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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第19話 壊蒐者

 壊蒐者とは教会――通称「再神教会」と呼ばれる組織のエージェントに近い存在である。
 主の命に従い人間の世界を狂わせる邪悪なる人類の産物(オーファクト)を回収し神の御元に捧げよ、という理念をオーファクトを用いて行うというダブルスタンダードな思想の人間の集まりである、というのが裏の人間の常識でもあった。
 加えて彼らの思想の原点が、この世界においては形骸化している宗教という点も問題だった。
 現存する歴史書には、崩壊期の頃には高度な文明を築きあげ人類の間では偶像崇拝や宗教思想などは半ば失われていたとを記されている。そんな時代の人間達の生き残りが新たに築き上げた世界では宗教という概念が広く流布していくことは無かったのだ。

 姿も分からぬ、手を差し伸べるわけでもない神などという存在を信じるなどナンセンスだと。生き残りたくば、戦い、働き、少しでも技術や文化を取り戻す、そうした開拓魂フロンティアスピリッツの下に生き抜いた人々の内からは信仰心のようなものは失われていたのである。
 この辺は精霊信仰や民族独特の郷土信仰などのサンプルが殆ど残っていなかった事もあるのだろう。
 そうした時代を経て現代に残っている神事といえば、冠婚葬祭などの特定の時期におけるもののみであり、神父やシスターといった職業はかつては医者や薬師の代わりを務めていた時代こそあったが、医学の発展した現代ではそうした役割も失われ、墓地の管理や前述の冠婚葬祭を執り行うなどの業務を担っていた。経典と呼べるほどの物も無く、半ば形だけが残った形骸化した職業だと言えよう。

 小さな村や町などでは地域に密着する形で小さな子どもを預かる託児所のような仕事や、出向という形で低年齢の子ども達への教育を学校に出向いて手伝うなど、細々とした仕事はあるが万人に手を差し伸べる神の代行、という名の下の行政の手の届きにくい部分を補佐するという半分公務員のような役割になっていると言っても差し支えないだろう。

 この現状を憂いた一部の過激派の集まり、それが再神教会という地下組織だ。

 神を信じず物質主義に傾倒した今の世界を堕落したと断じ、その原因を発展した科学技術及び過去の遺産であるオーファクトとそれを扱うワンダラーだと宣言して止まぬ集団だ。
 そのターゲットが文明社会にありながら、それらを廃絶するためにはあらゆる犠牲も手段も厭わぬ冷酷な集団で、彼らが起こしたとされる事件は有史以来枚挙に暇が無い。しかもそれらの破壊行為を彼らが唾棄すべき文明と技術を使ってやるものだから尚更タチが悪い。殆どの国家でテロリスト認定を受けているほどの過激派の集団なのだ。

 一応は彼らも秘密裏に事を運ぼうとするが、その手段は大抵最終的には大雑把の一言に尽きるほど雑だ。
 目撃者を出さぬために周辺を焼き払う、などといった拡大解釈すらも平気で行う彼らの所業は声明など出さなくてもすぐに知れ渡る。その被害の規模が大きすぎるからだ。
 また、幾つかの事件の例が知れ渡っている事もあり、類似の事件が起これば「ああ、また連中の仕業か」と人々が納得するくらいに知名度が高いのも原因だろう。
 そんな集団のエージェントである壊蒐者(エグゼキューター)に道理は通用しない。
 そもそもが矛盾した教義によって導き出され半ば洗脳されたような工作員に言葉が通じるはずもないのだ。
 彼らの中では彼らの信じるモノこそが正義であり、それ以外は全て悪と断じる世界の狭さ。
 そんな厄介極まりない存在が動いていたという事実と、僅かな嫌悪感がアルセスとティエナの二人の表情を深刻なものにしたのだった。

「あの連中が来てたのか……それでわざわざ騒ぎを起こしに来たんだな、エモンド」
「ああ、そういう事さ。ヤツらもさすがに国を敵に回すほど向こう見ずじゃねえからな。憲兵がウロウロしてるところを皆殺しにしてまで家捜しはしねーだろ。テロリスト扱いを受けてても最低限の分別が……つくやつがいないこともないからな」
「ま、何もしなければ確かにあの館は無くなってたでしょうね。つくづくあの連中が関わるとロクなことがないです。お陰で見たくもない顔を早々に見るハメになってしまいましたし」
「うおーい、一応お前らが遭遇しないように助けるって目的もあったっつーのにヒデぇじゃねえか、ティエルちゃん」
「軽々しく名前を呼ばないでくれます? 種馬風情が生意気ですよ」
「女にあしらわれるのには慣れてるが、本気のトーンで罵倒され続けっとさしものオレでも来るモンだな……」

 本気で嫌なんだろうなあ、とアルセスは他人事のように同情するが、それでティエナを窘めるまではしなかった。エモンドは多少懲りた方が良い、という打算もあっての事だ。

「ま、今更壊蒐者(エグゼキューター)の非常識さについて論じても仕方ないが……オーファクトのあるところにヤツらあり、って認識は忘れるなって事だろ、親父?」
「そういうこったな。しかし、ヤツらはあくまで大物――それこそティエルと同時期か少し後くらいの時期に作られた量産性を度外視した一品物のみを狙う傾向があったはずなんだが、この程度の品を狙って動いたというのが若干不自然には感じるな」
「この手の日陰組織は零細企業も同然ですから、トップがすげ替わって方針も変わったんじゃないですか? 頭が変われば人間の組織なんてさらっと転換しますよ。暴君から名君へ、賢王が愚王に、それで国ですらコロコロと変わることなんて人間社会じゃ珍しくもないじゃないですか」

 ティエナは澄まし顔でそう断言するが、オーファクトを狙う上で激突が避けられない身としてはアルセスも単なる方針変更で済ませて良いものだろうかと考えてしまう。
 何せ自分が所有するのは彼らが真っ先に狙ってもおかしくないオーファクトである魔剣ウェバルテインである。むしろ今に至るまで接触が無かったことが不思議ですらある。あちこちのオーファクトをかぎつけては事件を起こしているような連中だけに尚更だった。
 だが、無駄に警戒しすぎて精神的に疲弊するのも問題だろう。そういう連中も王都入りし、場合によっては拠点を構えている可能性もある、とそう認識して動くのがベストだと結論付けたアルセスだった。

「俺もヤツらのターゲットになるからな、あんまり軽く見てばっかりもいられないぞティエナ」
「軽く見るつもりは無いですよ、アルセス。何せわたしは一級も一級、原初のオーファクトの一つですからね。所在を知れば奴らが血眼になって向かってくるでしょう。個人的理由からもあの連中には指一本触れられたくないので、そうだと分かれば即座に首を獲りに行きますけどね」
「発見即殺たぁ、ティエルちゃんも過激だねえ」

 エモンドが軽く流すが、それに反してティエナは珍しく真剣なトーンで声を返す。

「当然じゃないですか、あの連中がしでかしたこと、わたしが忘れるはずがありません」

 アルセスはティエナのその言葉にとある過去を思い出す。
 彼が故郷を失う切っ掛けになった村の全焼事件。それは――ルガーに引き取られてる直前、村を訪れた壊蒐者(エグゼキューター)がやったのだという事実を。
 ティエナの本体であるウェバルテインは本当に偶然村にやってきたのだ。
 当時、小さな宿を経営していたアルセスの実家を訪れた行商人が置いて行ったものなのである。
 その行商人は人の良さだけで何とか商売を保たせているような恰幅のいい商人で、骨董品だと思って手に入れたウェバルテインの価値が分からず、小さいながらも手伝いをしていたアルセスを気に入って土産代わりに渡したものだった。本人としてはチップ代わりに売れない商品をプレゼントしたくらいの気分であったのだが、それが引き金になったとは今もその商人は知る由もない。

 それからしばらく経ってからである。彼がウェバルテイン以外の全てを失ったのは。

 ティエナはその事について多くは語らず、また自身の感傷も口にしたことは無い。
 ただ――敵対心として表に出るその隠し切れない感情だけが、ティエナがその事件に対して何を思っているかを感じ取れる唯一の情報なのであった。

「俺も自分のオンナに気軽に手を出されるのはたまったもんじゃないからな。向こうから仕掛けてきたなら遠慮なくやるさ」
「そ、そ、その通りです、アルセス。非常に不本意ですが、今のご主人様(マスター)は貴方です。貴方には所有物であるわたしを懇切丁寧に守る義務があ――なんですかルガー! エモンド! そのいやらしい笑みは!」
「いやー? 別にぃー? 短剣の時からティエルはアルセス大好きで結構なことだなあ、と思ってよお」

 ティエナからすれば実に殴りたくなるようなニヤニヤ笑いを浮かべながら断言するルガーと、

「口ではあーだこーだいいつつもマスター大好きぃ、なティエルちゃんは相変わらず可愛いじゃん、って思っただけだ――ほぶぁ!? お、オレの顔に何かが!?」

 ティエナからすれば問答無用でぶっ飛ばすようなニヤニヤ笑いを浮かべていたエモンドの横っ面が見えない何かで歪んだ。

「ああ、すみませんエモンド。ちょっと念動の塊をぶつけました。気持ち悪い顔があったのでつい防衛本能が働いてしまって」
「ぼ、ボスはスルーしたのにオレにはこの始末かよ……しかも悪びれもしねえし……」
「は? 人間は例外なく下等な存在だと思ってますが、まさか等しく全員同じ下等さだなんて思ってませんよね? まがりなりにも一団をまとめあげているルガーと、好き勝手に女の尻だけ追いかけてるような軽薄最低男がまさか同率だとでも?」
「……アルセス、オレは心底お前を尊敬するぜ……よくもまあこんなじゃじゃ馬姫を手懐けたもんだとな……」
「いや、ティエナは案外素直だけど? 分かりにくいだけで」

 殴られた事からダメージが膝にきているのか、身体をガクガクと震わせながらテーブルに縋りつくエモンドに対して、アルセスは冷静にそう返した。
 台詞の裏の意図を読まなければならない、という点を除けば、なるほど確かにティエナは素直と言えなくもない。そう思えるのは世界広しと言えどもアルセスくらいのものだろうが。
 ある意味、盲目に狂った恋ではないのだろう。

「さて、ちっと話題が逸れちまったが、疑惑の医者からオーファクトを取り上げるっつー仕事は完了だ。コイツは俺がきっちり上の方に届けとく。アルセスとティエナは次の仕事の準備にかかってくれ……と言いたいところだが、ちっとばかし時間をくれ」
「ん? 何かあったのか、親父。確か次の仕事は……」
「成金コレクターのコレクションからオーファクトらしい品を盗みだす仕事じゃありませんでしたっけ」

 骨董趣味の中にはこれまた使い物にならなくなっているオーファクトなどがまぎれている事も多い。
 これはそもそもオーファクトの形や形状に用途が一定ではないというのが原因なのだが、その手の品は大抵店などの物の流れを追って行くと、こうしてワンダラーとは縁もゆかりもないような人物の手元に渡っていたりする。
 その手の人間からは交渉で手に入れたりするのが真っ当かつ穏便な手段であるが、今回の仕事に関しては別だ。この成金が非常に偏屈なところがあり、自分が手に入れるのには手段を選ばない強引なところがあるくせに、他人への譲歩は一切しないという典型的な強欲者なのだ。
 よって譲ってくれ、と交渉したところで絶対に首を縦に振らないのは確実だった。それが、彼にとって興味を失った物であっても、だ。そういう人物像であることが早々に判明したため、ルガーはならば黙って戴く、という強硬手段のほうを採用したのだが。

「あの成金デブ、近々美術館を借りて自分の骨董品の展示会をやるんだとよ……それで今はそっちの方にお宝が運び込まれちまってるから、やつの屋敷に忍び込む計画がパーになっちまってな」
「強欲の上に顕示欲も強いとかろくな歳のとり方してませんね……それにしても計画がダメになったは言い過ぎでは? 展示会が終わって屋敷にターゲットが戻ってから盗み出してもいいじゃないですか」
「俺もそれは思った。時間をくれってそういう事じゃないのか? 何で一から計画を練り直すんだよ」

 アルセスとティエナの疑問に、ルガーはガリガリと頭を掻いて億劫そうに口を開いた。

「やっこさん、展示会の最終日に展示品のオークションをその場でやるんだとよ……それも、オレらのような日陰組織がポンと軽く出せるような金額じゃねえ、文字通り桁外れの金額からスタートする金持ちの趣味人向けのオークションをな……」
「親父、一応確認するが……その目録とかは確認したのか?」

 もう答えは出ているようなものだったが、それでもアルセスは一縷の望みを賭けて尋ねた。

「ブツはその目録の中にあった。今も厳戒態勢の倉庫に並んでるぜ? 今から盗りに行くか?」
「いや……それならまだ展示中とかの方がやりやすい……」

 こうして僅かな希望を断たれたアルセスは、次の仕事までしばし暇をもらうことになったのだった。

エモンドさんがどういう人なのかは
もうちょっと後に(誰も気にしてない

一区切りまでダッシュで書いていたから
気づかなかったが……ほとんど砂糖生産回しか
なくね? あれ?(混乱
+注意+
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