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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

序章 旅路の宿場街にて

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第3話 異常なる足取り


※ 同日連続更新中です。
 昨今の世界情勢において国家によって差はあるものの、旅人の人数は増加傾向にある。
 ワンダラーではなくとも、一攫千金を求めて未開の地に眠る財宝の数々を求めて冒険家業を生業にしている者の数は少なくは無い上に、世界各地に出没する魔物退治で生計を立てる事も十分に可能な時代でもあるという背景がある。
 技術力の向上に反し、原始的と言っては何だが狩猟行為で生計を立てられるというと理解が難しいかもしれないが、これは発達した技術にオーファクト由来のものが混じった事も一つの要因である。
 オーファクトの原理を突き詰めると魔物を有効利用するという目的が見え隠れするものが多いのだ。
 アルセス達が駅前で見かけた自動車の内燃機関の動力である「ベルセルス」と呼ばれる結晶体の利用法も、元を辿れば古代文明の技術である。これらが実用化される数年前までは石油や石炭に代表される化石燃料が主流であったし、現状でもベルセルス式への移行は発展途上という段階だ。

 崩壊する以前の世界でも魔物を絶滅させられたという記録は見つからず、また生態系として既に大別されるほど生物学の分野でも研究が進んだ結果、人類が生存圏を広げようとも魔物を完全に滅する事は不可能ではないかというのが識者の総意である。

 とはいえ、人類が常に魔物に対して常時有利に立てるという確証が無い以上、重要な機関や施設の動力系を全て魔物由来のベルセルスに依存するのは危険ではないか、というのが大半の国で話題に上るほどであり、まだまだ研究が必要な新しい資源という見方が強いのがベルセルスという存在であった。

 すっかり日が落ちたサンカーラの駅前広場であるが周囲には背の高い街灯が灯り、営業をしている店からは灯りが漏れるどころか入り口近くに派手に光る電球で彩られた看板が置いてあったりなど、夜の闇とは無縁である。
 小規模な街の発電施設では既に動力機関がベルセルス式の物に切り替えられていたりするのだ。市場に出回るなどベルセルスの補給自体は手軽であるが、それらを安定供給しているのは冒険者達が冒険の副産物として業者に売ったり、魔物狩り生業とする者達であったり、果てはベルセルスの販売を請け負う業者の専門の調達員であったりと様々だ。
 そうした者達は例外なく一つ所に留まらずに旅暮らしをするのが普通だ。加えて移動手段の幅の増加と大量の人員を運べる手段の確立、と好条件が重なった結果によってはサンカーラのように宿泊施設だけで街が拡大する例は現行の世界では珍しくは無い。
 それに伴う出入国の管理の煩雑さ、自国民の管理の難しさなど別の問題も浮上してはいるのだが。

「んー……ソースの味付けが絶妙ですね。さすが数多くの旅人を迎える街のレストランです。十分満足の行く質と褒めてあげましょう」
「お褒めに預かり光栄ですよ、姫。でも、ちょっと口元にソースがついてる状態で格好つけられてもな」
「そういうのは見ない振りをするのがマナーですよ!」

 慌てつつも仕草が雑にならないように紙ナプキンで口元を拭うティエナと、それを笑いを押し殺しつつ見守るアルセス。
 彼らがこうしてホテル近くの静かな雰囲気のレストランで食事を楽しめるのも、技術向上の恩恵の一つと言えるだろう。テーブルの上の燭台に刺さっているロウソクは本物だが、木造の壁にかけられたランプは電動式のものである。これが一昔前の油によるランプであれば、店舗に等間隔に設置されているランプの油の分だけでも利益を上げるハードルが上がるだろう。
 大半の街での発電に伴う費用は使用量で一定の金額を納める仕組みになっているのが定説だが、何処の国もライフラインに関係する費用の請求額はさほど高くは無い。高度だが維持費が高い、という設備が今のところ多くないというのが理由だ。オーファクトの模倣から生み出した技術によるコストカットに関しては、何処の国でも行われており上手い具合に機能しているのも大きい。

 奥の方でドレスを着た女性が弾くピアノをバックに、あまり明るすぎない照明がムードを作り出す静かな雰囲気のレストランを選択したのはティエナである。アルセスは美味しければ店の形態には拘らない主義だが、ティエナはその時々の気分で店の選択がこまめに変わる。

 なお、本日は騒がしい場所よりも落ち着いた食事がしたい、というオーダーによる選択である。

「内陸の方でも新鮮なお魚が食べられるほど輸送手段は豊富かつ迅速に発達し、衛生面の心配は皆無、魔物避けの技術の向上により小さな街であっても安全は年々保障されている、と。自分の目で見られるようになると――人間の進歩は早いですね」
「そうだな、この時代しか知らない俺にはあんまり実感が無いけど」
「そうでしょうねー、アルセスが生まれるずっと前くらいには、人が集まっていれば安全なんて概念はどこにもなかったですからねえ。わたしも寝てる時間が長かったですし、起こされたら起こされたで持ち主がすーぐ死ぬからあんまり時代を眺めていたって実感は無いので、ここ最近でしか比較は出来ませんけど……この数年だけでも異常な早さだとは思います。原因には心当たりありますけど」
「そりゃ……手短なところにサンプルがありまくるからだろ? 元々人間の手で出来たものの現物から情報まで発掘されるんだ。理解さえ出来れば追いつくのは難しいことじゃない」

 遺跡発掘の冒険家が狙うのは未回収のオーファクトだったり歴史的価値のある遺物だったりすると思われがちだが、実は情報記録媒体と総称される「データマテリアル」と呼ばれる小さな金属の類もかなりの金銭的価値がある場合がある。
 当時の技術では映像として出力されたであろう情報を、現在ではかろうじて文字として紙などに起こすのが精一杯であるが、中には設計図などといった技術者垂涎ものの情報が記録されているものもあり、場合によっては国が法外な値段で買い取るケースも存在する。
 そうした情報が手短なところにある分、アイデアを生み出すところから始めなければならなかった時代に比べれば技術の進歩が早いのは当然であるとアルセスは認識していた。そして、ティエナもその認識を間違っているとは言わない。

「ですが、開発するのと浸透していくのは別ですよ。この世界の人達はそもそも基礎教育の段階で、『そういうものも存在する、或いは生み出せる』という認識の幅が広すぎるんです。本来であれば自身の理解を超えた事象や技術などは忌諱するのが当然であるのに、あっという間に慣れてしまう」
「そうか……作る速度じゃなくて受け入れる俺達側の常識の違いのことを言っているのか」
「ええ、そうです。そして遠回しにわたしのような正体不明の存在をあっさり受け入れるアルセスの頭のお花畑っぷりを少しは忠告したい、という意図もありますけど」
「随分な言い草だなあ」
「当然でしょう。どこの世界に人工の擬似人格に肉体を与える人間がいるんですか。過去の人間ですら為しえていない、かつ、原因不明の事象を引き起こした当事者という自覚はあるんですか、アルセス」
「全く無いね。むしろ剣から飛び出してきたのが物凄い可愛い子でラッキー、くらいしか考えてない!」
「清々しいまでのアホっぽい発言ですね!?」

 ティエナは頭を抱えて突っ伏したがその実、アルセスの発言が嬉しくて身悶えていたので照れた顔を隠すための手段であった。無論、アルセスは気づいて生暖かい笑みで見守っているのだが。

 彼女には自身についての情報がところどころ欠如している。

 強力すぎる魔剣ウェバルテインの制御を担い、持ち主の負担を減らすために生み出された存在であるという事は覚えている。
 また自身の製作過程がおいそれと行えるほど軽い技術ではない事から、高位の存在として区別する為に「姫」の呼称を与えられていること。
 歯抜けではあるが古代由来の技術や現象においては知識を相当に蓄えており、並の歴史学者、考古学者でも顔負けの鑑定能力に直結していることなどは現代で生きる上では大きなアドバンテージであった。
 しかし、そんな彼女が知る中でも「無から人間として活動可能な肉体」を作る技術などは該当する技術が無かった。
 人工生命――ホムンクルスと呼ばれる生殖行為ではなく科学技術によって人間を生み出す研究は一時期古代でも行われていたが、倫理的な事情も絡んで医療行為用に自身の身体の複製を生成する、という段階までで技術の発展は留められていた。現代においてもその領域に踏み込んだ国は今のところは無い。表向きは、だが。

 だからティエナはこうして自身が人間の身体を得たことに関してはまるで心当たりが無いのだ。
 どんな副作用があるか、そもそもどんなトラブルを引き寄せるかも分からぬ正体不明の女、そんな自覚がティエナにはあるというのに、

「大体、数年近く短剣に話しかける怪しい男呼ばわりされる可能性に少なからず怯えながらウェバルテインを使ってきた俺だぞ? そこから今更女の子が出てきたところで、やった、すげぇ! 以外の感想なんか思い浮かぶか」
「人がどうしようどうしようって裸で悩んでいる時にも言いましたよね、それ」
「そしてその後に一騒動も起こったよな……」
「当然です。概念上の女としての自覚しかなかったわたしでも、あの場で裸を見られているという事が女として羞恥心を感じなければならなかったというのは理解していましたから」

 あまりにも突拍子もない事態であり、どんな事にも動じなかったアルセスの義父であるルガーですら頭を抱えた事態であった。その直前に、「これで娘をアルセスに取られなくて済む!」と喜んでいたのでティエナの対応はかなり冷たかったが。

「ま、今では自分の存在を自由に切り替えられたり、色々と『普通じゃ』出来ない事が出来たりと便利な身体なのでこれはこれでいいと思ってますけどね」
「代わりに、ウェバルテインからあんまり離れては行動できないけどな」
「離れすぎると強制的に魔剣に戻っちゃいますからね」

 あくまで本体はアルセスの持つ短剣の方なのだ。
 距離さえ的確に把握していればいいだけなのだが、突然魔剣に引き戻される感覚はあまり好きじゃないとティエナに聞かされてからはアルセスは自身の行動には気を使っているのである。
 などと角の席で周囲にさほど人がいないとはいえ、あまり不審に思われるような会話をするものではない、とアルセスは思考を切り替えた。
 目の前の料理は既に片付いて空の皿だけが残っており、腹としては六分目くらいで少々物足りなさは感じたが夕食であるし味は満足の行くものであったのでこれで構わないだろうと食事はこれくらいで切り上げることにした。

「さて……明日の列車の時間もあるし、早めに部屋に戻ろうか」
「あれー? 繋ぎにバーとかには行かなくてもいいんですかー? 物足りないって顔してますよ?」
「仕事もないし寝るだけだから腹はこのくらいでいいさ。酒も飲む気はないし」

 一仕事終えた後でなら軽く飲むのは構わないが、寝酒代わりに気楽に飲むほどアルセスは酒をあまり好まない。
 飲酒可能な年齢としては十五歳からというのが通例であり、アルセスも度々飲酒はしてきたが、やはり仲間内で飲むのが一番で、あまり外で飲むのは好まないのだ。
 からかうような視線を浮かべつつも、ティエナは当たり前の様にアルセスの腕を取って並んで歩く。
 アルセスの腕がすっぽりと彼女の豊かな胸に包まれるのを見て、カップルで来ていた男の方がうっかり目を向けてしまい彼女にフォークで手を刺されたり、一人で食事をしていた男性が舌打ちをしてみたりと知らぬ形で客を惑わせていたのだが、それはともかく。

「……はい、丁度頂きました」

 若いウェイターの男性がアルセスから受け取った硬貨と紙幣を数えて笑顔でそう返す。
 挨拶の後にアルセスがカウベルのついたドアを開けたところで、

「あ、お客さん」

 なぜかウェイターが二人を引きとめた。
 なんだろうかと振り返ると、

「最近はこの辺で不審者が出たって話も聞きます。ホテルは近場ですか?」
「ああ、ここからそう歩きはしないけど」
「ならよいのですが……地元の人間、旅行者、果ては巡回の兵士までと見境無く襲い掛かってるような奴ですので、予定が無いのなら寄り道をしない方がよろしいかと」
「そうか……ご忠告感謝するよ」

 いいえ、とんでもない、とウェイターが頭を下げるのを見送ってアルセスは扉を閉めた。
 夜の風は冷たくは無い。まだ人通りはあるし、多少気分が上向いたのならば二人で夜の散歩も良いかと思わせる夜空ではあったが、ああした話を聞かされてはそんな気分には到底なれない。

「面倒事に巻き込まれても厄介だ。さっさと帰ろうか」
「そうしましょう、わたしお風呂に入りたいです」

 見解の一致と共にうなずきあった二人が歩き出すと同時に、

「きゃああああああ!」
「切り裂き魔だー!」

 駅前のまばらな人影からそんな悲鳴が上がったのだった。

 
ということで、ちょっとのお休みを頂きましたが、
本日より新作「双宿双飛のワンダラー」の連載を開始します。

ええ、ここまで読めば分かると思いますが、このヒロイン好感度
マックスのくせにすげぇ面倒くさいです。ですが、そんな中に
見え隠れするご主人様大好きな犬気質をチラチラさせることで
こう、なんというか盛り上げていこうと考えております。

今作も糖度高めになるかと思いますが、皆様、応援
よろしくお願いいたします。
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