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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第37話 情報提供

 本人達の知らぬ所で結ばれた不戦協定だったが、その見届け人がアルセスとあっては破るわけにも行かずティエナもミーシャも大人しく距離を取ってそれぞれの服を選び始めた。
 お互いこの協定があるからこそ、その内容に触れない程度に相手を煽る事も少し考えたがどちらもすぐに考えを改めた。判断するのはアルセスであり、自分達の基準など問題にならない。
 アルセスがダメだと認めてしまえば、意見を求めているようで実は互いを落とすような意図の発言は全て協定違反の判定を下すだろうとすぐに二人は理解した。

 彼女にダダ甘なのは事実だが締めるところはきっちり締める。それがアルセスという男だから、と。

 そんな訳でようやく大人しく服選びを始めた二人を他所に、保護者である二人組は暢気に雑談などを交わしながら店の隅の方にある簡素な休憩所のような場所に移動した。

「しかし、こんなところで二人に会うとはな」
「我々もダンセイル一家同様にアルデステンに目をつけたからな。しばらく滞在が長引きそうなのと……お主も来ている事を知ったミーシャが、ならば服の数を増やさなければ、と言いだしてな……」

 頭を抱えるようにため息を吐くロザリンド。アルセスもギルドを通してミスティタビィとはこうして雑談したり時には同じターゲットを争って剣を交わしたりと中々に穏やかではない付き合いを繰り返しているが、同じギルドの所属として多少の仲間意識は持っていた。
 それだけに苦労の耐えないロザリンドには同情するアルセス。

「そういえばこの間は見なかったがもう一人の娘はどうした? いや、来てたら来てたでこの間の件があっさり片付かなかっただろうが」
「ああ、少々到着が遅れている。我らの『足』の調整に少々手間取っているようでな。資金繰りの問題もあったので、我々だけ一足先に王都に入ったというわけだよ」
「どこも似たような事情を抱えているな」
「ふ……金食い虫、整備の手間、要求される技術の難度の高さ、と問題だらけだが……それでも自由に空を往く為の手段と引き換えにと思えば安いものだろう?」
「違いない」

 ミスティタビィもまた飛行船を所有する数少ない一団である。ダンセイル一家よりも小規模な組織である為、大型の飛行船ではないがそれでもメンテナンスと改良には手間も人手もかかる。そんな理由から、ミーシャはロザリンドだけを連れて先に王都での活動拠点を確保する目的でアルデステンに入ったらしいのだが。

「……偶々泊まったホテルで例のモッチ・カネーを見かけてな。その傍若無人な振る舞いが頭に来たとかで予告状を突きつけ……後は知ってのとおりの顛末だ」
「……アイツらしいといえばらしいが……本当に理由はそれだけか?」
「それも理由の一つだろうがな。一番頭に来たのは『貧相な子どもがうろついているじゃないか』と小馬鹿にするように言ったモッチの態度だろうと私は踏んでいる」
「いや、まあ私怨で動くなとは言わないが……それでターゲットが被るってどんな偶然だよ」
「私もミーシャの妙な引きの強さにはほとほと驚くしかないのだよ……」
「だけどいい加減カッカして冷静になる前にすぐ動く悪癖はどうにかした方がいいんじゃないのか? いくらロザリンドがついててもいずれカバーできない問題になるかもしれないぞ」
「私も常々そうは思っているのだが、これがな……」

 ミーシャの普段の言動、行動、思考回路を知る二人は揃って肩を落とした。
 アルセス的にも極めて難度の高いミッションだと思わざるを得なかったからだ。彼に出来る事はせめて不幸が彼女らに襲い掛からないようにと祈るだけである。
 ふと、雑談に興じていて不思議に思ったアルセスは話題を変える意味でロザリンドに疑問を投げかけた。

「ロザリンドは買い物をしなくてよかったのか? 滞在が長引くならお前だって衣服の類は必要だろう?」
「生憎とこの無骨な身体に似合うような服はこの手の店には無いだろう? 私は私で必要な分は用意してあるさ」
「そういうもんかな……」

 確かに鍛えているというのが分かる程に締まった身体に女性にしては長身のロザリンドが、ミーシャのような可愛い系に走った趣味の服は間違いなく似合わないだろうとはアルセスも思うところではある。

(スタイリッシュ路線で攻めれば相応に似合いそうなんだけどな。男物に近いシャツとかパンツルックとかで)

 センスが無い、と自認するアルセスではあるが多少その女性に似合いそうな服のジャンルくらいは選べるのだ。彼が今脳内に浮かべたイメージをしっかり他の女性に伝えられれば、確かにロザリンドにも違和感の無い服装を選ぶ事は出来るだろう。
 とはいえ、それらが発揮されることは無かった。よくて彼らの間柄は友人知人という程度であるし、ロザリンドもわざわざ主の懸想相手にそのような厄介事にしかなりかねない事など話すはずも無かった。

「しかし、アルセスはさすがというか慣れているな」
「ん? 何がだ」
「いや……私などは今言ったとおり衣服を買うのに時間をかけるほど悩まないのでな。お嬢に付き合って買い物に来るとこの待ち時間をどう潰すかに悩むことが多い」
「……そこはその……経験の賜物というかな」

 ティエナもそこそこ買い物の時間は長いのだが、彼女なりの拘りというかある程度はアルセスの反応を窺うのだが、それを見て幾つかの商品を絞り込んだ後は一人で考えるから、と一度アルセスを遠ざけるのだ。
 別に買い物をするのを見られるのを嫌がってのことではない。アルセスが好みそうな服を彼にチョイスさせた上で、どれを買ったかを分からなくするためだ。理由は言うまでもない。次に突然着て見せて驚かせたいから、という拘りによるものだ。
 そんな訳でアルセスはこのように待つのには慣れているという次第だった。
 その事を説明すると、我が意を得たりとばかりにロザリンドは重々しく頷く。

「ティエルライーナらしいと言えばらしいのだろうが、それに文句一つ言わず付き合えるそなたも大した者だな。それだけの相性の良さを見せ付けられて……お嬢はいい加減諦めがつかないものか。そなた等と意味も無く争うのはいい加減不毛だと思うのだが」
「そう思うならミーシャを説得してくれよ。こっちとしてはもう断り続けるのも一苦労なんだが」

 何せ遂に三桁の大台だ。その熱意をもっと他の男に向けろと言いたいほどである。

「お嬢は言い出したら聞かぬからな……恋は盲目、という言葉を私はティエルライーナとお嬢を見てつくづく実感したものだが」
「ミーシャに関しては早々に改めさせないと『四代目』の誕生に支障が出るだろう」
「そんな事になったらお世話になった先代に申しわけが立たぬ……! アルセス、将来有望な男性が見つかったらそれとなく知らせてくれよ」
「……ああ、確約は出来ないが、な」

 それよりもミーシャの目を覚まさせない事には意味が無いだろうが、とアルセスは頭が痛かった。
 これ以上、この話題を続けるのも不毛と思ったのかロザリンドの方から話題を変えてきた。

「ところでアルセスよ。話は少々変わるが最近一部の冒険者の間で噂になっている話を知っているか?」
「いや、最近は忙しくてその手のたまり場なんかには顔を出していないんだ。何か面白い話でも聞けたのか?」
「ああ、既に国の調査も終わっている荒らされるだけ荒らされた遺跡の話なのだがな。どうも開かずの扉があったらしい、という話だ。何せ、そんな金のタネになりそうもない遺跡の事だからな。誰もご丁寧に調べようとはしていないらしい」
「理由は分かるが、それじゃ何で今更そんなのが話題になるんだ?」

 最近、噂で聞いたと言う事は、ロザリンドも予め調べたという訳ではないのだろう、とアルセスは訝しむ。
 そのアルセスの疑問も納得とばかりに頷くと、ロザリンドは話の続きを始めた。

「最近、その遺跡の周辺で大量に魔物が出て大掛かりな討伐隊が組まれたそうだ。戦闘は遺跡の内部にまで及んだらしくてな。それでその事情に明るくない冒険者の間で改めて話題になったという流れだそうだ」
「へぇ……ってことは、結構長いこと手つかずだってか」
「ああ、生憎と私達には調べる手立てが無いが――アルセス達は事情が違うだろう?」

 寡黙なロザリンドだが、少しだけ楽しげに口元に笑みを浮かべた。
 実直にして強くなる事にのみ真摯なロザリンドであるが、これで彼女も盗賊団の一味。こうしたロマンに対して胸を弾ませないわけがないのだ。

「興味があるのならば足を運んでみるといい。位置はこのメモに記してある」
「そいつはありがたい情報だが、何でまた急に?」
「何、先日ターゲットが被ったことに対する詫びのようなものだ。ギルドの流儀に則って勝負をつけたとはいえ、アルセスの狙いにこちらが横槍を入れたような状況であったことは変わらんからな」
「律儀だなあ。仕事の奪い合いなんてのも俺達の間じゃ織り込み済みだろう?」
「だが、それで義理を疎かにして良い訳でもあるまい。『梟の目』の肩書き、安いものではないからな」
「本当、ウチの組織って裏社会の組織か? ってくらい人材が豊富だよなあ……」

 ロザリンドなどはそれこそ宮仕えをしていてもおかしくない、とアルセスは苦笑する。
 ラークオウルの歴史はかなり古く、アルセスが抱く組織というイメージに従うならば長く続いている組織ほど色々と火種を抱えていてもおかしくないと考えているのだが、ラークオウルに限ってはそれがない。
 いや、火種になる前に潰される、とも言うべきか。自浄が出来る仕組みが確固として存在しており、かなり自由に活動できる代わりに、ギルドの利にならないか意に反すると判断されれば厳しい制裁が待っている。
 だからこそルガーのような傑物やロザリンドのような女傑も構成員としては珍しくは無いのだが、アルセスとしては傍目から見ればやる事は盗掘だったり果ては強盗だったりと紛れも無く犯罪であるため、違和感が付きまとったものだ。今では節度さえ守っていればこれもまた手段の一つと割り切っているが。

「聞けば扉のような形であるが取っ手もなければ鍵穴もない、ただ外見だけがそう見えるから名付けられたそうだ。私も詳しくは無いが、崩壊期から残った遺跡の中には手を触れずして開く扉というのもあったと聞く。アルセスとティエルライーナならばもしやと思った次第だ」
「遺跡……というか建物自体の機能が停止していると開かないタイプの扉か。その手のなら確かに開け方は分かるかもしれない。けど、扉って分かってるなら壊して入ってもよかったんじゃないか?」
「その方法は国元から却下されたらしい。一時はワンダラーを集めて力ずくでという話もあったようだが、その遺跡というのが半分以上が山に埋もれている遺跡でな。破壊活動が前提の探索は地形や周辺環境に与える影響の大きさを考慮して見送られたと聞く」
「地滑りや山崩れを警戒してか?」
「加えて、そもそもその遺跡は鉱山の採掘中に発見されたもののようだな。今もそちらの方ではまだまだ鉱脈が残っているとかで、近くには工夫たちの街もあるそうだ」

 それでは強引な手段での調査は望めない。
 そもそも崩壊期の遺跡の探索とはかなり当たり外れの大きいギャンブルという認識が人の世界での通例だ。多額の資金を投入し、大掛かりな調査隊を組んだもののこれといった発見は無い、というのも珍しくは無い。個人の調査であっても国の調査であってもそれは同様だ。中には先祖代々守ってきた遺跡が、ただの王族の墓であったという関係者が全員微妙な顔をしかねないケースすら存在するのである。

「そんな理由も重なってな。ミスティタビィの手には余る。もしも何か見つかればギルドの益にはなるからこうして話した次第だ。もっとも、獲物を探していたであろうお主達ならいずれ耳にしたかもしれないが」
「いや、正直王都は広すぎてそうそう都合よくターゲットが見つかるわけでも儲け話が聞けるわけでもない。こういう情報は歓迎だ。ありがとうな、ロザリンド」
「礼には及ばん。そもそもまだ『当たり』とは限らぬからな」
「それもそうだな。まあ……何か見つかれば情報料くらいには何か持って行く事にするよ」
「ふふ、アルセス。私を律儀と言ったがそなたも大概だな」

 その後、二人はとりとめのない雑談を始めたが、いよいよ話のネタも尽きてきたという頃になってようやく上機嫌のティエナとミーシャが戻ってくる。
 話を終えてから約一時間後の事であった。
今回はちょっとミスティタビィの掘り下げ。
よって砂糖はほぼゼロ!
ロザリンドさん、女傑ならではの苦労人です。
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