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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第26話 オークション会場にて

 様々な状況を想定し対策を練るアルセス達。
 人知れず闇夜の中で牙を磨ぎ、虎視眈々と獲物を狙うミスティタビィ。
 ようやく場所を確保し、護衛を雇えば大丈夫だろうと高をくくっている成金。

 三者三様がそれぞれの思惑を抱えたまま数日が過ぎ去り、いよいよその日はやってきた。

 まだ日の高い昼過ぎ。フィングベル美術館の入り口には「本日臨時休館」と記された看板が置かれていた。
 言うまでもなくオーナーの処置である。今日この時間から出入りが出来るのは、成金が招待した客だけであり、一般の客を館内に入れないことで予防策の一つとして提案していたものである。
 本来個人的に客を招いてのオークションとなれば、立食形式のパーティのようなものを開催する事の方が多いのだが、今回は美術館という飲食物を提供するのにそぐわない場所という事もあって、成金が持ち込んだ飲み物が提供されるやや質素な開催となった。

「ふむ……モッチ氏の開催する展示会にしては随分と上品ですな」
「噂の怪盗団に目をつけられたとかで開催場所が二転三転したらしいですからな。しかし、そのお陰で普段のけばけばしい派手さが無く居心地が良いというのは何という皮肉なのか」

 軽いアルコールの飲み物を片手にショーケースの展示物を見て回っている客からは、過去最大に絶賛されるという評価になった事に、常連の客などは笑いを堪えているのだった。世の中、何が原因になって事が転ぶか分からないものである。
 ショーケースを等間隔に配置し、その中に大小様々な骨董品が収められ、それをしばらくの間は客に眺めてもらう、というのが展示会の趣旨であり、そこで気に入った商品を後々オークションで競り落としてもらうまでが、成金商人――モッチ・カネーの開催するイベントの内容であった。
 元々一代前の父親が古物商を営んでいたが、商品の中から価値のあるオーファクトを発見して大儲け、さらにそこから得意分野であった古物商の中から掘り出し物を探し出しては何度か大当たりを重ねることで財を築いたのがカネー一家の経歴だ。
 今のモッチの代になっても商売の方針は変わらないが、モッチはその中でも好事家相手の商売に手を広げており、好き者にしか価値がないような古物すらも高値で売りつける為にこうしたオークションを開催して儲けるようになっていたのだ。
 親譲りで目利きは悪くない為、本当にただのガラクタ、という物は数少ない。
 実際、展示されている中には金銭的価値は低いが、歴史的価値は高いので研究資料として利用できるなどの理由から好事家の他に研究者などが客として招かれているケースもある。そして、モッチはそういう品の良し悪しを見極め、欲しがる客が最終的に手が届くだろう値段がつくくらいの値を予想してスタートの金額を決めるのである。

 そうした過去の経歴も聞けたからか、壁に寄りかかり人付き合いの悪そうな護衛――を装ったエモンドは、

「この成金、色んな意味で商売上手みてぇだな。趣味は悪いが商売自体に悪評は少ないな」

 と、普段よりもやや歳を取った男のようなかすれた声で呟いた。
 フードの下にはいつもの二枚目の顔はなく、少々くたびれた中年男性の顔を覗かせている。
 これがエモンドの特技の一つである変装だ。自前の道具と声音を使い分けることで、女性にすら変装して見せるのがエモンドの妙技である。
 ただ、体型そのものは服装で調整するしかないのであまり悪用の出来る特技ではない。特にダンセイル一家の女性団員が使う主要な場所にはエモンドの変装対策としてオーファクトが仕掛けられているので、覗き行為などにも使うことは出来ない。
 それほど素人目には見抜けない卓越した変装技術なのだが、彼の普段の行いが行いだけに賞賛されることは少ない。

「イベント自体はきちんと成立しているし、物も確か、とくればそこそこの固定客がつくのも当然か。意外だなー、もうちょっとあくどく儲けてるのかと思ったけど」
「ですけど、アルセス。派手好きで悪趣味というのはフォローできないんじゃないかと。そこにいる古い壺が目当ての方が言ってましたよ。『前は目に痛い金色だらけの会場だったが、今日は中々趣があるじゃないか。これならよいものが見つかりそうだな』って」
「……金色だらけの会場ってなんだよ」

 想像が容易いようであまり想像したくない会場の様子を頭から振り払おうとして、アルセスはゆっくりと人に触れないように会場を見て回る。
 その姿が――誰にも見咎められることは無く、目で動きを追えるのはエモンドだけだった。

 光学迷彩(ステルス)

 稀に視覚的に自身を透明化する生物や魔物は存在するが、現在の科学技術においてこの技術を確立させた者は人類にはいない。
 風景と同化することで外部からの視線には一切移らぬように自身を覆い隠すこの技術は、言うまでもなくティエナの知識の中にあったものだ。それを道具化するのではなく簡易な心機述構(グリモワルアート)として再現することに成功したティエナの力の一つである。
 偵察や侵入が絡む仕事にはアルセスと二人でもっぱら多用する事になる力だが、多角的な視線にも即座に対応出来るように展開されているため透明化する対象があまりに早く動きすぎると、風景との同化が遅れ簡単に異常を察知されてしまうという弱点もある。
 加えて熱反応、心気反応、生命反応も隠せる類の力ではない為、優秀な探知用オーファクトやそれらを用いることで使える心機述構(グリモワルアート)の前では容易く破られるだろう。
 素早く動けない、という点から戦闘向きでもない。どんな巧みなアートであっても付け入る隙はある、という一例でもあるだろう。

 その力の特性を理解し、人の動きを読みながらアルセスとティエナは一通りの展示物を確かめると、再びエモンドの側に戻ってきた。今回彼を呼び出したティエナの目的は、エモンドの側にいることで会話の声などが聞こえても誤魔化せるように、という意図もあったのだ。

「……金銭的価値の高いものは幾つか。歴史的、考古学の分野で価値のあるものも数点、ただのガラクタが二つ、そして――故障中のオーファクトが一つありましたね」
「一つアタリがあったか。相変わらずボスの目の付け所は鋭いねえ」
「どれなんだ、ティエナ?」
「あれです。あの真ん中に展示されているくすんだ鏡のようなもの。完全に歪んで取れなくなっているだけで――蓋の下は基盤が仕込まれているはずですよ」

 オーファクトは基本的に人間が扱う道具の形をしている。
 だが、古いオーファクトの中には長い年月の中で故障し、完全に機能を失いオーファクトとしての反応すら失っているものも多々ある。
 そういった品々は得てしてガラクタとして扱われがちで、一攫千金を狙って古物商、というカネー氏の方針はあながち間違いではないのだ。場合によっては古いオーファクトはそれだけで大金を得られる掘り出し物になりうるからである。

「ですが、完全に反応が死んでいるようなのでレア物かどうかまではわたしでも判別出来ませんね……手に入れてみたら汎用の量産型だった、とかだとちょっと悲しいんですけど」

 だが、それも価値が分かればの話だ。
 ティエナですら完全に故障し沈黙したオーファクトの詳細は不明。これが一品物ならいざ知らず、かつての時代にありふれていたような量産品であれば、その価値は一気に暴落する。この当たり外れの大きさはトレジャーハントに通ずるものがあるだろう。

「何にせよ狙いは決まったんだ。んで、どうするよ? 例の嬢ちゃん方が来る前に仕掛けるか?」
「うーん……どうせなら小娘の顔も見ずに済ませたい気はするんですけど……」

 口ごもるティエナの悩みはアルセスにも理解できる。
 目当ての物の展示位置が部屋のほぼ中央、という位置の悪さだ。他にも大きく目立つように展示されている古物は幾つかあり、鏡の方は見た目が完全に古ぼけているからかあまり大きくは取り扱われてはいないのだが、どうしても他者の視線に移りやすい位置にある。
 近づくまでは簡単だ。だが、そこから警備装置も仕掛けられているだろうショーケースの中から、誰にも気づかれずに物を持ち出すのは不可能に近かった。規格外の存在であるティエナとて出来る事には限界があるのである。

「非常に業腹ではありますが、あの小娘が派手に騒ぎを起こした際に便乗してターゲットをゲット。そのままわたし達はさっさと逃亡というのが理想ではありますね。その為のサポートとしてエモンドを呼んだ訳ですし」
「オレもそうできりゃあベストだと思うけどよぉ。如何せん、あの歩くびっくり箱みたいな嬢ちゃんだぜ? こっちの都合よく上手い具合に動くもんかねえ……」
「俺もそこは心配してるんだよな。ミーシャの計画って絶対計画通りに行かないから、その裏をかこうと思ったのにこっちが逆に巻き込まれてる、みたいなパターンになる気がする……」
「ええ、今回の計画の最大にしてどうしようもない問題点がそこなんです。ですが、だからと言って今から動いてどうにか出来ますか?」

 アルセスとエモンドはもう一度展示場周辺の方を見渡して――静かに首を振った。
 そこそこの数の招待客で賑わう展示場。エモンドたちと反対側の壁には給仕係と飲み物を乗せたテーブルがあり、そこから忙しなく働いている給仕係が会場をあちこち回っているし、展示物もどれもがそれなりに注目を集めている。
 姿が見えない状態であってもこの喧騒の中からあのターゲットを盗み出すのは不可能だとアルセスは結論付けた。かといって、自分達で大騒動を起こすには人数が心許ない。加えて、自分達がミスティタビィの関係者と疑われるのも本意ではない。捕まるつもりは無いが、目撃情報などが噂として伝わっても面倒だ。騒ぎを起こしてくれる分には、ミスティタビィが暴れまわるのはアルセス達にも利があるので尚更悩ましいというのが現状だった。

「……ティエナ、少々分が悪いがここは賭けよう。せめてこっちの邪魔にならない程度にはアイツの計画が上手く行くように祈る」

 見れば、腕利きらしい護衛が数人は会場のあちこちにいるのだ。客を不安がらせないようにと静かに佇み空気の様に佇んでいるが、逆に言えばどの護衛もそうした配慮が出来るほど落ち着いた実力者だという事だ。商人だけに信用の置ける護衛にも心当たりがあるのだろう。そんな中からエモンドが選ばれるあたりは、彼の実力を讃えるべきか口の上手さを褒めるべきかは悩むアルセスであったが。

「……分かりました。不本意ですが、今回はそうするしかないようですので。ですけど、アルセス。場合によってはわたしは貴方の安全を最優先にしますからね。貴方はその、わたしの大事なご主人様(マスター)なんですから」
「ああ、分かってる。俺も今回の仕事に関しては無理はしない。あいつ等が関わってるとなると、本当どういう流れになるか読めなくなるからな……」

 過去の遭遇で例外なく振り回された経験があるだけに、スマートに事が運ぶとは露も思えないアルセスは、せめてミスティタビィによって巻き込み事故などに遭わないようにと、普段よりも警戒心を強めるしかなかった。

「ご来場の皆様! 大変長らくお待たせいたしました! これより我がコレクションのオークションを開催したいと思います!」

 そのような相談をしている内に会場の奥、少し段差のある壇上に恰幅の良い髭を生やした男性が上がっていた。
 先日、アルセス達が見かけた男性で間違いなかった。もっとも、このような場では見せびらかすのは下品に当たる、と感じるほどの羞恥心があったのか服装も含めて全体的に落ち着いた色合いの燕尾服を纏っており、指にもあれほどジャラジャラとつけていたアクセサリーの類は一つも身につけていなかった。

「モッチ・カネーの登場か。外は……まだ明るいか。夜の方が盗賊団に都合が良いと思ったからかな」
「でしょうね。日の出ている内からコソ泥が動いたりしないだろう、という考えがあっての事だと思いますが……」
「そんな常識、あの嬢ちゃん達にゃぁ通用しねえんだよなあ」

 エモンドの呟きにアルセスとティエナも疲れたように同意する。
 こうして、様々な思惑の中、オークションは始まった。

モッチ氏の名前に意図はありません(ぇ
+注意+
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