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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第22話 街の散策という名のデート

「義姉さん、バッチリだ。使い勝手も手応えも違和感なく仕上がってる」
「そう、よかったわ。色々と機能を足した分、少し形が変わったけど問題なかったみたいね」

 レイリアは朗らかに微笑むと自身の仕事が無事終わった事を実感したらしくそこには満足げな感情がありありと浮かんで見えた。
 手早く作業道具を片付けると、レイリアは周囲の掃除を始めた。
 まだ作業を始めたばかりではなかったのだろうか? そんな疑問が浮かんだアルセスはレイリアに尋ねる。

「ありゃ? 義姉さん、もう掃除するのか? これからここで作業するんじゃないの?」
「え? ううん、違うよ。私は今日はこれから上でお仕事だもの。アルセス君の頼まれ事は後回しに出来そうになかったから先に済ませようと思っただけだから」

 そしてその手際も早い。アルセスと会話をしながらもその手は止まる事無く余った端材を材料箱へ整理し、置きっぱなしになっていた道具は鉄製の作業用箱へと次々としまわれその流れは淀みがない。
 最後に手洗い用の流し場で専用の石鹸で油汚れを落としたところで作業室の整理は終了した。整備用の作業室と聞くと乱雑になっているイメージが思い浮かぶが、ここの主であるレイリアの几帳面な性格が表れたかのようなこの部屋は誰が見ても整っている。

「やー、お姉ちゃんのこの片付け術は相変わらずすげー、しか言いようがないよね」
「リーンはもう少し自分の部屋を片付けた方が良いと思うけど?」
「いいじゃん、別に。もし緊急時にアジトを捨てて逃げるってなったら持ち出せる物なんて限られてるしー」

 レイリアが呆れて物も言えないような返答をするリーンだったが、アルセスもやや同意見であった。

「仮に何か見られても困るようなものがあっても大抵仮アジトって爆破するから問題ないしな……」

 敵を敢えて誘い込んでから爆破、というパターンもあるが基本的には痕跡を残さないために何らかの形でアジトを消滅させるのはダンセイル一家の常道だ。今回のように表向きはお店、下はアジト、という形式は今回が初めてではないが、以前のアジトを後にする時は穏便に脱出できたため店もアジトも人知れず破壊するという手段が取れたが、毎回そうとは限らない。
 だからこそ仮アジトに置く物は最低限に、というルールが敷かれているのだが、あまり執着しない者が多いからか、その時の気分で様々な物を持ち込んでは大半を置き去りにしてしまうことに抵抗がない。本当に失うのが嫌なものは別口に預けるくらいの分別はあるが、無くなったら無くなったでしょうがない、で済ませてしまう連中が多いのである。
 リーンもその一人で、まあ部屋をよく散らかす割には手に入れたものに対する執着は薄い。
 物を惜しんで逃げられないよりはマシだ、とルガーは笑い飛ばすが、だからといって部屋を散らかし放題にしていい訳ではないとレイリアはよく小言を口にするのだが一向に効果は無かった。

「ほらほら、お姉ちゃん! そろそろお仕事の時間だよー? アタシに構ってる暇は無いよね、ね」
「はぁ……全くこの娘は……けど、本当にもう時間が無いわね、急がないと。それじゃ、アルセス君、ティエルちゃんもバタバタしちゃってゴメンね。もしも使ってて何か違和感があったら遠慮なく言って頂戴」
「ああ、ありがとな、義姉さん」
「レイリアがそんな些細なミスをするとも思えませんが……ま、気にはかけておきましょう」

 全員揃って作業室を出た後、鍵をかけるとレイリアは慌しく廊下の奥へと走っていった。
 その理由は確かに時間がない事もあるのだが。

「直通とはいえ結構ハシゴ長いもんね。アタシもあれを昇る時の時間を考えると余裕がないとちょっと困る」
「本当ならエレベーターをつけてもいいんですが……駆動音やら取り付けの工事やらで絶対にバレますからね。無音動作にしようと色々と取り付けてしまっては今度はそれらの動作の反応でアジトがかぎ付けられるかもしれませんし」

 ティエナも長いはしごの上り下りの苦労を知っているからか、何かしら対策を最初は考えたのだがオーファクトに類するような道具を使っては、その動作反応からアジトがバレかねない。一般に普及していないような機器の反応が、明らかに地下のおかしい場所から感知されれば疑うなというのが無理な話だ。
 大半の機械類は電気を使って動かしているが、オーファクトに類する道具の中には魔物の命晶から取り出したベルセルスを使うケースも多い。自動車のような大型の機械を動かす場合にはある一定の期間事に新しいベルセルスに交換する必要があるが、単純だったり小型の機械であったりした場合は半永久的に動かすことが可能だ。
 そのためにベルセルスはエネルギー効率の良い原動力として注目され実用化が急がれているのであるが、その代わりベルセルスを使った機器は動作時に特殊な反応を引き起こす事が知られている為、その反応を感知する機器類によってその位置が特定される事はアジトに捜査の手が伸びるということに直結する。
 それ故に、特殊な道具類を設置したり保管したりする場所には隠蔽工作が施してある。なので、ティエナの知識が豊富とはいえ、迂闊にオーバーテクノロジーな仕掛けをそこかしこに造るわけには行かないのだ。入り口の団員認証用の機器とて細心の注意を払って取り付けた特別製なのだから。

「さって、アタシも今日は街に出ようかな。天気も良いみたいだし」
「地下に潜っていると誰かが上に行かないと天気が分からないというのはネックですよね、本当に」
「日の当たる場所に堂々と隠れ家を作る日陰者もいないだろ……」

 本拠地の方は堂々と存在しているのだが、隠れているから隠れ家、なのに目立つ場所にあってもしょうがないだろう、とアルセスはため息をついた。

「二人はどーすんの? デート?」
「二言目に何故すぐにデートが来るんだ」
「だーってさー、アルセスとティエルって隙あらばデートしてるイメージだし」
「し、失礼な。ちゃんと仕事だってしてますよ。そんなにイチャイチャばかりしていると思われるのは心外です」
「今、リーンはイチャイチャとは言ってなかったと思うぞ」

 デートをすれば大抵しているので間違いではないのだが、とアルセスは内心思ったが。
 別に出かけるのは構わないのだが、王都は広い。そして既に昼を回っているので遠出をするにも微妙な時間とあってはアルセスも少々工夫を凝らさなければならない。
 アルセスはティエナに関することには最善を尽くそうとするので半端な時間の使いどころには悩むことが多いのだ。
 表情に変化は無いのだが、アルセスのそんな悩みを素早く見抜いたティエナは寄り添うように彼の腕を取ると、背伸びをして耳元で囁いた。

「べ・つ・に・どこか近場でデートに行けるような場所が無かったかな? なんて悩まなくてもいいんですよ?」
「……人が顔に出さないようにしてたのに先読みするなよ」
「んー、それはアルセスがわかりやすいのが悪いんじゃないですかねえー。いえ、大事にしようという気持ちは尊いですし、わたしもちょっとは嬉しいですからいいんですけど」

 本当はちょっとどころではなく、小躍りするほど心が弾んでいるのだが表には出さないティエナ。
 どれくらいかと問うのならば。

(付き合いが長くなると女の扱いがぞんざいになるという男も多いですが、アルセスは本当に付き合い始めの頃のピュアな気持ちを無くさないのがもー! あー可愛い! 素敵! わたしのご主人様(マスター)最高! でも口には出してあげないのがわたしの駆け引き!)

 内心はこんなものである。ティエナとしてもこの辺の綱引きを忘れてはいけないと常々戒めているからなのだろうが。

(まーたティエナのヤツにやにやしてるから、何か俺が喜ぶようなこと言ったんだろうなあ……)
(ティエルってあれで隠し事出来てるつもりなのかなあ? バレバレなんだけど)

 全く隠せてはいなかった。アルセスとリーンが小声で話した感想そのままの状態なので非常に分かりやすかった。
 詳細は分からずとも感情は顔を見るだけで分かるので、アルセスもリーンもティエナが口で言う程の喜びようではないというのが丸分かりなのだ。
 だからこそアルセスは本心と反対の気持ちを並べ立てて虚勢を張るのはやめたらどうだと常々言っているのだが、ティエナは頑なに認めようとはしなかった。乙女のプライドは捻じ曲がった方向に高いのである。
 感極まってぐにぐにと形の変わる胸を押し付けてくるティエナの行動に照れながらも、アルセスは思考することを止めなかったのだが、その甲斐あってか一つの妙案を思いついた。

「ああ、そうだ。ちょっと俺達の趣味じゃないけど丁度時間とタイミングが間に合いそうなプランを一つ考え付いた」
「むー、アルセスのそういう言い方の場合、お仕事とデートの両立のような気がするんですが」

 伊達に十年来の付き合いではないティエナは、アルセスの考えの方向性を見抜いて断言したが、どうやら図星だったらしいアルセスは空いている方の手で鼻の頭を掻きながら照れ笑い。

「いや、そもそも俺起き抜けで何も食べてないし。食事してそれから出かけるにしたって場所が限られるだろ? でもティエナと出かける機会は潰したくないから一挙両得の方向に持ってっただけだって」
「そ、そうですか。うん、まあ、そういう殊勝な考え方なら仕方ないですね。アルセスも末端の構成員ですし、少しは活躍したいという男の子な欲求もあるでしょう。でもその上でわたしとの時間も大切にしたいという心掛けなら、わたしも認めざるを得ませんね、うん」
「ねえ、ティエル。そんだけ嬉しそうにニヤニヤしながら顔真っ赤にしてたら台詞に説得力ゼロなんだけど」
「いえ、これはちょっと暑いだけです」
「ここ地下なんだけど」

 なおも食い下がるリーンの追及をティエナは関係ありません、の一言で切り捨てた。
 ティエナの表情もそうだが、それを見るリーンの表情もあまり他所では見せられないくらい酷いニヤニヤ顔になっている。

(義姉さんはともかく、リーンに春は遠そうだな)

 ティエナほど面倒な性格というわけではないが、この鉄砲玉のようなリーンに合わせられる男も中々いないのではないだろうかとアルセスは若干彼女の未来に不安を抱いた。
 以前、エモンドにリーンのような女性は男としてどうなのかと尋ねたことがある。アルセスはティエナ以外は露ほども興味が湧かないので、女性を評する場合は単純な評価になりがちだからだ。

『リーン嬢ちゃんか? あー……あの手の性格の女はあのくらいの歳なら珍しくは無いが、オレの好みからは若干外れてるし、ちょっと声はかけにくいな。まあ、あの見た目だし声はかけられるだろうが、よっぽどの物好きか貧乳派でもないと長続きはしねーだろうな』

 という、本人に聞かれたら恐らくパンチの雨あられになるだろう返答が返って来た。
 その時のアルセスはまあ見た目が美少女という自分の評価は世間からもずれてはいないのか、という妙な点に納得していたりもしたのだが。

「コホン。そ、それで? アルセスはわたしと一緒に何処に行きたいんですか?」
「とりあえず腹ごしらえしたい。強いて言うならティエナの顔を見ながら遅いランチが良い」
「だだだだ、誰がそこまで自分の欲求をストレートに言えといいましたか! 全く! 全くもう!」
「どうせ言うならもっとムーディに言えってさ、アルセスー」
「そうだな、俺も言ってから失敗したと思った」
「そこの二人! わたしをそういう方向でからかうのはやめなさいと言いました!」

 腰に手を当てて抗議するティエナだが、その仕草の時点で可愛いなあ、とアルセスが満足げに微笑むので無駄だった。リーンも方向性こそアルセスとは違うが似たような感想である。愛され系であるティエナの本領が発揮されている瞬間であった。

「ま、ランチはどこか適当で済ませるとして、今日の目的は例の美術館に行ってみようと思ってさ。展示会は一日限りだけど、今もどうせ準備中だろ? 現場の下見は重要だからな」
「なるほど、それでわたし達の趣味じゃない、と前置きしたのですね。確かにアルセスに芸術が分かるはずもなかったですね。わたしも興味がありませんし」
「だけどちょっと高尚なデートっぽいだろ?」

 と、アルセスは言うのだが、女性二人の反応はと言えば。

「いえ、あのアルセス? 気持ちは分かりますがそれを自分で言ってしまうのは、ちょっと残念かと」
「そこは無理してでも見栄張っとけよー、アルセスー」

 年頃である少女達の評価は手厳しかった。
そろそろ糖尿病の読者が生まれないか心配です(ありえません
+注意+
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