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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第45話 帰ってきた男

 ダンセイル一家のアジトは手狭ではあるが設備そのものは決して悪くない。
 むしろ地下とはいえ上下水道、電気、火を用意しなおかつ各種様々な施設まで用意されているというのは下手な一軒屋などよりも上である。
 その内の一つである整備室だが、レイリアは自分専用のアトリエ代わりに使っているのが一室あるが団員共用で扱えるものがもう一つあるのだ。レイリアが元々作業の際には集中するから、と自分の部屋に篭もりがちだったのを、ルガーが専用の整備室を用意する形で止めさせたのが元なのだが。
 そんな整備室の整備用机の一角で、アルセスとティエナはウェバルテインのカスタマイズを行っていた。
 柄の部分を取り外し中身を開いて丹念に汚れや埃などを取り払って部品を磨く姿は銃器の手入れにも似ていた。そして清掃を終えた段階で金属製の基盤に取り付けられている記録結晶と呼ばれるクリスタル状の部品の取り外しにかかった。
 ティエナがアートによって記録結晶内の情報を保持している間に、アルセスが素早く新しい結晶をセット。本来であれば専用の機器に繋いで一時的に内部の情報を移動してから行う手間のかかる作業を短縮して行えるのはウェバルテインとティエナが特別であるからだ。

「退避領域からの全データの移行を確認……フルチェック開始……終了……本体との連動及び参照開始……終了……ふうっ、いいですよアルセスー。無事に改造は終わりました」
「お疲れさん。いや、これで三度目だがやっぱりティエナの言う『情報』って奴がいかに脆くて消えやすいかってのを自覚した後だと、やっぱ何度やってもこれは緊張するな」
「まあ、わたしにどういう影響が出るか分かりませんけどね。わたし自身が外部バックアップみたいなものですから、不手際でデータが消えてもわたしからフィードバックすることで元に戻せるかもしれませんし」
「わざわざ試したくはないけどな。本当ならちゃんと専用の機器を用意したいんだが……」
「ウェバルテインの情報を認識できるような機器がどれだけあるかって問題がありますからねえ。容量だけなら市販の装置でも十分でしょうけど、情報をきちんと保管できるかどうかという部分に不安がありますから」

 情報の内容を把握しきれずに意味不明な――それこそ以前レイリアと共に解析したデータのような――破損データになってしまっては困る。
 そうした理由からアルセスは少々イレギュラーな方法であるが、ティエナのアートの力によって内部の情報を一時的に保存し、新たな記憶結晶を取り付けたらそこに戻す、という手法を取っているのだ。
 アルセスの目視とティエナのフルチェックによってウェバルテインの基盤に何も問題がない事を確認すると柄をきちんと戻し刀身をきちんと接続させてウェバルテインのカスタマイズは完了した。

「それでティエナのチェックではウェバルテインの変化はどんなもんなんだ?」
「まず記憶領域が前結晶との比較で28%ほど増量しました。加えて、最適化のついでに格納している情報の圧縮や軽量化も行っておきましたので、それによって最終的に現在使っている領域は63%ほどですね。これなら当分は好き放題アートを模倣(コピー)しても問題ないかと」
「この間の遺跡みたいにとんでもない機械人形(ロボット)に遭遇するかもしれない事を考えると、もうちょっと色々手札は用意したいところだったから、それはありがたいな」
「後は各心機述構(グリモワルアート)の記述内容も見直して効率化も図っておきました。心気と生命力の消耗や、展開速度などが微量ですが向上しています」
「……お前一度働き出すと文句ばっかりのくせに仕事は完璧にこなすよね」
「ふふん、それはもう口だけの女と言われたくは無いですから。高貴なるオーファクトの管理者として、その使命を投げ出すようなことはしないんですよー。気に入らない奴が勝手に手に取った場合は知ったこっちゃないですけど」
「それは知ってる」

 だからこそウェバルテインの持ち主は遅かれ早かれ死しているのだ。
 それ故にアルセスはこの嬉しそうに見上げる少女にとって自分は特別なのだ、という優越感を感じなくもないのだが照れくさいのでそこは口にしなかった。
 そんな雑談をしていた時だった。整備室の入り口の扉が開き入ってきた男性の姿を見て、アルセスとティエナは二人揃って驚く。

「ジーゼン!?」
「あれ、ジーゼンじゃないですか!?」
「む、アルセスにティエルか。すまん、邪魔をしたか?」
「いや、俺たちは丁度終わったところで……っていうかいつアジトに来たんだよ?」
「つい今しがただ。本当ならばとっとと寝てしまいたかったのだが、相棒の整備をしてからでなくては落ち着かなくてな……」

 やや伸びた無精ヒゲ、手入れのされていない伸びるに任せたこげ茶色の髪、いつ開いているのか分からないキツネのような閉じた眼が特徴の男性――ジーゼン・ローク。
 齢34と、一家の中では古株に位置し、外見も着古したトレンチコートを年中着まわし、その下も戦闘用に改良した特殊繊維のスラックスにジャケットという最近のビジネスマン向けのスーツスタイルで野暮ったい印象があるが、外見に反して不潔な印象はなくエモンドよりも一家内の女性の信頼度は高いルガーに次いでまとめ役をこなすほどの人格者。
 そんな彼が疲れを顔に見せている事に気づいたアルセスは恐る恐る尋ねた。

「なあジーゼン……何徹したんだ?」
「……三徹ほどだ。ターゲットが中々隙を見せなくてな。しかし、他に手が回る団員もいなかったので俺がやるしかなかった」
「……だから程々に休めって」
「ターゲットの生活は不規則だった。相手に気づかれぬようにオーファクトを奪取する、という内容である以上、何時如何なる時も監視を怠るわけにはいかなかったのだ。何、流石に歳と共に無茶は出来なくなったが三徹程度ならばどうという事はない」

 何故こんな日陰者の組織に属しているのか、と言う言葉がこの男ほど似合う者はいない、とアルセスは思っている。
 生真面目、実直、そして頑固なほどに丁寧。
 やや融通の利かないという点さえも霞んでしまうほどにジーゼンの仕事に対するプロ意識は強い。
 彼の先程の発言どおり、隙が窺えそうにないのなら数日かけて様子見をしてもいいというのに、まさか三日三晩張り続けて隙を探し出す、などという発想に何故至るのか。
 色々とクセの強い団員が多い中で、ジーゼンほど仕事に真剣に当たりすぎる者もいないだろうとアルセスは感心と呆れを半分ずつ抱いている。
 彼の目が開いたところを見た者はいないというが、普段はずっと眠いから開かないのではないだろうかという噂があるが、案外本当かもしれないとアルセスは思っている。

「はぁ……不真面目かついい加減なのが多い中、ジーゼンのそういう部分は評価いたしますがもうちょっと小利口に立ち回っても良いと思いますけど」
「ふふ……昔からアルセス以外には手厳しいティエルから気づかわれるとはどうやら今の俺は相当酷い顔をしているらしいな」

 そもそもいつもこんな顔ばかりで、むしろ表情からは情報が窺えない厄介な人物だとすらティエナは評価している。
 どんな言葉も受け流してしまいそうな柳のようであり、どんな苦悩も覆い隠してしまうような深い深い水底のような人間だと。

「あ、いえ、表情そのものからは読めないです、はい。単にわたしでも三日の徹夜はどうかと思っただけですから」
「何、ボスからの依頼は全部片付いた。これが済めばゆっくり寝るさ」

 アルセスが片付けた机に入れ替わるようにジーゼンが椅子を持ってきて座り、彼の「相棒」が広げられた。
 拳銃である。黒光りする金属で統一されたオートマチックの大型拳銃。二丁揃いのそれがジーゼンの相棒であり仕事道具の一つである。
 ジーゼンはエモンドと同様ワンダラーではなく心気を用いた闘術に優れた戦士だ。
 そんな彼が主軸に扱う武装である拳銃は少々独特である。
 まずは重量が従来の拳銃の数倍はある。およそ鉄の塊とすら呼べるそれは一般人には両手で持っても構えることすら不可能な領域で――その銃そのものが凶器にも盾にもなりうる頑丈さを備えている。
 銃闘術と呼ばれる近年確立した戦闘術がある。
 すなわち銃をただ撃つだけではなく、己の手足の延長と考え銃本体を武器として扱う近接戦闘術を織り交ぜた戦闘法だ。
 異端も異端、そもそも撃てばそれだけで十分以上の殺傷力を備える拳銃を扱いながら敢えて近接戦闘の技法を磨く戦士が果たして何処にいる、と。
 だが、優れた戦士同士が戦えばその差は明白。特に近接戦闘においては、時に刀剣のリーチを覆して優れた体術家が勝負を制し、拳銃の銃撃を掻い潜って短刀を扱った戦士が紙一重で勝負を持っていた、などという礼には枚挙に暇がない。
 あらゆる武器には死角がある。間合いとは戦いにおいて重要な要素の一つであるが、心気を用い闘気を操る戦士達にとってそれは時に絶対ではない事が起こり得るのだ。

 短距離においては銃よりもナイフの方が早い。

 そう結論付けたとある銃士が編み出した戦闘術が銃闘術なのだ。
 銃器を鈍器に見立てて相手を打ち、相手の武器を銃で防ぐ。
 近接武器での戦闘では必須の防御の技法を拳銃にも組み込んだのが銃闘術の始まりであり、そこから発展し銃そのものを武器とする事にまで昇華したのがこの武術だ。
 ジーゼンはその卓越した銃闘術の使い手であり、彼の扱う銃は特別製だ。
 本来銃器とは粗雑に扱うものではない。まして銃本体で攻撃を受けたり殴りつけたりするなど、銃身の歪みを引き起こしたり、銃そのものが使えなくなる可能性を大きく孕む狂気の沙汰だ。
 その常識を覆すために考え出されたのが銃闘術用の――極めて頑丈な拳銃だった。
 代償としての重量の増大など些事。銃としても武器としても盾としても使える、そんな要望を満たすためには多少の不便さは先刻承知とばかりに先人が生み出した拳銃は――一定の需要を満たすまでには認知されている。

 ジーゼンもその闘法を修める者として身体を鍛えるのを怠らない。
 心気による身体強化もあるとはいえ地力がなくては話にならないからだ。本来、二丁拳銃などというのは銃士からすれば趣味の領域だが、ジーゼン達銃闘術を扱う者にとっては矛であり盾である。二つ同時に使えずして何の意味があろうかと。
 そんな重い銃の引鉄を引く太目の指は、繊細な拳銃のパーツを器用に扱い丁寧に整備し組み立てて行く。その動作には澱みも迷いもなく、アルセスも驚くほどの早さで分解され、そしてあっという間に元に戻り弾まで込められていく。

「相変わらずの早業だな。整備士顔負けの」
「大した事はない。十数年と同じ事を繰り返せば嫌でも身につくものだ」
「そんな次元の早さじゃないんですけどね」

 整備を始めるといって終わらせるまでに僅か数分。これが同じ事を繰り返しているだけの人間に出来るかと問われれば、アルセスもティエナも首を横に振らざるを得ない。

「さて……若い二人に心配させるのもなんだからな。俺はいい加減休むとしよう」
「そうしてください。ふらふらしてるとまた余計な仕事を頼まれますよ」
「しかも断らないからなあ、ジーゼンは」
「難儀な性分ではあると自覚しているのだがな……おっと、そういえば忘れるところだった」

 整備室の扉を開け退室しようとしたところで足を止め、ジーゼンは二人に振り返りつつ先程とは打って変わって真剣な声で告げた。

「――二人とも気をつけろ。王都の北部で活動中もあちこちで嫌な『匂い』を嗅いだ。血に塗れた狂信者共の、な。奴らが目をつけそうなオーファクトを狙う仕事の時は注意を払うことだ」
「……分かった、十分に気をつけるよ」
「ああ、そうしておけ。それではな」

 バタン、と扉が閉じられ整備室には静寂が戻った。
 アルセスは使った工具を専用の箱に戻し、ティエナを連れて整備室を出る。

壊蒐者(エグゼキューター)……一つ所に長く留まっているのは珍しいですね。まだ本命でもあるんでしょうか?」
「あいつらの行動理念なんかさっぱりだからな……とはいえ、ぶつかったら殺るか殺られるかの関係だ。注意だけは怠らないようにしよう」

 言いながらアルセスはティエナの肩を抱いた。
 それは無言の誓いに近かった。誰が相手であろうと渡すまいとする意思に満ちた。
 そして敢えて口にせず行動で示したことで、ティエナもその場の空気を乱すまいとただ寄せられるままに身を寄せるのだった。
○ンカタとか言わない(先読み

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