載量と何より安全面ではグッサン社に一歩先を行かれているのが現状である為、この分野での売り上げは大きく水をあけられている。
 最終的に総合シェア一位であるロード社だが、その牙城は決して圧倒的に高い頂上にあるのではない。いつだって下に位置する会社が下克上を可能とする位置に立っているのだ。だからこそこの業界の競争度合いは激しく技術の進歩もまた早いのだ。

「……こうして実物を見ると誰がこんな奇跡的なバランスで仕上げたんだって思いますね。これで総重量は並のトラックと一緒っていうんですから一体どんな合金を使っているのやら」
「早速軍用の輸送トラックとしての受注も入ったらしいからな。装甲車並の頑丈さで長距離輸送が可能とかどこの軍も欲しがるだろ。飛行船が主体になってきたから装甲列車の運用も徐々に縮小されてるから陸路は自動車がメインになってるし」

 海は勝手が違う事もあり現状維持であるが、陸の戦力に関しては現代では大きく変化が進んでいる。
 かつては大量輸送と安全性の面から装甲列車を扱うことが多かったが、街道が発展し自動車の性能が大きく向上した現在では、飛行船にも搭載が可能な装甲車や軍用トラックに切り替える方針が主流である。
 何より線路は維持費と手間がかかることと柔軟性の無さがネックだ。空路が開拓されつつある今、輸送手段をトラックなどに切り替えて行くのは自然の流れといえた。

「……一般用でこの頑丈さか。並の闘術使いでも壊すのは容易じゃ無いな、これ」
「半端なワンダラーでも無理でしょうね。魔物由来の素材も混じってるから心気による現象にも高い防御力を備えてますよ。あまり強引な策は取れそうにありませんね」
「下手すりゃこれを盾に銃撃戦に展開されるか。そうなると人数が物をいうだろうが……」
「ヤバイ物を運んでるそうですからね。案外三台の内、一台は荷物じゃなくて用心棒の方々が大量に乗ってるとかありえません?」
「すっげぇありそう。てか盗賊団の常套手段だしな」

 大型のトラックのコンテナというのは中の改造が容易である。
 一昔前ならば山賊だの盗賊だのと聞けば、山の中や捨てられた家屋などを根城に集団で夜な夜な出かけては行商や村を襲うというイメージだが、現代においては拠点と移動手段を兼ね備えた大型車を用いて転々とするのが一般的だ。
 そのため、足がつきにくく国も大掛かりな賊狩りをする際には、装甲車などの軽戦闘用車両を持ち出し一部隊を結成して出向くのが主である。

「ルガーも相変わらず無茶を言いますよねー。こっちは十数人、向こうは場合によっては二十人は余裕で出てきそうですよ。二倍の戦力差を引っくり返せとか」
「とは言いつつもそれくらいならどうってこないか、って顔してるよなティエナ」
「まあ相手が普通の人間なら余裕でしょう? アルセスとわたしなら。わたしなら!」
「はいはい、ティエナのお陰お陰」
「あ、すっごくぞんざいな扱い! わたし拗ねて仕事放棄しますよ?」

 絶対にやらないであろう事を宣言しながらティエナはふくれっ面になったが、アルセスに謝罪の意味を込めて頭を撫でられたら即座に笑顔になった。絆されるのが早すぎである。

「……とりあえず相手の車両のデータは分かった。これを元に作戦の詰めを考えるか」
「あんまり取れる作戦は多くなさそうですけどね」
「相手も場所も悪いからな」

 などと呟きながら二人は展示場を後にした。
 生憎の曇り空でロケーションが良いとは言えなかったが、グッサン社を始め自動車や工業製品などを商品とする会社が並ぶこの地域は比較的新しいこともあって街並みが近代的だ。
 モダンな街灯は王城周辺の通りと同じもので風情があり、道が広い事もあって自動車も結構な数が走っている。

「あーあー、この分だと計画の一番槍は絶対わたし達のコンビに任されるでしょうねー」
「奇襲向けの心機述構(グリモワルアート)もあるから当然だな」

 何しろ待ち伏せに向かない地域である可能性が高い。
 平原でも敵に見つからずに一方的に襲撃をかけられるのはやはりワンダラーでもあるアルセスが適任だろう。それを前提に取れる手を考えて行くと、自ずと作戦の内容も見えてくる。

「けど、ティエナ。どの道あのトラック相手に待ち伏せはあんまり意味が無いだろう。何しろ地雷を踏んでも耐えるらしいからな」
「対戦車用の指向性地雷にすらビクともしないって一般車両の性能じゃないですけどね。加えてあのタイヤの狙える面積の少なさを考えると狙撃による足止めも高難度……こうして列挙すると確かに待ち伏せしても意味無さそうですね。強引に走り抜けられそうです」
「だろ? だから連中が野営中を強襲って結論にどうしたってなるのさ」

 日中の人里離れた場所で襲撃をかけるにしろ走行中のトラックを止めるのは極めて困難となれば、どうしても彼らが足を止めねばならないタイミング、すなわち野営の瞬間を狙うしかない。

「夜通し運転する可能性はどうやって潰すんでしょうね」
「アルデステンは夜行性の魔物は少ないが、それだけに自動車の運転音なんかで目が覚めた場合、狂乱して襲い掛かってくるような凶暴な種が多い。その手の大型の魔物に襲われるリスクを考えたら夜は静かにしているほうが無難さ」

 魔物の中には月の光に影響を受けて日中とは違う性質を持つ種も存在する。
 その手のは大抵相手取るのが厄介である為、よほどの急ぎでもなければそんな強行軍で進む理由は無い。軍隊ですら無用な損壊を避ける為に安全策を取るほどだ。魔物を舐めてはいけないのである。

「接触するための手法はもうちょっと考える必要があるが、トラックへの対策は二つ三つ必要だな。コンテナに篭もられて援軍を呼ばれても厄介だし、長引けば目撃される可能性も少なからずある。理想的な時間で仕掛けられるとも限らないからな」
「まー、その辺の面倒な事は全部丸投げしまーす。わたしはアルセスと一緒にお仕事するだけですしー」

 そろそろ頭を使うのが面倒になったのか、それとも色気の無い話をするのが嫌になったのか話を打ち切るかのような雰囲気を出して、ティエナはアルセスの腕にくっついた。いつものポジションにようやく落ち着いたからか、甘えるぞ、という空気全開のティエナ。アルセスは周囲からの視線が若干生暖かくなったような錯覚を覚える。

「……ティエナって普段から面倒な性格してるけど、昔からこう……くっついたりなんだりとスキンシップは割とベタベタするのが好きだよな」
「面倒とは何ですか、面倒とは! わたしとしてもアルセスとこうするのはやぶさかではないんですが、わたしの中の高貴な精神性がわたし自身を貶めるような行為にはきちんと理由をつけるべきだと――」
「いや、うん、その言い訳は何度も聞いたし、そして割とそれが無意味なのも何度か言ったからもういいや」

 本心がモロバレであるのに、本心を隠すような発言を前提にしないと行動できない。
 ティエナのそんな厄介な性分は今更である。今更であるのだが、だからこそ気安い触れ合いが好きな理由が見えてこないアルセスなのだ。
 ティエナも無駄に建前を並べ立ててもダメだと理解したのか、むぅーと唸った後、観念したように口を開いた。

「……その、アルセスの熱が感じられるのが嬉しいと言いますか、えーっと……ほら! わたしは何と言ってもウェバルテインの制御も担ってます。アルセスに会うまでは話すことすら稀でした。身体を得てからは割と自由ですけど、それでも――アルセスから遠く離れることは出来ません」
「そうだな、ウェバルテインから一定距離を離れると強制的に刀身に戻されるんだっけ」

 戻された後はすぐに再び実体化できるのでアルセスもさほど重要視はしていない。問題なのは、どうしても彼女が存在できる範囲がウェバルテインそのものに縛られている、という点だからだ。

「それでその……ストレートに言いますと――くっついていると落ち着くんです。まるでウェバルテインを構えているときのようなので」
「……えーっと、それって要するに俺がウェバルテインを使ってる時みたいだからって事?」
「……そうです。わたしはやっぱり道具ですので、求められてるなー、とか使ってもらえてるなー、みたいなのにはどうしても喜びを感じます。そういう熱を……アルセスと触れていると感じますので……」

 普段から刃物を振り回してたら危ない人間呼ばわりは免れない。
 しかし、自分のような少女と腕を組んでいるだけならば少々空気の読めないカップル程度で済む。
 それを知ってからはティエナはアルセスに迷惑をかけずに自分が喜べる手段の一つとして、触れ合うスキンシップを好むようになったのだと白状した。

「なるほど……思った以上に可愛い理由が出てきてちょっとびっくりしたな」
「い、言わせたがりのアルセスに今日は合わせたんですからね! いつもはこんなに簡単に口は割りませんよ! サービスの一つもしてもらわないとだめですからね!」
「ティエナ可愛いなー」
「な、な、な、なんでそうなるんですかあーーーー!」
「やっばい、俺の彼女超可愛い。いや、違うか。ますます可愛くなったか」
「アルセス、アルセス! もうやめましょう! 嬉しすぎてどうにかなっちゃいますから、やめましょう!」

 いつしか二人はそんな感じでじゃれ合いながらメインストリートを歩いて帰路へとついていた。
 作戦立案の為の情報収集も、一度この二人にかかればプチデート化してしまうのであった。

真面目な作戦会議とはなんだったのか(死人の目
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