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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第39話 埋もれていた遺跡

 扉をくぐった先はアルセスにとっては別世界、ティエナにとってはどこか懐かしさを感じさせる風景であった。
 かつてはこのような建築物が当たり前だったのであろう事を思わせる不可思議な建築様式に、しかし姿形は違えど家具や調度品の類には今の自分達の世界の面影を残す過去であり未来かも知れぬ建物――の崩壊した跡。

「扉を開けたときに大掛かりな空気の移動が無かったから、密閉状態ってわけじゃなさそうだな」
「そうですね。ですが、ガスの類が漏れていないとは限りませんからアルセスはなるべく離れないようにしてくださいね。具体的に言えば手を繋ぐか腕を組みたいところなんですけど」
「俺も全面的に賛成だがそれやってると急な対応を要求された時に絶対に動きが鈍る。残念だけど諦めよう」

 両手を自由に使うために懐中電灯を使うことを諦めてアルセスはティエナの暗視のアートに頼る事に決めた。
 同業者に会う確率は極めて低いのであるが、先程からコウモリが飛んでいたり足元をネズミが走っていったりしたので生物が全く住めなかった環境では無い事から警戒度を高めたのだ。
 生き物が居る、すなわち魔物が生息していないとは断言できぬ環境。
 そんな中にあって灯りを持ちながら歩くというのは敵に居場所を知らせながら動くようなものだ。魔物に対してその程度の警戒が役に立つかは不明だが、手が片方塞がるというのは戦闘時に置ける選択肢を狭める。そう判断してアルセスは暗がりの中を慎重に歩く。

「どの扉も取っ手が無いな……やっぱり崩壊期以前の文明が今の時代よりも数段進んでたってのを改めて実感するよ。手で触れずに開くんだものな」
「ま、逆にこうして動力が無くなっては力ずくで開けるのも難しいんですけどね。当時の人間たちは自分達の文明が滅びを迎えるなど微塵も思ってませんでしたから」
「それが今じゃあっけなくも地の底ってか」

 本当に現代よりも数段進んだ技術を持った人間ですら対処のしようがなかったという世界崩壊。
 文献も記録も歴史にも残っておらず、数少ない当時の世代の生き残りであったグラムピアでさえ、その詳細を後世には残していない。研究家の間では彼も全貌を知ることが出来ずに「残せなかった」とする説が圧倒的な中、異端の説としてこのような説もある。

 ――それが人の手によって起こされたものであるが為に詳細を記せなかった。

 戒めの為にとその事実を残しても愚かな人間が再び同じことを繰り返す事を怖れたグラムピアや真実を知る者達が情報統制を敷いてその事実を隠したとする説がそれだった。
 真っ当な理由がない為に、後世の人間の為に尽力した偉人を貶める内容だと怒り心頭の研究者も居るが、その一方で冷静に分析すればそのような説が通ってもおかしくないくらいに、崩壊後の人々の努力は知る事が出来ても――そうなった崩壊の原因については一切の情報が出てこない。
 ティエナですら知る事のないその真実には一体何が隠されているのか。多くの歴史家の中にはそれを探ろうと世界を巡る変わり者すら居るほどにこの時代においての最大の謎であるともされている。

「とりあえず調べられそうなところはしらみつぶしに行ってみようか。なんせ久しぶりの手つかずの遺跡だからな」
「ええ、賛成です。単なる民家の可能性もありますけど、当時の遺物はそれだけでも高値で売れますからね。場合によってはその辺に転がってるテーブルの一つも剥がして持っていけば十分元は取れますよ」
「完全に趣味の品にしかならないのに、好事家はよくもまあ大金出すよなあ……」
「研究所の類も買い取ってますよね。未だに製法どころか成分すら割り出せてませんけど」

 などと大袈裟に語られている人類史最大の謎も、アルセスやティエナには無関係ということもあり、このような即物的な思考になってしまうのだが。
 ロマンで腹は脹れない。常に思考は現実的であれ、というルガーの教えの一つに忠実なアルセスはティエナの現実的な鑑定に何ら異を挟まなかった。
 そして早速一つ目の扉を見つけた。所々崩れた箇所から土や石が零れて荒れているが、似たような模様の壁が何個かある事から、アルセスは今自分の立ち入っている場所が廊下のような場所であると見当をつけた。
 本当に密閉状態であれば大きく警戒する必要は無いのだろうが、先程から空気が薄くなる様子も無く堅牢な素材であっても自然の侵食の力には勝てなかったか、それとも元々あちこちが欠損していたのか土や岩が転がっている以上、外側からの変化が無いとは到底考えられなかった。

「ティエナが扉を開けてくれ。しばらく待ってから二人で同時に部屋に入ろう」
「相変わらず慎重ですね、アルセスは。そういうところが好……エッヘン! 大変好ましいですね!」
「……それ、言いなおす意味あったのか」

 皆まで言わなくともティエナが最初に言おうとした言葉が容易に想像できたアルセスは一応尋ねてみたのだが、

「にゅ、ニュアンスが違いますよ! ええ! 微妙な言いまわしの違いというやつです! わたしは好意の安売りはしないんですよ!」
「その台詞、今度団員で審議にかけてみようぜ。満場一致でダウト認定されるから」
「そ、そんな理不尽な話がありますかっ! どいつもこいつもわたしの一体何処を見ているというんですかっ」

 頑なに認めようとしないティエナの慌てふためく姿をしばし堪能するアルセスだったが、意外に広そうなこの遺跡を調べるのに余分な時間を使っている場合ではないと思い直し、ティエナを宥めて改めて扉に向き直った。
 右手にはウェバルテイン。左手のバルンティアもすぐさま抜ける状態で構えている。

「……接触(コンタクト)成功……動力の提供と開放命令の実行…………開きますよ」

 パシュ、と空気が抜けるような音と共に何度見ても扉のようには一見見えない壁が開く。
 しばし警戒する二人の間を無音の時が過ぎる。アルセスも注意深く室内の気配を探るが生物の反応は感じられない。ティエナに向き直ると無言で首を横に振ったので、ある程度警戒しつつ慎重にアルセスは室内へと踏み込んだ。
 壁と一体化した本棚……らしきもの。しかしそこに並んでいるのは奇妙な手触りの近年実用化されつつあるプラスチックのようなものに近いとアルセスは興味深そうに手に持ちながら思った。

「アルセス、それは入れ物ですよ。その横を開くように引っ張ってみてください」
「こうか?」

 パチン、とかみ合うような形になっていたそれはまるで本のように両開きになった……が、どうやら既に形を保っていたのが奇跡であったらしく、その衝撃でアルセスの手からそれは崩れ落ち、中からはくすんだ円盤のようなものが出てきたが、それも地面に落ちると同時に粉々になってしまった。

「うわ……完全に脆くなってたな……」
「まあ、お金にはなりそうも無いですから気にしなくていいですよ、アルセス。これはですね、先日解析したあの鏡になった記憶媒体と一緒のものです。もっともあれよりも入る情報の量も保持できる質も低いというものですが。アルセスが最初に開けたのはそれを保管する為のケースですね」
「大昔の記録媒体か……ティエナが中を見られれば金にはなったんじゃないのか?」
「んー……まあ出来なくもないでしょうけど、この状態を見るに形を保つだけで限界って感じなので、ちょっと触れただけで壊れるくらいになっては、中身が無事かどうかは期待できないかと」

 アルセスは残念そうに言うティエナにそうか、とだけ頷くと一応室内を調べてみる。
 小さなテーブルの上には長方形の妙な物体が置かれているが、その近くにあるのは現代でも使われている入力装置であるキーボードに酷似していた。

「これ、キーボードに似てるな」
「ええ、昔の人間も同じような入力装置を使っていたという事ですよ。これは実用化した際にも形状を参考にされたと聞いています。アルセスが子どもの頃の話ですけどね」
「過去の影響は大きいとは聞いているけど、こうして実際に見てみるとまた違うもんだな」

 アルセスは遺跡探索の回数はそれほど多くは無い。ノウハウを身体に叩き込む程度にはこなしたが、ここまで綺麗に手つかずでなおかつ人の手が入ってない遺跡を探索したのは今回が初めてだ。
 訓練を兼ねての探索でもあったため、殆どの目ぼしいものは持ち去られ、どちらかというと仕掛けを知ったり罠に対する対処を覚えるなどの実地訓練的な意味合いが強く、こうして当時の背景を想像しながら調査をするような機会は殆ど無かった。

「しかし、そうなるとこの程度の物じゃ見つけても小銭程度にしかならないって事か」
「遺跡が見つかれば大抵は見つかるようなものばかりですからねー。そこは期待できないんじゃないかと」
「どうしても金目の物が見つからなければ三つ四つ持ち帰る、くらいの気持ちでいいか」
「ええ、保険のようなものですね。それではこの調子で次々調べましょうか」

 他に室内を調べたが目ぼしいものが見つからないと判断するとアルセスとティエナは揃って再び廊下に出た。
 そうして等間隔に並ぶ扉を開けては中を調べるを繰り返したが、見つかるのは遺跡探索では大抵付き物の当時の人間たちが使っていた日用品や家具程度の物で、大発見に繋がるような物は見つからなかった。
 けれどもアルセスもティエナも疲れた様子は見せず、淡々と調査を進めて行く。
 そうして五つ目の部屋でもハズレを引いて先へ進んだところで大きな変化があった。

「階段か……降りる階段と上る階段、両方あったみたいだな――かつては」

 アルセスは完全に地中に没してしまっている上りの階段を見てそう呟いた。まだ下りられそうなのは下へ向かう階段だけであったのだ。

「ええ、この遺跡、どうやら随分と地中深くにまで埋まったようですね。部屋の配置にこの形状……もしかすると今で言う集合住宅だったかもしれません」
「……住宅にしては狭くないか? 一部屋と後トイレと小さいバスタブくらいしかなかったように思えるけど」
「崩壊期以前の集合住宅と言えばそんなものですよ。広くする必要が無いですから。今でこそ常時備え付けとして存在しているテーブルと棚くらいしか残っていませんが、ボタン一つでそれらの形状が変形したんです。テーブルがベッドに、棚がタンスに。壁の中にも収容が可能で、声一つ合図一つですぐに飛び出してきますからね。オーファクトに使われている技術を家具や調度品に転用するのは決して難しい事ではなかったですから」

 常に置いておく必要が無く状況に応じて変形させれば余分なスペースも必要ない。
 一部屋単位の必須面積が大きくないと言う事は、それだけ部屋を作ればより多くの住人を住まわせられる。そうすることで大家は収入を大きく出来る、という流れが生まれていた、とティエナは補足した。

「ですので、あの開かずの扉は多分位置的に非常口だった可能性が高まりましたね……そして、この建造物がどちらかというと低収入者向けの集合住宅かもしれないと考えると……」
「うっわ、金になりそうなものが見つかる可能性どころか、オーファクトすらほぼ皆無じゃねーのか、これ」
「ええ、非常に残念ですが。既に調査済みの隣接していた遺跡からはそれなりのものが見つかっているらしいですから……もしかするとその遺跡が職場でこちら側は職員の寮のようなもの……という予測が成り立ちますね」
「うっわあ……なんてロマンも夢もないオチだよ」

 露骨にガッカリはしなかったがアルセスとてこんな期待はずれの顛末は望んでいなかった。
 だがまあ、こうしたハズレは遺跡の探索には付き物だ、という考えも頭のどこかにあったのですぐに思考を切り替える。

「ま、今もトラップの類が生きているって可能性は低くなったわけだし……日用品系のオーファクトが見つかるかもしれないから、見て回るだけ回ろうか」
「アルセスは諦めが悪いですよねー。ですがまあ、わたしはアルセスの所有物ですからね! ご主人様(マスター)が望むなら隅から隅まで探してあげますから感謝してくださいね?」
「ああ、勿論さ。いつもありがとうティエナ」
「うふふ、ええ、素晴らしいですよ、アルセス。その感謝の気持ちを忘れない素直さは! えへ、えへへへへぇ……」

 そのようなアルセスの器の大きさはこうしてティエナの存在によって育まれたものかもしれない。
 結局の所、ティエナがいれば何だって楽しめる、という結論に持って行けるそのポジティブさはこうして生み出されているのかもしれなかった。
……あれ? 探索じゃなくてこれ
単なる遺跡デートじゃねえ?
探索とは一体……うごご。
+注意+
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