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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第46話 襲撃計画

 ジーゼンも帰還し、一家の主要メンバーがアジトに集まってから数日後。ルガーはアルセスを含めた数人を作戦室に集めた。何かと自由なメンバーが多いがボスの命令は絶対だ。ティエナもより面倒になる事が分かっているから、その辺を疎かにする事はない。素直に従うとは限らないが。

「このタイミングで集合かけるってことは何か大きな仕事が入りましたかね」
「王都入りと同時に片付けるように言われた仕事は大体片付いたからそうかもしれない」

 ジーゼンがつい先日まで手掛けていた仕事がラークオウルより依頼されていた最後の仕事であったらしい事は、アルセスも耳にしていた。
 団長の声の元に仕事の話があるということは、つまり新しい仕事が早々に舞い込んだという事だ。アルセスや他の面々は十分に休養を取ったり他に個人的な仕事を片付けたりと余暇を満喫したからよいのだが。

「……ジーゼン、昨日帰ってきたばかりなのにもう仕事かよ」
「必要ならば出る。俺でなければ出来ぬ仕事があるのならば片付けるまでだ」

 アルセスの気の毒そうな視線も気にせずに、壁に寄りかかって腕を組んだままジーゼンはあっさりとそう答える。
 当人が納得しているのならば、とアルセスもこれ以上は何も言わなかったが、ジーゼンは本当に損な気質をしているなとはしみじみ思った。
 夕方前の時刻の中、集められた面々をアルセスは見渡してみると、エモンドを含めた荒事担当が数名、他に落ち着きなく時間を潰しているリーンの姿もあった。

「こりゃちょっと派手な仕事かな?」
「裏稼業の人間が派手に仕事するって言うのもおかしな話ですけどね」

 だが武闘派の団員がこうも揃っていると予想がそっちに傾くのも致し方ないかとはティエナも考えていた。面倒な役割でなければ彼女としてはどうでもいいのだが。

「おーう、全員揃ってるかー?」
「オヤジ、おっそーい。集合時間くらい守りなよー」
「すまんすまん、ちょっと『上』との最終打ち合わせが長引いちまったんだよ」

 娘からの指摘にペコペコと頭を下げながらルガーは作戦室の奥、テーブルの真ん中に陣取るように立った。それを見て他の者達も各々テーブルを囲むように適当な位置に立つ。この辺のルーズさがダンセイル一家の緩さでもあり、結束の強さでもある。

「さて、長々と前置きはいらねえだろうからまずは結論から言う。今日入ってきた仕事は輸送車の襲撃だ」
「相変わらずあの顔で堂々と犯罪予告されると何て似合うんだろうとか思いますよね、アルセス」
「俺に同意を求めんな」
「そりゃーしょうがないっしょティエル。逆にオヤジがあの顔で、今日は街の清掃だ、とか言ったらどーすんのさ」
「何言ってるんですか? ってこんな顔で見下しますね」

 ティエナはまるで道端のゴミでも見るかのような酷い顔でそう言った。リーンはうんうんと同意するように頷いて、

「あたしは指差して大笑いかなー」

 などとのたまった。二人揃って手厳しい評価である。
 押し殺した失笑が団員からも漏れる中、話題の矛先であるルガーは当然激怒した。

「おいこら、ティエル! 茶化してねえで真面目に聞け!」
「あ、自分の娘だけスルーしましたよ! 贔屓! 贔屓です!」
「ああ? 自分の娘を贔屓して何が悪い!」
「親父、その辺の話になると先に進まないから!」

 娘自慢を繰り広げるルガーとそれに悉く噛み付くティエナなど最悪の組み合わせに等しい。
 アルセスは無駄に会議が長くなるのを怖れて早々に論争に水を差す。今日はそれなりに人数が集まってるのだから、話が長くなるのは頂けないと。

「ったく……つってもカタギの車じゃねえ。アルデステンで派手に活動し始めた組織の輸送車だとよ。元々この辺に根を張ってた連中らしいが最近は他の組織のシマも荒らしてるらしくてな。()()()もピリピリしてんだとよ」

 そんなルガーの説明に団員の男の一人が頷いた。

「ああ、最近スラム街の方で妙に殺気だってんのが多いのはそいつが原因スか、団長」
「確証はないが連中もやられっぱなしじゃいられねえと尻尾を掴もうと躍起になってるだろうからな。んで、うちの『お上』の諜報員が急激に勢力を伸ばしている陰にオーファクトあり、ってのを掴んだらしい」

 その点に関しては誰も驚きを示さない。
 ラークオウルの活動方針上、ギルドの利益として大きいか、それとも有力なオーファクトの存在が確認されたか、そういった事情が無ければ傘下の組織に仕事として依頼することは無い。
 内容上、相手方も非社会的組織や犯罪者紛いが相手のことが多いのは事実だが、決して正義の味方などではない。個々人の義侠心はあれど、世の為人の為という理由が一番最初に来る事は間違ってもないのだ。
 梟の目は世を見守る監視者ではないのだから。

「んで、そんだけ派手に手を伸ばしている割には中々巧妙に立ち回っていたらしいが……ちょっとボロを出したところをウチが目聡く見つけたって事だ。ならまずは――手足を潰してさらなる尻尾を出させようって魂胆だな。ウチの他にも幾つかのチームがアルデステンのあちこちで連中にちょっかい出すことになってる」
「はー、珍しく大掛かりですねー。割と慎重派なギルドの決定にしては珍しいというか」

 ティエナがやや感心したように呟いたが、アルセスも実は同じ感想を抱いた。
 手遅れになる前に動くのは当然だが、ラークオウルの方針はどちらかというと迅速、という単語からは程遠い。疑いの段階ではなく、確信に変わってから依頼が来るというところからもそういう性質は現れている。

「ま、この件に関しちゃオレ達が王都に入る前から調査対象だったっつーだけだがな。アルセス達が調べた医者にオーファクトを横流ししたのがこいつらの可能性もあったそうだ」
「ああ、その流れで俺達にあの医者の調査依頼が入ってきてたのか」

 元々疑われる要素が多かっただけだったのだと知ってアルセスは納得する。
 どちらかといえば今回の仕事はルガーが先程言ったようにまだ本体を炙り出すための前段階に近いのだという事に。

「輸送車は食品輸送の大型トラックに偽装して王都入りの予定だ。お前らにはそのコースの途上、この周辺で襲撃をかけてもらう。奴ら荷の扱いに慎重で途中途中の街や村で宿泊はしないようだからな」

 地図を広げたルガーが指差すポイントはゼルダンタから幾つか伸びている街道の内、見晴らしのいい平原地帯を指していた。
 周囲の見渡しがよく隠れられるようなポイントが少なく、野宿の際でも見張りが立てやすい事から比較的安全な場所だ。仮に囲まれたとしても人間相手ならばトラックで強引に街道をどちらかに走ればすぐに人里が見えてくる位置だというのも大きいだろう。普通の旅人であれば直前の小さな宿場街で宿を取るかもしれないが、少し道を外れた先には小川もあるし野宿であっても慣れた者ならば不便という事もない。

 それだけに襲撃側であるアルセス達にとっては少々難題だ。
 待ち伏せか尾行か。
 どちらにせよ大掛かりな偽装工作が要される。手分けして作戦を展開する必要があるだろう事から、アルセスはリーンが呼び出された理由に察しが付いた。彼女が通信機器を使って仲間達を繋ぐネットワークの役割を果たすのだろう。

「ギルドの諜報員からの話によれば作戦決行日は四日後。現在ターゲットの輸送車は東の方の港町で荷を積み込んでいる最中らしい。トラックの速度にもよるが明日の出発時刻如何で多少の前後はあるだろうが、指定した日になるころにはこの近辺で休むだろうと向こうは睨んでるらしいな」
「ここで野宿してりゃ次の日の夕方くらいには王都に着きますからねェ」
「ちっと人手がいる仕事になりそうっすね。それに用心棒の類も雇ってるだろうし……襲撃メンバーは……この中だとアルセスとエモンドさんは決まりじゃねーッスか?」
「ジーゼンさんはどうする?」

 ルガーから内容を聞くやあれこれと相談し始める団員達。
 果断に動くのは良い事ではあるのだが、どちらかというと祭りの準備でも始めるかのような空気は何とも逞しいものである。
 あっという間にワイワイガヤガヤと議論が始まる中、ルガーはまだ説明があるのだから聞け、とばかりに手を叩いて注目を集めた。忙しい団長だ。

「トラックは大型の装甲式トラックが三台。積荷は交易品で申請されてるらしいから……まあ簡単な検閲なら通っちまうだろう。実際、きちんと社名も営業実績もある会社になってっからな。他に賄賂を渡して一部の憲兵を抱きこんでるんじゃねーかって疑いもある」
「最近多いですよね。とりあえず表向きの名前ってだけじゃなくてきちんと経営も運営もしている裏組織」
「俺達もその代表格だぞティエナ」

 しかも飲食店関係では最近かなり名を伸ばしつつある程の営業実績があるハイドアウトが隠れ蓑のダンセイル一家に、当の組織も言われたくはないだろうとアルセスは苦笑した。
 この意見にはルガーも困り顔で頭を掻いていたがティエナの意見を否定するには至らなかったようだ。

「オーファクト関連の技術が広まって抜け道を探すのはどこの組織も大変っつー話よ。後は、表向きの商売で手に入れた綺麗な金があれば融通が利くっつーのもあるわな」
「賄賂に買収といった使い道か」
「そういうのは昔からの手だな。最近じゃ、会社の経営の影響力を地元に及ぼすことでお上を及び腰にさせるっつーなかなか上手い手を使いやがるのもいる」

 地域に密着した商売を手広げることで、その地域の収益の何割かを担うほどの会社になると、相応の理由が無ければ治安維持関連の人間が動きにくいという柵は生まれるようだ。
 犯罪の芽を育てる組織であると同時に、地域振興や地域の経済地盤そのものであったりすると組織を潰せたとしても別の問題が発生するかもしれない、という懸念が捜査の手を鈍らせることもあるのだとか。

「とはいえ、オレ達にゃそんな事情は関係ねえ。相手があくどいことして金を巻き上げてんなら、巻き上げられるのもまた道理。今回の仕事は依頼されているオーファクト以外はターゲットに入ってねえ。金目の物は全部取り上げろ! 無かったらただ働き同然だ!」

 ええー、という声があちこちから上がる。
 無理なき事ではある。報酬があればこそ仕事に対するモチベーションが上がるというのはどんな仕事でも一緒。それが相手の状況次第でどうなるか分からないと宣言されれば、団員達の不満の声も分かるというものだろう。

「ええーい、騒ぐんじゃねえ! 仕方ねぇだろうが! 連中はご禁制の品の裏取引がメインなんだ! 普通に売り払えるものだけ積んでるかどうかまでは掴めてないんだよ! 諜報員からすれば目標のオーファクトか流通経路さえ確認されればいいんだから!」
「だったら団長のポケットマネーで酒代くらいくださいよー」
「弾代くらいは欲しいでーす」
「あたしにも小遣いくらいは寄越せよオヤジー」
「どうせ貯めこんでるんですからせめて経費くらいは出してくださいよルガー」
「あー、知らん知らん! 後は現場で判断して稼げ! この仕事がオイシイ仕事になるかはお前たち次第だ! 頑張れ! アルセス、オレは他にも用事があるからここに資料はおいていくんで任せたぞ!」

 リーンやティエナからの文句にすら耳を閉ざし、アルセスの返事を待たずにルガーはあっという間に作戦室を出て走り去っていった。
 逃げ時を見誤らないのは年の功という奴だろうか。

「うーん、見事なまでの責任転嫁っぷりでしたね。どうしますかアルセス?」
「珍しい事じゃないしな、この手の仕事は。とりあえず、皆が赤字にならないように事前に分かる事だけ確認するかあ」

 そう言うと、団員達も揃ってアルセスの手元に残された資料を手分けして読み込んでいく。
 文句を言いつつもこれで全員その筋のプロである。皆が交互に資料を見ては意見を出し合うことで見えてきた事実と未来は、

「うーん……こいつら脱税目的の密輸ルートも持ってんのか。鉱石とかベルセルスとかの横流しもありうるんじゃねーの?」
「表の会社は……他国の珍品やらなんやらを取り扱うって事になってるのね……随分手広く商売やってること。案外表向きの商品も積んでたり?」
「いや、そっちは別にコソコソする必要ねーから裏の仕事の車で運ばねーだろ?」
「輸送費のコストもある。断言するのは早計だろう。大量の品に本命を紛れ込ませるのはよく使われる手だ」
「ふーむ……やり方次第なら悪くない稼ぎが出せるか? どうせ金にするのはギルドのルートが使えるんだろう?」
「かといって禁制品じゃ処分するしかない。難しいところだぜ」

 案外悪くないのかもしれない、とアルセスは楽観的に考えていたのだった。
金がかかると団員たちの目の色は違います。
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