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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第21話 アルセスのサブウェポン

「それじゃ、改めてアルセス君の用事の方を済ませちゃおうか。これを見てくれる?」
「お、相変わらず義姉さんは仕事が早いな。どれどれ……」

 大きめで金属製のテーブルの上に並んでいる品は二つだ。
 一つは小振りのダガー。こちらは刀身の作りこそ丁寧だが柄や鍔を始めとして実用性を重視した堅実な作りで、装飾性はウェバルテインよりも明らかに劣っている。
 もう一つは全長一m程の大きさを誇る大型のクロスボウだ。携帯性、威力など様々な取り回しなどを考慮した結果、軍部を始め護身用の武器にすら拳銃や銃火器が台頭するこの時代において、いささか時代遅れとも言える武装。
 しかし、台座にしろ弓の部分にしろ使われている金属も技術も一級の品であり、武器としての作りは間違いなく上質のそれである。そして拳銃よりも明らかに劣る携帯性も――

「うん、相変わらずスムーズに変形が済むな。良い調整だぜ、義姉さん」
「あはは、それに関してはティエルちゃんのお陰よ。私じゃそこまで複雑な記述情報(プログラム)は書けないし、オーファクト専用の特殊金属の練成も出来ないもの」

 アルセスの手に渡り銃器と同じ引鉄がついたグリップの底に取り付けられたボタン一つであっという間に小さくなり腰のホルスターに収まる程度の大きさと形になった。見かけ上は折り畳まれた二つの板が合わさって銃のような形を作っている、と表現できよう。
 だがこれは単に折り畳まれたというレベルでの変形ではない。明らかに総質量が変化するほどの形状変化。
 ボタン一つで最低限の要素だけを残して不要な部分を微粒子化し、グリップの収納層に収容。そして必要になった際には秒に満たぬ時間で再構築されるという、大型の機械や道具を模したオーファクトには基本的に備わっている機能なのだが、人間の手でその原理は理解されていても、再現するための技術は未だ確立されていない未知の技術。

「レイリアは研究熱心ですからね。わたしだけではアルセスの為にオーファクトを作れませんし、わたし以外の人の手が入ったオーファクトをアルセスが使うのは甚だ我慢ならなかったですが……レイリアの腕は及第点でしたから。許可した甲斐があったというものです」
「ふふっ、ありがとうティエルちゃん」

 少しばかり誇らしげに胸を逸らして宣言するティエナに、アルセスは仕方の無いヤツだと呆れたように笑う。
 オーファクトの模倣品の作成自体はこの世界では珍しくはない。というよりもそうした模倣の研究過程から、新たな技術が生まれていることを考えればむしろ推奨すらされているスタンダードな研究だ。
 だが、その多くが二流、三流のオーファクトに届くか届かないかという散々な出来の品々であり、むしろ市場に流れている発掘品を買った方がマシではないだろうか、というのが世間の評判である。
 部品単位や銃弾や刀身といった、細かな分野では少しずつ有用な研究が実を結んでいるものの現代において過去のオーファクトを越えたとされる品が世に出たケースは非常に稀だ。

 ではその世間の基準に合わせてレイリアの作品はどうかと言えば――国がすぐさま膝元の研究機関にスカウトに来るレベルだ。
 ただしそれは、レイリアの仕事の技術の高さに対する正確な評価ではない。もう一つ、本来人間が得ることの出来ぬティエナの知識の提供があればこそであった。
 現代の人間の知識で理解できるように論理立てて組み立てられた記述情報(プログラム)
 それを実現するための回路の組み方から基盤の配置、必要な材料に構築手順など分かりやすく書き出された設計図があるからこそ、レイリアは過去のオーファクトに勝るとも劣らないオーファクトを生み出すことが出来るのだ。

「ですけど、レイリアの意欲は素直に認めましょう。わたしはあくまでアルセスに必要なオーファクトの作成に必要な情報しか与えていませんが、そこから過去の技術書を紐解き、現代の技術に照らし合わせて、独自のオーファクトを生み出した功績は偉大だと」
「うーん、そこまで褒められるような事はしてないんだけどなー」
「……多分、この国の国家研究所の研究者達が聞いたら発狂するでしょうね」

 何でもないことのように言うレイリアにさしものティエナも反応に困っていた。
 無自覚というのは何ともやりにくいのである。

「ティエナ、義姉さんは色々と価値観が変わってる人だから、言っても仕方ないぞ。見ろよ、こっちのダガー。これもしっかり注文どおりに仕上がってるぜ」

 アルセスが逆手に構えて軽く素振りをして使い勝手を確かめているダガーはいわゆる予備の武器である。そして、何らかの状況でウェバルテインを気軽に抜けないような時に使うためのダミーでもある。
 先日の医者リオネスがそうであったように、ウェバルテインの外見は特徴的過ぎて、ワンダラーであれば見ただけで答えにたどり着く可能性が高すぎるのだ。
 類似の品や、特定に至らない程数多く種類が存在するようなオーファクトであればそこまで警戒しなくても良かったのだが、ウェバルテインは場合によっては人が群がるほどの強力なオーファクト。
 使いどころをもったいぶるつもりはないが、ところ構わず見せびらかして余計な敵を招き寄せることは避けたいと、アルセスがレイリアに注文していたのがこのダガーである。

 もっともこの提案をティエナが簡単に納得するはずがなく、膨れっ面で不承不承とはいえ了解させるまでにアルセスは二日を要した。どんな説得をしたかは彼の名誉の為に秘する事にする。

「うんうん、こっちのダガーでもわたしとのリンクは感じられますね。ウェバルテインの十分の一も力を発揮できないでしょうが、生命力をエネルギーに変換する機能はオミットしましたし、この程度でも仕方ないですね」
「俺はウェバルテインを隠すときに必要な武器が欲しいって言っただけなのに、何でこんな手間のかかるオーファクトにまで仕上げさせたんだかなあ」
「わたしの手が入ってない武器をアルセスが使うとか公然の浮気じゃないですか! わたしがそんな事を許容できるはずがないと、あの時も言いましたよアルセス!」
「そうだったな……それで義姉さんとの共同作業による作成でって説得したんだった」

 ティエナ本人としてはそれでもまだ不満だったらしく、最初は自分一人で作る! と言いだしたのだが、知識はあっても組み立てる技術がない彼女には手をつける前から不可能だとすぐに気づいたのだ。
 そしてアルセスの説得もあり、レイリアが組み立てティエナは機能とそれを組み込むのに必要な技術を提供する、という形に落ち着いたのだ。
 元々、銃器を始め各種機器のメンテナンスはレイリアを筆頭に数人の技術担当の団員達が手分けして行っているのだが、その中でもレイリアの技術は頭一つ抜けている。
 母親譲りの器用さがこの手の細かい作業全般に発揮されるため、効率も手際も凄まじい。フィオネ程ではないが装飾や仕立ての技術も高く、不器用で野菜の皮も向けないリーンはこの点に関しては姉を羨むなどを通り越しているレベルだった。

「そうだ、アルセス君。一応『バルンティア』の照準がおかしかったりしないか、奥の方で試し撃ちもしておいてね?」
「分かった、すぐやるよ。ティエナ、お前も見ててくれ。何か心気の流れにおかしな点がないか計ってほしい」
「はーい、アルセスの射撃の腕が落ちてないかしっかり見守ってあげましょう」
「お、アタシも久々にアルセスの『早撃ち』がみてみたーい」
「リーン、来ても良いけど騒ぐなよ」

 いざ戦闘となればその集中力で周囲の雑音など気にならないアルセスも、こうした微調整時に後ろで騒がれたりすれば気が散ったりもする。
 それを未熟と恥じるアルセスではあるが、集中してやってるんだから静かにしてくれよ、と思う気持ちが無いわけでもなかった。
 鉄製の扉をくぐった先には人型を模した的と簡素な台で作った仕切りのある射撃訓練場があった。
 もっとも、調整した銃器の試し撃ち程度に利用される設備なので、音が反響しないように防音のオーファクトが部屋の四隅に仕掛けられている以外にはとりわけ便利な機能がある部屋でもない。
 あくまでクロスボウ型オーファクト『バルンティア』はアルセスにとっては補助武器である。
 故に彼は左手でバルンティアをホルスターから抜いた。まるで拳銃を取り出すかのような動作だったが、即座に台座が構築され弓が展開される。そしてクロスボウに必須の巻き取り機は――ない。
 しっかりと弦は張られている弓にボルトが装填される事無くアルセスは引鉄を引いた。
 音もなく弓から矢が放たれた。それはしっかりと頭部の中心を意味する部分を撃ち抜き、そしてアルセスは続けざまに引鉄を引き続けてクロスボウからボルトを()()した。
 肩、心臓、手、細かい狙いも外す事無く拳銃顔負けの速度でボルトを撃ち出すクロスボウを見て、世の中の人間は目を見開くだろう。そう、そもそもクロスボウとは熟達した技術を不要にした簡素な射撃武器であり、その扱いやすさの犠牲となったのが装填の難易度の高さだ。特にアルセスが扱うクラスの大型のクロスボウともなればボルトや矢のセッティングには巻き上げ機が必須であり、彼が今行っているような連射などは不可能なのである。

「いやー、本当にどこ狙ってんの? って分からないレベルで矢がポンポン撃たれてるのに、怖いくらい的確に撃ち抜くよねー、アルセス」

 リーンが感心したような呆れたような感想を呟く。
 彼女も護身程度には拳銃を扱えるが、彼ほど気軽に撃ったところで的には絶対に当たらない自信があった。

「拳銃やら銃火器相手に意表を突けるのも初見だけだからなあ。相手がこのクロスボウは連射も出来るんだ、って気づかれたら対処して来るんだから、そりゃ相手が油断してるうちにブチ込めるだけブチこんどこうって思ったら、必然といかに短い時間に速射するかって結論になるさ」
「ま、それもこれも、わたしが組んだ記述情報(プログラム)を組み込んで作ったバルンティアあっての技ですけどね」
「引鉄を引いた瞬間には既にボルトは装填されている。何それ反則? って感じだよね。威力重視、連射性皆無が売りのクロスボウが弾切れの心配なく連射されまくるとか怖いなんてもんじゃないっしょ」

 そう、リーンの言うとおりこのクロスボウは巻き上げ機が不要どころか装填の作業すら不要というとんでもない射撃武器なのだ。
 相対した相手は矢の装填されていないクロスボウを見て安堵するだろう。そして相手が装填の作業に入った瞬間がチャンスであり、また警戒すべき時でもある、と。
 その予測を裏切るアルセスの射撃に果たしてどれだけの人数が対応出来るか。
 また、バルンティアは新しく生み出されたオーファクトでありこの機能も、幾つか搭載された特殊な機構の一つでしかない。崩壊の時代より知識を蓄えてきたティアナの古い知識によって生み出されたオーファクトがいかに規格外なのかを無言で語るのがこのバルンティアの性能であった。
 やがて、一通り試し撃ちが終わったのか、アルセスはバルンティアを下げるとホルスターへと収納した。ホルスターに近づけるだけで先程まで展開されていた姿は見る影もなくなっていく。
 ティアナがアルセスの撃った的の方を見て頷きながら何やら計算していたようだが、満足がいったのか少しだけ嬉しそうな笑みを浮かべてこう言った。

「命中精度97.2%と言ったところですね。バルンティアはしっかり仕上がってるみたいですよ。ちょっとだけ力んで狙いを外したのが数発紛れたみたいですねー。何でいつも通り撃てなかったんでしょーねー、アルセス?」
「それはまあ……ティエナがじっくり後ろで見てたから?」
「ほうほう、そうですか、そうですかー。わたしがいたら緊張しちゃったんですねー、アルセスはー。ふふーん、まだまだ修行が足りないんじゃないですか?」
「そうだな、精進するよ」
「ええ、貴方はわたしに相応しいワンダラーですけど、だからといって現状に満足して良いとは言ってませんからね。これからも頑張りましょうねー」

 やや手厳しい評価をもらったアルセスだが、その表情には翳りも曇りもない。むしろ前向きに頑張ろうとする笑顔であったが、それはくるりと背を向けて先に戻っていますよと告げたティエナを見つめるかのようだった。
 そんなやり取りの後、リーンがこっそりとアルセスに耳打ちする。

「でもさ、アルセス」
「ん?」
「あんな鼻歌交じりにご機嫌に出てったら、アルセスの返事が嬉しかったのバレバレじゃない? 悦びたいの我慢してあんな厳しい評価言ったんだと思ったけど」
「それであってるから本人には言ってやるなよ」

 あれくらい抜けている方がティエナらしいから、とアルセスはそうリーンに伝え、リーンはまるでうっかり砂糖をかじったかのように顔を顰めたのだった。
左手にクロスボウ、右手にはダガー。
この二つが合わさり最強に見える(ぇ

なお作者はなんとかソウルでも弓よりも
クロスボウを使う派。
+注意+
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