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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第24話 思わぬ情報

 一通りの絵を見つつも館の構造を把握しながら二人は東館の方を一通り見て回った。
 アルセスはその経緯ゆえに学も教養も無く、自身を構成する知識が偏ったものであると自覚があったが、それでも幾つかの絵には感じ入るものがあった。
 中には未だ足を踏み入れた事のないような風景画などもあり、いつか自身の目で確かめてみたいと思わせるほどのものもあり、時には素直な意味で芸術鑑賞も悪くないと感じたのだ。
 そうして入り口近くの休憩所に戻り一息ついていたアルセスはなんとはなしに客を眺めながら、どんな客層なのかを観察している。

「……身なりから中流階級の人間が多いって所か。一般の人も随分利用しているみたいだし繁盛してるじゃないか」
「お国柄でしょうね。生きるのに必死じゃないとどうにもならないような国ならこんな施設絶対に一般層には流行りませんよ。利用料は安いですけど、絵を見る暇があるなら稼げ、働け、と言われるような国では美術館なんて成り立ちませんから」
「そうだな……そこから分析するとアルデステン、というか少なくとも国の膝元でならそういう余裕も生まれているって事なんだろうけど」

 だからこそ、成金が何故このような場所でオークションを開くのか、という部分にどうしても疑問を抱くアルセス。
 そもそも、自らのコレクションを展示しオークションを開くというのは自身の財力の顕示に近いモノを感じるのだ。ならばその場所も相応の施設を選んで然るべきであり、この美術館も立派と言えば立派だが、少々目的にはそぐわないような気がしたアルセスは違和感を拭えない。

「……リーンに、その成金の情報ももらっておくか。どうも色々と裏がありそうだな」
「アルセスが気にしすぎじゃないかと思うんですけど」
「警戒しておいて損は無いってね。そもそもオークションの開催自体に何かありそうな気がする」
「根拠は?」
「勘」
「でましたよ、アルセスの理屈も何もない超理論の勘が」
「人間の直感を舐めたらダメなのは痛感してるだろうに」
「理論と情報の申し子のわたしからしたら、そういう生物ならではの力は腹に据えかねるものがあるんですけどねえー。そういう人に限って計算という物を大幅に狂わせますから」

 不満げに言う割にティエナはどこか嬉しそうだった。
 それは己の誕生がそもそも計算によるものではなく、アルセスが起こした「何か」による結果であり、この世の全てが理屈で計れるものではないという証明であるからだ。
 意地っ張りの彼女はそれを神が起こした「奇跡」などとは間違っても呼ばない。
 アルセスだからこそ自身はこの身体を得たのだと信じる彼女にとっては、口では否定しつつもアルセスに普通の人間にはない何かが宿っていると信じて疑わない。

 彼女のその絶対の信頼は全て目の前にいる少年にこそ捧げられる。姿も形もない神などでは断じてないのだ。

「……あら? アルセス、ちょっとエントランスの方を見てください」
「ん、どうかしたか?」

 丁度角度的に扉の向こう側、エントランスの階段の上、二階の廊下に位置する場所を指すティエナが指す先を見るとそこには二人の紳士が談笑していた。
 しかし、紳士、という表現はあくまで身なりからのものであり、態度、雰囲気などがその言葉に相応しいと感じるのは静かに笑みを浮かべながらフォーマルスーツを着て相手の話に相槌を打っている男性だけであろう。
 エントランスだからとはいえ、僅かにこちらにも聞こえるような下品な笑い声を上げ、上質の代物だというのは分かるがだらしなく太った体型のせいで、はち切れそうなほどに窮屈に見える燕尾服。何よりアルセス達からは随分離れているのにやけにキラキラと手元が光っているのは、やたらと派手なアクセサリーを身につけているからだろう。

「……両手の指に指輪を幾つもつけていますね。あれでは宝石が泣きますよ」
「こっからじゃ何を話してるかは推測でしかないが……オーナーにオークション開催の場の提供の礼を述べているとかそんなとこか?」
「少々上から目線ですが、そのような内容のようですよ。聞くに堪えないブタ声でオーナーがちょっと気の毒ですね」
「ティエナが気づかうほどか……」
「ええ、金と汗と脂の臭いまで合わさってて、わたしなら目の前に来た瞬間に蹴り飛ばしてやりますね」

 状況が許せば間違いなくティエナはやるだろうな、とアルセスは同意せざるを得なかった。
 カエルのような顔に見えるのは全て脂肪のせいだろう。首なんか何処に首があるのかと探さねばならない程に顎から垂れた肉で埋まっており、不健康極まりない生活を送っているのだろうというのが丸分かりだ。

「へえ……」

 アートの力でアルセスには聞こえないだろう二人の会話を拾っていたティエナだったが、突如面白いものを見つけた、と言わんばかりに薄ら笑いを浮かべた。
 アルセスは周囲に一瞬で目を巡らせ自分達に注意を向けている人物がいない事を確認するとティエナを抱き寄せるように腰を抱き――こっそりと尋ねる。

「何か面白い話でも聞けたか?」

 アルセスの顔が近く、さらには突然抱き寄せられらことに内心動揺していたティエナだったが、そこを上手く誤魔化すように小声で聞こえた内容を話した。しかし、そうすることにより体勢的にはより密着したのだが、そこに気づく余裕は彼女には無かった。

「あの成金、本当は王都中央のホテルで開催したかったそうですけど断られたみたいですね」
「やっぱりあのデブ、何か問題が?」
「いいえ、忌々しいコソ泥、という単語に前後の台詞から察するに……オークションの時に盗みに入る、と泥棒から予告状を叩きつけられたようですね。それも、本人ではなくホテルの支配人の方に」
「……何で当人じゃなかったんだろ?」

 犯罪予告とは被害者本人にするからこそ意味があるのではないだろうか。
 少なくともそんなイメージのあったアルセスは、何故その盗賊は予告状を開催するホテルの方に出したのだろうかと首を捻るが、その答えはすぐさまティエナによって与えられた。

「オーナーの口振りから、仮に盗賊が盗みに入ったらその責任をホテル側に押し付けるつもりだったようですね。警備態勢の不備のせいで被害を被った、と」
「……いや、自分の金で警備敷けよ……そんなに大事なら」

 無理を通しすぎだ、とアルセスは頭が痛くなったが、当然そのような道理がまかり通るわけは無かった事がティエナの説明によって判明する。

「予告状が届いては開催予定場所を変え、そして同じ問答を繰り返した結果、貸してくれるような施設が無くなりましたが、どうしても招待客を呼びたい以上開催を見送るわけには行かなかったようですね。それで、泣く泣くこの美術館のオーナーに泣きついたというのが真相のようです。そんな雰囲気も感謝も微塵も出してませんけどね」
「図太い神経したデブだなあ……」

 その後もティエナは重要そうな会話だけを抜き出してアルセスに伝えたが、オーナー側は物理的な被害に関しては目を瞑るが、成金側が警備態勢を自分で整え、仮に招待客に被害が及んだ場合でも美術館側には一切補填を要求しない、という契約書を交す事で西館のホールを貸し出したという内容が明らかになった。
 オーナーの要求は最大限譲歩を引き出したと言えるだろう。これならば、美術館側が大きく被害を被る可能性は低い。
 窓や調度品の破壊などの被害は起こりうるだろうが、その程度ならばホールを貸し出した賃料でどうにか補填できる目算もあるらしい、とティエナはオーナーの心情まで伝えてきた。

「苦労性ですね、このオーナーも。出来る限り広く客を迎え入れる、という信条から始めた美術館なので、あんな成金デブでも無碍には出来なかったようですよ。貧乏くじを引かされまくるタイプですね」
「だけど、意外なところで有用な情報が聞き出せたな。あの二人もこんなところから会話を聞かれているとは思ってなかっただろうが」
「金にあかせて腕利きを大量に雇った、万が一にも心配は要らん、とデブが豪語してますからねえ。捕り物で館内に被害を出しても自分の懐が痛まないから、と随分と大金を積んだみたいですよ」
「ケチにも程があるだろ。最初からそうしろよ」

 どうやら今回の仕事は少々面倒な配慮が必要になりそうだった。
 二人が奥の部屋に入って行ったためこれ以上の盗み聞きは出来そうもないと判断すると、アルセスはティエナと連れ立って美術館を出た。
 当たり前のように手を繋ぐと、アルセスはやや顔を顰めて呟いた。

「けど、予告状を出すような盗賊、ねえ……」
「アルセスも気づきましたか。ええ、こんな自己顕示欲の強く頭の悪い盗賊などわたしには一人しか思い浮かびません」
「いや、それ絶対私怨が入ってるだろ」

 アルセスの知る限り、他にも凝った予告状やら宣告やらをするような盗賊は他にもいたはずだ。
 まだ詳細も調べていないのにティエナがやや怖い顔で断言する理由は一つだけだ。

「あの腐れメス猫の小娘が……アルセスのターゲットにまで割り込んでくるとか、今度こそ命が要らないようですね……ふふふ」
「……ティエナ、気持ちは分かるが落ち着け。可愛い顔が台無し……いや、そんな顔してても可愛いけど落ち着け」
「そこでしっかり惚気るアルセスも正直どうかと思います。わ、わたしは騙されませんけどね! 騙されないですけどね!」

 いや、すっかり機嫌直ってるじゃないか、とアルセスは口に出さずに思う。ティエナと付き合っていると自然と失言を警戒するようになったので身に付いた技術だ。何故警戒するようになったかは割愛する。

「とにかくまずは裏を取るぞ。本当に『アイツら』が出張ってるなら厄介なことになりかねない。これで、ターゲットが被ってたりしたら争奪戦になるぞ」
「上等じゃないですか。何の躊躇いも無くブチのめすチャンス到来ですよ」

 あくまでティエナは敵対姿勢を崩さない。普段見せない仕事に対する意欲が溢れてのこと――ではないのが少々悲しいところである。

「お互い狙いが違うなら無駄に争う必要もないだろ?」
「いいえ、あの女は絶対にアルセスにちょっかいを出しに来ます。例え、狙いが被っていようがいまいがお構いなく」
「あー……うん、言ってて俺もそう思ってきた。はぁ……なんかただでさえ気を使わなきゃいけない要素が多いのに、この上、アイツまで乱入となったらちょっと大仕事になりそうだなあ」

 アルセスからすれば美術館側の事情を考慮する必要は無いのだが、ルガーの信条の一つである「仕事はスマートに。不必要な被害を出すのは二流」という信条には同意できるところがあるため、今回の仕事はあまり派手に立ち回りたくないのだ。
 成金のコレクションはどうでもいいが、館内に発生した被害は全て気の良いオーナーの懐を痛ませる。
 善人ぶるつもりは無い。しかし、だからと言って出さなくてもよい被害を出すというのはさしものアルセスとしてもあまり気分の良いものではない。
 どうせやるなら後腐れなくすっきりと済ませたい。そういう余分な配慮も笑ってこなして高笑い、というのがアルセスの理想とする「仕事」だった。合理的ではないが拘りというものさえ投げ捨てるのはどうにも違うと思うのがアルセスなりの理由である。

「帰ったら早速リーンに調べてもらいましょう。場合によっては先にあの小娘を縛り上げておくのもありだと思います」
「いやいや、だから、ターゲットが被ってなかったら逆にあいつ等を囮にもできるだろ」
「それ、場合によってはわたし達がそうなる可能性もあるんですよ? 余計な火種は燃え上がる前に消しておくべきです」
「ぬ、それもそうだが……それはそれで絶対余計に厄介なことになると思うんだけどなあ」
「ふふふ……幾度と無く取り逃がしてきましたが……今回こそはそうは行きませんよ……!」

 薄ら笑いを浮かべるティエナの過激な思考は留まるところを知らないようだ。
 ティエナの気持ちも理解できるだけにアルセスは強く言ってやめさせる事は出来ず、せめて人違いだったらいいな、という決して叶いはしないであろう願いを抱きながら、アジトへの帰路へつくのだった。
次回、今までの本堂作品に出てきそうで
全く出なかった立ち位置のキャラが登場……する
布石を打ちます(本人出ないのかよ
+注意+
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