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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第40話 意図せぬ輩

「あれ? 何かこの階段随分長くないか?」
「本当ですね。これで二回目の踊り場です……もしかしてこの建物って単なる集合住宅じゃなかったんでしょうか?」

 お宝が見つかる可能性が低いと感じたからか、多少警戒の糸が緩んでいた二人だったが予想外の展開に少しばかり足を止めた。
 仮に先程の位置を建物の一階と仮定したならばどう考えても相当地下に降りてきた計算になる。しかし階段は明らかに隠すような位置ではなく廊下に接していたし隠し階段の類ではないはずなのに明らかに地下深くまで続いていた。
 普通の一般用の家屋の基準ではない。ではこの建造物の本来の目的は一体何処に?
 そう考えながら降りた二人を出迎えたのはやはり同じく扉の紋様が描かれた壁であった。但し――二枚の扉分の。

「これだけ降りてきて出てきた扉……しかもこれだけでこの辺はそんなに広くないな。もしもこれがただの一部屋だとすると相当広くて天井の高い部屋ってことになるが……過去の人間は地下にVIPルームを作る趣味でもあったのか?」
「景観は最悪、年中真っ暗で灯り必須、空気が篭もりがちの地下に豪勢な部屋を作るって裏稼業の人間くらいのものでしょう。ここは……もしかするとわたしは前提を間違えたかもしれませんね」

 先程と同じようにティエナは扉の横にある端末に触れて強引に開閉を試みながらそう呟いた。
 一体何の前提を? とアルセスが問うより先に扉が開いた。

「集合住宅は集合住宅でも――軍関係者の寮、だったかもしれません」

 そしてティエナのその言葉が正しい事をアルセスは一目見て理解する。
 見上げなければ届かないほどの高い天井。それこそ先日忍び込んだリオネスの研究所にあった実験室よりも広々とした空間。
 作りそのものが頑丈であったからか劣化こそしているものの自然の侵食を受けていないこのフロアの作りにアルセスは見覚えがあった。いわゆる訓練場というやつだ、と。
 大人数での室内での訓練を想定した広々とした作りで、アルセスもギルドの専用の訓練場でオーファクトの扱いに慣れる為に何度か利用したことがあった。その部屋と雰囲気や空気が全くそっくりなのだ。時を越えてもこういったものの作りは変わらないのか、とアルセスは時を越えてなお繋がっている人の営みの一端に少しだけ触れたような感触を感じた。

「部屋が狭いのも納得ですねー。軍人の寮がそりゃ快適なわけないですからね。さっきアルセスが見つけたディスクも、もしかしたらえっちぃのだったのかもしれませんねー」
「……ティエナが生まれた時代ってそういうのも記録媒体に入るんだな」
「あー……言っておきますけどその辺のテレビと違って白黒じゃないですよ? 崩壊期以前の映像技術ってカラーが当たり前、専用の端末を使えばまるで目の前にその光景がある、みたいな表現も可能でしたから」
「……そりゃ何とも色々と凄そうな話だな……」
「あらあら? アルセスってばさっき壊しちゃったディスクがちょっと惜しかったな、なんて思ったりしました? しましたか?」
「いや、別に。そういうのは特定の相手のいない男性用だろ? エモンドがグラビア誌を買うようなのと似たような感じで」
「……ええ、まあ、その用途としてはそうなんですけど、時々アルセスがこういうわたしの悪ノリもさらっとかわしすぎるのでちょっと心配になりました」
「ティエナ相手に枯れた反応を返したりはしないから心配しなくていいぞー」
「だ、だ、誰が、もしかしてすぐ飽きられちゃったりするのかな? なんて心配をしましたか!」
「はいはい、いつもの自爆自爆。こんな可愛い彼女がいて、見るだけの女の痴態なんて興味が湧くわけないだろ」
「う、うーうーうー!」

 爽やかに笑って言い切るアルセスにとうとうティエナの方が羞恥に耐え切れなくなり、アルセスの胸辺りをぽかぽかと可愛らしく叩き始めた。毎度毎度同じようなやりとりをして飽きないのだろうか、という疑問を抱いてはいけない。彼らにとってはこれが日常だ。例えそれが危険かもしれない遺跡の探索中という状況であってもだ。
 ひとしきりイチャついた後、アルセスは改めて周囲を窺うがやはり訓練場の類ではあったようだが、有用な遺物は見つかりそうも無かった。周辺はただ殺風景な空気に満ち、埃と塵が薄っすらと床を覆っている。かつては多くの人々がここで鍛錬の為に汗を流したのであろうが、今はただの埋もれた過去の場所というだけだ。

「しかし、偶にティエナから聞く過去の話と照らし合わせると今と似たような環境で歩兵の育成とかをやってるイメージがイマイチ発展していた崩壊期以前の生活と結びつかないんだが……」
「そりゃ、一人乗りの戦闘機から海だけじゃなくて空にも軍艦が浮かぶような時代でしたが、魔物相手であれば強力なオーファクトが使えるワンダラー一人の方が使い勝手がよかったですし、適材適所というものがありますよ」
「それもそうか……」

 どうにもアルセスは偏ったイメージを抱きすぎていたらしい。

(よくよく考えたら人よりちょっとでかい程度の魔物相手に俺達の時代でも戦車は出さないしな。戦いの為の選択肢が俺達の時代よりも多かったと考えるべきだったか)

 自分の視野の狭さを反省しつつ、改めてアルセスはもう一度周囲を見渡してみた。
 耳を打つような静寂。眼を閉じたところでかつてここで繰り広げられていたであろう光景が思い浮かぶ事はない。過去と今を繋ぐオーファクトを持ちながらも、過去から伝わってくる情報は断片的過ぎた。お陰で本当に救いたい少女を救う手立ては一向に手が届かない。
 それでもこの歩みを徒労とは思わない。こうして一つずつ、無意味かもしれないが過去の足跡を辿り今の技術でティエナを救う方法を探すのだ。こんな光景に寂寥感を感じて感慨に耽っている時間はアルセスにはない。

「残念だがこれ以上の物は見つかりそうも無い。小銭になりそうなものだけでも回収して早々に撤退を――!?」

 そう言いかけたアルセスの言葉が止まった。
 そろそろ訓練場奥の壁に突き当たり、やはり何もないだろうと思い始めた矢先にそれはあった。
 膝をつき両手を投げ出して俯いたような姿勢で鎮座している人――を模した鉄くず。
 否、それは鉄くずではない。
 金属の手足、金属の血管は各部署を繋ぐワイヤー、人の顔に近い形で取り付けられたものはそれぞれアイカメラに排気用の管、骨格のような骨組みは微細な機械と部品の組み合わせ。
 人であって人にあらざるモノ――機械人形(ロボット)がそこにはあった。

「……ティエナ、これはもしかして……」
「アルセスのご推察の通り、かつての時代には人の代わりに労働力となり、戦力となり、ワンダラーですら手に余る領域へ踏み込む為にと人が生み出したヒトガタ、機械人形(ロボット)ですね。もっとも、用途に応じては専用性ゆえに人の形をしていないモノでもロボットと呼称されたものもありますが」

 ティエナはゆっくりと近づいて手を触れて分析を開始する。アルセスもまた彼女の邪魔にならないようにそのロボットを観察する。
 折れ曲がった足の長さや身体の大きさから全長にして3mくらいにはなるだろうか。大柄な男でもまともに組み合うには骨が折れそうだ。人間と違い、ロボットの強さは機械での基準になる。出力が大きく、馬力が出せて、なおかつその力を正確にコントロール出来る事が戦闘用のロボットの強さに繋がると以前聞いた覚えのあるアルセスは、それらのおぼろげな知識を元に今はもう動かないロボットの能力を推測していく。

「他の機械のように出力を調整すればパンチの威力一つ取っても細かく設定できるんだったっけ」
「そうですね。特に戦闘訓練用のロボットには様々な武術のデータを一通り入れておいて、素人、熟練者、達人、のような感じで細かく強さを設定する事で兵の育成に役立てたりしていたかと。人間でも手加減って難しいですが、ロボットであれば相手が思わぬ力を発揮したのでつい手元が狂った、みたいな事故は発生しませんからね。実力でロボットを上回ることが出来ればあっさり倒されるだけです」
「倒すことが出来れば一定の実力を身につけた、っていう自信にもなるもんな」

 分かりやすい目標設定も思いのままとなれば有用性もあるだろう。ティエナと共にある身としてこういう考え方はあまりアルセスは好まないが、壊れても修理すればいい、という点でも精神的に楽だ。

「その代わり、設定された強さは容赦なく発揮しますからね。相手が誰であろうとロボットは一切の躊躇無く襲い掛かってきますから、甘く考えていると怪我しますよ」
「それもそれで良し悪しだなあ」

 機械ならではの融通の利かなさもあるのか、とアルセスは納得しながらロボットの頭部があるであろう上を見上げ――目が合った。

 暗視の力を通しても分かる程に赤く光った目と。

「ティエナ!!」

 背中を突き抜けた悪寒に従ってアルセスは形振り構わずティエナを抱えて飛び退った。
 手に掴み慣れた柔らかな感触を感じ、アルセスはこんな時でなければ、と悔やみつつもロボットから距離を取った。
 一方、突然アルセスに持ち去られるかのように抱かれたティエナは動揺していた。

「ひゃ、ひゃっ!? あ、アルセス!? きゅ、急にどうしたんです!? あの、ちょっとだけ胸触ってましたよ!? お、押し倒すのはいいにしてもちょっと埃っぽいところではあのその」
「悪いティエナ、そのお誘いは俺としても嬉しいんだが、あのロボット――動いてるぞ!?」
「はい!?」

 アルセスはティエナを下ろすと素早くウェバルテインを抜いて身構えた。ティエナもアルセスの側に駆け寄りロボットを観察すると――その変化に目を見開いた。

「……該当施設データベースニ存在シナイ生体反応一体……未確認生命体一体確認……施設セキュリティルールニ則リ……不法侵入者ヲ殲滅スル……」
「捕縛を通り越して殲滅かよ。セキュリティ厳しすぎじゃねえ? 単なる寮じゃないのかよ、ここ」
「もしかすると埋もれた他の部分には有用な何かがあったのかもしれませんが……それよりもちょっとだけ驚きました。わたし、あのロボットからは生命体として認識されてるんですね」
「俺は当然だと思ったがな。ティエナは俺の側にいて――生きてるんだから」

 人とは違う形で生を受けたかも知れない。
 だが、彼女は間違いなくこの姿でこの世に存在し、そして大きな変化は無くとも共に同じ時間を過ごしてきた。
 それはきっと生きている、とアルセスは思うのだ。
 二人の間に一瞬だけ甘い空気が流れそうになったが、鈍い機械の駆動音と無機質な金属の音が二人の意識を現実に引き戻した。

「見てくださいアルセス。あれがロボットという存在ですよ。何とも空気を読まない存在だと思いませんか」
「命令に忠実であり、作られた意思を全うする存在、か。職務に忠実で何よりだとは思うが……銃口を向けられてちゃ褒める気にはなれないなあ」

 立ち上がったロボットの全長はアルセスの見立て通り3mは越えている。
 むき出しの骨組みや一部千切れているワイヤーなどがぶら下っていたりするのだが、魔物と相対したとは違う怖気を感じる。少なくとも壊れかけのロボットと甘く見ては怪我をしそうだとアルセスは気を引き締めた。ティエナは即座にアートを使いロボットの能力解析を行うが、その状態の良さに驚いて声を上げた。

「……力の流れからして搭載されている非常用電源で駆動しているようですね。まさか数百年経っても動くとは……密閉状態だったからか部品の状態も年月による劣化はしてても錆や変質による影響はなさそうですね……うわ、バックパックに銃弾もしっかり揃ってますよ。一体何処の誰ですか! こんな訓練用の戦闘ロボットのメンテをしっかりしておいたのは!」
「それは管理者としては褒められるべきことだと思うけどな!」

 ガガガガガ! とミシン音のような轟音をかき鳴らしながらロボットの左腕の銃口が火を噴いた。
 暗闇に火花が輝く中、アルセスとティエナは余裕で回避するが床を跳ねる銃弾の多さは侮れない。

「左手の銃は機銃か! なんつー連射速度だよ! あっという間に弾が無くなるぞ!?」
「アルセス! ロボットは腕が取れようが、足がもげようが命令を実行する頭――搭載された処理回路が完全に沈黙するまでは止まりませんよ! バラバラにしてなお壊す勢いで戦ってください!」
「了解だ! 行くぞ、ティエナ!」

 人知れず遺跡の中で、過去から蘇りし機兵との戦いが始まった。
砂糖を止めるための使者! スパイダー……じゃなくて訓練ロボット!

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