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双宿双飛のワンダラー 作者:本堂ゆうき

第一章 アルデステン国の影

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第18話 仕事完了

 燃えるような赤髪の長髪を後ろで縛ってまとめただけの髪に、着こなした革のベストとジーンズという軽装。腰から下げる長剣は戦い慣れた男の姿を感じさせ、何より野性味と端整さが両立したような顔つきが男を魅力的に見せていた。一言で言うなら伊達男、という言葉で表現するのがぴったりであった。

「エモンド、どうしてここに?」
「まさか、アルセスの仕事の監視とかじゃないでしょうね」
「ちげぇよ、ボスが一人前って認めた奴の腕を疑うようなマネはしねえって。こっちにはちょっとした野暮用で……ってだから、ティエルちゃん、ちょっとその殺気を収めてくれよ、すっげぇさみぃんだよ!」

 慌てて手を振って否定する男の名はエモンド・カーラス。
 ダンセイル一家の中では二十二歳と若い方だがアルセスが拾われた頃から下働きとして既に一家の一員として働いていた経緯もあり、古株の一人と数えられる男だ。
 エモンドは半目で冷たい視線をぶつけるティエナから逃れるように事情を説明しようと試みた。命の危険を感じたらしく、早口で。

「とりあえず、外に出ようぜ。早くしねえと憲兵が来ちまう」
「憲兵が来る……? エモンド、もしかしてアルセスを売ったんですか……?」

 室内の温度が更に下がった。
 アルセスは額を抑えて頭痛を堪えるような仕草をしつつ、エモンドを促す事にした。
 このままでは本気で彼の命が危ないと判断したためだ。

「エモンドがそんな事をするはずがないだろティエナ……とりあえずそういう事情ならとっとと出よう。どの道、こんな空気の悪い場所で立ち話もなんだろ」
「そうそう、それそれ! アルセスが良いこと言った!」
「……いいでしょう。今は見逃してあげます。ですが場合によってはその命、無事に済むとは思わないことですね」
「いっつも思うんだけどよ、ティエルちゃん、オレに対して当たりがキツくねえか!?」
「身に覚えがないとでも? ないなら思い出させて上げますよ……どんな馬鹿でも理解できる痛みという原始から伝わる方法で……」

 ティエナの台詞は本気だ、と男二人は肩を震わせる。何せ薄ら笑いを浮かべながらの台詞だ。さしものアルセスでも肝が冷えるような凍てついた笑顔である。
 普段から素直に口にすることは滅多に無いが、彼女のアルセスへの敬愛も慕情も本物だ。そして苛烈でもある。何度も語るが普段の言動からは分かりにくいが。
 だからこそ、アルセスに対して害を為すような相手に対しては容赦が無い。普段からそもそも容赦の無いティエナだが、それでも分別をつけるくらいの理性はあるのだ。それが飛ぶのはまさしく今のような状況に他ならない。アルセスも愛されているものである。
 このまま押し問答していてはエモンドの身が危ないとばかりにアルセスは身を翻してリオネスの身体調査をする。
 本来の仕事の目的であったオーファクトを探り出し、リオネスの白衣の内ポケットから取り出すと、中身の確認はさておいてひとまずは地下を脱出し、病院まで階段を駆け上がった。
 即座に廊下の窓から出ようとするアルセスの肩をエモンドが掴んで引き止めた。

「悪ぃ、二人ともちょっと先に出ててくれ。俺はちょっと『派手に』逃げないといかなくてな」
「は? どういう事だよ」
「そりゃおめー、通報する時に『不審な人影が病院の周りをうろついてる』って言っちまったからな。そんで病院から誰かが飛び出して逃げりゃ、連中も館ン中に踏み込むだろ?」

 その語り草から、アルセスはエモンドの目的が憲兵を病院の中へと誘導する事らしいと判断した。
 暗がりで判別が難しいが、よく見るとアルセス達が忍び込んだ時よりも病院側の室内や廊下は荒らされているようだ。ご丁寧に、鍵のかかっていた廊下の扉まで開け放たれている。
 飛び出してきた人影と空いている玄関、そして荒れた室内を見て憲兵達が何をするかとか言えば、住人の安全確認だろう。リオネスは随分と深く昏倒していたようだからまだ当分は目覚めない。そこから導き出される結論は一つだった。

「そういう事なら先に逃げてるよ。話はアジトに帰ってからか?」
「ああ、連中を撒くのに少し時間を食うだろうからな。その間に、ティエルちゃんの機嫌を取っといてくれよ?」
「その程度で許すと思って――あ、アルセス!? 何を!?」

 ここでまた押し問答でも始められたら面倒だ、とアルセスは開けておいた窓からティエナを抱いて静かに飛び出した。
 草地の庭に音も無く着地し、周囲に人気を感じつつもまだ目立たない方の壁を飛び越えて着地すると同時に後方から窓の割れるような音がした。

「何者だ!?」
「通報にあった不審者か!」
「おい、玄関も開いているぞ! 中の住人の安否を!」
「あっちの方に走っていくぞ! 追え!」

 既に玄関前には積めていたらしい兵士達の叫び声を背中に聞きながら、アルセスは人気の無い裏路地を風のように走りぬけ、時には道なき道を行き、時には周囲に尾行はないかどうかすら確認しつつ、回り道を繰り返しながらアジトのある通りにまで戻ってきた。
 ティエナを抱きかかえたまま、である。
 流石に街灯で明るい通りでは目立つと判断したアルセスは、即座にティエナを下ろす。もう真夜中ということもあり、周囲に人の姿は無いが念の為だ。

「……むぅ、アルセスってば人の話を聞かないんですから」
「ティエナがエモンドに絡むと長いからなあ。あの場ではしょうがないと思ってくれよ。緊急手段ってやつさ」

 ゴメンゴメンと、謝るアルセスにティエナはへそを曲げっぱなしであった。
 だが、誰も分からないだろう。彼女の怒りが照れ隠しのそれであり、どうせ抱きかかえて走るなら甘い言葉の一つも囁け、という何とも微妙な不満からくる怒りであるという事は。

 想われ人であるアルセス以外にはきっと、誰も。


 ★


 人目を避けつつアジトに戻った二人を出迎えたのはエモンドであった。
 路地を使ったとはいえ最短距離で向かったはずの二人よりも先に戻るとは、一体どのような道を使ったのかと訝しげに睨むティエナを軽くあしらいながら、エモンドはルガーの部屋へ来るように二人を促した。

「一応ボスからの指令ってことになってるからよ。どうせ報告ならまとめてのほうが楽だろ?」
「そうですね。いくら口が軽く手が早いだけの種馬でも、上司の前で嘘八百は並べないでしょうから」
「アルセス、お前の嫁に一言フォロー入れてくれよ」
「嫁って単語でティエナの反応を誤魔化そうとしたんだろうけど……無駄だと思うぞ」
「ええ、エモンドの発言には一切信憑性がないと常に判断しますので。少なくともわたしは」
「チクショー、昔ならこの程度の世辞で誤魔化せたチョロいティエルちゃんはもういねえのか……!」
「そういう事やってるから信用無くすんだよ……」
「バーカ、アルセス。他人の女に愛想振りまいたってしゃーないだろうが」
「最低だよ、相変わらず……」

 アルセスとて男だ。しかも歳若く、女性を知ってそれなりの経験もあるのでエモンドのように美少女、美女とみては口説きにかかるという理屈は理解は出来る。実践はしたいと思った事は無いが。
 ただ、女性の相手というのが難しく、エモンドのように経験豊富である、という事が男としての一つのステータスであるという事までは否定しない。実際、女性相手の聞き込みなんかはエモンドが群を抜いて上手い。本人は美人じゃないと乗り気じゃないと言いながら、必要とあらば少女から老人に至るまで女性でさえあれば確実に何かしらを聞き出してくる話術の巧みさは自分には無いものだという自覚もある。

 それでも、だ。

「まあ、わたしも貴方のような常日頃から違う女の匂いをさせているような万年発情男に声をかけられなくて結構ですけどね」
「冷てぇなあ、一応は仲間じゃねえかよ」
「ええ、ですからギリギリで生かしておいてあげてるんです。感謝してください」
「オレぁ……仲間じゃなかったら速攻でティエルちゃんに殺されるレベルで酷いってか……」
「何を今更。わたし、そもそも人間全体が嫌いですが、その中でも貴方のような最底辺の男が一番好みません。来世に期待したいですね――人間以外に生まれ変わっていたらちょっとは見直してあげますよ?」
「今世にゃ何も期待するなってかい」

 ティエナが蛇蝎の如く嫌うエモンドへの対応を見ていればこれっぽちも彼のような生き方に憧れるはずもなかった。もしも間違ってアルセスがエモンドのような男になっていたら契約解消すらありえたかもしれないが。
 エモンドが廊下の奥、ルガーが専用に誂えた部屋の扉をノックする。
 娘達の部屋はこの部屋から一番離れた対角線上に位置するという少々同情を禁じえない話があるのだが余談である。

「ボス、エモンドです。アルセスとティエル嬢ちゃんも一緒ですよ」
「おう、入れ」

 ルガーの返事を待ってから三人は室内に足を踏み入れた。
 元々一時的な仮拠点――というには入り口といい内装といい結構凝っているが――という認識からかルガーは自身の部屋をさほどゴテゴテと飾りつけてはいない。調度品に多少値が張ったのは隣の寝室くらいだろう。理由はいわずもがなである。

「全員ご苦労だったな。アルセス、首尾はどうだ?」
「多少の戦闘はあったけど、問題なく手に入れてきた」

 戦闘、という点でルガーがふむ、としばし思案するような仕草を見せた。
 ルガーもまたウェバルテインの仕組みを知る人間の一人だ。アルセスの状態を気づかったのである。

「疲れてんなら報告は明日でも構わんぞ?」
「あ、そうですか? なら、今日はさっさと――」
「いや、まだ余裕はあるから平気だ。ありがとうな、親父」
「アルセスぅ……ルガーの折角の心意気なんですから額面どおりに受け取りましょうよー。こんなむさくるしい部屋で報告とかより、わたしさっさと寝たいですよー」

 ぐいぐいと自身の胸に腕を引き寄せるティエナの誘惑にアルセスは思わず頷いてしまいそうになるが、一応は一家の一員として認められてからの初仕事を成功させた身だ。ぐっと我慢して持ち出したオーファクトをルガーの机に乗せる。

「医者リオネスは親父の見立て通りワンダラーだったよ。研究内容は間違いなくしょっぴかれるレベルだったぜ。生物の合成の領域にまで手を出してたからな。あれを医学の発展と言い逃れるには……ちっとキツいな」
「研究材料の調達に関しては……どうでしょうねー。ま、禁忌の研究に手を出してる時点で人生終わってますから余罪の追及なんて無意味ですけどー」
「ふーむ、そっちの方も裏が取れたか。ま、お上への引渡しは済んだワケだし、そいつの処遇はどうでもいいとして、だ」

 ルガーは二人の報告に耳を傾けながら机の上の戦利品――オーファクトに視線を向ける。
 作りとしては安っぽいペンダントだ。使われている金属も純度の低い銀製のようで既にくすんでいるし、そもそも身につける事は考えていないかのような作りだ。
 その先、宝石を取り付ける飾りをゆっくりとスライドさせると――その下には極小の部品を板に取り付けたような「基盤」が姿を現した。
 この大半の人間には意味不明な存在こそオーファクトの全てが詰まっている情報集積回路の塊である。
 これを解明できると言う事は、多くのオーファクトの情報や構成に迫れるという事でもあり、多くの技術者が躍起になって分析を進めている代物である。

「ティエル、こいつの能力はどんなんだ?」
「所持者になる事で多少の脳の覚醒を促す常時効果と、狙った対象に命令を送れるようになる……遠隔操作の心機述構(グリモワルアート)の二つですね。どっちもクセがありすぎてオーファクトとしては三流ですよ、これ。固有の銘も持ってないですし、むかーし、どっかの国で開発された粗悪品じゃないですかね」
「まあ、そう簡単に当たりは引かないだろうよ。どんだけの数のオーファクトがこの世に流出してると思ってやがる」
「既に壊れてガラクタ同然のも含めれば相当数なのは理解してますけどね。まーったく、こんなつまんないものが初仕事とか、アルセスの引きの弱さにも困ったものですよ」

 ぶつくさと文句を言うティエナにルガーは内心こう思っていた。

(大仕事だったらそれはそれで、いきなり何て仕事を振るんだこのボケナス野郎呼ばわりするくせに勝手な姫さんだぜ)

 そう心中でぼやきつつも、ティエナのことを悪く思えないのはそこにアルセスへの信頼があればこそであったが。
 そこでティエナが思い出したようにルガーに文句を言う。

「そういえば、ルガー。仕事は全く無事に済んだのに、なんでこの種馬が横から茶々入れに来たんですか? 返答によっては生かしてはおきませんよ――エモンドを」
「やっぱ殺されるのオレなのかよぉ!?」
「あー、その件で不機嫌だったのかよ。すまんすまん、そっちに関しては俺が急ぎで頼んだんだ――壊蒐者(エグゼキューター)の連中が動いてるようだったんでな。元々憲兵を呼び込むのは上からの指示だったからアルセスに使いを出すついでにこいつにやらせたんだよ」

 その言葉にアルセスとティエナは表情を凍らせたのだった。

 
もうどうにでもなーれ(砂糖の山を見て

「メンドイン」タグを追加しました。
四文字にしようと思うと「メドイン」なんので
意味が伝わらないので苦肉の策です。

モゲろ、くらいには流行らないかな(願望
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