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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第41話 機械の教官

「アルセス! ウェバルテインの優位性――この時代にまで残ってなお劣化せず自己再生すら可能な特殊合金製の刃ですが、それはあくまでこの時代の存在を相手にした場合のこと。あれは――生まれた時代が似通っている過去の残滓です――!」

 鞘から抜き放ち、そしてもう一つの鞘からも解き放たれた黒い刃のウェバルテインを逆手に構え低姿勢のまま特攻――真正面から機械兵へと挑む。
 まるで銃口の動きを察しているかのような細かな動きはアルセスの得意技。機銃の連射にすら対応してのけるその敏捷性で己の間合いに機械兵を捉えたのとティエナが叫んだのはほぼ同時だった。

「――っの!」

 速度を殺さず身体ごとぶつかるような下からの斬り上げ。
 さながらその黒い剣閃は全てを飲み込む深い闇。事実、ウェバルテインがその刃を見せた時、例外なく全ての物は断ち切られてきた。
 その太刀筋が――機械兵の腕で止まっている。

「あーもー! だから言ったじゃないですかぁ! ウェバルテインのそれはいわば心気の刃。オーファクトを介して行う攻撃は単純な物理的防御だけでは防げませんが、同じ性質のフィールドを展開できるロボットにはきちんと防御機構が存在してるんですよ! オーファクト製の武器同士をぶつけ合うのと一緒です!」
「すまん、聞こえてきた時にはもう動いてた!」

 機械兵の反応はそこまで俊敏では無いがいつまでも敵を懐に入れておくほど優しくはなかった。
 右腕の手に相当する部分が変形しハンマーのような形状になると、アルセスの頭目掛けて振り下ろしてきた。殺意しかない攻撃にアルセスは素早く離脱するが、関節まで再現されているとはいえ人形らしからぬ流麗な動作に、アルセスは背筋が寒くなる思いだった。

(……かつては戦場を埋め尽くしたという――殺戮人形と謳われた戦闘用機械人形(ロボット)。これがその一つってか)

 痛みを知らず、怖れを抱かず、ただ入力された命令の実行だけを優先する鋼鉄の兵士。
 機械技術の一つの頂点。人を模倣した人形の最高峰。
 何よりも恐ろしいのは人間の兵士の集団ならば当然に存在する実力の不均衡が存在しない事。
 完璧に揃った実力と性能。失敗(ミス)を犯さぬ自律思考。徹底された計算による極めて高い作戦成功率。
 戦場という場において、ワンダラーの力が不要な場において人間の代わりに代理戦争を繰り広げたとされるかつての人類の「戦力」の一端。それが今自分の目の前にいて、何の躊躇も無く凶器を向けてくるその姿に、アルセスは言葉に出来ない恐怖を感じた。

 命令の是非を自らに問う事はない自律した兵士。

 それは――何かの歯車が狂えば創造主に刃を向けることすら躊躇わないだろう。それが否であるかどうか、疑問を抱くという事にすら至らぬ無機質な存在を異質だと彼が感じるのは――

「このポンコツがー! たかだか運よく壊れないで済んだ量産品の分際で暴れてるんじゃないですよー!」

 後方で騒ぎながら自身の回避を手助けするように援護射撃をしてくれている相棒のお陰だろう、とアルセスは恐怖を忘れたかのように一瞬だけ笑みを浮かべた。
 同じく人に作られたものだというのに、眼前の敵からは冷徹さを、後ろの相棒からは温かみしか感じないとは、つくづく人間の業とは深いとアルセスは一人笑う。

「ってあの全身を覆ってるの対心機述構(グリモワルアート)用のバリアコートじゃないですか……! 何で訓練用の戦闘ロボットにそんな高度なシステム積んでるんですか! 責任者でてこーい!」
「もうとっくにお亡くなりになってるだろ」

 やたらと叫ぶものだからロボットの注意がティエナに向いたのか、左手の機銃にさらには目に相当するアイセンサーが怪しく光ったかと思うと眩いばかりの熱線が放たれた。暗視のアートに加え対閃光の効果も含んだアートを展開していなければ二人揃って目がやられたかもしれないほどに光をまとった熱線だ。

「ちょっ、レーザーアイ!? しかも建築用素材すら溶かす熱量の大出力レーザー!? あ、アルセス! 半端な防御で触れちゃだめですよ! 人間の体なんてあっという間に溶けます! というか焼失します!」
「そりゃ、あんな跡つけられてるのみてて食らおうなんて馬鹿な考え浮かばないっての!」

 敵の豊富な遠距離攻撃に耐えず動きながら状況を窺っているアルセスも、あのレーザーの怖さは一目で分かった。
 照射跡に残っている黒い焦げ跡と、この建材の強度がどれ程かを知っていれば――これを焼けるレーザーがどれ程の威力かなど想像に難くない。
 だが、アルセスを悩ませているのは高威力の攻撃ばかりという点ではない。
 レーザーの照射、機銃の乱射、さらにはこちらを常に補足し続ける高い感知性能。
 攻撃の途切れが無く、常にこちらの動作を読まれているので相手の攻撃から逃げるのも一苦労だ。単調な動きでは速度や動作から到着点を予測するのを「計算」でもしているのか、人で言う先読みの如く弾丸が飛んでくる。実際に先回りされるように着弾した事でアルセスはその可能性に真っ先に気づいたが、もしも考えが及んでいなければ早々に被弾した可能性は高い。

「……っ、くそ、ティエナ! このロボットの思考回路をどうにか出来ないか! いつまでもこんな無茶な逃げ方続けてられないぞ!」
「いくらわたしでも絶賛稼働中の機械の頭の中身を直接アタックするのは難しいです! ですので、アルセス! ここは欲を捨てて――力ずくで止めましょう!」
「結局いつも通りかよ! 出来れば原型留めるくらいにしておけば一儲けできると思ったんだけど!」
「どうせ提出したところで今の人間の技術じゃ模倣品すら作れません! ですので遠慮なくやっちゃいましょう!」

 ティエナが気炎を上げて叫び、アルセスは苦笑しつつもその提案に乗った。
 現在において真っ当に動く機械人形。オーファクト程ではないが高度な技術の結晶だ。大金を積む者を探すのには困らないほどのお宝ではあるのだが――それもこちらの損害を考えなければの事。
 あの暴れまわる殺戮機械を後で動ける状態で鹵獲するのは骨が折れる。ウェバルテインの力とティエナの力、その両方を際限なく使えば不可能ではないかもしれないが――このような些事に見合わぬ力を振るう浅慮な者に待つのは身の破滅。

 天を裂き、地を揺るがす規格外の力だからこそ振るうべき時は見定める。

 たかが金の為にその見極めを謝るなど愚者の愚考。
 アルセスは一瞬でも湧いた己の浅はかな考えを一笑に付して切り捨てると、即座に相手を殲滅するための思考へと切り替える。
 この戦いにおいてバルンティアは無意味だ。
 バルンティアは自動装填なおかつボルトの無限生成という射撃武器として優秀な性能を備えているが、それだけに放ったボルトは一定の時間を置くとこの世から消失する。
 アルセスの集中力があれば、あのロボットのむき出しの関節にボルトを打ち込み行動を阻害する障害物として成立させることは不可能ではないが、それが多少の時間稼ぎにすらならないのでは意味がない。
 加えて先日使った絶望の十字刑(ディスペアクロス)も難しい。
 単純にあれはまがりなりにも「生物」に有効な心機述構(グリモワルアート)だという事だ。
 それが人造であれ改造された生物であれど、生き物であれば作用するアートもロボット相手には潰す対象となる「核」を絞り込めないために効果が無いのである。

(あれを止めるには単純に威力の強いアートをぶち込むしかない、か)

 単純、故に強い。
 今求められているのがそういう力だと悟ったアルセスは腹を括った。

「ティエナ――第一位(ファースト)を使う! フォロー頼んだ!」
「はいはい! いつもながらオーファクト使いの荒いご主人様(マスター)ですこと! どうしてこういう時には自分が前に出ようとするんですか!」
「ティエナに偶にはいいところ見せたいからに決まってるだろ!」
「いいところは割と毎日見てま――なんでもありません! なんでもありません! タイミングはご自由にどうぞ! あのポンコツはちゃーんと抑えますから!」

 明るい場であればティエナの顔が真っ赤に染まっているのを見えただろうが、暗視のアートの生で色の加減は分からなかったな、などとアルセスは至って暢気に構えていた。
 ティエナはウェバルテインを通してアルセスより生命力と心気を少しばかり吸い上げてエネルギーを補充し、無数の黒い弾丸のようなものを作り出してはロボット目掛けて放っていた。
 単調な非物理性のエネルギーによる射撃だが、ウェバルテインの刀身さながらに黒いそれは貫通力と物質による抵抗を無視する侵食の弾丸だ。同質のエネルギー体でしか威力を減衰させられぬそれは、生半可な生物ならば簡単に風穴が開くほどの危険な代物である。
 動きの止まったアルセスを狙おうとロボットは動こうとしているのだが、ティエナの連続射撃がそれを許さない。降り注ぎ、迫り来る黒い弾丸の雨あられによるけん制は、奇しくも先程までそのロボットが展開していた戦術だ。
 常時学習機能も働いているロボットだったが、それ故に思考の落とし穴に嵌まった。

 後方に控えるワンダラーの方が脅威度が高いと判断した。
 故に優先的にターゲットとしたが、正体不明の生命体の妨害に合いそれが叶わない。
 ならば、生命体の撃破を先にすべきだ、と命令の優先度をティエナの撃破に設定してしまった。
 ティエナは意図的に相手の攻撃が通じる――と思わせるように自身を守る障壁の強度を下げている。ティエナはロボットが製作されていたであろう時期を使われている部品や装備から見当をつけて、自分のこの状況を相手が理解していると判断し作戦を立てた。

(攻撃が通じるから倒せない相手ではない――と考えてしまうんですよねえ、あの手のロボットは)

 柔軟性が無いわけではないのだが、戦闘用ロボットの思考回路はやはり単純だ。
 それ故にある意味では人よりも上位存在とも言えるティエナにとってはその思考を誘導するのは簡単だ。
 そして後方ではアルセスが眼を閉じてウェバルテインを握り締めながら集中しているのが彼女の感覚を通して分かった。

(ああ……この真剣に心気を練ってアートを使おうとするときのアルセスの精神状態の心地よさ! まるで全身を優しく撫でられるかのようで……! あっと、いけません。ここでトリップしたら本当に蜂の巣にされちゃいますね!)

 一瞬銃弾が本当に自分の側を通り過ぎたことで、ティエナは我に返った。
 そうして稼いだ時間は一分にも満たぬ時間であったが、戦闘中において棒立ちでいるには長すぎる時間が過ぎた。
 されどその一時はアルセスにとっては十分過ぎるほどの時間。
 声高に叫ぶのは宣誓。
 言葉でもって黒き刃に眠りし秘の力を目覚めさせる儀式。
 その両の眼が物を移すのならば、己が何を相手にしたかしかと見よ古の機械兵。 

第二階層(セカンダリ)情報領域(データベース)展開(オープン)戦闘述構(バトルデバイス)第一位(ファースト)――虚栄の幻影刃(ビジョンブレイド)!!」

 掲げるは巨大なる黒き剣。
 鞘を抜き放ち、黒き長剣となった時よりも一回り大きい黒剣。
 その剣の重さは変わらず。短剣を扱う気軽さでアルセスは両手剣に近くなったウェバルテインを片手で振るう。
 そこから放たれるオーラは黒く輝く、しかし魔剣の名には相応しくはない厳かな輝きすら満ちていた。
 それは人の世に必ず訪れる夜のような黒さであり、人々を不安に陥れるのではなく一日の終わりを祝福する慈愛のような深い黒。
 ティエナはアルセスに向き直ることすらせず、ただ――彼の花道を作り上げる。
 機銃をけん制し、両目となっているカメラアイを潰し、ハンマーと化した右腕をそれぞれアートであっさりと弾き飛ばした。
 アートによって練り上げた黒いエネルギーの塊を三射同時に行う事によってロボットの戦闘手段を一瞬で潰し相手に一時的な硬直を生み出す高等射撃。どれだけ頭が理解できていようとも身体を動かすこと叶わぬ不動の時間をロボットに作り出し――

「その隙――もらったぁぁぁぁぁ!!」

 この上なく見事な太刀筋を描く振り下ろしの一閃がロボットを真ん中から両断した。

おいおい、41話も書いてようやく
主人公が大技使ってるよ。どういう構成にしてんだよ作者(ブーメラン
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