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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第34話 例えその先が続かなくても

 結局、残っていた情報ではそれ以上の事は分からないと判断したアルセスは、ティエナとレイリアと共に判明した部分だけでも、と簡易なレポートにまとめた後でルガーにオーファクトを提出した。
 内容を見てルガーも渋い顔をしていたが、手掛かりが全くないわけじゃない事が分かっただけでもいいだろう、と慰めの言葉をアルセスにかけていた。情報としての価値はそこまで高くは無いが類似の品が見つかった場合の調査法の例が出来たのは大きいだろう、とギルドへの報告も滞りなく済むようだ。
 夕食まで時間があるので何処へ行くという事も無くアルセスは静かに部屋に戻った。ティエナも無言のままついてきている。

 思いがけず判明しかけた事実にアルセスの思考はそれで埋め尽くされた。

 あの引き出せた情報の内容が偽りであったとは思えない。けれども、真実を全て語っているとも限らない。
 だが、とアルセスはある一つの思考を捨てられない。

 ウェバルテインは決して偶然生み出された稀有なオーファクトという訳ではないのでは?

 何らかの意図を持って製作された「意思を持つオーファクト」の原形、或いは完成系。
 ティエナの存在もまたウェバルテインに大きく依存するものであり、彼女が身体を得たことが決して偶発的な事ではないのだとしたら――

「ティエナ」
「何ですか?」

 ベッドに腰掛けたまま静かに思考していたアルセスを茶化す事も騒いで誤魔化すような事もせず、彼の心情を慮って側に控えていたティエナは、アルセスの小さな呼びかけに即座に答えた。
 アルセスは何も言わずに彼女の手を取った。ティエナはそんなアルセスを真っ直ぐに見つめるだけだ。普段の高慢な態度は取らず、ふざけたような言動も一切口にしない。

「……鼓動もある、呼吸もしている、こうして暖かい熱がある。不思議なくらい人間をやってるよな、ティエナは」
「そうですねえ。自分でもどうしてここまで、と思うくらい人間というものを再現していますよね」

 その所為で最初の頃はリーンやレイリアに色々と手ほどきを受けなければならなかった程なのだが、そんな懐かしい記憶を振り返りたいわけではないようだと、ティエナはただ主の言葉を待つ。

「……うん、やっぱりダメだな。どんな理由があろうと、どんな理屈であろうと、俺は――ティエナをどうしてもウェバルテインに縛りつけたままにしたくない」

 真の意味でのティエナの解放を目指す。
 アルセスはさほど不自由をしていない、というよりも誰よりも自由に生きているティエナにそう言った。それは言葉どおりの目標であり――ウェバルテインに異常が起きたらティエナがいなくなるのではないか、という恐怖から逃れるための悲願でもあった。
 どんな機械であっても壊れることはありうる。道具であれ、命であれ、この世のありとあらゆる物には終わりが存在する。そこから逃れる術など存在しない。そう知っていてもアルセスは、せめてその時が来るのは真っ当な終わり方であって欲しい、とそんな身勝手な願いを抱いた。

 自分の知らぬ所で、自分の知らぬ形で、自分の無知のせいで――ティエナが望まぬ終わりを迎えるようなことなどあってほしくはない、と。
 その為には、せめてティエナが何にも依らずに存在出来る事が不可欠だった。ウェバルテインから解放されることで、その時が縮まるのかもしれないと思っても――自分亡き後、何処の誰とも知らぬ他人がウェバルテインをひいてはティエナを身勝手に使うのかと思うと我慢がならなかった。

「やっぱり俺は探し続けるよ。ウェバルテインの真の使い方を。ティエナが存在する理由を。そして――俺達が幸福であり続けるためのたった一つしかない目指すべき道を」

 驕りだと謗られようともそれが出来るのは自分しかいないとアルセスは自負している。
 ティエナと出会い、ティエナに身体を与え、ティエナと共に過ごしたのは他ならぬ自分だけだ。
 その行く末の果てを決めるのは――自分達二人の手でやるべきだと。目指す先は霧に包まれたように不明瞭。僅かに触れた真実の一端はアルセスにそんな決意を改めて抱かせた。
 真っ直ぐにティエナを見つめてそう宣言したアルセスを見て、ティエナは呆れたようにため息をついた。

「はぁ……全くアルセスときたらどうしてそう自分から茨の道を歩こうとするんでしょうかねえー。そういう趣味は無いと思ってましたけど、もしかしてやっぱり隠れマゾだったりするんですか?」
「生憎そんな趣味は微塵も無いな。ティエナはそうでもないみたいだけど」
「だ、誰が偶には強気攻めも悪くないなーと思ってるなんて……ん、んっ! 今の発言は単なる誤爆(エラー)です。決してわたしの隠れざる本心だとかそのようなことではないで誤解しないで下さいね」

 数々の経験から決して今の言葉は全部が全部間違いではないのだろうがアルセスは言及を避けた。
 言葉とは裏腹に真っ直ぐにこちらに視線を返せずに、左右に視線を躍らせて照れるティエナが可愛かったというのが大きいのだが。

「アルセスには言いましたね。わたしの記憶領域にあるのは知識やわたしの起動後の記録のみで、ウェバルテインの製作経緯を始めとした情報は一切残っていないと」
「ああ、聞いた。閲覧できない、とかじゃなくて一切存在しないって」
「ええ、そうです。わたしも最初は自分のデータに条件付きのアクセス制限でもかかっているのかと、全領域をくまなく検索はしたんですけどね」

 結果は先程言ったとおりという事だ。
 ティエナは自身が「特別」な存在である事は最初から認識していたが、それがどんな理由に帰結するのかまでは承知していなかった。
 他のオーファクトと比べて圧倒的な性能と特異性。
 現状、類似の性能を持つオーファクトが存在しない唯一無二であること。
 そういう事情があればこそ、ティエナも自身を高貴かつ特別な存在であることを主張し信じて疑わなかったが、それがとてつもなく脆いものである事も自覚はしていた。

「けれど、そんなわたしを揺るがせない『ティエルライーナ』という存在であったからこそわたし自身を誇らせる存在があります。何だか分かりますか?」
「……ティエナ、その質問は意地悪すぎるだろう」

 アルセスは困ったように言葉を詰まらせたというのに、ティエナはむしろ上機嫌になって喜び勢い余ってアルセスに飛び掛った。アルセスが油断をしていればそのままベッドに押し倒されかねない姿勢だ。しっかりと受け止めたアルセスはティエナを膝に乗せるような形で抱き寄せる。

「ええ、ええ、そうです、その通りです! アルセスは分かっているからこそそれを口にするのを躊躇う。そうですよね?」
「逆にこれで間違ってたら俺もお前も恥ずかしい事になりそうなんだが……」
「ならばお答え願いましょうか? 採点して差し上げますよー」
「ふう、全くこの言わせたがりめ……俺がティエナの主人(マスター)であり常に寄り添う恋人であること……だろ」

 あっさりと言ったように聞こえるが、さしものアルセスもこの台詞を真面目に言えるほど達観してはいなかった。言うだけ言って恥ずかしさ余って向かい合っていたティエナから目を逸らす。もっとも、そんな少年の態度はますますティエナを喜ばせただけのようで。

「ふふ、うふふ、ふふふふ……まーったく高貴なるわたしという存在は罪深いですね……! 一人の少年をここまで虜にしてここまで言わせてしまったのですから。もっともそれくらいの心意気があればこそ、わたしは姫として降臨しているという事実に間違いはないのですから否定はしませんが!」
「最近類を見ない程の嬉しさだなぁ、ティエナ」
「う、嬉しいわけじゃないですよ! あ、凄い、アルセスの言葉が胸に響いてくる、なんてトキメキを感じてるわけでもないですよ! これは意思あるオーファクトとしてご主人様(マスター)からの敬愛を喜ぶという人間の生理的欲求と通じる反射的な反応であってですね!」
「それは分かったからあんまり腕の中で動くなよ」

 ティエナの胸部についている凶悪な部分が自分の腕の中でぐにぐにと形を変えて暴れまわるので、アルセスは精神を自制するので一苦労だった。ティエナは自身の身体が一般的な女性と比べて非常に恵まれているという自覚があるにも関わらず、アルセスに対してはこうして無防備なのだ。
 だが、そんなアルセスに対してティエナは突然静かになったかと思うと、少しだけ距離を置いた。
 その位置はアルセスの顔がしっかりと見える位置だ。顔はすっかり真っ赤に染まっているが、それでも告げるべき言葉を真剣に伝えようと、意思の強さは瞳にしっかりと浮かび上がっていた。

「……わたしの存在は確かにウェバルテインに未だ縛られているでしょう。そしてこの手の意思あるオーファクトが――一つではない可能性も今日発覚しました。ま、まあ、わたしほど高性能で、女としての魅力も兼ね備え、なおかつご主人様(マスター)への奉仕精神に溢れているオーファクトとは限りませんが!」
「うーん、このブレない自画自賛。なまじどれも間違ってないだけに否定しにくい」

 だが、アルセスはそう口にして――気づいた。
 僅かにティエナの身体が震えている。まるで何かに怯えるかのように。

「あの情報からわたしも――かつての人間は必要に迫られて意思あるオーファクトを生み出そうとしたのかもしれません。わたしのような存在無くしてはとても制御できないような強力で、規格外のオーファクトを」
「……それは俺も文面や単語から感じた。あれは……きっと過去の計画書の類であった可能性は高いと」
「アルセスが不安になるのも分かります。わたしだって自身の存在が不確かなものであることを今日改めて自覚しました。だから、わたしもアルセスと一緒にわたしがわたしでいられる方法をいっしょに探します――だから」

 見上げるティエナの表情は不安という一色に染め上げられていた。
 一体、何が彼女をここまで追い詰めた? アルセスは自分の言動に何か問題があったのか、焦りを感じながらもティエナの言葉を待ち――

「例えわたしよりも優れたオーファクトがあったとしても――わたしを捨てないで」

 まさか、という思いがアルセスにはあった。
 だが、この不安を考えすぎだ、と笑い飛ばすには無理があるとアルセスも理解していた。
 引き出せた情報、あれは紛れも無く何らかの一つのオーファクトの完成を目指そうとしていた。
 その過程で作り出されたのがウェバルテインなのか、それともこれこそがプロトタイプなのか。
 もしも後者だとしたら存在する可能性があるだろう――ウェバルテインよりも優れたオーファクトが。

 その結論に辿り着いてなお、アルセスはそれを一蹴した。

「馬鹿言え。それこそティエナの考えすぎだ。俺の持ってるオーファクトは世界で唯一で最高のオーファクトなんだよ。これ以上、俺に相応しいオーファクトなんて存在するものか」

 それは性能云々の話ではない。
 自分がその手に取り、その力を振るうのは――後にも先にもウェバルテインだけだと。
 あったとしても彼女の手による派生作だけだと。ティエナが道具(オーファクト)であるが故に、どうしても浮かべてしまう不安を、アルセスは涙と一緒に拭い去るようにそう断言した。
 気がつけば、ティエナの瞳は涙で潤んでいた。

(……ああ、俺は馬鹿だ。どうして気づいてやれない)

 ティエナの高慢な言動が全てが全て本心でないことは誰もが知っているのに。
 どうしてその裏に隠された――自身の存在意義、理由の不透明さからくる不安を隠そうとする行動に、何時だってアルセスは後になってから気づかされた。
 彼女が時折浮かべてしまような不安は未来永劫ありえないというのに、それをどうしても思い浮かばせてしまう自分に腹が立つ。

「だから、探そう。あの情報は悪いことばかりじゃない。少なくとも手がかりにはなるんだ。かつての世界で人はティエナのようなオーファクトを求めた。その先に何があったのか、或いはその先にティエナがいたのか。分からないことだらけだが、それでも――俺たちは伸ばすべき手の先を見つけた」
「それは……そうですけど」
「その先にウェバルテインを、ティエナを手放す未来なんて選ばない。俺は『正しい選択』じゃなくて『俺にとっての最高』を選ぶ」

 途方も無く厳しいだろう。
 途轍もなく欲張りであろう。
 だからこそアルセスにとっては――挑み甲斐がある。

 何より、惚れた女の為の苦労も苦難も――男にとっては原動力に過ぎない。どんな苦難であっても最後には笑い飛ばせるくらいに豪快に乗り越えて見せよう。

「ティエナを手放さないために、俺は改めて誓うよ。見つけてみせる。例えその先に――俺達の望む希望が無くても、俺達が望む未来を作り出すと」

 道の果てに答えが無いならば、その場で答えを作り出して見せよう、と。
 その言葉はありとあらゆる奇跡を起こすオーファクトを生み出した人ならではの、無謀で無茶で――

「……ふん、ならせいぜい手伝ってあげますよ。わたし達の未来ですから」

 とても希望に満ちた――ティエナにとっての救いの言葉なのであった。

この後滅茶苦茶(以下略

とりあえず一章が終わるまでは毎日更新だー。

何故こんな長さになったし(絶望

というわけで、一日のお休みの後に二章へと
入ります。

※ 明日の更新は休みます。
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