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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第42話 転んでもたたでは起きず

 虚栄の幻影刃(ビジョンブレイド)
 ウェバルテインの心機述構(グリモワルアート)が一つ、刀身の強化エネルギーの増大に伴う威力向上と刀身の長身化という能力的、視覚的にも分かりやすい大技でありアルセスの切り札の一つだ。
 元々ウェバルテインの性能はその見た目から来る印象とそれを覆す数々の多彩なアートが売りの一つである。解放時にエネルギーによって伸びる刀身も伸縮自在という点で相手を翻弄するし、短剣という間合いの短さを相手に印象付けてからの飛び道具による攻撃など、敵を騙す手法は多岐に渡る。

 か細い印象の短剣に隠された秘されし刃。

 それが解き放たれた時、その刃は敵を両断するだろう。
 しかし、忘れる無かれ。これは虚栄にして幻影の刃。いかに世界の様々な法則から逃れようともそれは偽り。二度も三度も通じる魔法に非ず。その戒めが語るようにこのアートにも制限が設けられているのだ。

「両断完了……ってか」
「うーん、見事なまでに綺麗な断面図ですね。ここまですっぱりいくと気持ちがいいですねー」

 バチバチと回路から漏電現象を起こす線や、刻まれた部品などが転がり機械の兵は文字通り頭から真っ二つに裂かれていた。やがてその巨体を支える術がなくなったか、両側に開きのようにして倒れると動く事無く沈黙する。
 二人は警戒を解かないようにしつつ様子を窺うが、以降も機械兵は反応が無かった。

「この手のロボットは頭脳に相当する中央処理装置が生きてる限り命令を実行しようとしますからね。斬っても叩いても止まらない敵ってのは本当に厄介なものですよ」
「ついでに痛みも恐怖も無くっていうのもおまけでな。一部の国が躍起になって開発しようとしてるのがよく分かるよ……使い捨て前提で敵前逃亡しない兵士、なんてのはどこも欲しがるんだろうな、このご時勢」
「ワンダラーには及ばないですが、ワンダラーは人ですからね。自分で考えますし損得勘定もあれば情もある。割り切れない感情があるからこそ、弱くも強いのが混じってるから侮れない。ほんと、人間ってどこまでも不思議なイキモノですよねー」

 貶しているのか褒めているのか分からない事を言いながら、ティエナは何故かアルセスの身体に擦り寄ってきた。空いている左腕を包み込むような姿勢だ。

「どうしたんだよ、急に」
「いいえー、これだけ評価の厳しいわたしに認められているアルセスはどんな気持ちかなー、と」
「とりあえず今は左手に当たるティエナの身体が気持ちいい」
「そう、そうですよね。こんなサービスするのはアルセスだけなんですから、ちゃ、ちゃーんと味わってくださいね! ほらほらー柔らかいですよー」
「お前、最近自爆攻撃多過ぎじゃないか?」
「アルセスがさらっと流すからじゃないですか! 昔みたいにもうちょっと動揺してくれてもいいじゃないですか、ほらピピーガーガーとか言いながら!」
「待て、それは俺じゃない」

 え? とティエナがアルセスに疑問の視線を向けるとアルセスは否定するように首を横に振る。
 しばしの沈黙の後、二人は揃ってロボットの残骸に視線を移した。

「……損傷甚大………制限(リミット)解除の要請を……軍本部へ…………応答……なし……戦闘時マニュアル第28条2項に従い……施設の保全と情報隠蔽を最優先事項へ決定……」

 一度は消えたはずのカメラアイに光が灯り、分断されたパーツから切れたはずのワイヤーが伸びてお互いをくっつけようと絡みあう。
 まるで鉄の生物のようなその営みにアルセスもティエナも驚きから次の行動が遅れた。
 それは致命的過ぎる隙だった。

「……優先命令の書き換え(オーバーライド)完了……殲滅(デストロイ)モードにて再起動(リブート)……殲滅――開始」

 そこからの動きは本当に一瞬だった。
 様々なパーツがあっという間に姿を変えて変形し、破損箇所は補われ人型に不適切と判断されたパーツは排除する。
 まるで糸で操られた人形かのように奇怪で、それでいて素早いその変形は手をこまねいているアルセス達に手出しを躊躇わせるには十分すぎた。
 左腕の機銃はむき出しとなった頭部に。
 二本足で立っていた人型ではなく、四本足の形状へと変化したそれは兵士から獣へと。
 前足から伸びる二本の刃はよく磨かれた抜き身の剣のようで。

 ここに――機械の獣が誕生した。

「な――なんだそりゃああ!?」
「しまった……! 自己判断による命令の書き換え権まで有している上位型の戦闘機械でしたか……! ていうか、崩壊期直前にリリースされた最新型の軍用機械兵が何でこんなところに放置されてるんです!? アルデステンの遺跡調査隊は仕事してるんですか!? これが発掘されてたら軍の戦力図式が激変するくらいの大発見ですよ! 多分、制御できなくて被害満載でしょうけど」
「言ってる場合か、来るぞ!」

 アルセスはティエナの手を引いて素早く機械兵改め機械獣の正面から飛び退いた。
 四足歩行のイメージにそぐわぬ俊敏な動きと同時に前足のブレードで周囲を薙ぎ払いながら駆け抜ける様は凶悪な犬や狼系の魔物の姿をアルセスに印象付けた。
 間一髪その刃が届くよりも先に距離を取れたが、あのまま驚きに硬直していたらどうなっていたかは獣が残した痕跡が物語る。
 まるでアルセス達のいた場所を掬い上げるように振り抜かれた刃は――綺麗に建材を切り裂いていたのだ。あれで刻まれたら自分の身体がどうなるかは考えたくは無いとアルセスは冷や汗を流した。

「……こっちが切り札切ってから切り札を切るってのは勝負事の基本とはいえ……虚栄の幻影刃(ビジョンブレイド)は大盤振る舞いが過ぎたか」
「いえ、生半可な攻撃では止まりませんからね、機械兵の類は。そういう意味では間違ってませんけど……あれ、一回こっきりですもんねえ」
「幻に一度騙されたやつが二度騙される道理はないってな」

 そう、アルセス達が語るように大技にはリスクは付き物。ウェバルテインの心機述構(グリモワルアート)とて例外ではないのは以前の通り。
 今しがたアルセスが放った虚栄の幻影刃(ビジョンブレイド)のリスクとはその名が示すとおり――一度使った相手には二度通じない、という制限である。
 放った後もそのおどろおどろしい刃はそのままではあるが、実際には紙一つ切れぬナマクラ同前にまで威力は落ち込んでいるのだ。これはいわばこの刃をぶつけても倒せなかった相手への保険であり、二度はないぞ、という脅しに使うためのこけおどしなのだ。
 つまり、もう一度あのロボット獣を沈黙させるには別の心機述構(グリモワルアート)を用いるしかないのだ。

「とはいえ、俺もティエナも使えるのは時間のかかる技ばっかりなんだよな……!」
「ですが逃亡は出来ませんよ。普通に逃げるのも難しそうですが……」
「今のあいつなら扉も壁もスパスパ切れそうだもんな。あんなのを世に放つわけにはいかないし」
「アルデステンに不法侵入がばれますもんね」

 人道的にもあのような殺戮機械を外に出すわけには行かない、という意識もあるがアルセスにとってはむしろティエナが呟いた最後の事情のほうが大きい。
 優先的にターゲットとして狙われている以上、逃げ続ければ確実に目の前のロボット獣は人の目に触れる。目撃情報が大きくなれば当然関与を疑われることは避けられない。そして憲兵に捕まろうものなら始まるであろう取調べという流れは潜伏活動中のアルセスにとって大ダメージどころではない。
 じりじりと警戒しながらあれこれと思考を練っていると犬の頭の骨のような形になった頭部に接着する形で取り付けられた機銃が再び火を噴いた。絶え間なくばら撒かれる銃弾の雨はアルセス達の足を嫌でも動かした。

「くそ、下手に逃げたら今度はブレードから逃げる場所が無くなる……!」
殲滅(デストロイ)モードとはよく言ったものですね……! アルセス! わたしから離れないで下さいね! も、もっとくっついていてください! その方がやる気が出ますので! 別にアルセスが近くに居るほうが強固なバリアが張れるとかそういうのじゃなくてですね!」
「ええい、こういう時くらいは素直になれよ! でも頼む! 正直早すぎていつまでも避けられる気がしない! 頼りにしてるぞ、ティエナ!」
「はい、存分に頼ってくださいね!」

 アルセスからは見えないが、この一瞬だけティエナはまさに満面の笑顔という表情で左手と右手、両方に不可視の結界を展開していた。
 人間の肉などあっという間にみじん切りに出来そうな刃を相手に一切の斬撃を通さぬ透明の盾はまさに鉄壁。しかし、常時展開していてはあっという間にエネルギーを使い果たすため、アルセスはティエナを庇いつつ攻撃を避け、ティエナの高速計算にて「絶対に避けられない」と判断した攻撃のみを彼女に防いでもらおうという形で、ロボット獣の猛攻を凌いでいた。
 しかし、これでは二人揃って防戦一方。手が出せなければいずれ力尽きるのは自明の理。

「このままあっちがエネルギー切れになる可能性はないかな?」
「……非常用電源は確か起動してから一日は活動できたと記憶していますね」
「俺達の方が絶対に先に倒れるな、それ」

 持久戦は即座に却下された。
 ならば、こちらのもっとも優れている攻撃力を以て破壊する他はないのだが。

「……ティエナに攻撃を任せるのは無理だな。俺が使える心機述構(グリモワルアート)はどれも防御向きじゃない。ティエナが準備を整えるまで守りきれる自信が無い」
「……今のアルセスで使える中でこの状況に見合うもの……第四位(フォース)ですか……でも」
「ティエナ、正直に答えてくれ。撃ってもまだ――残るか?」

 自分の命は、という言葉は黙殺するアルセス。
 ウェバルテインの力を引き出すとは、心気と共に生命力をティエナに捧げるのと同じこと。
 ここを切り抜けても力の使いすぎで自らが死ぬようなことがあっては意味が無い。
 既に一度切り札は切っている。使い所は間違えて自爆するようなことがあってはアルセス以上にティエナが自らを許さないだろう。
 だから、アルセスは自己犠牲を何より嫌う。その果てにあるのはティエナに癒える事の無い悲しみの傷をつけるだけだからだ。

「……大丈夫です。使い終わった後は結構フラフラすると思いますが、余力は十分残ります」
「よし、なら決まりだな。二度も時間稼ぎを任せて悪いが、頼んだ」
「本当ですよ! わたしに権限のある『十罰テン・パニシュメント』なら、ほんとうにちょっとだけアルセスの力をもらえば済むのに!」
「後で倍返しで頼む」
「ふん、動けないアルセスから搾り取る代わりに三倍返しにしてあげますよ」
「そいつは嬉しいね、今夜は夜更かし確定か」
「そ、そういう恥ずかしい軽口はいいですから! ほら! とっとと準備してください! 結界張りますよ!」
「ああ、任せた!」

 夜更かしが何を意味するのかこの上なく伝わったティエナは羞恥に頬を染めていたが、先程から突進しては斬る、目から再びレーザーを放つ、機銃を撃ち続けるなどと、実にアグレッシブに攻めてくるロボット獣の猛攻を防いでいた。
 攻撃の力ばかりではない。ウェバルテインには守りに適したアートも備えている。ただ、アルセスの気質が上手く作用せず彼には使いこなせないというだけなのだ。

「攻撃力は大した物ですが――力任せ、数任せの戦術パターンしか入力されていないようですね……! まあ、対人戦闘においてはそれがもっとも効果的なのは理解できますが」

 自分達の周囲を守る結界は攻撃の余波を防ぎ。
 迫り来る機銃の射線上に強固な盾を置き、狙いが変わるのと同時にティエナの右手が動き盾も移動し弾丸を防ぐ。
 より照射範囲を絞り込み貫通力を増したであろうレーザーは防ぐのではなく曲げる。空間の歪曲を限定的に引き起こし、最終的な着弾点を大幅にずらすことで対処。
 そもそもハンマーによる攻撃は馬力任せの単なる物理攻撃。ティエナが展開した広域結界を破るには至らず放置。
 複数の攻撃に対し的確な防御法を並行処理で展開するという人にはおよそ不可能なる防御法。
 ティエナが作り出す不可視の結界の中で、アルセスは再びウェバルテインの深奥――心機述構(グリモワルアート)の刻まれた記憶領域へとアクセスする。

 その鍵は命。オーファクトならばどんな鍵でも心気で開くその扉を、ウェバルテインは持ち主の命という鍵を要求するのだ。

第二階層(セカンダリ)情報領域(データベース)展開(オープン)

 幾度と無くその代償を支払ってきたものは例外なくその命を無くした。
 当然だ。命とは有限。生きる以上に使えば寿命を削り果ては死に行き着くが道理。
 アルセスはウェバルテインを持つ者の定めの――外に在りしもの。司りし魔剣の姫に愛された正当なる所持者。

 なればこそ――魔剣はその刃を常に振るう事を許すのだ。

戦闘述構(バトルデバイス)第四位(フォース)――暴虐の雷旋風(ストームブリンガー)!!」

ロボットの方がね(しろめ

四足歩行のイメージは某最終幻想の五作目で
ラスダンの途中で意味も無くウロウロしてたアイツ。

何気なく近づいて全滅した事を作者は一生忘れない。
+注意+
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