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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第31話 梟の目

 念の為にとエモンドとは途中の道で別れ、尾行がないのを確認しつつ遠回りや回り道を繰り返してから、アルセス達はアジトへと戻った。
 その途上、ハイドアウトの正面を通ったのだが夕食時、という点を差し引いても随分と客が入っているのが窓から見えた景色だけでも分かる程だった。
 アルセスはすぐに原因に思い当たる。

「今日は義姉さんが午後からだったか……すっかり常連とファンがついたな」
「一応ルガーの方針でリーンとレイリアは不定期かつ時間を固定させないで店に出すんじゃなかったんでしたっけ?」

 だというのに、何故にこうも狙ったように客が集まるのか、とティエナは若干不思議そうに首をかしげたが、アルセスは団員の一人からこんな噂を聞いていたのを思い出す。

「義姉さん目当ての客同士で既に鋼の結束が組まれているらしい。義姉さんが入っている時は情報を流し合うことを約束する代わりに、店にも義姉さんにも一切迷惑をかけないことをお互いに誓ってるんだとかなんだとか」
「何ですかその結束。すごく怖いんですけど色んな意味で」
「他には店に貢献する為に最低この金額までは注文しろ、っていうラインとかも細かく規則で定められてるらしいという話もあるな」
「……ハイドアウトは放っておいても安泰そうですね」

 大量の常連を獲得し、接客のレベルと対応力の高さ、多過ぎず少なすぎずのメニュー、それらの高いクオリティと飲食店としては文句の付け所がない。

「これでティエナも揃って三人が同時に店に立ったりしたら……列が出来るな。順番待ちの」
「そうですねー、まあ、わたしは愛想を振りまくつもりはありませんが、可愛いわたし見たさに客が集まる可能性は否定できませんねー」
「けど、ティエナのあのウェイトレス姿は反則だからな……何があっても店には立たせない、と親父には改めて言っておこう」
「ふふーん、一人占めしたいんですかー、アルセスー?」
「ああ、当然だ。特にあのスカートからの太股の絶対領域と、あざとくないレベルに見せ付ける胸の谷間……どっちも男の視線を惹きつけるには十分すぎる。あれを見られるのは俺だけで良い」
「……て、照れるから真面目な顔で分析するのはやめてください。久々に言葉が出ないくらい恥ずかしくなりました!」

 いつものやり取りをしつつアルセスは未だ顔から熱が引かないティエナを気づかって思考の方向を変える。

(ティエナが店に出なくても当面、表の店の運営は安泰かな)

 こうなってくると面倒なのは同業店の嫌がらせなどといった真っ当ではない手段による訴えや妨害だが、それこそ心配無用だ。荒事には慣れているどころではないダンセイル一家の団員で固められた店に、暴力沙汰も裏工作も通用するはずが無い。
 滑り降りるように長い梯子を降りて扉を開けるといつもの広間がアルセス達を出迎えた。

「しかし、皆さん店へ直通とはいえあの長い梯子をよくもまあ行ったり来たりしてから仕事出来ますよね」
「この辺の下水管に引っかからないような位置を探して通すの大変だったらしいからな……」

 おおっぴらに工事の出来ない地下組織の悲しい点である。正式に認められた企業であれば、地下でも地上でもエレベーターを取り付けることは許可されるのだが、何せ駆動機の音が中々に大きい。
 防音対策をしっかりしなければ近隣から苦情が来る事になるし、そこまでの設備になると国の安全管理の為の検査も入る。アジトとしての側面を持つハイドアウトは基本的に余計なところに他者の目が入らないように多少の不便には目を瞑るしかないのであった。

「あら、アルセス君、ティエルちゃんお帰りー」
「よっす、お疲れさん二人とも。その分だと仕事は上々か」
「いや、仕事はしっかりこなせたけど、ちょっとダブルブッキングがあってね」
「それさえなければ、もうちょっと楽だったんですけどねえ」

 休憩していたらしい女性の団員と若い男性の団員にそのように軽く返しながら、アルセス達は廊下の向こう、ルガーの部屋へと進んで行く。
 軽くノックの後に、

「親父、アルセスだ」
「おーう、入ってこーい」

 そのように声をかけると相変わらず威厳があるのか無いのか分からないような声が返って来たが、気にする事無くアルセスとティエナは中に入る。
 団長室、とでも言えば良いのか、相応の机や本棚などはあるがそもそもルガーはあまりデスクワーク向きではないので最低限の仕事道具しか置いていない。
 裏稼業とはいえ紙面にまとめなければならない雑務はあるし、資源の管理などもある。それらを担当する団員任せにするのではなく、長であるルガーがきちんと目を通し不備が無いかを確認しているからこそ、ダンセイル一家はまとまっていると言えるだろう。
 単なるならず者の集まりではなく組織立った運用がなされている点は、例え法を無視する日陰者の集団とはいえ評価に値するのではないだろうか。

「何だか随分と騒ぎになったらしいな? ヘマでも踏んだか?」
「もう耳にはいってんのかよ」
「相変わらず地獄耳ですね……ですが、ルガーが期待しているような内容ではありませんよ。単なるターゲット被りですから」

 ターゲットの被り、と聞いてルガーは期待したような失敗談ではなかったのかと露骨にがっかりしたようだが、すぐに顔を引き締めた。

「……何処とだ? 外の連中か?」
「いんや、ミスティタビィとだよ。偶々――『目』が被ったんだろうな」
「あー、あの娘っ子達んところか。なんだよ、アルデステンに入ってから一ヶ月も経ってねえのに、もう仕事が被ったのか。アルセス、お前随分と縁があるんじゃないのか?」
「ルガー、そんなおぞましいことを言わないで下さい。モぎますよ」
「何をだよ、怖ぇよ。まあ、ティエルが不機嫌な理由は何となく分かったがな」

 アルセスとミーシャの因縁に関してはルガーも耳にしている。やや疲れ気味の表情を見せるアルセスにルガーもそれ以上追い討ちをかけるようなことは言わなかった。

「ま、『梟の目』をやってんのはウチだけじゃねえ。どいつもこいつも仕事には飢えてるから騒がしくなってる街や国に目をつけて飛び回っちゃあいるからな。今後もこういうことはありうるだろうさ。それよりも『協定違反』はしてねえだろうな?」
「目に属する組織同士での争いはターゲットの奪い合いにまで限定し、ギルド員の殺害は認めない、だろ。問題ないよ、今回は俺達の圧勝だ」
「わたしとアルセスにかかればあの小娘を騙すくらい余裕ですよ、余裕」

 当然の様に言いつつも隠し切れない嬉しさに口元をぴくぴくと振るわせるティエナを見て、ルガーも笑いをかみ殺す羽目になった。からかうネタを自ら提供するなと声を大にして言いたいほどに。

「そっちが守られてんならオレとしては言う事は無い。オーファクトの方もこっちから届けておくさ」
「けど、親父。ティエナの見立てだとこれ完全にぶっ壊れててまだ情報を『抜いて』ないんだ。そっちが済むまで待ってくれないか?」
「なんだ、完全にジャンクになってんのかよ。それじゃあ仕方ねえな。待っててやるから、早めに仕上げろよ?」
「わかってますよ。一日もいただければ十分です。後、レイリアの手も多少借りますけど?」
「もうちょっとで今日の上での仕事は終わるはずだ。それからの事はティエルが話をつけておけ」

 言われなくとも、と言わんばかりのティエナは鏡の状態を確認して頷いた。
 とりあえず急ぎの仕事はこれで終わったとばかりにアルセスは肩の荷を降ろしたかのように軽やかな表情に変わる。次の仕事は自分の足で探すか、或いは――

「親父、ギルドからの仕事の依頼は?」
「急ぎのものは入ってない。他に二件あったが、そっちは別件を担当している連中に任せたから、稼ぎが欲しければ当分は自分の足で探しな」
「了解。って言っても、今の王都の様子じゃちょっと歩けばネタは転がってそうだけどな……なんというか不穏な空気がそこかしこに漂ってる感じがする」

 そして表面上は平穏に見えるからこそ余計に厄介だともアルセスは感じた。
 壊蒐者の件もそうだが、誰もがこの王都に隠された何かを狙って動いているのではないかと。その一つである自分達も褒められたものではないのだが、と少々自嘲交じりに笑うアルセス。

「しかし……非合法のオーファクト管理ギルド『ラークオウル』……規律も目的もはっきりしてますけど、ぶっちゃけ犯罪者の集まりですよねえ。盗賊ギルドと名乗った方が良いような気がしますけど」
「言うなよティエナ。親父、というかダンセイル一家がその傘下だからこそ、オーファクトを好き放題漁っても文句を言われないし目もつけられないんだから」
「その分、資金繰りは若干他の目的のギルドにゃあ劣るがな。そん代わり、妙に口が利く場所が多いのも事実だが……」
「裏組織なんてそんなものでしょう。いつの時代、何処の国でも珍しくありませんよ。王様が暗殺組織を運用する感覚で、暗殺ギルドに繋がりがあるようなものです」

 ティエナはさも当然の様に言い切り、そのあまりの清々しさにアルセスとルガーも困り顔だ。

 ラークオウル。

 眠らない梟、という意味のあるそのギルドの創立はグラムピア存命の時代にまで遡るとされている。
 かつての世界崩壊の一因が、オーファクトにもあったという事からいずれ世に蘇るだろうオーファクトの数々や、或いは人類が再びオーファクトを開発するほどの技術を手にしたとき、同じ愚を繰り返さぬように、という願いを掲げて設立された非合法組織である。
 ダンセイル一家がそうであるように手段の是非は問わない。もっとも、再神教会ほど分別が無いわけでもないが。
 このギルドにおいてはオーファクトが悪なのではなく、あくまで使う者の善悪、目的こそが重要だと考えているからだ。生み出された道具に罪は無い。その用途を把握し、危険であれば封印または破壊をし、世に出ても問題がなければ――金銭と引き換えに何処からとも無く人の世に返す。
 その為に多くの集団やギルド員を抱えるもっとも歴史の古い組織と言って良いだろう。その方針上、再神教会とは犬猿の中である。
 教会のエージェントが壊蒐者(エグゼキューター)と呼ばれるように、ラークオウルのギルド員には梟の目という通称があり、その仕事上、今回のアルセスとミーシャの様にギルド員同士がぶつかり合う事も珍しくは無い。
 協定とは、そうしたギルド員同士での遭遇や揉め事を解決する為に上が定めた規律だ。これを守られなければギルドから調停者を名乗る人物が派遣され、最悪の場合にはギルドからの追放もありうるくらい厳しい規律で知られている。
 このように運用にも一定の規律が求められ、今のところ多数の組織を傘下に置いておきながら大きな問題を耳にしないギルドであるが、一つ謎なのはマスターの存在だ。
 一家の長であるルガーですら、ギルドマスターの姿を見たことは無いとアルセスは聞いているが、アルセスにとっては、邪魔されずにオーファクトの探求の旅を続けられるということが重要なのであり、ギルドの目的自体は二の次だった。

「ホント、こんな酔狂な目的をずっとギルドに守らせられるマスターって何者なんでしょうね」
「別段俺は興味はないけどな。ティエナを救うっていう俺の目的の邪魔にならない限りは」

 何せ、アルセス達が欲しいのはオーファクトから得られる情報である。オーファクトそのものが無ければならない訳ではないので、回収して提出しなければならないという点は問題にならないのだ。
 よしんば、後で必要になったとしてもそれはそれでギルドで実績を立てておけば借りる事も可能となるかもしれない。ラークオウルはオーファクトの使用そのものを不安視しているわけではないからだ。
 それでもなおギルドと敵対しなければならないとしたら――アルセスは躊躇わないだろう。
 もっとも、出来ればそうなる事のないように立ち回るつもりではあるが。何しろ、仕事を通してラークオウルに便宜を図ってもらったことは少なくないからだ。一体どうやって世界に通じる権力を有しているのか。

(本当、ティエナ以外にも守らなきゃならないものが、幾つかあるからな。出来ればウェバルテインを向けるような事態になって欲しくはないな)

 アルセスは己の手の内にある力の大きさを噛み締めながら、そんな未来だけは来ないで欲しい、と切に願うのだった。
眠らないならどんな動物でもよかったんですが
何故かフクロウが思い浮かびまして。
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