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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第44話 雑用も仕事です

 遺跡探索を終えて翌日。
 やや生命力の浪費に伴う疲労感(それだけではないのだが)が抜けきっていない感のあったアルセスだが、様々な手続きやら雑務が溜まっているため、気だるさを振り払うように身体を強引に起こした。
 隣には肌を晒したままのティエナが毛布に包まれてまだ眠っていたので彼女を起こさないように注意しつつ部屋を出た。
 共同の浴場と違い部屋に備え付けのユニットバスは小さいが汗を流す程度には十分だ。シャワーから湯が出るのを待ちながら熱くなった所で思い切り頭から湯を浴びる。設備の関係上、湯が出るまで時間がかかるのは仕方がないのだ。今は気温の高い季節だから良いが、これが冬になると中々厳しい。予め湯を出してから服を脱ぐなどの対策をしないと寒さに凍えるハメになるのだ。
 寝ぼけていた頭が熱めの湯によって冴えてくる。ついでに僅かに残っていた疲労感もさらっていくかのような感覚にしばしアルセスはシャワーを堪能した。

『……あ~る~せーすぅ~……わたしもシャワー浴びるぅ……』

 曇りガラスを張った上質な扉とは違い簡素な作りの扉の向こうから寝ぼけた声が水音に負けじと聞こえてきたので、アルセスは水量を調節した。
 アルセスの返事を待たずタオル一枚で申し訳程度に前を隠しながら風呂場へと入り込んできたティエナはまるで熱を求めるようにアルセスに抱きついた。
 肌と肌で触れる柔らかな感触にアルセスは内心穏やかではなかったが、ここで変にゴネて目を覚まされても面倒だ、とばかりにティエナを抱きかかえながらシャワーを浴びる。

「……ふぇへへへへぇ……あるせすといっしょぉ……」
「普段からこれくらい素直なら楽なのにな。まあ、どんなティエナであっても可愛いのは変わんないが」

 何より今日は仕事が山積みでもある。ティエナを構う時間が減るかもしれないし、朝っぱらから不機嫌にしてしまうのもよくないだろう、とアルセスはティエナのしたいようにさせてやりながら、ゆっくりと温まるように汗を流す。


 ティエナがしっかりと目を覚ましたのはアルセスがしっかりと身体を拭いて備え付けのバスローブを着せたところであった。
 その後、我に返ったティエナは色んな意味で絶叫した。


 ★


「寝ぼけたままのわたしを好き放題するとか……! アルセスは鬼畜過ぎます!」
「人聞きの悪いこと言うなよ。まあ、あの状況で目を覚まされても困ると思ったからさ」
「うぅぅぅ……せっかく甲斐甲斐しくあれこれしてもらったはずなのにぜんっぜん覚えてません……! 何でちゃんと起こさないんですか、アルセスぅ!」
「え? そっちに怒ってんの、ティエナ」

 怒りの原因がやや予想とは違ったアルセスは面食らったが、まだまだティエナのことを分かってなかったらしいという事で納得した。
 常日頃から彼女への理解を深めようとする努力を怠らない男の鑑のような考えであった。
 曇り空の中、人の行き交いの絶えぬ王都を歩くアルセスとティエナ。
 情勢不安の影が差すからか、武装こそ大っぴらに見せてはいないが明らかに冒険者や堅気の仕事ではない連中が闊歩する四番街ストリートはその筋の商店が建ち並ぶ区画だった。
 アルデステン王国では現状武具やオーファクトの売買に関してはあまり厳しい制限は設けられていない。本来であれば、簡単に凶器ともなりうる銃火器ですら販売は届出のみ、購入側にも特に許可が不要とされているのは、過去での政策の失敗と現状が原因だ。
 治安維持を名目とした免許制を一時期は導入が検討されたのだが、現状の市場においては「武器」として組み上げられる前のパーツ単位で販売されている事も多く、専門知識がなければ組み立てて動くかどうかすら怪しいとはいえ銃火器の販売に関してはほぼ制限が意味を成さず、オーファクトに関してはそもそも馬鹿正直に申告しなければそれと分からないものも多数。
 さらには自衛の意味で武具を手に取る一般人も珍しくない。短剣を忍ばせるか、拳銃を持つか。種類が違うだけで、自分の身は自分で守らねばならない、という風潮は世界単位で共通だ。魔物の存在もあり武装の流通を然るべき免許を取得している人間だけで取り扱うことはほぼ不可能なのであった。

 結果、試験導入の段階で無理が生じたため政策は廃止。代わりに販売側のルーツや流れを管理することで犯罪予防への道筋を立てる形で現在はまとまっているのだ。

 そのため、どうしても店舗の趣きとしては無骨な店構えになる事が多い。ファンシーな飲食店や華やかな服飾店が並ぶ通りに、火薬と刃物を並べたい店主も稀だろう。自然とメインストリートからやや交通の便が悪いストリートにその手の店は集まるようになり、一般人と冒険者の線引きが自然と行われたのだ。
 その果てがともすればややむさ苦しい連中が集まる四番街ストリートというわけだ。自然、ティエナの表情はげんなりしてくる。

「はー、仕事とはいえわたしのような華やかな一輪の花がこんな無骨で硝煙の臭いが充満した街並みを歩くとは……」
「そう言うなって。まあ、気持ちは分かるけど」

 アルセスとて普段からほのかに花のような香りをさせるティエナと一緒にいるのだ。誰が好き好んでむさ苦しい男や筋肉男と何度もすれ違うような場所を歩かねばならないのか、という思いはある。
 しかし、一般の流通網に引っかからないように昨日の収穫物を売却するには、相応の店を利用しなければならない。発掘品の場合、大抵出所を調べられるので普通の冒険者ならばまだしも、アルセスのような日陰者が大っぴらに普通の店を利用するのは足がつく。
 そんなギルドメンバーの支援の為に、ラークオウルは世界各地に足がかりとなるような「出張所」を設けているのだ。表に見える店の姿は世を忍ぶ仮の姿、という奴である。
 アルセスとティエナが扉をくぐったのはレンガ造りの古い作りの店で、表には薬のイラストが描かれた看板がぶら下っている店であった。

 店内は香が焚かれているのか独特の空気に満ちている。
 科学技術の進歩に伴い医学の分野や薬学の分野の研究の発展も凄まじいものがあるが、その中でも薬学はこうして一般人でも簡単な薬くらいならば手が届くくらいに知識が浸透した。
 野草や薬草の扱いの他に、科学で生成した治療薬など細かく体系化され販売がデリケートになっている部分もあるが基本的に店を開くのは薬学か医学の心得がある者だけだ。そうした信用がなければ薬はそう簡単に扱えるものではない――というのが人々に知れ渡った結果である。

「……いらっしゃい、アルセス。昨日の取引の精算かしら?」
「ああ、急がせて悪いな」

 起きているのか眠っているのかよく分からない半目状態の妙齢の女性がカウンターの向こうから彼を見るなり声をかけてきた。
 ラークオウルのギルド員にはこうした専門的な知識が求められることが殆どだ。単に仕事で使う以外にもダミーの仕事を運営するに当たって、腕がいいに越したことはないからだ。
 幾ばくかの小銭に相当する銀貨とアルデステンの紙幣が入った包みを渡され、アルセスはその場で目録を確認した。昨日手に入れた物の内、一家で不要となった素材などを換金してもらったリストである。

「……意外にパーツ類に良い値段ついてて高いな。もうちょっと安く買い叩かれると思ったんだが」
「……技術部の連中が喜んで買い取ったみたいよぉ~。特に機銃の残骸と腕のパーツがよかったみたい~」
「機銃はともかく腕?」
「収納部分に幾つか武器が隠されていたみたいでねぇ~。ほぼそのまま再利用できそうだったから、ギルドの鑑定でも少し色がついたようよ~」

 昨日の戦闘を思い出してアルセスは納得した。
 あの時点ではハンマーのような武器を振り回していたが、恐らく状況によって幾つかの近接武装に切り替えられるタイプだったのだろうと。
 最近ではナイフの他に幾つかのツールが取り出せるサバイバルキットと呼ばれる小型のギミックツールがあると聞くが、それのように切り替えに必要な武器が腕そのものに仕舞われていたのだとアルセスは納得した。

「……カメラアイや比較的損傷の少なかった配線なんかも高いな」
「その辺は再利用が容易ですからね」
「そうねぇ~」

 目録を懐に仕舞うと、アルセスは相変わらず眠そうなままの店員に例を言ってその場を後にした。
 アルセスの当初の予定よりも随分と資金が集まったことで、ティエナの方は上機嫌だ。

「昨日の遺跡は予想外の連続でしたが、わたしという優秀なオーファクトの出番があっただけの収穫はありましたね、アルセス♪」
「そうだな、本当に助かったよ。とりあえず当面の活動資金は確保できたか」
「ルガーももうちょっと支給品なり手当てなり出してくれればいいんですけどねー」
「そんな金あったら妻と娘に出すわ! って豪語するぞきっと」
「しそうですね……って、そういえばアルセスアルセス、もう一つのお仕事を忘れてはいけませんよ?」

 用は済んだとばかりに四番街ストリートから足早に立ち去りナチュラルに腕を組んで歩く二人。
 ティエナの言葉に、アルセスもまたうっかり忘れかけるところだった頼まれ事を思い出した。

「そうだ、義母さんに頼まれてたことがあったな」
「ええ、フィオネのライフワークに関わることですからね。どこで手に入れましょうか?」
「三番街ストリートには素材やら加工前の品を融通してくれる店があるってメモを渡されたからそこへ行くよ。危ない危ない、お金も預かってたのに忘れたなんて言ったら……」
「きっとニコニコ笑顔で『お馬鹿さんねー』って言いながらフライパンで頭を小突かれたでしょうね」
「厳しいからな義母さんは……」

 性格はレイリアのお淑やかさとリーンの明るさを兼ね備え、荒くれ者揃いのダンセイル一家の面々に動じぬ胆力すら持ち合わせる淑女。
 天性の器用さを発揮し、娘達や夫の服から装飾品、果ては変装に必要な衣装すら仕立て上げる独自の感性の持ち主、フィオネ・ダンセイル。
 アルセスとティエナは出掛けに彼女からいわゆるお使いを頼まれていたのだ。内容は足りない材料の補充である。

「まさか夏バージョンのウェイトレス服を作ると言い出すとはわたしも驚きました。あの服、一応エプロンとシャツとスカートが別ですから、下のシャツを半袖のシャツにすれば涼しいと思うんですけどね」
「義母さんいわく『夏には夏の女の魅せ方があるのよ!』らしい」
「……その拘りには感服いたしますが、何故フィオネはいつも自分用には作らないんでしょう。ルガーを誘惑するのに使ったりしないんですかね」
「誘惑前提なのはティエナだけだからそこは突っ込まないとして……以前、自分の服は何で普通のばっかりなんだ? って聞いた事はある」
「ほほう、それでフィオネはなんと?」
「それがな『自分で着るのは恥ずかしいのよ』だってさ」
「……うーん、フィオネも難儀な性格をしてますね……わたしの目から見てもフィオネのスタイルは抜群だと思うのですが。まあ、残念なのは同じ地方出身だからかエモンドと似たような色の髪の色って事ですかねえ」
「酷い部分で評価下げてるな……まあ、義母さんもあれで元々はいいとこの子女だって話だからな。詳しくは聞いていないが……そういうところ独特の奥ゆかしさみたいなのは未だに残ってるんだろ」

 その話の真偽まではしっかり確かめたわけではないが、普段の振る舞いや所作には付け焼刃ではない礼儀作法を身につけた者が持つ独特の雰囲気が漂っているため、アルセスはその言葉を疑ったことはない。
 それはティエナもリーンやレイリアから聞いていて知っていたが、だからこそ常に思うことがある。

「……そんな令嬢がなんであんなむさ苦しい盗賊紛いの筋肉達磨に嫁いだんでしょうねえ」
「それは言ってやるな……まあ、真っ当じゃない何かがあったのは間違いないかもな。義母さんの家に何かあったか……それとも本人納得済みで親父が連れ出したか」
「そういうの聞く限りではロマンスの塊ですけど、当事者を知っていると何とも微妙に聞こえますね」
「それはお前が親父に人一倍厳しいだけだよ」

 確かにあの二人が駆け落ちと言われても絵になら無いな、とは思ったがアルセスはそれを口に出すことはなかった。
 オーファクトから生み出された少女とこうして恋をして愛を育んでいる自分も大概だものな、と。
本人の登場のタイミングがなかなかないので
会話に登場(オイ

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