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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第33話 光に手を伸ばして

 カタカタと小気味良い音で入力端末のキーを叩いて解析を進めるレイリアと、そのフォローをするティエナの二人であったが、その作業の結果は芳しくなかった。
 解析結果を出力している画面には意味の分からない文字の羅列が出ているか、ところどころノイズが走ったようにかき消されていたりする情報で埋め尽くされているのである。
 以前アルセスが見せて貰った画面は数字と文字が組み合わさった意味は分からなくも何かしらのルールに基づいた情報であったり、或いは自分でも読める文章のような情報であったりと形にはなっていた。それと比べて目の前の画面は何ら意味の分からないモノであり、アルセスは難しい顔をしながらこう言った。

「うーん、やっぱり加工された段階でダメになってたのか? それとも俺に分からないだけでこれにもちゃんと意味はあるのか?」
「単純な情報記録媒体の一つだったようですね、これは。文字や音声などといった情報をこうした媒体に記録として残すのはかつての時代では一般的だったんですが、その分扱いがデリケートなものでして」
「楕円形に加工されたときに切り離された部分が見つからないと無理、ってことかな?」

 ティエナの返答にレイリアはそんな疑問を投げかけたが、ティエナは残念そうに首を振る。

「残念ながら千切れたカセットテープが元には戻らないように、この手の媒体は一度保存した情報が失われると復元するのは極めて難しいといえます。石版のようなものとはちょっと違うのですよ。一つの形として残っていればこそ、大量の情報を保存できるのであって、一部分がかけてしまうと全てがダメになる、というリスクもあって当時は保管や状態には注意を払うようにしていたと思います」

 相当デリケートな道具であるらしい。
 外部からの衝撃などでも危うい、とティエナが補足の説明を行うとそれだけでは扱いに困りそうだという印象を受けた。

「残った部分だけは読める、みたいな便利な道具ではないって事か」
「そういう事ですね。もっともこれ一つでそうですね……一般的な書類の形式の紙で数千枚相当の情報が保存できる、と言えばそんなリスクがあることを踏まえても当たり前のように普及した理由が分かるでしょうか」

 この小さな板きれにそれ程の量の情報を? とアルセスとレイリアが目を見開いた驚いた。
 だが、即座に次の疑問にぶち当たった。

「なあ、ティエナ。それは凄いことだと思うんだが、仮にこの鏡からそれだけの情報を引き出せたとして――精査するのにどれだけの時間がかかるんだよ」
「あ、少々例えが悪かったですね。わたしが言ったのはあくまで総情報量の意味で言いましたが、情報の『質』によってその量は変化しますよ」
「情報の……質?」

 イメージの掴めないアルセスはピンと来ないようだったが、レイリアは何か思い当たる事があるのか何かに気づいたように小さく声を上げると、ティエナに質問を返した。

「もしかして、単純な文字の情報より、音だったり、絵だったりすると情報としての容量……みたいなものが大きい? とかかしら」
「レイリアは流石ですね。そこらの平凡な人間より余程使える頭と想像力、このわたしも認めるほどです。ええ、ご推察の通りです。複雑な情報ほど記録するのに枚数を必要とする、とイメージするとわかりやすいでしょう、アルセス?」
「ご高説痛み入るよ。だが、肝心のコイツはどんな情報が入っていたかも分からないくらいぶっ壊れてるみたいだけどな」

 そこでぐっ、と詰まるティエナ。アルセスとしてもどんな情報かを調べるのに大量の時間が必要となるかどうかは分からない、という点は別に良いのだ。仮にそうだとしても気が重くはなるが、益となる可能性は僅かにあるのだから。
 しかし、自信満々にティエナが有用性を語ったこの記録媒体、現状はただの文字の羅列を生み出すだけの鏡である。そして現状それだけの大量の情報を管理するようなことは無いので再利用が出来たとしても少なくとも一家の中では使い道が無い。
 管理する情報が豊富なラークオウル本部では喜ばれるかもしれないが……それはそれ。このままではガラクタを献上する羽目になり、ミーシャに爆笑されるかもしれないという未来は変わらないのだ。
 その事実からは目を逸らさなかったティエナは、しばし思案するように頭をゆらゆらと動かしながら意を決したように目を開いた。

「仕方ありません。少々強引な手段ですが、このままではどんな弁明をしてもあの小娘が調子に乗る未来しか見えないので、奥の手を使いましょう」
「どうする気だ?」
「わたしがこの記録媒体に偽の情報を流し込む事でとりあえず記録されている情報を復元します。そうですね、例えば一部が欠けている石像があるとしますよね」

 ティエナは一端機器に作用するアートを止めて、アルセスとレイリアの前に小さなエネルギー体の模型を作り出す。
 棒立ちになっている青年の石像をイメージさせる物体だ。何処と無くアルセスに似ているが、野暮な事を言うと話が進まないのでアルセスもレイリアもその点を指摘するのは避けた。実に賢明な二人である。

「こうしてみれば男性の石像だというのは分かりますよね。しかし、首を取り、腕を取り、体の一部を欠けさせる、などして少し全体像を崩してみますと、どれくらいのことが分からなくなりますか?」
「うーん、体型に目立った特徴がないから性別の判別は難しいな」
「性別もそうだけど、具体的に人ということは分かるけど『どんな人か』っていう肝心な部分は全く伝わらないよね」
「ええ、まさしく今確認した情報の状態がそれです。もっと言うと、パーツが欠けている上でさらにこう……」

 ティエナが指でピン、と欠けた石像のイメージを弾くと簡単にバラバラになった。
 様々な「パーツ」と化してしまったそれは、単品で見ても何が何やら全く分からない状態である。

「このように一目見ても『なんじゃこりゃ?』って言いたくなるようなのが今わたし達が目の当たりにしたものの正体なわけです」
「つまりティエナが足りないパーツを擬似的に補う事で、情報の方にも『お前はこういう情報なんだ』って認識させる……って事か?」
「その通りです。今のこれは自分が情報記録媒体であったことすら認識してない状態なのですよ。そこをわたしがちょちょっと偽装した情報を混ぜてやる事で歪ながらも全体像を取り戻せば……」
「部分部分で読み取れる情報が出てくるかもしれない、ってことよねティエルちゃん」

 鷹揚とも高慢とも取れるティエナのゆっくりとした首肯にアルセスは苦笑したが、ともかく挑戦する価値はあるようだと納得した。

「どうせこのままじゃ無駄骨確定だ。ティエナ、その方法でやってみよう。それで完全に壊れてもどうせ誰も文句言わないし」
「ええ、わたしもそのつもりで提案しました。正直、物凄く強引な方法なんで情報の保全に関しては保障できないんですよ。わたしが力を解除した途端にダメになってしまう可能性もあるので」
「まあ、それはさっきのティエルちゃんのこの鏡自体が安全面に関してはリスクが大きいっていう説明を聞いた時点で分かってたから……それはいいんじゃないかな」

 三人が同時にその通りだと頷くと、レイリアは再び調査用の機器に向かい合い、アルセスは出力用の画面に集中し、ティエナは先程とは別のアートを展開する。
 彼女の中で情報と呼ばれていた何かが徐々に形を為していく。
 それは無数に細かく砕かれたガラスの破片のようなものだ。四角い枠に嵌まっていた単なる四角いガラス。砕けた破片のそれは形を見てもどれがどの位置にあったかを推測するなど不可能に近い。
 ティエナの中で破片は踊る。
 導かれるように破片は集い、隣り合うはずの破片同士をティエナが生み出した偽の情報の破片が補い合い、生み出されるは白い情報の破片と黒い偽りの破片が織り成す一つの――パズル。
 秒の世界で行われる情報の再構築は常人には理解する事すら不可能な世界。人が見えるのは、それらが生み出した情報という形になってから。ティエナの導きによって、宙ぶらりんであった記録媒体の中に残された情報は僅かに形を取り戻して行く。

「おっ、これなら読める、読めるぞ!」
「ええ、ついでに文字情報の場合は今の言語に変換しておきましたから。わたしのサービス精神に感謝してくださいね?」
「……えーっと、再生……オーファクト……環境……適応……読めるは読めるけど、歯抜けだらけで意味が分からないのは変わんないなあ」
「アルセス、夢中になってないで人の話をちゃんと聞いてください!」
「分かった! 分かったからアートに集中しろよ! ティエナが気を乱すだけで何かすぐに出力画面にノイズが出る!」

 何とかティエナを宥めつつアルセスは浮かび上がっては次々と上に流れて行く文字群を目で追うが、どれもこれも単語単位でしか読み取れず、加えて前後の繋がりを推測するのも難しいレベルでぶつ切りであった。
 時折、白黒の写真のようなデータも浮かび上がってきたのだが残念ながらこれもぼやけていて何が映っているのかすら判明しない状態の悪いもので、やはり有用な情報とは言い難い。

「うーん……俺にはさっぱり分からん。過去のオーファクトに記録されてるって事はある意味貴重っちゃ貴重なんだろうが……」
「行き詰った小説家のメモ書きみたいな内容ですからねー。希少性という点でも歴史的価値という点でもどっちも皆無ですね……はぁ……苦労したのにこの有様とは」
「二人ともそこまで嘆くことは無いんじゃないかなあ」

 どういう事? と言わんばかりの顔で二人が同時にレイリアの方に向き直る。
 レイリアは相変わらずののほほんとした笑顔で。

「ティエナちゃんが言うようにこれが写真と文字を組み合わせた記録だと仮定したら――これって過去の何らかの記録なわけだよね?」
「断言するのは少々難しいですが……わたしの記憶にある時代でも既に写真と文章を組み合わせた記録というのは存在しましたね。例えば、研究開発の日誌であったりとか、オーファクトの開発計画の詳細だと……か……」

 そこまで口にしてティエナも一つの可能性に思い当たる。
 アルセスもまた同様だ。
 レイリアも二人が気づいた事を察知しにこりといい笑顔を浮かべた。

「合ってるかどうかは別にして、そういう取っ掛かりを持ってこの歯抜けの文章をもう一度確認してみたら、違う発見が無いかな?」
「……無くはないですね。もしもオーファクトの開発プロジェクトの計画書だったりしたら……」
「当時のオーファクト開発の主眼がどこにあったとか……ちょっとした参考にはなるのか?」
「そういうことー。ということで二人とも、もう一回最初から視点を変えて見て見ましょうー」

 ちょっとだけ興味が湧いて嬉しそうなレイリアに対し、アルセスとティエナはやや疲れた顔だ。
 二人は無言のまま表情にこう浮かべている。

 え? これもっかい見直すの? と。

 しかし、こうして動き出したレイリアは止まらない。覚悟を決めてアルセスは出力画面に再び向き直り、ティエナもアートを展開しつつ出来る限り精度の高い情報になるようにと偽造情報の質を何とか上げてみる。その為のエネルギーと称して、アルセスに背中からくっつきつつ生命力を補充していたが。お陰でアルセスの疲労は倍増したわけだが、そこで弱音を吐く男ではなかった。
 そうして、二順目の解析が半ばまで来た時だろうか。

「……ん? ここも少し情報が増えてるな……!? 義姉さん、流すのストップ! ちょっとここをじっくり読ませてくれ!」
「ど、どうかしたの、アルセス君!?」
「……適性者を選びすぎる高度なオーファ……抑止力としてのプロトケース………擬似人格による適性者のサポートを行う新型の……!?」
「え、そ、それって……!?」

 レイリアもアルセスが読み上げる単語の意味に気がついたらしい。ティエナも無表情のままだが、少し顔が強張っている。

「……完成系を…………プロジェクト用の………クトに搭載……………くそ、ここまでか……!」

 アルセスは続く文章はほぼ直前の文章とは繋がらぬ単語である事に気づくと残念そうに両手を机に突いた。予算、税金、と言った単語が並ぶ事からレイリアはこの「プロジェクト」とやらを実行するのにあたての資金繰りについての計画ではないかと推測したが、そんな事はアルセスにはどうでもよかった。

 ところどころに浮かんだ要素、これがもしも新たなオーファクトを開発するための企画書のようなものだとしたらその設計や特徴は――ウェバルテインに共通性のある内容だったのだから。

 
よし、糖度ゼロ! 今日はコーヒーが無くてもいいな!(断言
+注意+
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