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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第38話 ロマンの神様は悪辣

 セルダンタより出ている市街から出るバスに乗ること一時間。
 鉱山街最寄のバス停で降りたアルセスとティエナが向かった先はアルデステンの管轄下にあるトーセスカ鉱山へと足を踏み入れていた。

「しかし、見張りの兵士のやる気のなさと来たら。正直アート無しでも忍び込めたんじゃないですか、これ」
「あのあくびしながらの態度には国民なら怒っていいレベルだったな……まあ、あんまりやる気が無くてもいいんだろうけど」

 許可を取らずに無断で。

「何が見つかるにしても運ぶのに困らないものだといいけどな」
「そもそも何か出てくるんでしょうかね。開かない開かないって言っても扉に見えるだけでただの壁ってこともありえますよ」
「崩壊期以前の遺跡って物凄く独特な外観とか質感してるし、その可能性もあるか」

 押し殺した声で会話をしながら灯りであるランプがぶら下げられ、暗いながらもしっかりと道として機能している洞窟の道――からは途中で逸れた放置してある古い穴の先へと進んで行く。

 トーセスカ鉱山。

 王都から自動車を使えば一時間という距離と、鉄鉱石の産出量が王国内でもトップクラスの鉱山という事もあり人の出入りは激しく、鉱員の人数も多い。
 今は休憩中という事もあり静まり返っているが、日が落ちるまでは人でごった返している鉱山の入り口の見張りなど形式上の仕事、という認識をしてもおかしくはないのだがだからと言って仕事に手を抜いていいかは別問題である。
 などと正論を並べ立てたところで、アウトローに属する二人がその事実を指摘する必要も正す必要もない。むしろあまり遺跡の方が重要視されていないのならばその方が好都合だ。

「総取りも可能とはいえ国の管轄下にある遺跡だと発掘物の所有に許可がいりますからねー。全く、危険を顧みずに手に入れたお宝にお上がイチイチ口出してくるとか面倒な法律もあったものです」
「いや、領地の中で見つかった物には基本的に管理者が口出してくるのは自然だろう。まして場合によってはその国の発足に関わった物だとか、関係者だとか……遺跡がらみってのは面倒事のほうが多いからな。法整備が整うのも早かったって聞いてる」
「そうしないと好き放題に地面を掘り返されかねませんでしたからね。数十年前のいわゆる『オーファクトドリーム』とか呼ばれたブームの時でしょう。金山で一山当てるとかゴールドラッシュじゃあるまいし、人間というのは愚かですね」

 ティエナが呆れたようにぼやくがこの件に関してはアルセスも強くは否定できない。
 ワンダラーが力を求めた時代。まだ人間社会の基盤が不安定だった時期には個の強さをオーファクトの質に求める事も珍しくは無かった。
 安定した社会情勢を築くために徐々に整い始めた国々ではあったが、埋もれた遺産――オーファクトも含めていわゆるトレジャーハント絡みの案件に関してはやや後手に回っていた過去がある。
 どこまでを国土とするか。その線引きが曖昧だった時期という事もあって当時は結構な額の大金によって利権関係を解決する事も少なくなかった。そうした他所の国の事例を見て、法整備に走った国があるほどに意外と厄介な案件でもあったのだ。
 それだけオーファクトとそれを使えるワンダラーの影響力は大きかったという事もある。

 そして現代。今では国がしっかりと管理する国土内においてはそもそも発掘自体に申請が必要であるし、国側も簡単に許可を出さない。
 調査済みの遺跡であればあまりうるさいことは言われないが、未探査の遺跡となると何が見つかるか分からないという点を考慮して、許可をもらう際に様々な条件がつけられることもある。場合によっては発掘物を丸ごと取り上げられる事もあるほどだ。
 無論、無償で取り上げるわけではなく法外な金額が非公式に支払われるのが大半なため、冒険者稼業で一発当てよう、などと考えている冒険者にとってはあっさりと大金が手に入るため文句は出ない。
 これがオーファクトの発見となると所有に伴う権利については揉める事になりかねないので、一方的に取り上げられるような事はない。万が一、ということもあるが発見者が偶々適性を持っていて発見したオーファクトを使って大暴れ、などという事態の可能性も無くはないからだ。
 遺跡を管理する側の対応としては慎重に立ち回り穏便に済ませるのが基本なのである。
 ただ少なくとも簡単に所有の許可が下りることは無い。オーファクトの性質、使用者の適性の範囲、与える社会的影響など、様々な側面から検討した結果、発見者の手に渡らない事も珍しくは無い。世に出回っている多くのオーファクトの大半は危険性がないと判断され、需要としてもそれほど高くないのが殆どなのである。

 そんな背景がある為、冒険者にとって美味しい遺跡かどうかの評価とは「面倒な物が見つからず、金に換えやすい物」が見込めるかどうかという部分が大きい。オーファクトの発見は場合によっては一財を築くに至るが、それ以上に厄介事も呼び込みかねないという認識が強いのだ。
 そして何より――馬鹿正直に申請しなくても不正の発覚がし難い、という点も無視出来ない。
 何故ならばオーファクトには一品物が多い。それがオーファクトであるかどうかは――それこそ慣れたワンダラーでなければ、その独特の機構には気づけないだろう。
 国に正式な許可をもらっての調査の場合、成果物の提出や持ち物の検査など非常に細かいチェックが行われるが、場合によっては誤魔化すことは難しくは無いのだ。だからこそ近年は調査の許可には慎重になっている国も増えている。

「さてさて、面倒な事はぜーんぶわたしの力で放り投げ、見つけたものは全部わたしのものという素敵探索の始まり始まり~」
「今しがた何も見つからないかもしれない、と言ったやつの台詞じゃあないな」

 なので、もっぱらラウルオークのメンバーは不法侵入が原則だった。
 問題の遺跡を前にして大胆な発言であるが、実際見所が既に無いのか人っ子一人いないのだから問題は無いが。
 現在も調査中、或いは未調査の区域が残る遺跡などには盗掘者対策として兵を派遣するケースもあるが、この鉱山の遺跡に関しては既に隅から隅まで調査済みであり目ぼしいものは持ち去られているので常時兵を置いて置くほどではないと国が判断する扱いなのだ。
 魔物が住み着くことがある為、せいぜい定期的に調査員を派遣する程度。それがこの遺跡の現状なのだが。

「それじゃ、アルセス早速中を調べてみましょうか。暗視のアートを使っていますから、わたしから離れちゃダメですよ?」
「言われなくてもちゃんと側に居るよ」
「ふふん、よろしいです。そもワンダラーとオーファクトとは一心同体と言っても過言ではない存在。わたしをぞんざいに扱わないアルセスの心意気は褒めてあげましょう」

 離れない、とは言ったがくっつく必要はあるのだろうか?
 アルセスとティエナの格好はまるでデートに向かうカップルの様に腕を組むという不謹慎極まりない格好であったが、周囲は明かりの届かぬ真っ暗闇の上、他者の目もないので前述のような指摘をされることはなかった。

「一応調査次第じゃ一日で帰れないかもしれない、とは親父に言ってきたが実際どれくらいの規模なんだろうな、この遺跡」

 アルセスはペタペタと周囲の壁を触りながらそのようなことを口にした。
 金属とも生物の皮とも違う不可思議な感触。にも関わらず並の鋼鉄や合金を遥かに上回る強度を持つ不可思議なデザインの壁。
 小部屋には床と一体化したテーブルの残骸が転がっており、椅子と思わしき形の何かの破片も見受けられた。今でこそ遺跡などと呼ばれているが、これもまた崩壊期以前には何らかの形で人が集まっていた建物の一つなのだろう。
 ティエナの説明によりオーファクトが生み出された時代はこのような物質が建築に使われるのが主流だったと聞いた時にはアルセスは遠い過去の時代の技術力の高さに目を見開いて驚いたものだ。
 こんな堅牢な建造物が建ち並ぶほどの技術を誇った時代でも滅び去るのは一瞬だったと考えると、アルセスは時代の隆盛とは本当に瞬く間に過ぎ去るものなのだと感じ入る。

「ロザリンドの話じゃ、丁度崩れた土や岩かなんかで埋まってる小部屋の近くって話だったな」
「目印としては随分とあやふやですよね」
「まあ、そもそもあちこち山が崩れたり何だりで埋まってて調査のしようがなかった遺跡らしいしな」
「うーん、確かに大分壊れかけていた上から山が覆いかぶさったって感じで埋まってますからね、この遺跡。もしも天井がそれなりに健在だったのならもうちょっと状態がよかったんでしょうけど」

 崩壊期の建造物の堅牢さはこの時代の要塞ですら容易く上回る。
 だが、それも形をしっかり維持していればこその話であり、崩壊期に起こった「何か」によって破壊されていてはその効果は期待できない。
 屋根が無ければ土砂に埋もれるし、いかに固い建材であってもヒビや隙間から腐食が始まり壊れていくもの。長い年月の果てにオーファクトですらその機能が失われることがあるのだ。いかに優れた技術と言えど年単位で不変の存在などは「そう」多くは生み出せない。
 ティエナの宿るウェバルテインが埒外の存在なのだ。その他の物にまで同じだけの耐久性を求めてはいけないのである。
 アルセスとティエナはそれらしき小部屋を一つ一つ調査しながら奥に進み、地下水が染み出して水溜りを作っている小部屋が該当するのではと判断し周囲を調べ始めた。

「あ、これですよ、アルセス。確かに外見は扉っぽく見えますね」
「ああ、他の壁とちょっと一部デザインが違うもんな」
「ま、真実を知るわたしが結論から言うと、これ扉じゃなくてシャッターですけどね」
「……そうなのか?」
「ええ、扉を隠すためのものであり、今でも使われている意味と一緒ですよ? うーん……一応この建物の動力系が生きていれば簡単に開いたかもしれませんけど、丁度土砂が制御用パネルのありそうな壁をぜーんぶ埋めてますからねー。きっと誰も調べようとはしなかったでしょうね、これ」

 当時の様子を「多少」は知るティエナにとってはこの程度のことはちょっと見ればすぐに判明した。
 アルセスがティエナの説明に驚いたのは、その外観がとてもシャッターには見えなかったからだ。
 まるで線が無造作に走ったかのような奇怪な紋様が丁度人が通れるくらいの長方形の間に収まっており、他の壁とは明らかに違うデザインなのだ。長方形の形から扉と考えるのは当然だろう。それが、扉の前段階と言われては当時の建築基準がいかに自身の常識の外であるかを思い知らされても無理は無い。

「ちょっと強引に開けてみたいんですけど、ちょーっとだけ力が足りないですねー? アルセスー、こういう時はどうすればいいんでしたっけ? わたし、久しぶりすぎて少々手順がー」

 後半の台詞はかなり棒読み気味のティエナ。
 アルセスは肩を竦めながらも返事をする。

「はいはい、分かりやすくすっとぼけなくていいから。ほら、こっちこい」
「きゃっ、アルセスってば大胆♪」
「小悪魔ぶってるけど、お前耳がちょっと赤いからな」
「あ、暗視でそこまでは見えないはずですけど!?」
「語るに落ちてんじゃん」

 そしてティエナが次の文句を言う前に彼女の口はアルセスの口でふさがれた。
 生命力の譲渡、そしてそれを体内で変換し、よりティエナに適したエネルギーとして再構築する儀式。
 ティエナいわくキスでなければダメだ、とは言うが効率の問題なので皮膚接触であればどんな手段でも十分なのだが、口内接触や他にも男女の関係ならではの手法の方を優先したがるのはアルセスもティエナも一緒であった。

 若い二人に野暮をいう物でもない。

 アルセスは割とストレートに、ティエナはもったいぶって理由を作るなどの違いはあれど、この二人、結局何かにつけて理由があればお互いを求めるのだ。
 やがて一分程度の時間が過ぎて二人の身体が離れると、ティエナはまるで照れている自分の顔を隠すようにシャッターの中央に触れ、本来ならば不可能なはずのシャッターを制御する機構に自身の力を飛ばし、壁に埋もれた制御パネルの機能を強引に揺り起こした。
 命じるのは開閉。シャッターの解除と同時に扉の開放をも同時に命令し、その為に必要な動力すら瞬時に生み出した。
 オーファクトを制御し扱うことこそ彼女の使命。それに比べればかつての時代の制御装置の遠隔操作などティエナにとっては何ら苦ではない。
 そしてアルセスにとっても負担は大きくはない。それこそ数秒の接触で十分に生命力は譲渡していたのだ。長々とキスをしていたのは単にお互い余韻に浸っていただけで、彼がティエナに渡した生命力はそれこそ全力疾走したときの体力の消耗にすら劣るのだ。
 ピッ、と静かなそれでいて耳慣れぬ音の後にシャッターの模様である線に光が走ったかと思うとシャッター全体がモザイク状になって消失し、その後ろ側にあった両開きの扉らしきものが音も無く開いた。

「念の為にここを通ったら元に戻しておきますからね、アルセス」
「ああ、誰が来るって事もないだろうが念の為にな」

 かくして、愛の力? で開いた扉は二人を未知の領域へと誘うのであった。
こんな方法で扉を開かせるとか
悪辣ですよね(しろめ

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