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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第二章 奔走する少年と少女

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第36話 遭遇

「ここもハズレだったか……まあ、そうそう見つかるわけもないが」
「アルセスはこういうめぐり合わせの運は無いですからねえ」
「うーん、そう言われると反論できないんだが一人で見て回った事は無いからつまり一緒にいるティエナも当然運が無いという事になるな」
「そういう事実には気づかなくて良いんです」

 しれっと言ってのけながらここが自分の定位置とばかりにアルセスの左腕に抱きつくティエナを連れてアルセスは少し古びた店構えの古物商を後にした。
 先日の訓練がてらに稼いだ素材の換金が終わり、そこそこに懐が暖まったので街の噂や仕事を探しつつこうした店に流れているであろうオーファクトを探しに来たのだが、先程の発言どおり今日も空振りだった。

「わざわざ古い方の商業区に足を伸ばしたのに無駄足でしたねえ」
「品自体は結構よさげな物は多かったがな。義姉さんが喜びそうな良質なジャンクがあった」
「確かにそうですね。骨董品の類も趣味で置く分には悪くない陶器などがありましたし。だからこそ、何だかよく分からないガラクタ化したオーファクトなんかには目をつけなかったのかもしれませんね」
「そういうのを探すのなら噂の四番街の方がいいかもしれないな。冒険者ご用達の店が並ぶ地域だっていうし」
「今度はそっちの方を見たほうがいいかもしれませんね」

 三番街と呼ばれるストリートはゼルダンタにおいてはよりディープな商業区と囁かれている。
 メインストリートの近くから分岐し、最新の流行を追う商店に最先端の機器類を扱う大型店が揃うのが二番街の商業区ならば、こちらの三番街は老舗の良く言えば専門的な、悪く言うとやや偏屈な店が揃うのだ。
 自然人の姿はまばらだが、大量生産品や流行を追うだけではない品が欲しいとなるとこうした店の並ぶ通りも知っておかなければならない。
 端的に言うならば通好みの店が並んでいるのである。
 そんな店が揃う通りでは、アルセスとティエナのような外見だけは普通な少年少女のカップルは色んな意味で目立つ。二人に向けられる好奇の視線は少なくは無かったが、店主は門をくぐれば客は客、という職人気質の者が多く気にも留めていない。彼らを気にするのは大半が客の方であった。
 最初こそ、物を知らない若造が知識人ぶってるのか? のようなやっかみも半分入ったような視線を向けられたが、ティエナの適切な分析、アルセスの目利きによる確かな鑑定ぶりに多くの店の客たちは「こいつ……出来るな……」のような評価に変わったという。

 もっともその評価も所構わずイチャつく二人によって嫉妬へと変換されていったが。
 趣味人は独り身が多いのである。

「まあ、気長にやるしかないですよ。そもそもが雲を掴むような話ですしね」
「それもそうだな。あー……そういえば、ティエナ。お前服が欲しいとか言ってなかったか」
「ええ、仮アジトの生活も落ち着きましたしそろそろ……っておやおや? アルセスってば~、もしかして収入も入ったのでプレゼントですか? そんなにわたしに可愛い服を貢ぎたいんですか~?」
「いや、久しぶりに試着室であれこれ迷うティエナを見て和みたいな、と」
「どういう意味ですかそれは!?」

 ティエナは日頃から常にアルセスを振り回すような言動をし、ともすれば高飛車とも思われるような行動を取るが分別は弁える。
 例えばアルセスの気紛れでプレゼントをする、と言えば、彼の収入具合、アルセスの懐にダメージを与えすぎず、かつアルセスに遠慮したと思わせないように最大限自分の好みを追及しつつ品を絞り込む、という中々に難度の高いミッションを全力で行う、という可愛げもあるのだ。

 アルセスからすれば気にせず好きなのを選べ、と毎度の様に言うのだが、ティエナにも理想とする恋人像的に譲れないものがあるらしい。
 彼女いわく、

『恋人の好意に甘える限度を設けない女は恋人を名乗ってはいけない』

 との事らしい。
 貢がせるだけのような女はティエナにとって、ああはなってはならない、という女の条件の一つに当てはまるようだ。
 結果として、一つのプレゼントを選ぶのに相当に頭を悩ませるのだが、アルセスにとってはその時間がまさに至福の一時であるようだ。つくづくかみ合ったコンビである。

「ふ、ふんだ。アルセスがそこまで言うのならば、そうですね、もうすぐ夏ですしそろそろ薄着の服の一着も欲しいところでしたから、お店に行くのも構いませんよ?」
「ああ、悪いな、付き合わせて」
「い、いえ、アルセスが謝るようなことはありません。も、もう! どうして普段ならわたしの意図を察するのに素直に受け取るんですかぁ!」
「毎度毎度同じパターンだとマンネリが生まれて愛情が下がる、という研究結果があるって聞いてな。日常に変化をもたらすのも重要だと思った次第だ」
「う、うう、それは暗にわたしにも素直になれと言っているような気が……」

 もうこの態度だけで大喜びしているのはバレバレだというのに、ティエナは可愛らしくしょげてしまう。

(正直、こんなティエナの顔を引き出せただけで俺としてはもう満足なんだけどな)

 噂は本当だったか、とアルセスは手応えを実感しながらティエナと共にメインストリートを進み、仮アジトであるハイドアウトも存在する二番街ストリートへと戻ってきた。
 目指すのは女性向けの衣服を扱う服飾店。世界的に支店を持っているようなブランドの支店ではなく、アルデステンに限定はされるが、国内ではそこそこ有名なデザイナーの構えた店へと二人は入る。

「おっ、見た感じもう夏用の服が売ってるんだな」
「男性用と違って衣服は季節を先取りが基本ですからね。女性は大変なんですよ、アルセス?」
「それはまあリーンと義姉さんを見てれば分かるな」

 裏稼業の人間がファッションを気にするのもどうか、という声もありそうだが冒険者ですらオフの時の衣服には相応に気を使う。一昔前のように着古した服で街をウロウロしようものなら不審な目を向けられてしまうのもやむなしだ。この辺は一般人の生活水準が大きく上がったことと、それに伴い品質の良い衣服が量産されるようになり、外見を気にする余裕が世界的に生まれた事にも起因するだろう。
 逆を言えば時と場合をきちんと読んで外見を意識しなければ、冒険者稼業も上手く行かないという難儀な要素が生まれたとも言えるが。
 いくら補給のためとはいえ無骨な鎧に大型の武器を担いで街を闊歩しようものなら憲兵に声をかけられ武装解除してから街を歩け、と注意を受ける世の中である。
 この点が、携帯用の武装として拳銃が普及した理由でもあるだろう。街中でも油断は出来ない、しかし昔の様に大袈裟な武装で目立つのは避けなければならない。例え街の外で戦ってきた帰りだとしても例外ではない。武装は構わないが、一般人が不安に思うようなあからさまな格好は避けろという風潮が生まれた背景にはそのような要素もあるのだ。

「さてさて、ではまずはこの辺りから攻めましょうか~。どんなのがいいです? アルセス」
「夏らしく露出は大目が良いが、そこら辺の男連中の視線がティエナに集まるのはそれはそれで嫌なので程々に、なおかつティエナの魅力が際立つような感じで」
「真面目な顔で物凄い無茶ぶりをしますねアルセス!?」

 安価な量産品ばかりではないが、平均的に見ると上流階級ほどではないにしろこの店はそこそこのグレードの高さの店である。デザインはそれなりに豊富だが、アルセスの注文は殆どオーダーメイド級ではないだろうかと、ティエナは割と本気で驚いた。

「冗談だ。いや、半分は本気だけど。主にエロすぎないのにしようなってところは」
「……まあ、わたしもあまり他人に肌を見せ付けるのは好みませんが。ですけど、地味すぎるのもダメということでしょう、それは?」
「うーん、俺はファッションセンスが皆無だからなあ。いや、俺はいいんだけど、ティエナが『外見は悪くないのに服がイマイチよね~』みたいに評価されたらそれはそれでこう腹に据えかねるというか」
「ふ、ふふ、うふふふ、アルセスってばそんな自分の武器を自慢したい、みたいなそんなかわいい事を、もう! アルセスってばもう!」

 ティエナ的にアルセスの今の発言は大層ツボに入ったらしく、満面の笑みを浮かべながらクネクネと全身で喜びを表現していた。たまたま二人の会話が耳に入った二十代後半くらいの女性が疲れたようにため息を吐いたが、二人はそれに気づかない。
 行く先々で店の客のテンションを下げる二人であった。

「ではでは、相応に着飾らないといけませんね……あっ」
「あっ、っとゴメンゴメン、そっちどうぞ……って」

 たまたま他の客と取ろうとした服が被ったのだろう。ティエナはもう一人同じハンガーを掴んだ女性の姿を見て――表情を変えた。

「……何でこんなところにいるんですか、小娘」
「何でどこにいるのかイチイチアンタに断らないといけないのよ、アバズレ」

 ティエナにとって不倶戴天の敵であるミーシャであった。
 チャームポイントであるいつものサイドポニーテールはそのままだが、怪盗の時ほど派手な服装ではないにしろ外見相応にフリルで統一した服で着飾った姿はそれなりに注目を集めそうな印象だった。
 少々可愛さを前面に押し出しすぎている感はあるが、年齢よりやや下に見られがちなミーシャの容姿にはむしろ下手に気取った服よりも彼女によく似合っている。
 そして、何故か最初はお互いに譲ろうとしていた服のかかったハンガーを両方とも手放さない。

「……どうぞ、と先程おっしゃいませんでしたか? 自分の口で言った事くらいは守ったらどうなんです?」
「アンタが相手じゃ振る舞う礼儀も遠慮もいらないっての。そっちこそ離したらどうなのよ」
「サマーカーディガンとはいえ、お子様の身体には少々大きすぎませんか?」
「サマーカーディガンとはいえ、無駄に肉がついたその身体じゃちょっとキツいんじゃないの?」

 まさに一触即発。一歩も譲らぬ二人の視線がバチバチと火花を交わしてぶつかり合うイメージがアルセスの目には見え始めた。
 騒動を起こして出禁になっても困る。さっさと間に入って仲裁するか――とアルセスが動いた時、他にも同じ意図で行動を起こした者がいた。

「そこまでだミーシャ。戦場でならばいざ知らず、かような場でいらぬ騒動を招くような癇癪を起こすのは認められんぞ」
「はいはいティエナ。気持ちは分かるが落ち着こうな。ティエナは時と場合を選べる大人の女だもんな?」

 ミーシャのお目付け役であるロザリンドが早々に主を諌めたので、アルセスもまたティエナに矛を収めるように動いた。両者の間に立って仲裁することを考えたら、ティエナだけを宥める方が数倍楽であったからだ。

「ふぬぬ……」
「ぐぬぬ……」

 ミーシャは有無を言わせぬロザリンドの迫力に怯み、ティエナはアルセスに嫌われたくない一心で怒りを堪えていた。しばしの逡巡の後、二人はハンガーから渋々手を離すことで事態は落ち着きを見せ、ようやく保護者代わりの二人が挨拶を交わせた。

「悪いな、ロザリンド。相変わらず顔を合わせれば喧嘩腰で」
「それはこちらこそだアルセス。お嬢の空気の読めなさには私も少々手を焼いている。お前のように伴侶の機嫌を取るくらいならば、まだやりがいもあるのだがな」
「ちょっと、ロザリンド! まだティエルライーナがアルセスの伴侶になるとは決まって……むごごご」

 これ以上話がこじれると面倒と感じたのかロザリンドはスマートにミーシャの口を塞いだ。ティエナは口に出さずにミーシャにザマアミロとばかりに視線を送って煽る。

「しかし、お互いの相方がこれじゃ買い物にならないな。俺達が出直そうか?」
「何、一度言い含めたのならば同じ愚は犯すまい? 何せ二人ともアルセスに嫌われるのは怖れるだろうだからな。そなたが『争うのならば相応のペナルティを課す』とでも言ってくれれば買い物自体はスムーズに終わるだろう?」
「ロザリンドも言うねえ……まあ、俺も二度手間になるのは避けたいしな。よし、二人とも聞いたな? 買い物は続行するが喧嘩厳禁、煽り厳禁。破った方にはそれぞれが一番手痛いと感じる罰を俺が直々に下す。それでいいな?」

 アルセスはケジメに関わることでは嘘はつかない。真剣さを帯びた声で宣言され、恋する乙女二人は神妙な面持ちで頷いたのだった。
 
争いは同じレベルの者同士でしか以下略
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