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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第27話 登場! ミスティタビィ!

「えー、度重なるこちらの不手際により迷惑をおかけしたにも関わらずこうして沢山のお客様をお招きできました事にー、まずはお礼申し上げます。我がカネー家は、先代であるモッケの類稀な商才によって好機を逃さずして財を築きまして……」

 長い。
 とにかく長い、とアルセスとティエナは早々にゲンナリしていた。
 オークションの開催を宣言してから早数十分。壇上でのモッチによる挨拶は未だに長々と続けられていた。
 しかもお決まりの挨拶の合間に、自分の家の歴史と自慢話を交えるという中々にカオスな内容という事もあって、聞くに堪えないとティエナなどは早々に話を聞くことを放棄していた。
 アルセスとて出来るならばそうしたいが、ここで集中力を欠く訳にはいかないと、周囲にだけは気を払っている。何せ外も含めて会場内は明るい。加えて入り口と窓の周辺は護衛が固めており、守りは十分。この状況で一体どうやって展示物を選別し持ち去るつもりなのか。

「ミーシャは派手好きだから気づいたら盗んでいた、みたいなやり口はしないとして……どうする気だ?」
「そーですねー。あの頭ノーテンキなアホ娘の事ですから、高々と名乗りを上げた後に閃光弾か煙幕の類でこちらを混乱に陥れて、元々狙いをつけていた品物を二つ三つ盗んで、ハイサヨウナラって流れじゃないですか?」
「ティエル嬢ちゃんみてーに、アートの類でもあれば別だろうが……あの嬢ちゃん、別にワンダラーってワケじゃなかったよな?」

 エモンドの疑問を交戦経験があるアルセスとティエナは揃って肯定した。
 ただ、エモンドからは見えないが、ティエナは認めるのも腹が立つと言わんばかりの顔だったが。

「俺達の知る限りではオーファクトは使ってなかったはずだ。ただ……適性が無いわけじゃなかったはずだ」
「そっちの才能もそうですが、心気を扱った闘術の才能もずば抜けてましたね、認めるのは癪ですが。天性の身軽さに加えてあの闘術のキレが交わると並の腕ではまず相手になりません。そういうすばしっこさというか……するっと掴まえようとする相手から逃げるのは本当にネコって感じでした」
「なるほどなあ。何度も予告状出しては盗みをしてんのに、捕まんねーワケだ」
「後はお仲間がな……」
「正直、何であのおばか娘の旗持ちをやっているのか理解できないですよね」
「腕利きの仲間も連れてんのか……ん? ってこたぁ、ティエル嬢ちゃんがわざわざオレを呼んだのは……」
「ええ、恐らく仲間の方の相手はエモンドの方が適任だと判断しましたので」
「へえ、そいつはちっと楽しみにしていいんかね?」
「舐めない方が良い、とだけは言っておきます。楽しむのは好きにすれば良いんじゃないですか? もっとも――油断でもしようものなら首が落ちますよ、貴方の」

 かなり珍しい事であるが、ティエナの口調からからかうようないい加減さが一瞬だけ消え、本当の意味での忠告を口にした。
 その温度差を感じ取ったのだろう。エモンドもまた、普段のしまりのない顔とは違う――剣士の顔を見せて頷いた。

「クク……そいつは無用な心配だぜ、ティエル嬢ちゃん。仕事、女、酒、どれも楽しむのはオレの主義だが――そこに油断を持ち込むのはポリシーに反するからなぁ」
「ま、わたしとしては死んでくれても別に一向に構わないんですけどね。死なれるとアルセスの仕事が増えそうなのでやめて欲しいだけです」
「おいおい、ティエル嬢ちゃん。さっきは素直に心配してくれたんだから、最後まで通してくれてもいいじゃねーかよー」
「すみませんが、わたしは慈善事業は営んでいませんので。これ以上心配して欲しければ有料です」
「容赦ねーな……っと。二人とも、どうやらあのクソ長い自慢話が終わったようだぜ」
「開催の挨拶じゃなかったっけ」
「もう本来の趣旨が失われてましたね」

 それでも拍手が沸き起こる辺りは客もすっかり慣れているのだろう。
 彼らにとっては苦痛極まりない時間であっただろう事が窺えるように、誰も彼もが苦笑か疲れを浮かべている。その事実が全く目に入らず、上機嫌で笑っているのは壇上のモッチだけであった。知らないとは時に幸福なのである。

「それでは早速オークションを始めたいと思います! まずは、壇上近くの手前の品! それは北部の開拓地由来の……」

 そんな微妙な空気の中開催されたオークションであったが、意外と言っては失礼かもしれないが流れ自体は実にスムーズ、かつ分かりやすかった。
 展示物の細かな詳細に加え、自前で調べさせた調査結果はお墨付きとして惜しみなく提供し、元々口が上手いのは商人ゆえか、ただ見ただけでは単なるガラクタにしか見えぬ考古物に商品価値を持たせて行くトークは誰もが唸る内容であった。
 ではその真偽の程はと言えば。

「……この品の調査、分析結果もわたしの分析と大きくズレはありません……意外でした。言葉巧みにガラクタを高く売りつけているのかと思っていましたが……」
「ある程度満足したらコレクションを手放して欲しい人物に譲り、それを元手にまた新たなコレクションを手に入れて入手した経歴、という目録を埋めるのが楽しみだ、っていう噂は本当だったのか……」
「その過程で自前の商売も軌道に乗せてるらしいからなぁ、あのオッチャン。人はまあ見かけだけじゃ分からんっつーことよ。オレみたいにな」
「そうですね。ぱっと見だけは悪くない男ですが、中身は最低最悪の食い散らかし男という本性を覆い隠している最低男という例が身近にいましたね」
「どうだ、アルセス! あのティエル嬢ちゃんから見た目だけは認められたぞ!」

 どれだけポジティブなのだろうか、このエモンドという男は。

「いや、正直それ以外何ひとつ褒めるところがないって断言してるんだけど、エモンドはそれでいいのか」
「……スマン、本音を言えばもうちょっと手加減してくれてもなあ、と考えなくもない」

 残念ながら鋼鉄で鉄壁の心臓の持ち主ではなかったようだ。遠慮の無い罵声に、さしもの彼でも心が辛くなる事はあるようだ。
 しかし、悲しいかな。ティエナが認める男はただ一人であり、それ以外は「マシな方」「語る価値無し」「論外」の三段階程度のカテゴリーに振り分けられる定めであり、エモンドの嘆きがティエナに通じることは無いだろう。最後の二つはそもそも同列ではないだろうか、とは思ってはいけないのだ。

 そのような雑談をしつつも三人は会場内に注意を巡らせていたが、未だに動きは無い。
 一方でアルセス達が狙いをつけたオーファクトらしき鏡の方もまだオークションにはかけられていなかった。

「このまま騒ぎが起こらなかったらどうするよ、アルセス」
「そうなったら……光学迷彩(ステルス)を展開したまま、ショーケースが開けられた瞬間を狙って奪って逃げるかな」

 最悪何かがいる事は間違いなく知られるだろうが、姿形までははっきりと見られるわけではない。
 エモンドのサポートがあれば逃亡するだけならば難しくないだろうと、護衛の腕を見て判断したアルセスは、場合によってはこちらから動く、と決めたその瞬間だった。

 バツン、というまるで線が切られるかような音と共に会場が闇に包まれた。
 そう、文字通り一切の光のない闇だ。窓にはカーテンはかかっていなかったし、仮にこの部屋の照明が落ちたのだとしても、完全な真っ暗闇というのはありえない。

「な、何だ何だ!?」
「停電か!?」
「おい、一体どうなってるんだ!」

 ざわざわと周囲が色めきだっている事から、別の場所に連れ去れたり、自分だけがどこかに飛ばされたわけではないのだとアルセスは冷静に判断し、とりあえず隣に手を伸ばす。

「……この感触、ティエナもそこにいるな?」
「ええ、います、いますが――アルセス、何処を触っているか分かって言ってますよね?」

 普段通りの静かな声なのだが、若干威圧するような含みがある中、アルセスは堂々と答えた。

「ああ、この指を押し返す絶妙な弾力はティエナのおっぱ――むぐぐ!?」
「口に出す必要はありません! 必要はありません! 危なく大声を出すところだったじゃないですか何考えてるんですかアルセスぅ!!」

 物凄く押し殺した声で、物凄く切羽詰った感を切実に伝えようとするティエナによってアルセスは思い切り口をふさがれた。

「お前らこの状況でよくイチャつけるな……」
「周りが騒がしいから逆に冷静になれるってやつだよ」
「冷静になってるのに遠慮なくわたしの胸に手を伸ばすんですか……」
「心細かったからつい安心を求めて」
「そ、そうですか。そうですよね、アルセスの安心できる場所でもあるんですよね、わたし」
「え、そんな解釈になんの? 今の?」

 もうツッコむのも馬鹿らしくなったエモンドは、これ以上その会話には参加せず未だに落ち着くことのない会場の「気配」を読む事に集中する。
 慌てて逃げ出そうとして倒れたり、大声を上げて騒いだりの中、状況を探ろうとする護衛の動きなども混じるため人の気配を探るだけでも苦労だったが――その中に一つ、異質なほどに張り詰めた空気をまとう人間が今まさに混じったのを見逃さない。

 そして時を同じくしてアルセスとティエナもまた別の気配を「別口」の感覚で感じ取った。

「……そこか?」
「上か?」
「上?」

 エモンドは暗くて見えないが壇上があった方を睨みつけ、アルセスとティエナは天井近くに集中した。相変わらず光差すことの無い闇。そろそろ目が慣れて来る頃だというのに、一向に自分の目が何も捉えない事に、アルセスは疑問を抱く。

「……まさかオーファクト? それもこれだけ規模の大きい効果となると……」

 その疑問に答えがもたらされるより早く――突如闇の一部が円形に切り裂かれた。
 まるでスポットライトでも当てたかのように天井近くの空間の一角が露になると、そこには――

「ハァーイ! 欲塗れの豚共が集まる会場に一輪の花を届けに来てあげたわよぉ! 拍手喝采で迎えなさい、この下民共!」

 天井から吊り下げられた豪華なシャンデリアの上に仁王立ちで立つ小柄な少女の姿があった。
 自信に満ちた不敵な笑みで驚く聴衆(と言っても彼女の位置からは真っ暗で見えないだろうが)を見下ろすこげ茶色の長い髪を簡単にまとめて横から垂らすサイドテールと呼ばれる髪形の少女。
 服装はこのご時勢に黒いマントに腕や足を露出させた奇抜な衣装を身につけており、一言で称するならば――大衆小説などに出てくる少女怪盗の格好そのままという感想に困る服装だった。
 僅かな胸の膨らみに全体的に丸みのある身体つきではあるが、多数の男からはやや肉付きが貧相と称されても仕方ない少女は、顔につけた目を隠すだけの派手な仮面に手をかけて大きな声で名乗りを上げた。

「怪盗ミスティタビィ――参上! 成金趣味のモッチ・カネー! かねてからの予告どおり、アンタの自慢のコレクション! 根こそぎいただきに来てやったわよ!」

 眼下の方向に向けて指を突きつけポーズを決めるミスティタビィの頭目――ミーシャ。
 その名を知るのはこの場ではアルセス達だけであったのだが、噂になっている盗賊団の出現に客達の騒ぎはますます大きくなった。
 その動揺っぷりにミーシャは恍惚の表情で浮かれているのだが、その一方でアルセス達の表情は微妙だった。

「……指差した方にはモッチのオッチャンはいねえよな。ついさっきまで壇上にいたから動いてないはずだし」

 そう、ミーシャの指差した方向はまるで反対の方だ。彼女の位置からもどうやら闇に包まれている部分は見えないらしくこのような間違いは起こってもおかしくないのだが、こちらから見上げる分には何とも言い難い。

「相変わらず出オチの似合う女ですね。潜んでいるのでなければ思いっきり指摘して大恥かかせて笑い転げてやるのに、それが出来ないのが残念で仕方ないです」
「だけど、これで暗闇の仕掛け人は間違いなくアイツだって分かった。エモンド、予定通り、アイツの行動に巻き込まれないように警戒しつつ、俺たちも動くぞ」
「おう……っつってもどうすんだよ、この状況。流石に気配だけじゃオレは何も出来んぞ? 護衛か敵かを見分けるのが厳しい」
「大丈夫だ」

 何か根拠があってのことなのだろうか、とエモンドの疑問に対してアルセスは自信満々に、

「あの目立ちたがりがこんな暗闇いつまでも維持するはずが無い。盗み出す時はこの場に居る全員に見えるような手口を堂々と披露するはずだ」

 と、彼女の困った性格ゆえの手法に走ることを断言した。
登場前から出オチキャラと言われたミーシャ、
満を持して登場(アルセスのセクハラから目を逸らしながら
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