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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第43話 調査と戦いの終わり

 ウェバルテインに秘められし心機述構が一つ、暴虐の雷旋風(ストームブリンガー)
 刀身を向けるは標的。そこより放たれし黒い稲妻が標的を一度穿てば剣となり、黒い剣は楔となる。
 それは束縛。天を舞う鳥も、地を這う獣も、何人たりとも逃がさぬ嵐の牢獄。

(ぐっ……極小にまで威力を絞ってるはずなのに……持っていかれる――!!)

 穿たれた哀れな獲物は雨が降り稲妻が吹き荒れる嵐の世界へと放逐される。
 一種の逆結界。結界とはすなわち外からの干渉を防ぐためが主目的であるがこれはその脅威を外にあふれ出させぬための蓋。荒れ狂う暴虐の中に獲物を閉じ込める二重の意味での牢獄なのだ。
 故にその消費する力の量は膨大。アルセスが現在使えるアートの中でも最高難度の制御力と最大級の心気の消費を要求する荒業である。
 鋼鉄の巨体ですら動くことままならぬ嵐の中、ギシギシと鉄が軋むような音を立てて抵抗するロボット獣はその合間にも次々とその四肢を、身体を、黒い雷によって貪られていく。
 焦げる、などという次元を通り越している。魔剣が生み出した雷はその刃の内に秘めた闇そのもののように嵐の内でもがく者を飲み込んでいく。

 かつて、このアートによって一つの堅牢な要塞が落とされウェバルテインの所持者が属する国の勝利に貢献したことがあるという事実をティエナ以外は知らない。
 ティエナは基本的に適性のある所持者からの干渉を妨げない。どれ程適性があろうとティエナとの関連性は全くの別物であり、ウェバルテインを扱う事と彼女に接触出来る事はイコールではない。
 そこにこのオーファクトの落とし穴がある。本来ならばあらゆるオーファクトに設けられている安全弁(セーフティ)だがウェバルテインはそれが自動で機能することは無い。なぜならばその機能は彼女の意思に委ねられているのだから。
 それの意味するところ、かつての所有者たちがこれを手にし、しかし例外なく死んでいったのはそういう事だ。死する前に止めてくれる機能が存在しないのだから使う側がそれを理解できるはずもない。
 脂汗を流しながらもロボット獣が力尽きるまで、と必死にウェバルテインの柄を握るアルセスの命はギリギリで守られている。既に防御をする意味はないとアートを即座に解除し、アルセスと共にアートの制御に力をまわしているティエナの手によって。

 この強大にして凶悪な心機述構(グリモワルアート)の代償。それは――敵が倒れるまでアートの解除が不可能、という点だ。
 すなわち、相手が強大であればあるほど無尽蔵に所持者の力を吸い尽くす恐るべきアートなのである。タチの悪いのはそれがアートの維持に必要だからではない――制限(リミッター)と変換効率を無視することでこの威力を引き出したアートだからである。
 ある意味では詐欺のような力もまたウェバルテインの魔剣としての悪名を広げてきた一因であろう。
 まるで悪魔との契約である。時に等価交換とは呼べぬような制限と代償が存在する心機述構(グリモワルアート)ばかりを収めた――しかし、強力無比なオーファクト。だからこそ歴史にすら名を残している真偽不明のオーファクトとして伝わる魔剣の力の一つが今――過去から蘇った獣を本当に沈黙させた。

「ぐっ………こ……の……!」

 完全に消滅させては旨みが無い。
 アルセスはアートの発動時に相手が戦闘不能にさえなればいいと考えながら放ったが、ウェバルテインの判定条件は酷く曖昧なため、本当に塵一つ残さず消滅させるまで力が止まらない事もある、というのがこの暴虐の雷旋風(ストームブリンガー)の扱い辛さであると呼吸を乱しながら歯噛みした。
 ティエナからも使う場合は十分に注意し、間違っても自分がいない時には使うなとまで言及したほどの厄介さであった。
 その甲斐あってか、ロボット獣は今度こそ完全に沈黙し、大部分のパーツは消失しているものの、ある程度の原形は留めており何かしら回収が可能なくらいには残っていた。回収できるものが価値があるかどうかは不明だが、とりあえずアルセスはウェバルテインを鞘に納めがっくりと膝をついた。

「は……はぁ……ティエナ……アイツは……? 今度こそ止まったか……?」
「スキャンしてみましたが非常用電源を吹っ飛ばしたことで完全に止まったようですね。動力反応も見られませんし、記述式(プログラム)の動作反応もありません。わたし達の勝ちです」
「はー……そりゃよかった……一日に二度も……大技連発は……死ぬかと思った」
「やめてください。ウェバルテインを使っているアルセスが言うと冗談になりません」

 身体を支えるため――と言うにはいささか密着しすぎなくらいに正面からアルセスを抱きかかえるように寄り添うティエナ。

「……本当戦闘述構(バトルデバイス)に登録されてる心機述構(グリモワルアート)は極端すぎるんだよ……軽く使う分にも問題のない奴から、ギャンブルが過ぎるのまで本当にピンキリすぎる……」
「その点についてあれこれ言うのは今更でしょう。それよりもアルセス、わたしの方は準備が出来ました。こっちを向いてください」
「……ちょっと動くのもキツイな……今日はティエナからしてくれないか?」
「~~~~~~っ!? そ、そう来ますか。この弱々しく懇願するようなアルセスもこれはこれでいい、なんて思ってたわたしになんたる不意打ち! で、ですが、そうですね。これは緊急事態です。別に必須事項ではないですが、この後アルセスを引き摺って帰るのも大変ですし、医療行為の一種でありわたしからちょっと迫るくらい問題ないということでいいですね、うん」

 えらく長々と言い訳めいたことを言い放ってから、ティエナはゆっくりとアルセスに口付けをした。
 蕩けるような甘い口付けではなく、彼女が言ったように医療行為の一種ではある。
 変換し増幅させた生命力をアルセスに還元することでウェバルテインのもっとも大きな代償である生命力を所持者に返す儀式。

「ん……んー……」

 ……なのだが、戦闘が終わった後、という高揚感も手伝ってかティエナは本来の目的を忘れているかのようにアルセスとの密着を楽しんでいる。アルセスはされるがままだ。押し返すだけの気力が残ってないことと、そもそもティエナを押しのける、という発想が彼の頭には存在しない。
 やりたいようにさせてやる。それがアルセスの基本方針なのだ。

「ふぅ……どうですか、アルセス? 身体の調子は?」
「ああ、ティエナの愛で満たされたお陰で少しはマシになった」
「ふぇ!? あ、いえ、愛を注いでないわけではな――って、違います違います! これはあくまで人命救助! オーファクトとしてご主人様(マスター)への献身ゆえの愛! あ、や、そのそれだけじゃないですけど!」

 少しばかり倦怠感の残る身体を起こしてアルセスは座り込んだままのティエナの頭を軽く撫でてやる。
 そこに感謝の念を込めたつもりだったが、ティエナはやや不満げであった。その理由は色々と複雑な感情からなのだが――深く触れるのは避けることとする。

「さて、それじゃ体力が残っているうちに戦利品回収といきますか」
「……そうですね、返してすぐにその生命力が身体に馴染む訳じゃ無いですから、早々に引き上げてゆっくり休みましょう」

 戦闘中にキスさえ出来ればいくらでも心機述構(グリモワルアート)を使い放題なのではないかと考えがちだが、世の中そんなに甘くはない。色々な意味でも。
 あくまでティエナの力によってアルセス用に調整された生命力とはいえ、それが身体に浸透し彼の身体を復調させるまでには相応の時間を要する。戦闘中の緊急回復手段としては使えないのだ。倫理的な意味だけではなく。
 既にスクラップの山に近いロボット獣の残骸であるが、アルセスが必死に制御した事もあってある程度の原形は留めている。

「これは……ただの足パーツ……ボルト……うーむ、見事にガラクタばかりだ」
「ふふーん、アルセスは目の付けどころが悪いですねー。わたしなんて頭にくっついてた機銃をゲットしましたよー。ほら、これならジャンク屋に流せばそこそこ良い値段つきますよ! 形式的にもあんまり出回ってない頃の型ですし」
「やるな、ティエナ。その調子で俺には見つけられないのをガンガン頼む」
「ふふーん、いいでしょういいでしょう。姫ともあろうものにゴミ漁りをさせるなんてー、って何度も言いましたけど、アルセスがそうやって頼むからわたしの華麗なる審美眼をあますところなく使ってあげてるんですもんねー」

 この発言。アルセスには何も含むところはない。掛け値なしに本音なのだが、周囲から見ればアルセスがティエナをおだてて上手く使っているようにも見えるだろう。
 だが、アルセスにはそのつもりはなくティエナにもその意識が無い。これぞ二人の信頼関係のなせる意思の疎通というものだ。

「この目の部分丸々持ってってレーザー系の武器とかに出来ないかな?」
「多分この出力のエネルギーを人間の心気で変換して補おうとしたら……十秒くらい照射したところでカッツカツになっちゃいますよ?」
「じゃあ充填式のなら? ベルセルスを動力源にして」
「命晶の利用技術が後数十年進んで高倍率の変換方式が生み出されれば……装甲車などの重機動兵器などに搭載するくらいなら出来るかも? ってところですね」
「本当、実弾と比べてレーザーとか高度な技術の兵器の運用難度って違うよな……」
「当たり前でしょう。学問の体系でいうなら光学という分野に属しますが、この分野の兵器転用がどれだけ難易度が高いか、アルセスは一度知っておいた方が良いと思いますよ」
「難しい説明はいいや、聞いてるだけで頭が痛くなりそうだし。とりあえずカメラアイは回収してパーツ扱いって事で」

 このような感じで選別は進められていく。
 本来、この手の発掘品は遺跡探索を中心としている冒険者にとっては難題だ。何せかなり専門的な知識がないと見た目で判断して戦利品を持ち帰らざるを得ないからだ。単なるガラスのパーツに見えるロボット獣のカメラアイも実は高額の値段がつけられる、というのはきちんと市場や歴史的価値を知るものでなければ判断できない。
 その点、ティエナの分析は正確無比。高度すぎて逆に値段がつけられない、と判断されるものまで含めて正確な市場価値をたたき出すので無駄がない。金にならないものでも再利用できるもの、売り払ったほうがいいもの、それぞれを過不足なく回収できるのでアルセスの探索における余分な労力は極めて少ないのだ。

「あっ、これは……」
「どうしたんだ、ティエナ?」
「いえ、このロボット兵の記憶媒体結晶(メモリクリスタル)が生きていたようなので」
「それは……確かオーファクトにも使われてる様々な情報を収めた媒体だったが。結晶つっても名前だけで、実際にはこの間の鏡みたいに加工されてるのもあるって話だっけ」
「そうですそうです、残念ながらさっきの攻撃で情報自体は全部吹き飛んでるみたいですが機能そのものは生きてるようなので、後でウェバルテイン用に加工して組み込もうかと。これで記憶領域が大分広げられますから」
「ああ、そういう再利用か。そろそろコピーしたアートの中で使えなさそうな奴は削除しなきゃならない程容量がキツイって言ってたもんな」
「ええ、手札が多いに越したことはないんですが、模倣するにしても容量に限りがありますからね」

 ウェバルテインの他に類を見ない能力である他の心機述構(グリモワルアート)の模倣だが、これとて無制限に行えるわけではない。多くのオーファクトがそうであるように、オーファクトがその記憶領域に納めておける情報量には限りがある。ティエナの保有する情報も含め、蓄積する量が増えればいずれ限界は来る。
 アルセスとティエナは時折不要な情報を整理し、削除する形でやりくりしてきたが、時折こうしたレアな素材を回収することでウェバルテインを強化してもいるのだ。

「ふむ、手元に残すもの、売り払うもの。全部含めてもこんなところですかね。結構な稼ぎになりそうですね、アルセス」
「ああ、意外と流用可能なパーツもあったもんな。やれやれ、金属加工の技術がもっと上がればこの遺跡自体が宝の山なのになあ」
「加工するにはまず作れないと話になりませんよ。溶かすことも変形させることも出来ない金属の山なんて誰が欲しがるんですか」
「そうなんだよな。ま、埃まみれに戦闘にと、随分と労力を使った気がするがそれに見合うだけのものはあったか」
「ええ、後はアフターケアですね。さ、アルセス、早々に帰りましょう。わたし、まずはお風呂に入りたいです!」
「そうだな、一緒に入るとするか」
「い、い、いいい一緒に入るのが何故前提なんですか!」
「違うのか?」
「違いませんけど! 違いませんけど! もうちょっとこう……雰囲気を大事にして欲しいです!」

 盛り上げる風に言うとそれはそれで照れまくって会話にならないだろう、というアルセスの感想は闇に葬られた。
もうちょっと技術が進歩してれば
このジャンクの山は全部宝の山になるんですがねえ。
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