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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

序章 旅路の宿場街にて

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第2話 ワンダラー


※ 同日連続更新中です。
 サンカーラは宿場街、と呼ぶには少々大きい街である。
 そこそこの人数を迎えても十分なスペースのある駅のホームを皮切りに、外の駅前広場に出ればオープンウィンドウのみで側面に窓がないタイプの自動車が数台路上に止まっているのが目立つ。
 正式に届出をした営業用の車両である証明である黄色い旗がボディの天井に備えられているのは、数年前より台頭しはじめたタクシーと呼ばれる乗合馬車などに取って代わった移動手段だ。
 同じく大型の車両を使い、決められたコースを一定の時間で区切って走るバスとは違い乗客の目的地まで最短距離で運ぶという自由度の高い移動手段で、観光を主とした都市や王都と言った広い街で普及しつつある。
 大陸の玄関口である港町から走る列車の終点であり、王都へ向かう列車の始点という特殊な位置づけの街になってからは、小さな宿屋から一泊の宿を求める旅人向けの簡素なホテルが乱立するようになり、結果として物流の消費が激しくなった経緯から商店の数も増加。サンカーラは駅が開設されてから数年で随分と様変わりしたという歴史を持つ街なのであった。
 それでも駅前を少し離れれば昔ながらの宿場街の姿も残る、というある意味では時代の流れを感じさせる街でもある。少なくはなったが昔ながらの街道を利用しての陸路を行く旅人もおり、そうした者達はわざわざ騒がしいこの辺のホテルなどよりも、情緒のある宿を好むこともあるとか。

「あ、あのタクシー、ロード社の新型ですね。ベルセルス式の」
「魔物命晶の生成も、命晶からエネルギー源であるベルセルスの抽出も安定するようになったからな。飛行船もそうだけど燃費が馬鹿みたいに違うから、旧型の動力機関から乗り換えるのは基本だろ」

 今の時代において人間が定住可能な大陸の割合に対して人類の生存圏となっている箇所はおよそ半分にも満たない。
 それは自然界において人間と覇権を争い、なおかつ貴重な資材や材料ともなりうる魔物と呼ばれる存在が闊歩しているからだ。
 猛獣などとは比べ物にならぬ生命力に独自の能力を駆使し、己の縄張りを守る生命体の存在は常に人類の隣に潜み脅威となってきた。
 そんな相手すら利用する方法を生み出し、自らの発展の糧としてきた人間もまた豪胆ではあるが。
 命晶と呼ばれる結晶の抜き出しは当然ながら相手の魔物の撃破が条件。その命晶からエネルギー源として利用可能なベルセルスと呼ばれる純結晶を取り出すのも容易くはない。
 しかし、それが科学の発展に繋がり、なおかつそれが金銭を得る手段となるのならば、と自ら死地にも赴くのが人間の業の深さでもあり逞しさでもあるのだろう。

「取る方は命懸けなんですけどねぇ。魔物を倒して、素材を剥ぎ取って、最後に残った核を命晶化して回収、と」
「だから未だにアウトローな職業でも食っていけるんだろ。ワンダラーの俺達もそうだし」

 ワンダラー。

 それはオーファクトを扱える者達の総称であり、職業という訳ではない。
 オーファクトは古代の超技術の産物だ。現在の人間の科学力においても手に余る代物であり、まだ模倣品とすら呼べぬ稚拙な作品がたまに生み出されるくらいに現代と過去においては技術力に差が開いている。
 その決定的な差として、古代の人間たちは人間なら誰にでも備わっている「心気」と呼ばれる力を動力として起動する道具を生み出した。それがオーファクトと呼ばれる存在だ。
 現代の解析においてオーファクトとは極めて特殊な機械や道具である、というのが通説である。実際、魔剣ウェバルテインに至っては柄の中には人間の理解を超えた回路や部品で構成された仕組みが組み込まれており、ティエナの助けが無くてはメンテナンスすら危うい程の機構である。
 多くの人間や国が超常の力を求めてオーファクトを発掘してはいるが、その使い手は極めて限られる。また、使えたとしてもそのオーファクトが有用であるとは限らない。実際の例としては火の玉を生み出せる小型のバトンのようなオーファクトが存在したが、そんなものは現代ではライター一つで事足りる。奇跡に等しい事象を起こせる、とすら称される品が存在するオーファクトの中に置いて、そんなものが使えたとしても笑い話にしかならないだろう。
 では、兵器や武器としてはどうなのか。これもまた非常に難がある。
 文明が崩壊し、まだグラムピアが存命の間には失われた文明によって守られていた非力な人類は魔物と呼ばれる存在に日々命を脅かされていた。そんな彼らが生き延び、今日の人間にまで命を繋げたのはやはり「心気」を用いた技術の確立にあったのだ。

 オーファクトに頼る事無く心気を自身の身体を媒介に物理的干渉を可能にするまでに昇華させる技法。
 それらを基本原理として各種様々な武術に取り込ませ、オーファクトを無くした人類が何とか魔物に対抗できる闘法にまで仕立てたのは過去に名を馳せた偉大な達人達であった。
 現在ではそうした武術の伝来の質は国において差があるが、きちんとした技術として修め、技量の高い戦士は決してワンダラーに負けず劣らず野戦闘能力を有しており、国防に、或いはその腕を利用してトレジャーハントなどに勤しむ冒険家であったりと活躍の場は多い。
 そうした真っ当な技術を修めた達人と比較するならばワンダラーはイレギュラーな存在だろう。
 オーファクトと言っても一言に作り出された時期で明確に性能の差が激しい。
 特に崩壊に近い年代に世に溢れた量産型や汎用型と呼ばれる、性能を抑えて使い手を増やす目的で生産された品々は、現代の技術でも再現可能な事象しか起こせぬ例も多い。
 一方で、魔剣ウェバルテインに代表されるように古ければ古いほど、現代の科学では到底解明できぬ事象を引き起こせる一方で、使い手は極めて限られるという希少性。

 これらの理由から、ワンダラーが自ら名乗る例は皆無と言ってよかった。
 別にそれだけで不都合が生じるわけではないが、要らぬトラブルを巻き込むのを嫌う、己の力を悪用する、そもそも既に何らかの組織に属している、など大っぴらに明かすことで利になる事が極めて少ないからだった。

 故に人々にとってもワンダラーという言葉はその意味でしか知られていない。オーファクトを扱える者、ただ、それだけだという事を。
 そしてアルセスもまたそんなワンダラーの例外ではないという事だった。

「さーてっ、どの辺りのホテルにしましょうか。観光目的でもないですし、わざわざ町外れの方の安宿なんか選びませんよね? 可愛い相棒に窮屈な思いなんかさせませんよねー?」
「ああ、最低限プライバシーが守られるくらいの防犯設備はないとな。声が漏れると困るし」
「こ、ここここ声が漏れると困るって何する気なんですかアルセスはっ!?」
「いや、別に? 親父から急な連絡が入ったりして盗み聞きされても困るだろ?」

 アルセスはしてやったり、とばかりの笑みを浮かべ、釣られた事に気づいたティエナは何かに気づいたようにあっ、と声を上げて、それから顔を真っ赤にしてアルセスを見上げた。

「引っ掛けましたね、アルセスぅ……」
「ティエナは根がぽんこつなんだから、わざわざ意地張らないほうがいいと常々言ってきたと思うんだがなあ」
「ふんっ、だ。知りません知りません知りませーん。わたしをからかって遊ぶアルセスの言う事なんか聞かないんだからー」
「おっ、あそこの駅前のホテルは割と良さそうだな。ちょっと聞いてみようぜ」
「あーるーせーすーっ! もう!」

 だが、そのくらいで機嫌を損ねるような関係でもない二人は適当に道路を渡って、六階建ての簡素ながらも新しい出来栄えのビルの中に入っていった。
 入り口の角には小さいながらも洒落たロビーがあり、調度品や敷かれている絨毯の質も悪くない、とティエナは一歩踏み込んだだけで見抜いた。これなら後は宿泊費次第だろう、とすっかり機嫌の回復したティエナは当たり前の様にアルセスと荷物を持ってない方の腕同士を組んでフロントの方へと向かう。

「すみません、一泊したいんですが部屋はありますか」
「はい、ございますよ。ツインの部屋を一部屋でよろしいですか?」
「構いません。一泊いくらですか?」
「二名様ですと……」

 丁寧な対応でアルセスの言葉に応じる初老のスタッフの提示した金額は、事前に調べていた相場とほぼ相違ない金額であった。
 元々サンカーラは通過点であり、この金額で一泊の宿となるのなら悪くない金額であったのでアルセスは即決した。入国時に両替しておいたアルデステン国紙幣で支払いを済ませ、ボーイの案内に従って部屋に通された。
 三階の角に位置する部屋は、丁度駅を見下ろせるロケーションだった。既に夕陽によって染まりつつある街は旅の旅情を大いに感じさせる。

「ふむふむ、ベッドの質もそこそこ。まあ、客をもてなすというよりは旅の途中に一部屋提供、っていうスタンスだからか付属品の類は大した事はありませんが、まあ及第点ってところですかね。セイブウイングの客室には劣りますけど」
「全員が全員散財しては改装しまくった『我が家』と比べてんじゃねえよ」

 かけた金額の桁が違う。むしろ、ただ客を泊めるだけの宿として見るならばこのホテルは十分及第点だとアルセスは評しており、ティエナの評価の基準がおかしいだけなのだ。
 荷物の入った鞄をクローゼットの下部に仕舞い、着ていたジャケットをハンガーにかけたところでアルセスは不意に思い出した。

「そういえば、親父への定時連絡って入れたほうがいいのか?」
「この辺りでは不要なんじゃないですか? どうせあっちはセイブウイングのメンテが終わってから合流するんでしょうし」
「珍しく細かい打ち合わせは現地で、って随分アバウトな仕事だからな……いや、旅に出ることも含めて初めて尽くしではあるんだが」
「今まではとりあえずセイブウイングで現地に乗り付けて、はい、仕事! でしたからね」
「下積みは重要だからな。ようやく一人前扱いをされるようになったんだから頑張らないと」
「はいはい、アルセスは真面目ですね~。わたしはそういう細かい事は後でいいじゃないですか~ってタイプですから」
「その性格の所為で、人間とは比べ物にならない能力持ってるのにポカをやらかす可愛い所もあるんだよな」
「……アルセス? それ褒めてませんよね? 褒めてませんよね? 可愛いって言っておけば許されるって思ってません? 思ってませんかー?」

 アルセスの腰掛けていたベッドに飛び移り、寝転がっていたアルセスにのしかかるティエナ。
 健全な男性ならば慌てるところであろうが、残念ながらこのような密着ですらこの二人にとってはスキンシップの一つだ。アルセスも慌てる事無くティエナを見上げているだけだ。

「ま、怪しい気配もなかったし大丈夫だろ。盗聴されてもろくな情報持ってないから意味は無いしな」
「アールーセースー? わたしの質問に答えてもらってませ――ひゃっ!? な、なななな急に足を撫でないで下さい!」
「いや、ティエナはここが弱いのに何故こうも弱点をわざわざ曝け出してくるのかなー、と。挑発されたのならば乗らねばなるまい?」

 ストッキング越しですら過剰に背中を震わせたほどの反応だ。素肌に直であったのならばどれくらいか――は予測するまでも無く知っているアルセスならではの追及のかわし方であった。

「後、さっき言った事は全部本音な、本音。ティエナとは長い付き合いだし適当に誤魔化せるなんて考えてないからさ」
「ふ、ふん、当然ですよね。アルセスをここまでのワンダラーに育て上げたのはわたしですから! 類稀な存在である『姫』の主として、相応しい男にしたのはわたしですから!」
「ああ、物凄く感謝してるさ」

 体勢を変えぬまま胸を張るティエナを下から見上げるアルセスはある意味で物凄い光景を目にしているのだが、感謝の念が絶えないという言葉は紛れもなく本音だ。
 戦闘の知識も技量も拾ってくれた「親父」に仕込まれたものだ。だが、古の知識を元に現代では手に触れがたい技術を得たのは惜しみなくその知恵を文句交じりに伝えたティエナのお陰である。
 その事に対する感謝を忘れた事など無い。そしてその想いこそが、今のアルセスの走る原動力なのである。

 今では随分と自由を得たとはいえ、ティエナはどうあっても魔剣ウェバルテインという存在に縛られた身である。
 かつては魔剣に宿る擬似人格として言葉を発するだけであったティエナも今は自由に人の身体を手にいれ、またその力の行使の制限も大分緩和されては来た。
 だがそれでもまだ足りない。アルセスはいずれ自分が没した時、ウェバルテインが己の手元を離れた時にまたティエナが望まぬ使われ方をするのではという未来を一番怖れた。
 彼女と触れ合い、共に成長し、手を取り合い魔剣と彼女という二つの形で相棒となった彼女に報いるため、力を手にした少年が世界に飛び出し望むものはただ一つ。
 彼はそれをオーファクトを始めとした古代の遺産に求めた。
 彼女を生み出した技術は崩壊し、地に埋もれた文明の向こう側。だからこそ、彼女を解放する術もまたその技術の中にあるのではと。

 確証は無い。ティエナ自身が確約したわけでもない。存在の真偽すら不明の物を求めて世界を往来するなど人によっては正気の沙汰ではないと嘲るだろう。

「だから必ず見つけるさ。ティエナが不幸にならない為の最善の方法を」

 それでもアルセスは構わない。
 世界でただ一人愛した少女の為の苦労など苦にならず、困難な道を歩くことを躊躇わない。

「……ええ、期待はまーったくしてませんが、アルセスがそうしたいというのなら、わたしも精々付き合ってあげますよ」

 見つからなくともティエナは構わない。
 世界でただ一人愛した少年の為に歩いた旅路の全てが徒労に終わろうとも――その道を共に歩んだ事を後悔することなどないと。
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